- 株式会社良品計画
- WEB事業部長
- 川名 常海
広告より「つながり」に投資する!無印良品の、ブランドコミュニケーションの考え方
〜「意外な」動画が1,800万回の再生回数を記録。無印良品の、デジタル上における顧客とのコミュニケーションの在り方〜
今やその店舗数は世界で840を超え、ワールドワイドに愛される「無印良品」。
同ブランドは2017年8月に、公式Webサイトの全面リニューアルを行った。
もともと別々だった「ブランドページ」と「ネットストア」を統合し、よりオムニチャネル視点に立ったWebとリアル(店舗)の連携を可能にしたのだ。
この背景にあるのは、無印良品の、顧客と「人と人」としてつながることを目指すという思想だ。
「(顧客との)人と人としてのつながりを持たないブランドは、広告費という税金を払い続けて、打率の悪い一方的な情報発信をしていかなければならない」と語るのは、株式会社良品計画でWEB事業部長を務める、川名 常海(かわな つねみ)さん。
実際に無印良品は、かねてからスマートフォンアプリやSNSを通じ、顧客との1対1のつながりを持つことを重視してきた。
その結果、現在公式アプリのユーザー数は1,400万人、各種SNSのフォロワー数は、合計で1,100万を超えているという。
今回は無印良品の、デジタルを通じた顧客とのコミュニケーションの考え方について、詳しくお話を聞いた。
インターネットによって、世の中はより「透明」になった
マーケティングという視点から見ると、今って、すごく良い時代になったと思っています。
少し前までは企業がマスメディアに情報を流し、生活者に「大量生産」「大量消費」を促すことが可能でした。ある意味、企業側にパワーバランスが偏っている時代だったと思っていて。
しかし、インターネット、SNS、スマートフォンが登場したことで、個人と個人、個人と企業が直接つながれるようになって、世の中が透明になりました。
生活者と企業のパワーバランスが対等になってきて、正しい商売でなければ存続できない世の中になったと感じています。
そもそも広告のような、マスメディアに流れる画一的な情報が購買行動につながっていたのは、ここ100年にも満たない時期だけで。
それこそ江戸時代なんて、近所の口コミが大事だったわけですよね。なので、テクノロジーによって商売が原点帰りして行くといいな、と思います。
事実、多くの人は広告を無意識に無視していると思いますし、広告による一方的な情報発信よりも、対話によって関係性を構築して行くことが大切です。
お客様と「人と人」としてつながることが、価値になる時代
そんな中で企業が大切にすべきなのは、お客様との1対1のつながりをどうやって増やしていくかですし、そこに投資をすべきだと考えています。
例えばSNSで「ちょっと面白いな」「趣味が合うな」と小さな共感が生まれてフォローしてもらう。そのつながり自体が、大きな価値だと思うんですよね。
企業と生活者、というよりも、人と人としてのつながりです。それがないブランドは、広告費という税金を払い続けて、打率の悪い一方的な情報発信をしていかなければならない。
だからこそ僕たちの場合は、MUJI passportのようなスマートフォンアプリや、SNSでのつながりにずっと力を入れてきました。
現在、アプリでのつながりは1,400万人、SNSでのつながりは1,100万を超える規模まで拡大しています。
また今年の8月には、無印良品のブランドページと、ネットストアを統合する形で、Webサイトのリニューアルも行ないました。
新しいWebサイトでは、「from MUJI」というニュースコーナーを新設し、1人ひとりの顧客属性に沿った、情報配信も行っています。
スペックより理念が刺さる!1,800万再生を突破した動画の中身は…
お客様とのコミュニケーションで、非常に大事なポイントは「理念」「共感」「会話」だと思っています。
具体的には、それぞれの商品の価格やスペックの奥にある、無印良品の理念を、会話によってきちんと伝えていくことを大切にしています。
その理由は、価格やスペックは共感を呼ばないからです。
生涯のパートナー選びに近い話だと思っていて。「身長が高い」とか「足が長い」とか、それで相手を好きになるわけではないじゃないですか。
本当は、考え方や生き方に共感して、自分のパートナーを選びますよね。そして、「やっぱりこの人で良かったな」と思う瞬間って、日々の会話の中にあると思っています。
無印良品も同じように、「無印良品が好きで良かったな」と思ってもらいたんですね。そのためのコミュニケーションを、日々、行っていくことが大事だと考えています。
とても良い経験となったのが、スニーカーのプロモーション動画です。
日本のチームは、お金と時間をかけて、CMのような動画を作ったんですね。それに対して韓国のチームは、自分たちが愛用しているスニーカーがどうやって作られているか、という工場のドキュメンタリー動画を制作したんです。
そして両方をFacebookに上げたのですが、前者にはあまりリアクションが無かったのに対し、後者はオーガニックで1,800万回も再生されました。これはすごく、勉強になりましたね。
▼日本のチームが制作した動画(視聴はこちら)
▼韓国のチームが制作した動画(視聴はこちら)
散々みんなで考えて、お金も時間も使ったものがお客様には響かなかったり、かたや低予算でも愛に溢れたものはお客様に届いたり…。
このような、お客様との「つながり」方が見えることが、デジタルマーケティングの楽しさだなと思います。
Webサイトはカタログ。スマホアプリの顧客行動から見えたデータ
今回、無印良品のWebサイトをリニューアルしたのは、デジタル戦略全体の中で、Webの役割を再定義したという形です。
Webサイトは、僕たちからするとお客様とのひとつの接点であって。Web、スマートフォン、SNS、そして店舗といった、多様な顧客接点をしっかりと連携させていく取り組みのひとつです。
Webサイトが担っていく役割として、まずわかりやすいのはeコマースですよね。その点では今回、サイト自体を「無印良品のカタログ」にすることを目指しました。
と言うのも、これまでMUJI passportでお客様の行動データからわかったことがあって。Webサイトの商品詳細ページから、直接それをカートに入れてお買い物をするお客様が、全体の3割くらいなんです。
むしろ、商品詳細ページを見たお客様の半数ほどは、Webサイトで調べて店舗で購買をしています。
そこから考えていくと、世の中のeコマースのセオリーである「ユーザーが商品詳細ページまでたどり着いたら、離脱させないように一直線にカートまで連れていく」という体験は、あるべき姿じゃないなと。
それよりは、例えば店舗在庫を調べられたり、いったんお気に入りにいれておき、店舗でさっと呼び出せたり、といった体験のほうが良いだろうなと、お客様の購買行動を妄想しながらデザインしました。
▼各店舗の在庫も、Webサイト上からワンクリックで確認できる
そういった意味では、僕たちのWebサイトはまずカタログというのが第一義にあって、次にeコマース、という形になっているところがあると思います。
1対Nから1対1のコミュニケーションへ。まずは店舗と個人をつなぐ
また今回、Webサイトに「from MUJI」という情報発信のコーナーを設置したことも大きな変化ですね。
▼1人ひとりに合った情報が届く、「from MUJI」
もともと無印良品では、「くらしの良品研究所」のような自社メディアでコラムを配信して、無印良品の理念をお客様に伝えていくような活動を行ってきました。
商品ももちろん大事なのですが、やはり、無印良品の理念や活動自体に共感して、応援・参加してくれる人を増やしていきたいという想いがずっとありますね。
そのようなお客様とのコミュニケーションは、直接売上につながるわけではないかもしれません。でも、売り手と買い手というより、生活者としてより深くお客様とつながることを目指していきたいと考えています。
そういった意味で、from MUJIは、無印良品の理念や僕たちの価値観をお客様1人ひとりに伝えて行く場所にしていきたいですね。
これまでのコミュニケーションって、1対Nのものが中心でしたよね。そこをより1対1に近づけていくために、今スタートしているのが、店舗とお客様をつなぐ施策です。
from MUJIの中では今、各店舗が、企画したイベントを情報を発信し、集客までができるようになっています。
例えば無印良品池袋西武が「ヘアケアお悩み相談会」を実施したり、無印良品シエスタハコダテが手形アートのワークショップを開催したり…店舗からの投稿数は、月間400本ほどはありますね。
▼店舗から、イベントなどの情報を発信
この1つひとつの企画は、全部、店舗スタッフが考えているんですよ。そしてサイト上では、その店舗で購買履歴があったり、店舗自体をフォローしてるお客様に、その情報が届くようになっています。
このような個店と個客を繋げる仕組みを、これからもどんどん増やしていきたいですね。人と人、としてお客様とつながっていけるように、これからも挑戦を続けていきます。(了)