- 日清食品ホールディングス株式会社
- 宣伝部 係長
- 東 鶴千代
Webから届け、お茶の間へ!再生回数3,000万超・日清食品の動画プロモーションの狙い
〜YouTube公式チャンネルの再生回数は、累計3,000万回超え!次々にユニークな動画を生み出し続ける日清食品、その戦略の裏側に迫る〜
1958年、世界初のインスタントラーメンである「チキンラーメン」を世に送り出した日清食品株式会社。
老舗企業として時代の先端を走ってきた同社は、ここ数年、「動画」を使ったプロモーションによってWeb界隈をにぎわせている。
例えば、今年6月にYouTube上で公開されたチキンラーメン「しろたま警察24時」は、その再生回数が50万回を突破。
他にも日清焼そばU.F.O.、日清のどん兵衛といった各ブランドが、それぞれにWebならではの動画を制作し、互いにしのぎを削っている状態だ。
▼同社のYouTube公式チャンネル
しかし実は、同社がこのようなWeb動画を制作する真の狙いは、動画自体がWeb上で話題になることではないそうだ。話題が拡散した結果、最終的にテレビなどのマスメディアに露出することで、「お茶の間」へのリーチを狙っているのだ。
今回は同社の宣伝部で、Webプロモーションに携わる東 鶴千代(ひがし つるちよ)さんに、日清食品流の動画の生み出し方、そして戦略までを、詳しくお伺いした。
Webだけで終わらせない!バズ動画の狙いは、お茶の間へのリーチ
日清食品では2015年ごろから、コミュニケーション施策のひとつとしてWeb動画に力を入れています。
おかげさまで、Web上で話題になる機会も増えましたが、最終的なゴールは、Web上ではなく「お茶の間」へのリーチです。
メディアでの話題化には、段階があると思っています。第一段階が、TwitterやFacebook等のソーシャルメディア、第二段階がまとめ系サイトやキュレーションメディア、第三段階がテレビなどの4大マスメディア、という形です。
ソーシャルメディアでリーチできるのは、やはり若者世代が中心になります。ですがテレビまでいくと「お茶の間」、つまり弊社のブランドにとっての購買層により多く接触できると考えています。
Web動画が反響を得ると、それが最終的にテレビのニュースやワイドショーなどで取り上げられるので、より多くの人にアプローチすることができます。
例えば、チキンラーメン「しろたま安全ビデオ」は、誰もが一度は見たことがある、飛行機内の「機内安全ビデオ」のパロディ動画です。
もともとの制作意図は、チキンラーメンにたまごをのせて食べる際、テレビCMやパッケージのように白身が綺麗な「しろたま」を作る方法を伝えるということでした。
しかし、そのまま作り方ビデオを制作しても面白くありませんので、飛行機内の「機内安全ビデオ」をモチーフにしました。すると、誰が見てもわかりやすくて楽しい、そして他の人にも教えたくなるような動画に仕上がりました。
動画の面白さが話題となれば、それがWebメディア以外にも広がっていくので、より幅広い層に認知をしてもらうことができます。
SNSやWebプロモーション運用の「試行錯誤」からの脱却
私自身はもともと営業部門の出身で、入社4年目の時に宣伝部へ異動しました。そこでテレビCMの制作を中心とした業務に約6年間携わった後、マーケティング部でブランドマネージャーを経験し、今から約2年前に、宣伝部へ戻ってきました。
日清食品には、新しいことに率先して取り組んでいこうという社風があります。しかし、Webやソーシャルメディアなど、デジタル領域でのコミュニケーションに関しては、ほんの数年前まで試行錯誤を繰り返している状態でした。
2015年に「10分どん兵衛」の企画が大きく話題になったあたりから、少しずつ成功事例が増え始めましたね。動画が反響を得るようになったのは、ここ1、2年くらいの話なんです。
現在、ソーシャルアカウントでの投稿やWeb動画への反応については、FacebookやTwitter上での発言回数や、動画再生回数などの数値を追っています。
それに加えて、あらかじめ設定した「チェックポイント」をいくつクリアしたのかということも、指標として見ています。
単なる「面白企画」で終わらせない!チーム内での共通認識を醸成
こうした宣伝活動を担う宣伝部は、チキンラーメンや日清焼そばU.F.O.といったブランド別に、縦軸のライン編成になっています。
現在、ブランドプロモーションを担当しているのは11人です。決して多い人数ではありませんが、日常的に「あの企画良かったね」「今回は反響がすごいね」といった、横軸のコミュニケーションや情報共有がしやすい環境とも言えます。
動画コンテンツを制作する際には、まず商品の「何を」「どういった目的で」伝えたいのかを決めます。
それをベースに、広告会社さんからもアイデアをいただきながら企画をまとめていくのですが、広告会社さんからの提案をそのまま受け入れることは基本的にありませんね。
お互いに議論を交わすことによって、より良いもの、話題になるものを一緒に作り上げていきます。
また、宣伝部は社長とも定期的なミーティングを行っています。コミュニケーションやプロモーションに関する企画内容すべてについて、そのミーティングの場で判断されていきます。
社長からダイレクトな意見もたくさん出るので、このミーティングの場で担当者の腕も磨かれていきます(笑)。
特にデジタル領域でのコミュニケーションに関しては、それが単なる「面白企画」で終わらないよう、コンテンツの共通認識を持つ場としても機能しています。
やはり、デジタルの世界は常に新しい話題が生まれてくるので、話題の収束も早いです。普通に社内稟議を上げていたら、時流に乗り遅れてしまいます。週に1回の定例会議を開いていても、追いつかないことがあるくらいです。
テーマはブラさない。ブランドの商品特性を生かした動画制作
企画内容に関しては、ブランド別に年間の「テーマ」があるので、それだけはブラさないよう常に意識しています。
具体的に言うと、今年、日清焼そばU.F.O.は「エクストリーム」がブランドのテーマになっています。
日清焼そばU.F.O.のソースは、本当に濃厚なんです。ブランドイメージも、カップ焼そばの中でも振り切った「極端さ」「究極さ」があると考えています。
そこで、あらゆる企画を中途半端ではなく振り切る、ということを意識した「エクストリーム」というキャッチコピーをベースにプロモーションを実施しました。
例えば、「『6月24日はUFOの日』 未確認藤岡物体襲来」という、藤岡 弘、さんを起用した目撃ドキュメント動画を制作しました。
世界で始めてUFOが確認された日(6月24日)に、日本では「Unidentified Fujioka Object(未確認藤岡物体)」が、日本各地に発生するというストーリーです。
こちらは、事前に目撃情報の動画を拡散させておき、最終的には6月24日に首都圏内のUFOキャッチャーに、未確認藤岡物体が大量発生したというイベントを仕掛けました。そして「みんなで捕獲しよう!」とブランドサイトやTwitterで呼びかけを行いました。
日清焼そばU.F.O.らしい振り切った企画となり、この動画はYouTube再生回数130万回以上の大きな反響をいただきました。
面白いだけでは足りない。共感には「着火」と「余白」が必要
しかし、ただ面白いコンテンツを制作しただけでは、共感してもらうことができません。Webで共感してもらい、より広いメディアにつながっていくためにはどうしたらいいのかを、日々考えています。
最近は、動画プロモーションの話で取材を受ける機会も増えましたが、正直、確立されたノウハウは特にないんです。
多くの失敗体験と、成功体験の積み重ねで今があると思っています。「うわ、これやっちまったな」という失敗も、実はたくさんあります(笑)。
その中での経験則ですが、コンテンツを「どこに置くか」という導線設計と、どうやったら世の中に出て、広がっていくのかという文脈作りが大事だと感じています。
ターゲット層に合わせて、適切な導線上にコンテンツを置いていくことには気を付けていますね。例えば動画の場合、YouTubeで再生回数を伸ばすことを目指すのか、Twitterのリツイートを目指すのか。それはターゲットによって変わってきます。
また、コンテンツを作っても、なかなか自然に広まっていくということはありません。
やはり「発信する」だけでなく、多少なりとも広告等でリフトアップしたり、興味を持っているであろう人たちのところに届けることも大事ですね。「発信」だけでなく「着火」するイメージです。
更に、コンテンツの内容には若干の「余白」を残しておくことも重要です。
例えばTwitterの投稿文でも、伝えるべきことを全部ネタバレ的に言ってしまうと、そこで終了というか。ユーザーも書き込みやコメントがしづらく、「その先」が生まれません。
ある程度、想像の余地とツッコミの余地があったほうが、みなさんに楽しんでもらえて、より反応もされやすいと考えています。
今後は「本当の自然拡散」を目指してファンを増やしていく
今後は、SNSやWeb動画を活用することでもっとブランドのファンを増やし、「完全な自然拡散」が実現できたらいいですね。それこそ「着火」もなしです(笑)。
ありがたいことに、各ブランドの公式SNSのフォロワー数は、順調に増えていっています。例えばカップヌードルのFacebookフォロワー数は約28万人、Twitterは約4万人です。
現在は、特にプレゼント企画などの、積極的にフォロワーを増やす施策は行っていないのですが、それでもフォロワー数が増えているのは、やはり「次も何か面白いネタが来るはず」という期待感を持っていただけているからだと思います。
チキンラーメンも「しろたま動画」を公開したタイミングでフォロワー数が増えているので、やはり継続的に情報や話題を発信をし続けていくことが大事だと思います。
これからも、「最終的にお茶の間まで」届けることを目指して、新しい企画を考えていきたいですね。(了)
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