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多くの企業は「コミュ障状態」にある? 「自画自賛」から脱却する、新しい採用広報

〜キャリア選択は「投資」と同じ。4つの主体別に発信をデザインし、アセットを貯めることで「自画自賛マラソン」から脱却する、採用ブランド設計の手法〜

近年、ベンチャー界隈で一種のバズを起こしている「採用広報」。コーポレートブログや社員のSNSなどを通じて、自社の発信力を高めることに注力している企業も多いのではないだろうか。

株式会社ワンキャリアでPR Directorを務めている寺口 浩大さんは、その「採用広報」の在り方を、候補者に対するコーポレートコミュニケーションとして捉えることが大切だと話す。

そこで必要な視点が「発信の主語を散らす」ということだ。具体的には、We(企業)・I(社員)・It(第三者機関)・He/She(社外の人々)という4つの主語からの発信を、それぞれ増やすための工夫をしているという。

たとえば、ソーシャルムーブメントを起こして「I」からの発信を増やしたり、認知と体験のポジティブな期待値ギャップを生むことで「He/She」からの発信を増やすことに成功している。

今回は寺口さんに、これからの採用で考えるべき「4つの主語」と、それぞれの主体からの発信をどうデザインするかについて、実例をふまえて詳しくお伺いした。

「時間の投資家」に対する、コーポレートコミュニケーションの在り方

僕は現在、ワンキャリアでPR Directorを務めています。弊社が運営しているサービスの特性上、人事の方々との関わりが多いので、採用とPublic Relations(以下、PR)について考えることがよくあります。

でも実を言うと、「採用PR」という言葉がどうもしっくりこないんですよね(笑)。いわゆる採用PRとされる活動は、コーポレートコミュニケーションのひとつでしかなく、その対象が「採用候補者」であるだけだと思っています。

僕は新卒で入った金融会社に4年ほど勤めていたのですが、候補者というステークホルダーとのPR活動を、投資家とのそれに置き換えて考えてみるとすごくわかりやすいなと思っていて。

IR(Investor Relations)は「お金の投資家」である株主や投資家との関係づくりを意味しますよね。これと同じで、採用活動は「時間の投資家」である候補者との関係づくりだと思っています。

この「時間の投資」という考え方には、労働市場の変化が影響しています。終身雇用がうまく機能していた時代には、時間を「消費もしくは貯蓄」する対象として企業をみる人が多かったけれど、今では時間を「投資」する対象としてみる人が増えたように思います。

この個人の価値観に変化が起きているのに対し、企業側がこれを認知し意識できているかというと、ほとんどの場合がノーだと思っていて。つまり、コーポレートコミュニケーションの在り方が時代の変化に追いついておらず、ほとんどの法人はいわゆる「コミュ障状態」になっています。

IRであれば、投資家に対して十分な情報を開示し、決算報告でも十分な説明が求められますし、そのための準備を万全にするじゃないですか。一方で、候補者とのコミュニケーションにおける企業側からの情報開示は限定的ですし、飾られた情報になっているケースもよくありますよね。

さらに、IRではアナリストやメディアなどの第三者からの発信をすごく気に掛ける一方で、採用の場面では、自社のクチコミやレーティングをどう形成するか、といったことを考えられていないことも多い。

ですが今、「時間の投資家」に対するコーポレートコミュニケーションの観点から、採用上のコミュニケーションの在り方を根本から考え直すことが、企業で採用に関わる方には必要だと思っています。

「4つの主語」から、なにを・どのように発信するかを考える

これを考える上で、僕は簡易的に「4つの主語」を意識しています。具体的には、発信主体を「内部・外部」「個人・集合体」の2軸でわけて、4象限に整理しています。

まず「We」は企業(法人格)を指します。その企業を自分ごと化し、自社のことを「私たち」という主語で話せるような社員(個人)が「I」です。

これらは企業の「中」にいる主体ですが、一方で、図の右側は企業の「外」にいる主体になります。

その集合体である「It」は、主に外部メディアですね。ただ、求人広告の「見栄え」だけを変えたようなべた褒めの記事広告だと、候補者にとってはWeの発信とほぼ同じです。あくまで、第三者の中立的な情報発信を指しています。

「候補者が聞きづらいけれど聞きたいこと」をきちんと聴くことがメディアの在るべき姿だし、結果として候補者に信頼される。また「OpenWork」や「ONE CAREER」のようなCGMも「It」にあたります。

そして「He/She」は、企業を自分ごと化している「I」以外の人々です。採用文脈においては、入社前の候補者と、退職後のアルムナイがその中心になります。また従業員であっても、会社を他人ごとのように捉えている人も中にはいますよね。その人たちは「I」ではなく「He/She」だと考えます。

ここ数年の「採用広報」という言葉のもとに成されたアクションを振り返ると、各社は自社ブログなどを通じて「We are good company」と言い続けてきたと思うんですよ。また最近では、TwitterなどのSNSが盛んになってきて「My company is good company」という声も増えてきたと。

ただ候補者からすると、どちらも“あっち側”の人たちの「自画自賛」の域を出ないと思っていて。主語が個人になったところで、それは「マイクロ自画自賛」じゃないですか。そこで、4つの主語からどういった内容をどのように発信するかを、ゼロベースでデザインすることが重要だと思っています。

インナーブランディングは「外」からも起こせる

「We」以外の発信を増やすには、まずは自分ごととして自社を発信する「I」を増やす必要があります。いわゆる、インナーブランディングにあたる取り組みです。

たとえばワンキャリアは「データをテクノロジーによって可視化する」をミッションに掲げ、採用マーケットの透明化を推進してきました。2019年には「#ES公開中」を皮切りに、複数のブランドアクション(※)を実施しています。

※同社のソーシャルムーブメントの取り組みは、こちらの記事をぜひご覧ください。

その実体験を通じて学んだのが、インナーブランディングは「外」からも起こせるということです。

実際、ブランドアクションを実行する前に「今回はこういう意図で、このようなキャンペーンをします」という「説明」を社内にしていました。これは、企業のブランドフィロソフィーを伝える、インナーブランディングの代表的な取り組みになります。

ですが、僕はこれだけだと片手落ちだと思っていて。WHYを社内で説明するだけでは、どうしても自分ごとになりづらい。でも、ブランドアクションを社会に当てて、社会から「問われる」状況になると、1人ひとりが「自分の言葉で答える」状況ができていくんです。

具体的には、ブランドアクションを実行したことで、それぞれが家族、友人、顧客などから「なぜこういうことをしているの?」「なぜその会社にいるの?」といったWHYに晒されることが増えました。

その時に、自分はなぜこの組織に属しているのか、自分たちは何を目指しているのかを考える。それを自分の言葉で答えることで、社会と会社、社会と自分がリンクしていることを実感する。すると「組織人としてのメタ認知力」が高まって、主体的にエバンジェリスト化していきます。

実際、今いるメンバーのほとんどはリファラル経由ですが、ノルマの強制やインセンティブの釣り上げのような施策はしていません。やはり本質は、企業理念を自分の言葉で代弁できる「I」をどれだけ増やせるかだと思っています。

He/Sheからの発信は「期待値調整」によってデザインする

次に、「He/She」という第三者からの良質な発信を増やしていくことも重要です。

クチコミサイトの台頭やSNSなどによる個のメディア化を通じて、「He/She」からの声が急速に顕在化した現代社会では、この第三者からの情報が企業選びの参考として大きな意味を持ちます。これは調査結果からも明らかです。

これは、選考時や在職時にどのような体験をしたかによって、ポジティブにもネガティブにもなり得る。ここでネガティブな発信を監視して規制することに力を注ぐよりも、ポジティブな体験をどうデザインするかが大切だと思っています。

そこで鍵となるのが、コミュニケーションの入口と出口における、期待値の調整です。ここで気をつけるべきことは、めちゃくちゃシンプルで。一言でいうと「体験のクオリティが、認知のクオリティを上回るかどうか」なんですね。

具体的には「SAY(予告)→DO(実行)→SAY(報告)」のサイクルを大切にして、その中でもSAYよりDOのクオリティを一段と高めることが肝心です。

よくイベントなど集客のために、実力以上にSAY(予告)してしまったりするじゃないですか。ここで実力以上に期待値を上げてしまうと、当日にネガティブなギャップが生じやすくなります。

今はこれらがクチコミで可視化されてしまうので、告知の際には、過度な背伸びをしたくなるのをぐっと我慢して、提供できないことは言わない。その方が、結果的に信頼が貯まります。

さらに、ポジティブな期待値ギャップを生むためには、当日の体験設計がとても重要です。

弊社でイベントを企画するときは、いつも「おみやげ」について考えます。参加者の体験が損なわれないようなオペレーションもすごく大事ですが、相手が期待しているものは何かを考え、うちだから渡せる「おみやげ」をど真ん中で渡しにいくことが大切です。

たとえば学生向けの2dayインターンでは、事業分析、採用戦略づくりのワークや、弊社北野によるキャリア戦略の講義を行っています。その上で、キャリアを思考するための観点を整理したスライドや、担当社員からの個別フィードバックなどをおみやげとして渡します。

こうした体験価値が認知価値を一定水準を超えると、それが感動体験になる。実際、参加した学生さんが「控えめに言ってワンキャリのインターン行ってまじよかった」みたいな内容をSNSに書き込んでくれて、感動体験のシェアが起こったこともありました。

こうした期待値ギャップを視点にして、どれほどの差分でどれくらいのシェアが起こるのか、自然に発生する「リアルな声」にちゃんと向き合う。これが「He/She」からの発信をデザインしていく第一歩かなと思います。

「It」からの発信を増やすために「I」のタレント性を高める

さらに、第三者の集合体「It」からの発信をどう増やすかについては、弊社も試行錯誤しているところです。

「It」は、オーガニックでの外部媒体の露出などを指しますが、無名の企業がメディアに取り上げてもらうことって難しいじゃないですか。そこで僕が意識しているのは、社員のタレント性を高めて「I」の発信を強くすることで「It」に注目してもらう、ということです。

僕自身は「I」としての発信を強化するため、意識していることが大きく2つあります。

ひとつは、マーケットの需給とポジションです。すでに発信者が多いところに挑んでも勝つのが難しいので、供給が空白になっている地帯を探します。

僕の場合は、就活マーケットで「アドバイスを一切しない」というポジションでした。学生に寄り添いながらも、僕が渡すのは「観点」と「ファクト」だけ。アドバイスをする社会人が多かったなかで、アドバイスをしないという立ち位置をとることが差別化につながりました。

もうひとつは、発信するソーシャルメディアの選定です。個人発信の場として活用するプラットフォームは、成長性とアルゴリズムを考慮して選ぶことが大切です。

たとえば、2018年の初めにFacebookでビジネス利用の拡散を制限するようなアルゴリズム変更があったのですが、そのニュースをみた翌月には、眠っていたTwitterアカウントの運用を再開しました。こうして先駆けて行動したことで、ビジネス界隈にTwitterの波が来た時に、一定の先行者利益を得ることができたと思います。

また、個人ブログのプラットフォームには、2018年3月からnoteを使い始めました。ここでの発信から、複数媒体から寄稿の依頼をいただくことができたのですが、ここではすべてを受けるのではなく、自分とメディアのブランドキャラクターのマッチ度を勘案し、最適なメディアと一緒に始めさせてもらいました。

こうしてまだ空白のポジションを選び、メディアの特性や自分のキャラクターに合った適切なプラットフォームで発信することは、「I」を強化する上で大切だと思っています。

発信を差別化し、毎年「リセット」される就活市場に終止符を

こうして「発信の主語を散らす」ことを意識するだけでも、採用候補者に対するコーポレートコミュニケーションにおいて差別化になります。

また、保険の「掛け捨て」と「積立」に例えるなら、企業による新卒採用の活動の多くは「掛け捨て」になりがちだと思っていて。毎年、求人広告に投資して大量のエントリーを集め、翌年もまたゼロベースで同じようなことを繰り返す。

一方の個人からすると、実は「積立」になっていることもあります。たとえば、先輩の選考体験がクチコミとなって、次の代に伝わっていたりするんですね。それを企業側がアセットとして活用するために、CGM(Consumer Generated Media)や外部メディアがあると思っています。

2、3年経つと減価償却される部分はありますが、少しずつアセットとして積み立てておけば、その差分だけ広告を打てば良くて。すると、自画自賛マラソンから抜け出せるようになると思うんです。

ワンキャリアは、ソーシャルムーブメントを起こしながら採用マーケットの透明化を進めていますが、その過程で学生と企業のどちらの味方なのかを聞かれることがよくあります。

ですが僕らは、ユーザーである学生とクライアントである企業の二項対立ではなく、透明化によりマーケット進化のサイクルを循環できると思っています。

なぜなら、正確なコンテンツが増えればユーザーに価値提供できますし、そのもとでユーザーの良い体験や、ポジティブなギャップが具現化したクチコミが増えれば、結果として言行一致しているクライアントにもメリットがあるんです。

透明化をリードし続けこのポジティブな循環を回していきながら、学生にとっても企業にとってもより良いマーケットを創っていきたいと思います。(了)

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