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  • 荒井 勇気

「パ・リーグ」運営の裏側!プロ野球ファンを増やす、6球団のマーケティング戦略とは

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〜敢えて野球から「ずらした」ユニーク動画制作にもトライ!プロ野球の盛り上げを支える、パ・リーグのマーケティング戦略をご紹介〜

日本のプロスポーツの目玉、プロ野球。その一角を成すのが、あのメジャーリーガー「イチロー」を輩出し、今、最も注目を集めるプレーヤー「大谷 翔平」も在籍するパシフィック・リーグ、通称パ・リーグだ。

同リーグが新しいファンを獲得すべく、そのマーケティング活動を担う役割として設立されたのが、パシフィックリーグマーケティング株式会社である。

同社の調査によると、既存ファンのリピート増によって、公式戦の来場者数は増え続けているそうだ。

しかしその一方で、野球への関心が低い層や、「球場に来て観戦するほどではない」ファンの獲得が、大きなテーマになっているという。

今回は同社でマーケティング室 室長を務める荒井 勇気さんに、パ・リーグファン市場に対する考察や、新規ファン獲得のための施策について、お話を伺った。

パ・リーグ6球団で設立。マーケティング活動を束ねる役割を担う

弊社は2007年に設立され、プロ野球パシフィック・リーグ6球団共同で実施するマーケティング活動を担っています。

具体的には、リーグ公式ライブ中継サービス「パ・リーグTV」や球団ホームページの運営、またクライマックスシリーズ(※)のスポンサー営業などを行っています。

※ペナントレース上位3球団で実施されるプレーオフのこと

▼試合の速報・ライブ中継サービス「パ・リーグTV」

もともとは、各球団がそれぞれ独自にマーケティング活動を行っていました。でも「一緒にやれば、売上増にもなるしコストカットにもなるよね」ということで、設立されたのが弊社です。

組織構成としては、各球団の重役が取締役として在籍しており、日々、実務を行う社員が8名いるという形です。

採用や多額の金額が動く取引など、経営に関わる話は月1の取締役会で決定されます。そして、企画、マーケティング、営業といった現場寄りな話については、弊社の担当者に加え、各球団からそれぞれの責任者が弊社に集まり、部会という形で議論されています。

▼ライブ中継を配信するスタジオの様子。

セ・パ交流戦の期間中は、配信する試合数が増えるため、モニターも増設される。(写真左側)

ファンは全国で約1,850万人。「コア度」別に4階層に分かれる

弊社はミッションとして「プロ野球の新しいファンを増やすこと。」を掲げています。

パ・リーグのファンは2006年時点で約1,200万人、そして2016年時点では約1,850万いると言われており、この母数を増やしていくことが僕たちの役割ですね。

その「ファン」を細分化していくと、球場への来場者が年間のべ約1,100万人おり、そのユニークユーザー数は約500万人だと推定されています。

更にコアなファンとして、各球団のファンクラブに所属しているの人数が数十万人、そしてパ・リーグTVの有料会員が約7万人弱、という市場感です。

▼パ・リーグファンの市場感(図は編集部が作成)

日本ではデジタルコンテンツに有料課金するハードルはまだまだ高いので、パ・リーグTVに毎月お金を払って見て下さっている方々は、相当な野球好きだと思いますし、本当にありがたいですね。

そして、僕たちが日々追っている指標は主に2つあります。1つ目は、弊社の収益源であるパ・リーグTVの有料会員を伸ばしていくことです。

その施策として、メインになるのは、やはり各球団が持っている媒体です。各球団のホームページやファンクラブの会報誌、球場内でのビジョンCM、看板だったりですね。

また、わかりやすい効果が出るのが独自のキャンペーンです。毎年、3月のリーグ開幕にあわせて、「開幕3連戦限定」といった形で、無料視聴キャンペーンを行っています。

今年だと5月末までに加入すれば、交流戦のオリジナルポスターが当たったり、パ・リーグTVで好きな動画を作ってもらえる権利をプレゼントする企画も実施しました。

▼会員獲得のために、新規入会キャンペーンを実施

関心の低い層へもアプローチ。無料コンテンツの再生回数がKPI

そして、僕たちが追っている2つ目の指標は、パ・リーグTVや球団ファンクラブの有料会員ではない層のファンに、いかに興味を持ってもらうか? という部分です。

ターゲットとなる人物像としては「パ・リーグに興味はあるけれど、球場には行ったことがない」「人に誘われて年に1、2回程度なら行く」という人たちや、「全く興味がない、そもそもスポーツに興味がない」といった方ですね。

というのも、球場への来場者数は年105%ペースで伸びているのですが、既存ファンの来場回数が増えていることが、その主な理由なんです。

濃いファンがどんどん増えていることは、とても嬉しいことなのです。しかし加えて、いかに新規の来場者を増やしていくかということも、僕たちの大きなミッションです。

具体的な施策としては、SNSなどを通して、試合のハイライト映像などの短い動画コンテンツを無料配信しており、この視聴回数も重要な指標として捉えています。

例えば「ホームランのシーンだけ見れたらいいよね」とか、「野球に興味はないけれど、自分が好きな芸能人の始球式だけ見れたらいいよね」というようなニーズがあります。

▼始球式の動画を集めた「今日は誰が来た??始球式まとめ!!」のコーナー

「野球中継にお金を払うまでではないけれど、一部だけ見たい」という人たちはたくさんいるんですね。

この層に対して、いかにアプローチしていくか? という点が、僕たちの大きなテーマです。

アメリカを参考に!サヨナラ「カップイン」の動画が反響を呼ぶ

そういった野球への関心が低い層に対するマーケティング施策を考える上で、参考にしているのがアメリカのスポーツマーケティングの事例です。

例えば、試合のハイライト映像に、テレビゲームの効果音を加工した動画が、結構、若者に受けていたりするんです。

サッカーで良いパスが通った映像に、マリオがコインを獲得した時に鳴る「チャリーン」という音を出してみたりする、というイメージですね。

スポーツに関心がなくても、ゲームをやったことがある人はたくさんいますよね。そこでゲームをフックに新しい層にアプローチする、という工夫がなされているんです。

パ・リーグTVでも、そうした取り組みを少しずつ始めています。最近反響があったのが、6月7日に配信した、「サヨナラ『カップイン』...?」というタイトルの12秒の動画です。

▼ボテボテの打球がカップインするCG動画

実際の動画はコチラ

ソフトバンクホークスの柳田選手が、3塁線に転がる珍しいゴロのサヨナラヒットを打ったんです。その打球がゴルフボールのようにカップインするというCG動画を配信しました。

MLB(メジャーリーグ)がCGを使ってやっているのを見ていて、ずっと前からうちでもやりたいと思っていたんです。そうしたら動画の編集者から「こんなん作っちゃいました」って言われて(笑)。

「やめてくれよ、パ・リーグTV、電車の中で笑っちまったじゃん」みたいなコメントをいただいたり、とても反響がありましたね。

これを見ていただくことで、すぐに球場へ行くかというと、なかなかそうはならないとは思います。でも、野球に関心のない人たちに、まずは少しでも知ってもらうことから始めたいという思いから、こういった取り組みを始めました。

先日、球団との会議でも話したのですが、特定の選手を陥れたりすることは、絶対にやらないという前提は持った上で、楽しみ方のひとつとして、こういった企画を継続したいですね。

20時54分〜視聴数が急上昇!視聴データの活用もスタート

また、これまではあまりできていなかったデータ活用についても、今年から力を入れ始めています。

データを見ていると、すごく面白い気づきがあって、例えば、ナイターのライブを配信している時って、20時54分位になると、各放送エリアの視聴数がぱーんて増えるんですよ。

「あ、ローカルのテレビ中継が終わったんだな」ということがわかりますよね(笑)。

であれば、例えば北海道で、「パ・リーグTVなら、ヒーローインタビューまで見れますよ」っていうプロモーションが刺さるかもしれない...といった形で、施策を検討できます。

また、有料会員ではない層のデータ分析も進めたいと思っています。無料で配信しているハイライト動画などのコンテンツを見ている人を、有料会員に転換させていくためです。

現在、DMP(※)も活用しながら、「どういう人たちが、どういうふうに見ているのか」というデータを集めています。今後、こういったデータを何かしらの施策に活かしていきたいという段階です。

※データマネジメントプラットフォーム。大量のデータを管理し、活用するためのプラットフォーム。ユーザー特性に合わせたマーケティング活動などに使われる。

様々な野球の楽しみ方を届けたい。そして、球場に来てもらいたい

こうやって野球ファンを増やすために、日々、様々なことに取り組んでいる訳ですが、やっぱり「球場に来てみてほしい」という思いが一番強いですね。

スポーツって色んな楽しみ方があっていいと思っていて、球場に来たら「試合をずっと見る」というだけじゃなくていいと思うんです。

例えば、「球場にお酒を飲みに行きましょう」でもいいですし、「デートで行きましょう」もいいですし。「応援を聞いてるだけで楽しい」とか「チアやマスコットがかわいい」とか、何でもいいんです。

このように、何かしらのきっかけから、球場に来てもらうことができれば、それ以上に嬉しいことはないですね。

そういう意味では、6球団で話し合いながら、何かしら皆さんに関心を持っていただくきっかけを作ることが、僕たちの使命だと思っています。

まだまだできることはたくさんあると思うので、パ・リーグ6球団と連携を取りつつ、多くの人に野球を好きになってもらえるよう、今後も挑戦していきたいと思います。(了)

<関連のご参考記事>

①ヤクルトはいかにファンの声を拾い上げるのか?NPSを活かしたファンクラブ運営術(株式会社ヤクルト球団)

②「DAZN(ダ・ゾーン)」運営の裏側。スポーツライブを演出する、そのマーケ戦略とは(Perform Investment Japan 株式会社)

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