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  • 中川 貴博

デジタル時代の「テレビ局」の在り方とは? ハッカソン開催から始まった、MBSの挑戦

〜「開発を内製化できるテレビ局」を目指す!毎日放送の、ハッカソン開催を起点としたデジタル化への取り組みとは〜

大阪府大阪市に本社を置く、ラジオ・テレビ局である毎日放送(以下、MBS)。

MBSでは、テレビ番組に革命を起こす新しいアイデアを求めて「Hack On Air MBSハッカソン」を、2014年から3回にわたって開催した。

2017年の第3回では、VRで漫才師のツッコミ役が体験できる「ツッコミの祭点」が最優秀賞を受賞。エンタメ性の高い、新たなITサービスを生み出してきた。

同社のハッカソンの特徴は、それが最終的に「テレビ番組になる」ということ。会場としてテレビスタジオを開放し、番組ディレクター等が各チームに加わることで、独自性の高いハッカソンを実現してきた。

そしてまた、このハッカソン開催を起点として、社内においても「デジタル化」へと向かう素地が整ったのだという。

例えば新規事業として、動画配信サービスである「動画イズム」が生まれるなど、ハッカソンに関わったメンバーを中心に、デジタル時代における放送局の新しい可能性にチャレンジしているのだ。

ハッカソンを行う以前の状態のままで今を迎えていたら、ただ『AbemaTV』をぼーっと見ているだけだったと思う」と語るのは、同ハッカソンの企画・運営に携わり、現在は動画配信サービスに関わる中川 貴博さんだ。

今回は中川さんと、同じくハッカソン運営を経て動画配信サービスにも関わる濱口 伸さんに、同社のハッカソン後の歩みについて、詳しくお話を伺った。

「社外」とコラボすることで、新しい可能性を模索したかった

中川 僕は今、コンテンツビジネス部にて、動画配信サイト「動画イズム」を担当しています。

動画イズムでは、見逃し配信やライブ配信、有料課金配信を行っているのですが、この動画周りを触っているのが、以前のハッカソンのプロジェクトチームを中心としたメンバーなんです

合計3度のハッカソンで得たものは、本当にたくさんあったと思います。ですがその中でも特に大きいのは、こうして「デジタル」という領域に対して、チャレンジをするための素地ができたことです

それこそ、ハッカソンを行う以前の状態のままで今を迎えていたら、ただ「AbemaTV」をぼーっと見て、「これ、うちはどうすんねん」と焦っているだけだったと思うんですよ。

ハッカソンの開催を通じて人脈もできて、デジタルに対するウォーミングアップができたんですよね。この領域で「走れ」と言われたら、ある程度走れるような状態が作れたと思っていて。

濱口 僕98年に入社しているのですが、もともとはエンジニアとして、Webやシステム周りをすべて担当していました。ホームページを作ったり、メールサーバーを作ったり、10年ちょっとはそういった仕事をしていました。

その後、経営戦略室に移ったのですが、そこで「これからの5年10年を考えたときに、放送局として何をしていくべきか」という話になったんですね。


そこで新規ビジネスを社内で公募したのですが、どうしても「今までの発想の延長線」みたいな話ばかりになってしまって。残念ながら、そこからは事業化に至らなかったんです

そんな時に、社内だけではなく、外部と協業すると面白いものが出て来るかもしれない、という文脈で、OSAKA INNOVATION HUBを紹介してもらって。そこで初めて、ハッカソンなる言葉を聞きましたね。

なので最初から、「ハッカソンをやりたい」ということではなかったんです。外の世界とコラボしてみましょう、という路線の中で取り組んだひとつの例が、このハッカソンなんですね

参加者全員が「ひとつのエンタメ」としてハッカソンを楽しんだ

中川 僕自身は、もともとは経理マンだったんです。ただ、経営戦略室を兼務していたので、その流れでハッカソンを担当することになりまして。

そこで当時の社長が「やるんだったら番組にしろ、何だったらゴールデンで1時間やれ」と。それで「大変なことになった…でもこれはやるしかない。もう逃げられない」ということになりました。(笑)

濱口 ハッカソンは最初から、全社横断型のプロジェクトとして採用したんです。それで各部署から色々な人が、総勢30名ほど関わっていました。

会社の規模が600名ほどなので、その5%を投入するということになり、けっこう大ごとでしたね。

予選のアイデアソンで勝ち上がったチームに入る社員や、技術で関わる社員など、様々なセクションの人が参加していました。

中川 普通はハッカソンって、会議室の中で開催するようなイメージですよね。なので最初は、「そんなもん番組になるわけないやろ」って、皆言ってましたね


それこそ1年目は、ハッカソンという言葉自体を誰も全く聞いたことも、見たこともないし。正直ちょっと嫌がられてた部分もありました。

でも、1年目に関わった人が皆「面白い」と言ったことで、2年目からは変わってきましたね。

うちのハッカソンの面白さのひとつとして、参加者の方とスタッフの関わり合いが、割とウェットで。参加者のご自宅に訪問していたスタッフもいましたし、100名以上が参加しているFacebookグループも3年分あって、今も生きています。

参加者の方へのアンケートでも、皆さん「楽しかった」と言っていただけて。僕自身も、3回を通じて本当に楽しかったです。

「最後にテレビ番組になる」ということも含めて、皆がひとつのエンタメとして楽しむことができたと思っています。

ハッカソンを通じた出会いが、番組制作や新規事業へもつながった

中川 また、審査員やスポンサー企業さんとの出会いも、我々にとっては大きな資産となりました

例えば、参加したスタッフの中に、ハッカソンを通じて知り合った企業の人と関われる番組をやりたい、ということを言い出した人間がいたんですね。

そして彼が制作したのが、お笑い芸人・チュートリアルの徳井 義実さんをメインMCに据えた「徳井バズる」という番組でした。例えば3Dプリンターで理想の女性の太ももを作るとか、おバカなことをやりながら(笑)テクノロジーを学べる、という番組です。

また、新規事業として動画イズムを一緒に開発しているチームは、まんまハッカソンでお会いした人たちなんですよ。

例えばAWSやkintoneといったクラウドサービスを利用しているのですが、それらの構築も、ハッカソンでスポンサードいただいた企業さんにお願いしています。

濱口 他にもハッカソン開催以降、デジタルを活用した新しいサービスが継続的に作られるようになってきていて。


例えば公式キャラクターの「らいよんチャン」がLINEのbotになっていたり、番組情報を管理する社内システムが、動画配信の仕組みをベースにして作られていたり。

中川 3回ハッカソンをやったことで、今はもう「デジタル」という文脈でなにかあると、僕や濱口のところに人が来るようになりましたね。そうした役回りとして、社内に認知されていると言いますか。

僕たちに限らず、ハッカソンを一緒にやっていたメンバーはやっぱり、デジタルという文脈でのビジネスの可能性に目が行くようになったんです

有料動画配信サービス「MBS動画イズム444」もマネタイズが近い状態になっていますし、以前のビジネススキームとは、全然違う絵が描けていると思っています。

「開発内製化」を目指し、デジタル領域のビジネスを拡大させる

中川 今、目指している理想としては、開発を内製化するためのリソースを抱えられる体制を作っていきたい、ということがありますね。

と言うのも、実は以前は、濱口のように自分でコードを書いて開発できる人間が、社内にもけっこういたんですよ。

ただ、アナログ放送からデジタル放送へ変わるというときに、外注化のトレンドが出てきて。何もかも作り変えないといけなかったので、自分たちではとても手が回らなかったんですね。

濱口 どうしても、「発注して作ったものを動かして毎日終わる」みたいな感じになってしまって。なかなか、何か新しいもの作ろうぜっていうような気運が生まれてきていなかったですね。

でもやっぱり、自分たちでものを作れる体制に戻していくことが、一番大事だと思っています。番組や表現物といったコンテンツと、裏でそれを動かしている仕組みは一対のものなので

外注が悪いというわけではないのですが、そもそもデジタル用語に対する知識がなければ、外注先との会話も成立しませんよね。例えば「DMP」と言われても、自分たちで触ったことがなければ「はぁ?」となってしまう。

仕組みを知らなければ、そもそも「やりたい」と思うこともできません。ですので、それが通訳できるようなチームが内部にいないと、時代についていけないんじゃないかなと。

中川 そのためのネクストステップとしては、まずデジタル配信のビジネスをしっかりと整えることですね。インターネット側にきちんと「顔」を持って、ビジネスを展開していくということかなと。

濱口 また、今のインターネットのアドテクの理屈の中にきちんと合うように、毎日放送としての付加価値をどう高めていくかだと思っています。

毎日放送は、関西の中では知らない人はいないわけで。その価値をインターネット上でどう表現していくのか、その仕組みを、しっかり積み重ねていかなければなりませんね。(了)

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