- 株式会社伊藤久右衛門
- WEB営業部 マーケティング課
- 松井 涼
ライブコマースは「全く新しい顧客接点」自社のファンを作る、メルカリチャンネル活用法
〜ECは「買い物」・ライブコマースは「ウィンドウショッピング」? 「メルカリチャンネル」を活用して自社のファンを広げる、京都宇治の老舗お茶屋の挑戦とは〜
海外を中心に急拡大を続け、個人で数億円を売り上げるインフルエンサーも出現しているライブコマース市場。
ライブコマースとは、動画をライブ配信しながら視聴者とコミュケーションを取り、商品をその場で売買するという仕組みだ。
そんな中、個人向けフリマアプリ「メルカリ」では、サービス内のライブコマース機能「メルカリチャンネル」を法人にも開放。
サービス開始日の2017年12月1日には11社が参入を果たしたが、そのうちの1社が、江戸時代の天保3年に創業した老舗お茶屋、伊藤久右衛門だ。
伊藤久右衛門は、京都宇治に店舗を構え、宇治茶や抹茶スイーツの販売を展開。2001年には業界に先駆けてECにも参入し、各種SNSの運用をアクティブに行うなど、伝統だけに囚われない様々な挑戦を行ってきた。
同社のマーケティング課の松井 涼さんは、メルカリチャンネルへの参入によって「これまでには全くなかったお客様との接点を獲得できた」と話す。
今回は松井さんと同じく、マーケティング課でライブ配信にも参加する湯川 晃成さんに、メルカリチャンネルの活用法とその手応えについてお話を聞いた。
▼伊藤久右衛門 JR宇治駅前店
「ただWeb上でお茶やスイーツを売るだけ」ではダメな時代
松井 私は新卒で入社して、今年で4年目になります。最初は受注を担当していて、電話でお客様に対応したり、インターネットからの注文を処理してメールを送ったり、といった業務をしていました。
2017年の9月にWeb営業部の中にあるマーケティング課に異動し、現在はメルカリと、いくつかのECモールを担当しています。
社員は全体で100名ほどになりますが、マーケティング課は4名です。主に自社サイトやECモールをそれぞれ担当しつつ、デザインやメディアの担当者と連携しながら業務を進めています。
▼【左】湯川さん 【右】松井さん
湯川 私は中途でマーケティング課に入りまして、ECモールを担当しつつ、今は新しい企画にもどんどん関わっています。メルカリチャンネルにも、出演を始めました。
ECという分野自体はこれからまだまだ伸びていくと思うのですが、「ただWeb上でお茶やスイーツを売ります」というだけではダメな時代になっていくと考えていて。
よく言われているように、これからは「ストーリー」が必要になってきます。「この商品を通じて誰にどう喜んでもらえるのか」というところまで企業側が追求して、発信していかなければならないと思っていますね。
こうした流れの中で、弊社でも新しい取り組みを始めています。例えば月1回ベースで、マーケティング課の中で案を持ち寄って、新しいサービスや商品の開発につなげていこうとしています。
メルカリチャンネルへの参入もそうですが、こうした新しい挑戦も同時並行でどんどん進めていますね。
まるで「店舗での接客」!?お客様との距離が近いライブコマース
松井 伊藤久右衛門は創業180年の老舗のお茶屋なのですが、元々はずっとお茶の葉を販売していました。
しかしそこから、「今の時代にお客様に喜んでいただけるもの」を考えた結果、スイーツの展開を広げてきました。今ではスイーツが、売上のメインを占めるほどに成長しています。
他にも抹茶カレー、抹茶蕎麦、梅酒などなど…現在では、様々な商品を取り扱っています。「お茶は絶対に急須で入れる」といった昔のやり方に固執することなく、伝統というプライドは持ちながら、新しい挑戦を探求してきた企業だと感じていますね。
そうした流れから、もともと業界に先駆けて自社サイトでの商品販売を行ったり、WebプロモーションやSNS運用を強化するなど、マーケティング施策を広げてきました。
メルカリチャンネルに関しては2017年の12月頃に、初めて法人向けのチャンネルができるということで、最初の11社のうちの1社としてお声がけをいただきました。
これは個人的な予想ですが、「伊藤久右衛門は新しい施策には喜んでチャレンジするだろう」という印象を持ってもらっていたんじゃないですかね(笑)。
東京まで話を聞きに行ったのですが、即決で「やります」という返事をして。
そして、当時私が取材などを受け始めていたこともあって、「話慣れているだろうからライブ配信の担当をやったら」と、すごく軽い感じで抜擢されまして(笑)。
最初はメルカリさんに場所を用意していただいて、初回は2017年12月に配信しました。
2時間で3商品を紹介したのですが、意外と「あっという間」でしたね。リアルタイムでコメントがどんどん来るので、それを読みながら商品を食べて紹介して…と、なかなか忙しかったです。
メルカリの担当者の方からは「ライブ感を大事にしたほうが面白い」と言われていたので、その場で視聴者の方とコミュニケーションを取りながら値引きをしていったりしましたね。
配信してみて、実際、すごく面白かったです。「今見ている人がコメントしていて、それに答えている」という感覚が、Webというより店舗での接客に近いんですね。
お客様との距離感が近いツールだということは、最初にすごく感じました。
初期投資「ゼロ」ですぐに始められるのがライブコマースの良さ
松井 これまで15回ほど配信したのですが、最初はメルカリ側と自社の受注システムの繋ぎこみが難しくて、少し配信期間が空いてしまったこともありました。
最近は湯川も入ってきたので、もっとコンテンツを増やして、定期的に配信していきたいというところです。
配信内容も少しずつ工夫していて、よりライブ感を出せるような取り組みを始めています。
例えば値下げに関しても、ホワイトボードを画面上で見えるよう置いておき、視聴者さんからもらった「ハート」の数が1万を超えたらこの商品を1,000円オフにしますよ、と告知したり。
湯川 先日は、弊社の抹茶カレーと抹茶蕎麦を使って「抹茶カレー蕎麦を作る」という、レシピ紹介的な配信もしました。
▼実際の配信の様子
そういったコンテンツですと、ただ商品を紹介するよりこちらも楽しいし、「それ何ですか?」みたいな感じでコメントも活気づいていましたね。
また、お客様だけではなくて、社内でも面白がってくれる人がいて。定期的に見てくれている人もいますし、ある意味、社内コミュニケーションのきっかけになるというか。社内全体として盛り上げていくためにも良いのかな、という感触があります。
また、動画を配信しようとすると、例えばYouTubeだとクオリティを求められるし、編集のスキルもいりますよね。その中で、やっぱりゼロから始められるというのがライブコマースのひとつ良いところかなと。
パッと配信して、いきなり100人集めるのって大変じゃないですか。でもメルカリだったら、200人、300人と集めることができるので、その点も良いのかなと思います。
視聴者は買い物ではなく、「ウィンドウショッピング」に来ている
松井 今は目標として、売上よりも「ファンづくり」を重視して配信しています。ファン、つまり視聴者数を増やしていきたいですね。
と言うのも、メルカリチャンネルは「ライブ」ということで、コンテンツとして他のツールとは異質なんです。
視聴者の人は、生活の中で一息ついたタイミングで見ているような印象があって。例えば主婦の方が家事を一通り終えてほっとしている時だったり、学生の方が学校が終わった時だったり。
基本的に、ECサイトに行く時って買い物をしたい時じゃないですか。でもメルカリチャンネルの場合は、ふらっと街に繰り出すというか、ウィンドウショッピング的な感覚で来ているのかなと。
それで値段が手頃で良いものがあれば、さくっと買ってくれる。これは、これまでには全くなかったお客様との接点なんですね。
また、視聴者層が10代と主婦の方が中心なので、弊社のメイン層とまた違っていて。そうであれば、そういった層に対して弊社の商品をもっと知ってもらえる機会にしたいなと。
最終的に気に入った方には購入していただけると思うのですが、まずはファンづくりに注力していくのがいいのかなと。
実際、割と何度も配信に来てくださる方もいて。「また来ましたよ」「また買いました」とコメントをもらったり、「松井さーん」と呼びかけてくれたりする人もいます。1回見て気に入ったら、そこからは結構がっつり見てくれるのかな、という感覚ですね。
また、配信を見てくれた人が、実際に宇治の店舗に来てくださったり、店舗に電話をくださったり、ということもあります。こうして、メルカリチャンネルをきっかけにしてファンを作っていくことができるという可能性を感じていますね。
私自身もマーケティング課に異動になってから、お客様と直接やりとりする立場ではなくなってしまったので、改めてこうしたお客様に近い場所に戻ってくると、感じることが全然違うなぁと思います。
お客様と近くで接していると、リアルな声を生で聞けて、「ありがとう」と直接言ってもらえる。そうすると、自分ももっと頑張ろうという気持ちになりますね。
お客様により良い体験を届けるために、挑戦を続けていく
松井 最近では、Webと店舗の垣根もどんどんなくなってきています。
その中で今後は、もっと根本的な商品のところから見直していきたいなと。「この商品を売ります」というだけではなくて、先にお客様を見て「この人にどうアプローチするか」ということから商品を考えていきたいです。
これは、考えている分にはすごく楽しいのですが、形にしていくのはとても大変です。
ですが、その商品が最終的にお客様に届いて喜んでもらえたとしたら、それは自分にとっても大きなモチベーションにつながると思うので、ぜひ挑戦したいですね。
湯川 僕は、個人的にはコンテンツメーカーになっていきたいですね。既存の商品を活かしながら、そこに付加価値や、選ばれる理由を乗せたサービスを作って、発信をしていく。
例えば、弊社の抹茶スイーツが毎月「ギフト」として届くようなサブスクリプション型のサービスなども良いのではないかと思っています。他業種とのコラボレーションもやっていきたいですね。
もともとはお茶を販売していた宇治のお茶屋が、お客様のニーズに合わせてスイーツを展開するようになった。今は、そのスイーツの「次」が必要だと思っています。
ライブコマースもその一環ですね。お客様にいかに良い体験をしてもらうかということを考えて、今後も商品・サービスを作っていきたいです。(了)