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botを育てて、人も育てる!急成長を遂げる「CASH」のカスタマーサポート運営

〜AIチャットbot「Karakuri」を導入し、問い合わせへの返信を自動化!即時現金化サービス「CASH」を支える、オペレーションの裏側〜

あらゆるアイテムを瞬時に「キャッシュ」に変えることのできるサービス「CASH」。

2017年6月のローンチ当日に、予想を超える取引量から査定を一時停止し、世間を賑わせたことは記憶に新しいのではないだろうか。

同サービスを運営する株式会社バンクは、誰でも迷わずに使えるサービスづくりを目指しており、そもそも「問い合わせが来ない状態」を理想としている。そのため、敢えて「カスタマーサポート専任を置かない」オペレーション体制を敷いているという。

しかし、個別事情に対する問い合わせに対しては、どうしても細やかな対応が必要となり、工数がかかることが課題であったそうだ。

そこで、よりシンプルな問い合わせに対する返信を自動化すべく、AIチャットbotサービスの「Karakuri(カラクリ)」を導入。

bot自らが「返答の確信度」を0〜100%で申告し、それに基づいて、botと人のどちらが対応するかを判断することで、クオリティも担保した業務効率化を実現しようとしている。

今回は、同社でオペレーションチームのマネージャーを務める長谷田 貴史さんに、CASHのオペレーション体制や、bot導入の具体的なプロセス、その活用法に至るまで、詳しくお話を伺った。

「理想」の実現のため、敢えてカスタマーサポート専任は置かない

僕は、前職でも自社サービスのカスタマーサポートに携わっていましたが、複数プロダクトを運営し続ける仕組みづくりに興味があり、2017年の12月にバンクに入社しました。

現在は、12名から成るオペレーションチームのマネージャーを務めています。

CASH」は、スマホで写真を撮るだけで、目の前のアイテムを一瞬でキャッシュに変えることのできるサービスです。

▼撮ったアイテムが瞬時にキャッシュに変わる「CASH」のアプリ画面

ユーザー側からすると「持っているものがすぐに現金化する」という体験が、一番重要です。ですのでオペレーションチームでは、「査定から支払いまで滞りがないようにする」ということを最優先に運営しています。

また弊社では、敢えて「カスタマーサポート専任」のメンバーを置いていません。

というのも、CASHは誰でも迷わずに使うことのできるサービスを目指しているため、そもそも「問い合わせが来ない」という状態を理想だと考えています。

そのため、今の段階では「問い合わせに対応することだけが仕事」になるメンバーはいない方が良いんですね。

ですが、現実的にはその状態からはまだ程遠く、現在、問い合わせ件数は月間でおよそ3,000件ほどあります。

今はユーザーが急増しているフェーズのため、どうしても問い合わせ件数が増えてしまうんです。そこでサービス面の改良を進めつつ、運営面からもそれに耐え得る仕組み作りに取り組んでいます。

不正利用に関する問い合わせには、納得感をもっていただく

CASHのアプリは、誰でも使えるシンプルなUIになっているので、操作に関する質問や、機能改善の要望といったものは、ほとんどありません。

一方で、よくある内容として、不正利用に対して制限をかけたユーザーからの問い合わせが全体の約4割を占めています。

例えば、ひとりで複数アカウントを持っていたり、実際のコンディションよりも良い評価をして査定価格を高くしたり、といった規約に反した使い方をされると、一部利用の制限をかけることがあります。

それに対して、「なぜ制限がかかったのか?」「いつ利用を再開できるのか?」といったお問い合わせをいただくことが多いですね。

ですのでCASHの場合、一般的なカスタマーサポートとは違った対応の難しさがありまして。

というのも、ユーザーの個別事情に合わせて、サービスの正しい使い方をご案内したり、次回の利用を一部制限させていただいたり、といった細やかな対応が必要になってきます。

また、多くの人に使っていただけるサービスにしたいという思いがあるので、不正利用されたユーザーに対しても、規約に納得していただいて、もう一度使っていただくことが大切です。

そのため、「利用規約の『ここ』に違反しています」といった根拠を示した上で、できる限り伝わりやすいコミュニケーションを心がけていますね。

一方で、FAQに載っているような、回答が明確な問い合わせについては、自動応対の仕組みを取り入れたいと前から考えていました。

その仕組みを実現するため、いくつかのツールを比較検討した上で、AIチャットbotの「Karakuri(カラクリ)を2018年2月に導入することに決めました。

導入から約3ヶ月の間はユーザーへの直接の回答は行わない形で準備を進め、4月の下旬より本格運用を開始しました。

すべては任せず、bot自ら申告する「確信度」で対応を分ける

「Karakuri」は、カスタマーサポートに特化したAIチャットbotサービスです。

弊社ではもともと、問い合わせ管理サービスの「Help Scout(ヘルプスカウト)」を活用して、問い合わせ対応を行ってきました。

Help Scoutにはテンプレート機能があるので、問い合わせの内容に適した返信用テンプレートをベースにしながら、人が編集を加えて作成しています。

ですが、今の体制ですと、土日の対応がほとんど出来ていなくて。FAQのような簡単な内容でも、ユーザーが返信をもらうのに平日まで待っていただくこともありました。

そこで、Help ScoutにKarakuriを連携させることで、一部のメール返信を自動化させています。

▼Karakuriによって返信文を作成した、Help Scoutの画面

ここで大切なのは、「botにすべてを任せない」ということです。というのも、不正利用など、人が介在した方がいい問い合わせに関しては、基本的にbotが入り込まないようにしたいと思っていて。

そのため、人かbotのどちらが対応するかについては、特定の言葉が含まれているかであったり、botの申告する「確信度」をもとに判断しています。

この確信度は、チャットbotが「正しく答える自信があるかどうか」で0〜100%の数値で示されます。

例えば、「〇〇の場合、代金はいつ振り込まれますか?」といったシンプルな質問に対しては「確信度90%」であったり、逆に個人情報や現在の集配状況といった定型でない質問に対しては「確信度20%」といった形です。

▼チャットbotが、自らの「確信度」を表示


それを確認して、80%以上だったらbotに答えさせる、80%未満であれば人が対応する、といった形で、返答のクオリティがコントロールできる仕組みを作っています。

チャットbotの「教育」を通じて、人も育てる

このbotが正しく回答するためには、そのためのトレーニングが肝心です。

トレーニングにあたっては、まず現在の問い合わせデータをひたすらKarakuriのデータベースに流し込みます。

それも、従来のテンプレートをただ移行するのではなく、botが回答しやすい返信内容を新たに追加しながら、1ヶ月くらいかけて、2人掛かりで1,000件ほどを流し込みました。

そうして、botに質問内容とその回答を覚えさせてから、「それは正解だよ」「そっちは間違ってるよ」といったことを繰り返し、正答率をあげていきます。まさに、botへの「教育」みたいな感じですね。

▼Karakuriシステム上の、botの「トレーニング」画面

この作業を、新卒のメンバーと一緒にしていたのですが、その過程で「そういう対話をするんだ」と人間も一緒に学んでいくみたいなことがありまして(笑)。

botを教育するということは、人が正しく知っておかなければならないんですよね。

今は人間がbotに正しい返答の仕方を教えていますが、データベースにそれが蓄積していくことで、いずれは逆に人間がトレーニングされる仕組みが作れると面白いかなと思っています。

さらに、botへの教育を通じて、botの得意・不得意もだいぶ理解できてきました。

これから成長していく部分ではありますが、今のところ、長文や2つの文章から成る問い合わせは、あまり得意じゃないですね。「こんにちは」みたいな挨拶も、場合によってはノイズになってしまいます。

というのも、「こんにちは。お金がまだ振り込まれないのですが…」みたいな内容だと、「どちらの文章が質問なんだろう?」とbotが混乱してしまうんです。

ですが、これもbot自身が「自信がない」と自覚できていれば問題ないと思っていて。

「自信あり」で間違っているのが一番困るので、そこは回答できる質問かどうかの見極めをしっかりできるように、教育しています。

個別の事象には、質問の意図を汲み取って「人」が対応する

また、botでは返答できないと判断されるものは、オペレーションチームの人間が対応します。

基本的に、人間が対応するものは、すべて個別の事象なんですね。なので、あまり一緒くたにパターン化してしまうと、誤った考え方をしてしまう危険性があると思っています。

そのため、対応の際には「なんで問い合わせが来ているんだろう」といった質問の意図を考えるよう、チームで徹底しています。

文章だけではなく、ユーザーの行動を管理画面から追ってみると、ユーザーの置かれている状況だったり、心境だったりが見えてくるんですね。

もちろん、問い合わせのテンプレートもかなり細分化してパターン別に用意していますが、それをそのまま使って返すのではなく、ユーザーごとに合わせた形で返答する、ということが、当たり前ですが結構大事だなと感じています。

とはいえ、実際にはひとりで考えても適切な応対の仕方が分からないこともあるので、不安があればすぐ聞ける体制作りをしています。

例えば、メンバー同士のレビューでは、Help Scoutのノート機能を活用しています。判断が難しいものがあれば、案件のノート上でやり取りをして、今回はこの対応でいこうか、といったことを決めています。

また、オペレーションチーム内での情報共有を円滑にするため、最近Slackにzapierを連携して、「共有」というワードのある投稿を、Googleスプレッドシートに蓄積する仕組みを作りました。

▼Slackとzapierを連携して作った、情報共有の仕組み

CASHでは仕様の変更がわりと頻繁に起こるので、フローになりがちなSlackの情報をひとつの場所に貯めることで、仕様の把握不足によるコミュニケーションロスや対応ミスを防ぐようにしています。

「何でも対応できる」オペレーションチームを目指していく

CASHは現在、リリースからおよそ10ヶ月で、数十万ダウンロードを突破しています。

今の段階では、さらに多くの人にサービスを使ってもらいたいというのが大前提にありますが、その上でファンを増やし、リピート率を上げることに注力しています。

そこで、カスタマーサポートのKPIとしては「ファーストレスポンスタイム(初回返答までの時間)」を置いています。

現在は基本平日しか対応できていないのですが、botを導入することで、ユーザーの問い合わせに対する返答時間を、より短縮していきたいと考えています。

今後も、KarakuriなどのITツールは、適宜活用していきたいですね。ツールはあくまで手段なので、その時のチームやサービスの状況にあったものを使っていければと考えています。

また、オペレーションチームを、「何にでも対応できるチーム」にしていきたいと思っています。


というのも、CASHや現在開発中の他のプロダクトは、基本的に前例のないものです。「僕はこの専門じゃないんで」と言っていたら運用が回りません。

なので、新しいことにチャレンジできる環境を作り続けていきたいし、単なる守りの運用ではなくて、常に改善・改良をオペレーションチームから全社に発信していけるような体制を作っていきたいですね。(了)

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