- Farfetch Japan株式会社
- SEO & Content Marketing Senior Specialist
- 室屋 武尊
数字とロジックだけのSEOは「クールじゃない」ユニコーン企業Farfetchのマーケ哲学
〜「Google対策よりユーザー目線」でトラフィック2倍に。ラグジュアリーECプラットフォーム「Farfetch」の、顧客体験をベースにするSEO施策とは〜
今や世界11都市にオフィスを構え、190ヶ国に顧客を擁するラグジュアリーECプラットフォーム「Farfetch(ファーフェッチ)」。
ラグジュアリーから気鋭デザイナーまで、2,000以上のブランドを取り扱う同サイトでは、従来の常識に囚われないSEO施策を実行し、成果を上げることに成功している。
検索ボリュームではなく「Farfetchならではの商品ラインアップ」を基準とし、また検索順位より「検索体験」を重視するその施策は、数字とロジックに根ざした旧来のSEOとは一線を画するものだ。
Farfetchの日本法人でSEOを担当する室屋 武尊さんは、「SEO担当者は、デジタルはわかっていても、ファッションのような『感性』に対する理解が十分でないことが多い」と語る。
今回はFarfetchのSEOの考え方や、コンテンツマーケティングを行う上でのキーワードの探し方まで、幅広くお話を伺った。
▼ラグジュアリーECプラットフォーム「Farfetch」
数字とロジックだけで語るSEOは「クールじゃない」
私は、2017年2月にFarfetchに入社しました。以前はWebマーケティングを中心にSEO、データ分析に関わっていましたが、30歳になる前にもう1回キャリア的な冒険をしたいなと。
Farfetchは日本での知名度はそれほど高くなかったものの、ラグジュアリーファッション業界における先駆的プラットフォーマーであり、世界的に急成長している企業です。日本に支社があると知って、ワクワクしながら求人に応募したのを覚えています。
現在は、SEOとコンテンツマーケティングのシニアスペシャリストを務めています。
Farfetchは、 2008年に、シリアルアントレプレナーのジョゼ・ネヴェスがロンドンで創業した会社です。創業の背景には、画一的なマーケティングやグローバリゼーションの影で「ファッションの多様な美しさが均質化してしまう」ことへの強い懸念があったようです。
それをテクノロジーの力で助けようというのが、Farfetchが生まれた理由です。
ですので、創業10周年を迎える今でも、「個性をエンパワーする存在としてのファッション」という信念が非常に大切にされています。それは、SEO戦略においても同様です。
実際に入社当初、数字とロジックだけでSEOを語ろうとしたら、「それはFarfetch的ではない、クールじゃない」と言われて、衝撃的でした(笑)。
SEOって、そもそも画一的なものなんです。キーワードを見つけてどんどん対策して、機械的にやっていくものなので。でも、それは会社の考え方とは違う、と。
ロジカルなGoogle対策よりも、「お客様にどう響くのか」という数値化しづらい感性を大切にする考え方なので、最初は壁にぶつかりましたね。
検索結果で「1位」を取っても売上につながらない…
一般的に、Eコマースのマーケティングには「売上」というシンプルな指標が掲げられます。
FarfetchのSEOにおいても同様に、検索順位を上げてトラフィックを増やすだけではなく、売上が求められます。
ただしSEOで売上を立てるのは難しく、最初は挫折ばかりの日々だったんです。
オーガニックユーザーが初めてサイトに訪れて、いきなり商品を買う、ということは考えにくいですよね。購入に至るまでに、悩んで悩んで、また商品を見に来るというのが、Eコマースの消費者行動です。
しかし私も入社してすぐの頃はそこまで考えが及ばず、過去に習ってきたSEOの手法を実践することを優先していました。その結果、全然売上に繋がらなくて。
大人気ブランドの検索結果で1位をとって、「必ず売れるはずだ」と思ったのに、1個も売れない。なかなか成果に繋がらないので、当時はすごく悩んでいましたね。
そこで改めてFarfetchの信念に立ち返り、私たちがやるべきSEOについて考え直したんです。
まずやってみたのは、お客様の目線に立って商品を見るということです。お客様になりきって、自腹で色々と買いまくっていました(笑)。お給料の3分の1ほどを、Farfetchで使っていましたね。
色々と商品を買ってみると、これまでに見えていなかった色々なことに気が付きました。
例えば、当たり前ですが、どんなに欲しい商品でもサイズが合わなければ購入には至りません。でも人気のブランドほど、よく売れる分、サイズ欠けが発生します。
つまり、より細やかに商品の状況を把握していないと、ニーズがあっても売れないという状況を発生させてしまうわけです。むやみにSEOを強化するのではなく、お客様のニーズを考えるべきなんですね。
よく言われることかもしれませんが、マーケティングって数字作りでうまく見せられてしまう部分もあります。ですがデータだけ見ていては、見落としてしまうことも多いのだと気が付きました。
それ以来、SEO施策をブランドやカテゴリごとに個別に見ていく形にチェンジしました。
ページごとに在庫やトレンドを加味しながら、ひとつひとつ検討するということです。Farfetchではこれは売れる、これは売れない、と丁寧に整理していきました。
結果的に、コンバージョンレートを改善しつつ、オーガニックトラフィックを約2倍に増やすことができました。
検索順位に大きな変化は見られませんでしたが、ロングテールからの流入やCTRの向上によって、成果に結びついたのだと思います。
検索順位より「検索体験」を重視するSEO施策
しかし、「ひとつひとつのページと向き合って施策を行う」と言っても、あまりイメージがわかないかもしれません。
実際にポイントになるのは、商品バラエティ(種類)と在庫です。これを軸にマトリックスをつくり、ページを分類しました。そこからお客様のニーズや、Farfetchでこそ売れるものを分析していきました。
例えば在庫が多くて商品バラエティも多いブランドであれば、「ブランド×カテゴリ」のページを最適化します。かけあわせキーワードで検索する方は購買意欲が高いので、ニーズに合わせたページを表示できるようにします。
また、在庫が少ないブランドは、優先度を下げることもあります。
検索ボリュームで考えるというよりは、お客様がFarferch上でできる体験を基準にしてSEO施策を考えているんです。
実は検索順位も、そこまで強く意識はしていません。
と言うのも、Farfetchの平均購入単価は約7万円と、Eコマースとしては高額です。そのため、多くのお客様は下調べをして、慎重に比較検討をしてから購入することが多いんです。ですので、検索順位の良し悪しにかかわらず、売れるものは売れていきます。
ただ、検索順位を重視しない一方で、「検索体験」を改善するための様々な工夫をしています。
例えば、ブランド名の表記です。英字を大文字にするか小文字にするかといった、些細なことにも気をつけています。お客様が認識しているブランドの印象を、壊さないようにするためです。
このように、SEOと言っても「検索エンジンに最適化する」という感覚で取り組んでいるのではなく、お客様に最適な物を提供したいという思いで日々の施策を行っています。
1ページ1ページ、どんなお客様が買うのかな、と想像しながら最適化するのでとても大変ですが、これが検索体験の改善に繋がっていると信じています。
最先端のキーワードを見つけるためには、自分の足を使って動く
また、Farferchはファッションの最先端を常に走らなければならないと思っているので、常に新鮮な情報に触れて、鮮度の高いキーワードをコンテンツマーケティングに活かしています。
最近の例ですと「ウエストポーチ」が流行っているのですが、これはたまたまNYファッション・ウィークに足を運んでいた弊社スタッフが発見したトレンドです。
でもウエストポーチって個人的にはあまりおしゃれなイメージではなかったので、記事案を見たときは驚きました。そして一応、検索ボリュームもチェックしたのですが、記事がヒットする確信は持てなくて。
でも実際にコンテンツを作ってみたところ、今は「ウエストポーチ トレンド」というキーワードでFarfetchが上位にいて、ファッション感度の高いお客様のトラフィックを得ています。
▼実際の記事(こちらからお読みいただけます)
このように、従来の検索データだけでは見つけられないものを発見して、コンテンツとして発信できるか、ということが大切ですね。こういった情報こそ、お客様が求めているものだと考えています。
また、ブランドの路面店をはじめとする店舗にも、頻繁に足を運んでいます。
店員さんが紹介しているものを聞く、お客さんが実際に買っているものを見る、といったことを通じて、新しいキーワードを探しているんです。
こうした自分の足を使った情報収集は、とても大切だと思っていて。データ化されていない情報を得るためには、オフィスの外に出て肌で感じとるのが一番ですね。
SEOに携わる方はデータやロジックに強いのですが、私も含めて、「感性」が弱い場合が多いように思います。
デジタルは日々進化していきますが、商売の本質はヒューマン的な要素にあります。どんなにテクノロジーが発達しても、データ化できない情報を探すためには現場に足を運ぶことは欠かせません。
今後の理想は、引き続きFarfetchらしさを大切にしながら施策を積み重ねていって、「蓋を開けたら数字ができてる」みたいな状況を継続的に実現することです(笑)。
私は本当はロジカルな人間だと思うのですが、憧れているのは感性でビジネスをやって成功している人です。そうありたいと思っているので、今後もロジックに頼りすぎないようにしたいですね。(了)