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生成AI活用で20,000時間を創出!LIFULL全社プロジェクトの全貌【SELECK miniLIVEレポート】

生成AI活用で20,000時間を創出!LIFULL全社プロジェクトの全貌【SELECK miniLIVEレポート】

「SELECK miniLIVE」は、注目企業からゲストスピーカーをお招きし、X(旧Twitter)スペース上で30分間の音声配信を行う連載企画です。

2024年7月9日に開催した、SELECK miniLIVE シリーズ「非エンジニアの生成AI活用ワザ」の第1回にお越しいただいたのは、株式会社LIFULL グループ経営推進本部 経営戦略ユニット 日次採算性向上推進グループの廣瀬 智英さんです。

シリーズ「非エンジニアの生成AI活用ワザ」
さまざまな生成AIが、競い合うように進化を続ける昨今。
本シリーズでは、敢えてエンジニア以外の職種(営業、マーケティング、人事、広報、経理 etc…)に焦点を当て、生成AIの活用ワザをカジュアルに公開していくことで、相互の学び合いを促進していきたいと考えています。

同社では、2023年8月から社内における生成AI活用を推進。2023年10月~2024年3月の半年間において、従業員の71.8%が生成AIを活用し、合計20,732時間の業務時間の創出を実現しました(詳しくは、こちらのプレスリリースをご覧ください)。

廣瀬さんは有志プロジェクトのメンバーとして、主に仕組みづくりの観点から生成AIの組織浸透に尽力されたとのこと。その具体的なプロセスや、実際に社内に登場したユニークな活用事例まで、幅広くお話をお聞きしました。(聞き手:株式会社ゆめみ / Webメディア「SELECK」プロデューサー 工藤 元気)

本記事は、2024年7月9日に開催したSELECK miniLIVEの生配信を書き起こしした上で、読みやすさ・わかりやすさを優先し編集したものです。当日の音声アーカイブはこちらからお聞きいただけます。

「生成AIのことは全然知らずに」全社プロジェクトにジョイン

工藤 本日のタイトルである「20,000時間の創出」、いきなりとてもキャッチーなのですが、そのお話の前にまずは、廣瀬さんの日々のお仕事・役割について聞かせていただけますか?

特に、所属されている「日次採算性向上推進グループ」は、なかなか他の会社では聞かないような部門名かなと。

廣瀬 そうですよね。「日次採算性向上推進」は、LIFULL社内の造語のようなものなんです。意味合いとしては「日次決算」に近いもので、企業として利益を毎日追うのと同じように、個人の生産性を毎日高めていこうという取り組みで、5年ほど前から推進しています。

私自身の業務は、それを「仕組み」として作成・提供し、全社員が当たり前に実行できるようにすることです。例えば、個人の業務効率を向上するための社内リサーチや、ツールの提供を行ってきました。

▼株式会社LIFULL 日次採算性向上推進グループの廣瀬 智英さん

生成AI活用で20,000時間を創出!LIFULL全社プロジェクトの全貌【SELECK miniLIVEレポート】 .001工藤 今回の生成AI活用プロジェクトに、廣瀬さんがジョインされたきっかけをお聞きできますか?

廣瀬 ぶっちゃけ、「上から落ちてきた」というのが正直なところです(笑)。ただもともと、日次採算性の取り組みで、個人だけではなく全社の観点でも無駄な時間を減らしてより効率よく成果をあげよう、という「軽量化」の取り組みを1年ほど行っていたんです。

その流れで、ツールとして生成AIが出てきたので、軽量化の一環としてやろうということになりました。

工藤 つまり、もともとAIの専門家だったわけではないんですね?

廣瀬 そうです。正直生成AIのことは全く知らず、「ChatGPTって、すげー」くらいの感じでした(笑)。

工藤 そこから生成AIのプロジェクトにジョインとなると、心理的にも技術的にもハードルが高そうですが、入った当時はいかがでしたか?

廣瀬 最初は、何から手をつけようか悩みました。ですが、「全社に何かを浸透させていく」ことはこれまでもやってきたので、頭の中でなんとなくルートを描くことができました。自分自身が抵抗感を持たないように、前向きに進めよう、という心持ちでしたね。

LIFULLすべての従業員が、生成AIを自然に使っている状態を目指す

工藤 今回のプロジェクトについて、狙いや背景を教えていただけますか?

廣瀬 このプロジェクトは2023年8月から始まったのですが、実はその前から、「LIFULL HOME’S」の商材として、生成AIを活用するための専任部署が立ち上がっていたんですね。

その中で、生成AIは外向きだけではなく内向きにも絶対に使えるよね、という話が出てきたことがきっかけになります。

工藤 プロジェクトの体制について詳しくお聞きしたいのですが、どんな方が参加していますか?

廣瀬 今は6名体制で、私のように生産性や業務効率を上げていくために動いている人間もいれば、教育や育成に強い人事や、技術的に詳しいエンジニアなど、それぞれの強みをもったプロジェクトチームになっています。

同社プレスリリースより、生成AI社内浸透のための体制

生成AI活用で20,000時間を創出!LIFULL全社プロジェクトの全貌【SELECK miniLIVEレポート】 .004工藤 そのプロジェクトの中では、どのようなゴールを描いているのですか?

廣瀬 元々、本業務は違うことをやってきているメンバーで集まっているので、最初からゴール設定は非常に重要だと捉えていました。1ヶ月近くは議論をして、しっかりとすり合わせましたね。

そしてゴールとしては、「LIFULLの全ての従業員が、生成AIというツールを使って自身の業務効率化を自らできるようになっている状態」を定義しました。例えば、Excelのように業務の中で当たり前に使っている状態を作っていこうということですね。割とふわっとしているのですが、最初に設定したゴールはそれでした。

工藤  抽象的とは言え、全社員がスタンダードなツールとしてAIを使える状態を目指すとなると、それは結構大きな目標だなという印象です。

廣瀬 そうですね。なので、具体的にゴールに向けて何をどこまでやるのか、数値化をしていきました。それで最初の定量的な目標としては、まずは従業員の7割が生成AIを使っている状態を作ろう、と設定して、それが後に、20,000時間の業務時間を創出しよう、という目標に変遷していきました。

AI活用への心理的ハードルを下げるための、社内環境をSlack上に構築

工藤 実際に生成AIを浸透させていくにあたって、例えばエンジニアであれば、新しいツールをまずは使ってみる文化があると思います。ですが、LIFULLさんの中には営業やCS、オペレーターなど、様々な職種の方がいらっしゃいますよね。

そうした、いわゆる非エンジニアの方に向けては、何か活用のための後押しをされたのでしょうか?

廣瀬 大前提として、まずはツールとして生成AIが業務において使いやすい状態にあることが必要だと考えました。加えて、業務で使うとなると、特に情報セキュリティの観点で心理的ハードルが非常に高いと思っていて。例えば、WebのChatGPTをいきなり業務で使うことはなかなか躊躇してしまうじゃないですか。

そこで用意したのが、「keelai(キールエーアイ)」という、いわゆる社内用のチャットボットです。弊社はコミュニケーションツールにSlackを使っているのですが、その中に入っていて、会話をするような形で応答してくれるようになっています。

▼実際に「keelai」を活用している様子

生成AI活用で20,000時間を創出!LIFULL全社プロジェクトの全貌【SELECK miniLIVEレポート】 .003廣瀬 社内という閉ざされた空間で動いているAIなので、社外に公開されていない情報においても、もちろん全てではないですが、ある程度入力して業務に活かすことができます。このようなツールの整備は、大前提としてやってきましたね。

工藤 たしかにSlackの中で使えれば使用のハードルが低くなりますし、情報セキュリティの観点からも安心ですね。とはいえ、仕事の中で使い続ける、となるとなかなか難しい部分もありそうです。

廣瀬 そうですね、まずは「1回使う」ことをすごく重視しているので、社内向けの活用セミナーなどを実施しています。そして、1回使ったけれど使い勝手が悪くてそれから使っていない、という「離脱組」に対してのサポートとしては、いかに業務に連動した使い方を提示できるかを重視しています。

具体的には、全社的なプロジェクトメンバー6名に加えて、各部門ごとに生成AIの担当者を任命しています。その部署の人であれば具体的な業務や困り事を把握しているので、その人から具体的なレクチャーをすることで、うまく使えていないケースを体制面でカバーできるようにしています。

工藤 横断型のチーム以外に、各部門ごとに現場の業務にも詳しい推進者がいると。なるほど。AIと言えど、やはり人と人のコミュニケーションで成り立っているんですね。

廣瀬  そうですね。実は社内アンケートを見ても、「1回は使ってみました」という方は9割5分以上なのですが、そこから実際に業務効率化につながっている・使い続けている方となると、2割減って7割くらいになってしまう状態です。

その2割の方々が生成AIを使い続けられるように、ゴリゴリと草の根活動をしていますね。

社内のユニークなAI活用事例を、表彰制度を通じて共有していく

工藤 そういった推進活動を続けていると、逆に生成AIを自発的に活用する方もどんどん出てくるのではないかと思いました。どんな使い方がありますか?

廣瀬 出てきますね!具体的な使い方で一番多いのは、やはりメールなどの文章のたたきを作るようなことと、調査系です。生成AIを使っている人の5〜6割は、検索、調査、データや情報の整理といった用途ですね。

同社プレスリリースより、生成AIの活用シーンアンケートの結果

生成AI活用で20,000時間を創出!LIFULL全社プロジェクトの全貌【SELECK miniLIVEレポート】 .002廣瀬 他にも、今「Generative AI Award」、通称「GAIA(ガイア)」という表彰を毎月行っており、社内の面白いAI活用事例はそこで取り上げています。例えば、社内向けの告知をテキストから生成AIで作った漫画に変えたら、アクセス数が3.5倍に増えた、といった話がありました。

工藤 社内向けの情報は氾濫しがちですし、なかなかうまく伝わらなかったりしますよね。それを漫画で、しかも手で描くのではなく生成AIを使うことで軽量化しつつ伝わりやすくするというのは、すごく良いアイデアですね。

廣瀬 「わあすごい、こんなことできるんだ!」みたいな「アイデアもの」は、フックとして表彰で取り上げるようにしていますね。そこから、うちの部門でもやってみよう、という形で横展開していくことも多いです。

工藤 しかし改めて、半年で20,000時間の創出となると、一般的な業務時間で考えたら100人月分以上ですよね。その創出された時間は、どんなことに使われているんでしょうか?

廣瀬 社内にもさまざまな職種があるので、一概には言えないのですが…。ただ一例として、当社の中では「コア業務」という形で、自分や組織の成果につながる業務をそれぞれ設定しているのですが、その「労働時間に対するコア業務の割合」がこの半年間で6%増えたんです。

また成果としても、目標達成ができている組織が15%増えたという連動もありました。ここは確実に、生み出せた時間をより成果につながることに投下する、という転換ができているのかなと見ています。

工藤 生成AIを活用することで自分の仕事がなくなっていくというよりは、次の成果に向けてプラスアルファで生み出せているんですね。

トップメッセージ × 推進者の熱量が必要。AI活用を文化にしていく

工藤 自分の所属している組織やチームに、生成AIのような新しいものを浸透させるミッションを担っている方に向けて、廣瀬さんからひと言アドバイスをいただけないでしょうか?

廣瀬 私もそうだったのですが、まずはその新しいものを自分自身で「使ってみる」ことが第一かと思います。それを使うことで何が良くなるのか、自分の中でしっかり認識しておくことが必要かなと。

例えば、私は日々の業務でGoogleスプレッドシートを使うことが多いのですが、エンジニアではないので、GAS(※Google App Script。Googleが提供する各種サービスの自動化/連携を行うための開発ツール)は全く使えなかったんですね。

でも生成AIに、「こういう動作をするスクリプトを書いて欲しい」とプロンプトにして依頼を出すと、コピーするだけでそのまま使えるGASのスクリプトを作ってくれて。それを貼り付けるだけで業務効率が一気に上がり、「お、これいけるじゃん」という形で一気にイメージが湧いたんですよ。

工藤 経験が大事なんですね。その熱量を、社内の人たちにはどう伝えていくのが良いでしょうか?

廣瀬 そこはやはり、トップメッセージが大事ですね。実際にLIFULLでも、最初は経営者から「社内で生成AIを使うぞ」というメッセージを出すところからスタートしました。やはりトップダウンだと、受け手側の意識が全然変わるので、重要だと思います。

工藤 最初に廣瀬さんがこのプロジェクトにジョインしたのも、「上から落ちてきたから」という笑い話がありましたね。やはりトップの堅い意思と、実際に推進する人のマインドと、両輪の施策が必要ということですね。

廣瀬 まさにそうだと思います。トップダウンの指示だけがあっても、それに対してフォローやサポートがなければ、言われただけで終わってしまうので。

「具体的にこう使ってみましょう」「こういうツール作ったので使ってみましょう」といった形で、困りごとに迅速に対応していくことで、自然にどんどん使ってくれるようになるんですよね。実際にLIFULLでも、プロジェクトが始まって2ヶ月ほどでアンケートを実施したところ、すでに3割ぐらいの方が「AIを使って業務効率化ができている」という回答でした。

工藤 そういったアンケート結果が可視化されて全社に展開されると、良い影響が出て好循環が生まれそうです。

廣瀬 まさにそこは「ドミノ倒し」と言いますか、実際に生成AIを使える人が出てきたことで、自然にどんどん広まっていきました。

工藤 最後に、有志プロジェクトもしくは廣瀬さんの、ネクストチャレンジについて教えていただければと思います。

廣瀬 ありがとうございます。やはりプロジェクトのゴールとしては、社員一人ひとりが生成AIを当たり前のように使って、業務を効率化することを文化として定着させることです。

keelaiの利用ユーザー数を見ると、現状はまだ月の半分くらいしか使われていないイメージなんです。この割合をもっともっと高めて、業務パートナーとして常にkeelaiがいるような世界観を作っていきたいですね。そのくらいまでいければ、極論、AI活用がその人個人のポータブルスキルにもなると思うので。

工藤 現状のアクティブ率5割も、結構高い方だなと思いますが、さらなる習慣化にチャレンジしていかれるのですね。

廣瀬 そうですね。やはり、100があるなら100を目指せという気持ちです。

工藤 素晴らしい目標ですね。個人的にも廣瀬さんを応援します。本日はありがとうございました。(了)

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