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  • 代表取締役
  • 宮﨑 知子

ITの力で老舗旅館が再生!売上2倍を実現した、Salesforceの活用と働き方改革とは

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〜出迎えや清掃といった日常業務から、経営指標までをSalesforceでデジタル管理!廃業寸前だった老舗旅館の復活劇とは〜

大正七年に創業した、神奈川県 鶴巻温泉の老舗旅館である「元湯 陣屋」(以下、陣屋)。

同旅館は2008年、廃業寸前に追い込まれていた。昔ながらの分業制で、勘と経験頼みの経営を行ってきた結果、2.9億円の年間売上に対し、借入金が10億円にまで膨らんでいたのだ

そんな中、2009年に4代目経営者に就任し、大胆な経営改革に踏み切ったのが、宮﨑 富夫さんだ。

宮崎さんは、「忙しいのに利益が出ない」という負のスパイラルを脱するために、客単価の向上を図りながら、業務を効率化するための様々な施策を実行した。

また、その特徴はクラウドCRMツールの「Salesforce(セールスフォース)」の導入により、予約や売上の管理、さらに出迎えや清掃といったワークフローのデジタル化を行ったことだ

こうしたIT化と経営改革が功を奏し、売上は見事にV字回復。2017年8月期の決算は、売上高5.6億円、EBITDA(※)は30%で着地したという。

※利払い前・税引き前・減価償却前利益

今回は、同旅館で2009年より女将を務め、現在は株式会社陣屋の代表取締役も務める宮﨑 知子さんに、同社の経営改革とIT化の軌跡について、詳しくお伺いした。

借入金は10億円!大赤字の老舗旅館が、今では利益率30%に

私は主人が4代目として陣屋を継いだ2009年10月に、女将として入社しました。今年の7月からは、主人と交代する形で代表を務めています。

実は、事業継承をする少し前まで、陣屋を継ぐことなんて全く考えていなかったんです。当時、主人は本田技術研究所でエンジニアを務めており、私も2人目の子どもの出産間近という時期でした。

陣屋の業績は、バブルが弾けた頃から徐々に下がってきていて。そこにリーマンショックが起こって、赤字によるキャッシュアウトと借入金返済で、資金繰りが厳しくなっていました。

2008年の時点では、年間の売上2億9千万円に対し、借入金が10億円という状況だったんです

そのタイミングで、当時の社長だった主人の母から私が相談を受けて…。主人に電話でその話をしたところ、開口一番「借入金がホンダの生涯賃金を越えてるんだけど」って。「そうよね、私もそう思うわ」と(笑)。

サラリーマンですと、逆立ちしても返済できる額ではないので。M&A等も考えていたのですが、うまく行かず、陣屋を継ぐことを決めたんです。

そこから、様々な改革を進めてきました。具体的には、ITによる業務効率化に加えて、料理、施設、サービス、働き方の4つの施策を走らせてきました

こうした施策が実を結んできたのが、2015年あたりです。

特にIT化に関しては、Salesforceを基盤としたシステム開発を行い、今ではそれをクラウド型ホテル・旅館管理システム「陣屋コネクト」として同業他社である旅館・ホテルに販売しています。

現在は、売上も2008年のおよそ2倍となり、マイナスだったEBITDA率も30%になりました。借入金の返済も、目処がたってきたというところです

老舗ならではの「分業制」を変えるために、まず行ったのは…

ただ、ここまでの道のりは本当に簡単なものではありませんでした。最初は、「できることはみんなやろう」という感じでしたね。

ですが、私もそれまで会社員の経験しかなかったので、できることなんてほとんどなくて。とにかく毎日、「受け入れてもらうためにも、絶対に休むもんか」という意地で出勤していました(笑)。

そして少しずつ、できる改革を進めていきました。例えば、入ってすぐにわかったのが「分業制」の問題です

当時、20の客室に対して、アルバイト含めて120名の従業員がいました。そもそも多すぎますし、それぞれの担当業務が細かく分かれていて、お互いが協力し合う体制ではありませんでした

例えばお客様をご案内するのも、手が空いた人がどんどんやったほうが効率がいいじゃないですか。でも「それは案内係の仕事だし、私にはわからないから…」という感じで。

そこで、私が自分の権限を使って、色々な人の仕事を「教えてください」と聞いてまわって。それを書き起こしてマニュアル化し、コピーして皆に配ったんです。

すると皆、「他の仕事も、意外とやってみたらできた」「手伝ってもらってラクになった」と、意識が変わっていきましたね。

他にも、見通しの悪かったバックヤードをぶち抜いて(笑)、完全にフリーアドレスのスペースにしました。

やっぱり、物陰に隠れると気が抜けるんですよね。なので物理的に風通しを良くして、お互いに交流せざるを得ないようにしたんです。そうすると、忙しい人を見ると自然に「手伝おうか」と言い合う雰囲気になっていきました。

「助け合って頑張る」だけでは変えられない部分に、ITの力を

ですが、ただ「皆で助け合って頑張りましょう」と言っても、それだけじゃ難しいじゃないですか

売上を上げて経費を落とす必要があることは素人でもわかっていたのですが、その売上を上げるために何が必要なのか、と考えたときに、出てきたポイントは大きく6つありました。

▼2009年当時にあがっていた、6つのポイント

これらを解決しようとすると、やはりそれなりの環境、つまりシステムを整えなければ難しいと感じていました

例えば当時の予約台帳は、A2の紙を1ヶ月分、綴じたものだったんですよね。1冊しかないので、一度にひとりしか見られなくて。予約の電話をいただいても、お客様をお待たせしてしまうこともありました。

台帳自体も、あちこちに細かい情報がごちゃごちゃ書いてあって、誰が読んでもわかるという形ではありませんでした。

しかもそこに書いてある予約内容を従業員に共有するために、毎日A4の紙に手で書き写して、「明日のお客様一覧」のような形で配っていたんですよ。

他にも、顧客情報や営業データが誰かの頭の中にしかなかったり、調理場も「材料が足りなくなるのが怖い」という理由で勘で多めに仕入れをしていたり…

すべてがそんな感じだったので、システムを導入して、数値情報を可視化・一元管理する必要性を強く感じていました。

管理コストのかからないSalesforceを導入し、夜勤の傍らで開発

ちょうどそんな頃に、たまたま、フロントに元SEの方が応募してきて。本人は「陣屋の森に何かを感じて」なんて言っていましたが(笑)。

そこで、当時私たちがやりたいと思っていたことを話したところ、一緒にやってくださるということになったんです。

ただシステムとは言っても、主人と私を除くとパソコンを使える従業員が1名しかいないような状態だったので、自分たちでイチから構築して、サーバーも含めて管理するのは無理だと

そこで、クラウドで、カスタマイズもしやすいSlaesforceが良いという話になって。2010年の年明け早々に連絡して、1月10日にはもう契約していました。

とは言え、当時の陣屋に専属のSEを雇うだけの余力はなかったので、最初は彼が夜勤をしながら開発していたんですよ。

開発にあたっては、最初はとりあえずSalesforceで提供されている機能はそのまま全部使おうと。例えば売上管理や、顧客情報の管理は既存の機能をそのまま使い、予約管理のような旅館に特化した仕組みだけを自分たちで構築することにしました。

また、システム化にあたり、紙ベースで貯まっていた過去のデータは全く移行しませんでした

それを全部やろうとすると非常に労力がかかりますし、スピードも落ちてしまうので、過去のデータはもういい、という決断をしたんです。

そして、ある程度の形ができた2010年の3月から、実際にシステムの活用を始めました。

予約から売上管理まで、すべての情報をSalesforceで一元管理

現場で最初に稼働し始めたのは、予約システムです。Salesforceを使うとクリックベースのシステムが構築できるので、タイピングが苦手な人でもトレーニングすれば使えるようになることが良かったですね

次に予約だけではなく、ワークフローをすべてデジタル化しました。予約から接客、清掃や調理場といった各業務をすべてSalesforce上で連携させたんです

また、朝礼や夕礼、清掃の指示、引き継ぎといったコミュニケーションも、Salesforceのチャット機能であるChatter上で行うようになりました

▼旅館におけるすべての業務を、Salesforce上で一元管理

システム化にあたっては、最初はやはり「紙とのいたちごっこ」でしたね。「紙はすぐに書けるし便利だし…」という感じで、みんな紙が手放せなくて。

「どうして書きたくなっちゃうのか」という話を聞いて、そこからシステムをひとつひとつ改善していきました。

このシステムが活用されて、数字が上向くまでには2年ほどかかりました。最終的に全員がシステムを使いこなせるようになったのは、2013年に勤怠管理の仕組みが構築できてからですね

勤怠管理の出勤ボタンを押さないとお給料が発生しないので、みんな頑張ってログインしてくれています。

システム化のためには、経営者が「全体最適」を考えることが重要

辛かったのは、たとえシステムを作っても、そこに蓄積したデータを活かせるシーンに出会うまで時間がかかることです

旅館の場合、同じお客様が「リピート」してくださるまでの時間が長いんですね。1年に1度いらしてくださるお客様がいれば、その方は非常に大切なリピーターになりますので…。

ですので、お客様の好みをいくら記録しても、それが活用できるシーンがなかなか現れません。

この、データのありがたみが感じられるまでの、耐える期間は辛かったですね。「これをやって意味あるの?」という疑念を、従業員も抱えている状態なので。

そのような時期においては、どうしても負担が偏ってしまいます。例えば陣屋の場合、予約係や接客係といった従業員には、特にストレスがかかっていました。

そこで、そういった人にはしっかりヒアリングを行い、抱えている仕事が多ければそれを他の従業員にも振るようにしていました。

誰しも、どうしても手元の仕事を抱えてしまいがちなので、それを交通整理してあげることが大切です

ITを導入するぞ、と決めた人がそれをやってあげないと、やっぱりうまく流れませんね。全体最適化ができるのは、経営陣しかいないので

ですので、私自身は業務シフトに入れないでもらうようにお願いしています。人足としてカウントされてしまうと周りが見られなくなってしまうので、「プラスアルファ1」でいさせてもらうようにしています。

「定休日」の導入で働き方も改善。離職率は30%→4%に激減

また、システム以外で大きかった改革は、「働き方」です。やはり企業として長く続いていくためには、そこで働く人のライフスタイルを安定させなければ、という思いもあって

ですが以前は、離職率も3割を切れず、なかなか従業員が定着しませんでした。人の出入りがあるだけで、精神的にはどうしても安定しないですよね。

そこで陣屋では、2014年から、火曜日と水曜日を定休日にしたんです。当時はようやく黒字化ができたタイミングだったので、銀行さんにも「本当に大丈夫? 本当にやるんですか?」って何度も聞かれました(笑)。

でも、それまでSalesforceを使って売上やコストを可視化してきていたおかげで、稼働率が上がりにくい火曜日と水曜日を閉めても、採算を割らずにいける、という説明をすることができました

定休日を取り入れたことで、従業員の気持ち的にもようやく落ち着いた感じがありました。やっぱりみんな、お金もそうなんですけれど、お休みが欲しかったんですよね

また、利益率が上がったことで、社員の平均年収も上昇しています。ホテルや旅館って、業種別に見たときに年収が最下位に近くて、250万円ほどなんです。それが弊社では、EBITDAが確保できていることもあり、今400万円ほどになっています。

結果として、離職率もかなり下がって、今は4%まで落ち着いています

今後は、陣屋だけではなく、全国の旅館の経営改革と地方創生に貢献できれば、と思っています。

陣屋コネクトの利用施設の数も200を越え、また新規事業として、全国の旅館・ホテルのたすけあいネットワークサービス「JINYA EXPO」も開始しています。

旅館が「憧れの職業」になるように、これからも尽力していきたいですね。(了)

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