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今、多くの人が「ロードリーム」に陥っている。Sansanのオンラインコーチング実践法

〜オンラインコーチングと1on1で、社員の内的ハードルを取り除く。Sansanの社内コーチが明かすコーチングの極意と、対面以上の効果を生み出す工夫とは〜

在宅勤務が長期化するにつれて、社員のパフォーマンスが低下したり、心身のコンディションが落ちてしまったり…といった問題が生じてきてはいないだろうか。

2015年11月に「コーチング」を社内制度化して以降、累計で250名ほどの社員にコーチングを行ってきたという、Sansan株式会社。現在は、Web会議ツールを活用し、オンラインでコーチング制度を継続している。

米国CTI認定のCPCC(Certified Professional Co-Active Coach)を有し、同社の「社内コーチ」として活動している三橋 新さんは、「オンラインでも対面でも、コーチングの基本は同じ」だと話す。

むしろオンラインでは、パーソナルスペースを保持したまま内省できたり、オンラインホワイトボードに一緒に書き込んだり、といった独自のメリットもあるという。

今回は三橋さんに、同社で数年前から取り組んできた「オンラインコーチング」の内容や、コーチングや1on1を実践する際に気をつけるべきポイントについて、詳しくお伺いした。

※本記事の掲載写真は、2018年9月の取材時に撮影した写真を利用しています。三橋さんに当時取材した記事は、こちらからぜひご覧ください。

コーチングとは「パフォーマンスの内的な障害を取り除くこと」

コーチングとは、何か。33歳の時にコーチングに出会って以来、ずっと探求して向き合っているのですが、今一番シンプルに表現するならば「その人がパフォーマンスを出すための障害を取り除くこと」だと思っています。

そのハードルを外的と内的にわけるとすれば、コーチングは内的の方ですね。

外的の方は「制度や仕事の進め方」を指す一方で、コーチングの役割は「自分の内にある障壁を明らかにして、それを取り除いていくこと」かなと。

僕は「一歩踏み出す」という言葉がすごく好きなのですが、その人がきちんと自身の課題から目を背けずに向き合い、安全圏から未知の世界へと一歩踏み出すサポートをすることがコーチングかなと思っています。

例えるならば、コーチングの初期段階って「衣替え」のような作業だと思うんです。衣替えって、季節の節目にタンスにある服をすべて取り出して、そこで「この服って実は2年くらい着てないな」「捨てようかな」と考える作業があるじゃないですか。

コーチングにおいても、まずは抽象的な問いかけをして、本人にタンスのすべての引き出しを開け衣装を出してもらう。それから「何か違和感あるものがないか」「しっくりくるものはどれか」といった問いかけをして、本人に見てもらうんです。

すると、中には「ずっと着ていないんだけど、なぜかここにあるんですよね」といったものが見えてきます。そういった違和感そのものを、本人が向き合う課題やテーマとして設定をして、それに向き合っていく。

ただ、やはり初対面の関係性では、最初からすべての服は出てこないですし、1回ですべてを出し切ってもらう必要もないと思っています。

時間が経ってから出てくることもあるので、何回か繰り返して徐々に出してもらえればいいと思っていて。あまり急がずに、まずは「聞くこと」に徹して関係性を作っていくことを大切にしています。

「オンラインコーチング」を数年前から実施。効果の高め方とは

僕は2009年に、当時29番目の社員としてSansanに入社しました。最初は、営業や人事、総務、法務とさまざまな部署を経験してきました。

33歳のときにコーチングと出会って、主業務の傍ら社内コーチとなり、現在は、人事部のEmployee Successグループに所属しながら、業務の7、8割を社内コーチとしての仕事に充てています。

最初は、僕ひとりで社内コーチを始めましたが、いま現在は3人います。ひとりは、怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」の専門で、もうひとりは、僕と同じコーチングの資格を取得し、エンジニアリングマネージャーと兼務しながら社内コーチをしています。

弊社では、新型コロナウイルス感染拡大の影響を鑑みて、4月1日から全社員が原則在宅勤務になりました。テレワークの環境下では、よりコーチングの重要性が増していると思います。

実を言うと、4〜5年くらい前から、地方転勤者に対するオンラインコーチングを実施してきました。人数の比較的少ない地方の拠点では、同僚と話す機会が少なかったり、相談がしづらいこともあり、週1ほどの頻度で僕がオンラインコーチングをするような関わりは今までもありました。

コーチングの基本は同じなので、1対1の場合は、対面とオンラインとで大きく変わらないですね。通信環境によっては、若干の音の遅延やノイズなどが気になる人もいるかもしれませんが、オンラインならではのメリットもあるかなと感じています。

たとえば、普段はオフィスやカフェなどでコーチングをしていますが、オンラインであれば、個人のパーソナルスペースに留まったままで話せます。その意味では、自分自身に集中して、より内省の質が高まるんじゃないか、と思ったりもしますね。

また、オフラインで使っている道具がなくても、工夫次第でオンラインでも同じことができます。

僕はコーチングをする際、よく2つの物体を使って、自分と相手との「関係性」を表してもらうことがあるんですね。喫茶店であれば、ミルクとガムシロップでできますし、定食屋であれば塩とコショウでできます。

「ミルクが『あなた』でガムシロップが『相手』だとすると、いまはどんな向きでどんな距離関係ですか?」と問いかけるんです。

こうした物理的なものを媒介することによって、ただ考え込むよりも相手との関係性を自ら俯瞰しやすくなります。

これをオンラインで行うのであれば、たとえば両手を使って「右手のパーが『あなた』、左手のグーが『相手』」で同じことが表現できます。

▼取材時に両手を使って表現していただきました

同じく、オフラインでよく使う紙とペンも、オンラインホワイトボードで代用できます。Zoomにあるホワイトボード機能を使えば、お互いに書き込むことも可能です。

こうしたジェスチャーやオンラインツールの機能を活用すれば、対話をサポートするものには困らないかなと思いますね。

具体ではなく「抽象」で問いかけることで、潜在意識を引き出す

コーチングでは、具体ではなく「抽象」で問いかけをすることが大切です。

たとえば「あなたにとって仕事とは何ですか」と聞かれると、すっと答えられないと思うんです。こうした抽象的な問いかけをすることで、本人も知らないような潜在的な自分に気づくことができます。

また、抽象的な問いでなくても、なにかに例えてもらうことで、潜在意識にアプローチすることもあります。

たとえば、「自分の強みをクリアにしたい」という相談を受けた時には、「あなたの強みを『家電』に例えると何ですか」という問いかけをしたりします。

実際、コーチした人の中で「燻製器」だと答えた人がいたのですが、その心を尋ねると「自分の中で熟成させてから、おいしいものを出すことが得意」みたいな話がでてきたりして。

この「たとえ」のいいところは、まず頭の中でイメージが浮かび、そこから言語を付け足すので、直感から入れるんですよね。すると、抽象の問いかけをするときと同じように潜在意識にアクセスしやすくなり、気づきを生むことができます。

こうした潜在意識にアクセスできると、多くの場合「沈黙」が生まれます。

僕は、この沈黙がコーチングにおける「一番リッチな時間」だと思っていて。というのも、相手が内省を深めている時間なので、まさにコーチングの目的を実践できていることになります。

また、コーチという他者がいるメリットは「フィードバックできること」だと考えています。

たとえば「これをやりたい」と言っているのに眉間にしわが寄っていたら、「やりたいと言っていましたけど、しわが寄ってますね(笑)」とそのままフィードバックする。

さらに「それってなんで起きているんですかね?」といった問いかけをすると「あれ、本当は私それやりたくないのかな…?」などの本人の気づきにもつながります。

このフィードバックにおいて僕が心がけているのは、事実を伝えることです。

「正しい・間違っている」でも「良い・悪い」でもなく、「僕がこう感じた」という事実を伝える。それを受け取るかどうかはどちらでもいい、という前提で話をすることが大切です。

「これは本来こうだけど、あなたは違うね」といった風に、自分の評価や判断、主観で決めつけないことが、とても大事だと思いますね。

「1on1のゴール」は意識しすぎず、メンティと歩調を合わせる

また、社内コーチとは別に、現場のマネージャーが任意で1on1を実施しています。チームによってその頻度や1回あたりの時間は様々ですが、テレワーク環境下でも継続的に行われています。

よく「1on1を通じて、どういう成果を得られるのか?」を気にするメンターもいると思うのですが、僕はあまり捉われないのが一番かなと思っていて。

もちろん基本の型として、始めるときに「どのような時間にしたいですか」「この時間が終わったとき、どんな状態になっているとよいですか」と尋ねて、状態ゴールを柔らかく握っておくことはいいと思います。

ただ、経験的にはそのゴールに向かって直線的に進むことってほぼなくて。「ダンスインディスモーメント(※1)」というコーチングの指針があるように、相手の話に沿って進めていくことが大切です。

というのも、何かを話しているうちに「これ関係ないんですけど、ちょっと話してもいいですか」といったことが結構あるのですが、結果的にそういうのって実は関係しているんです。

なので、相手の話に合わせていって最終的に「これはどうですか?」といった問いかけをしていくと、悩みが完全に解消されなくても一歩前進したり、気づきが生まれたりすることは多いかなと思います。

僕も、コーチになって初めの頃は「なんか自分がしゃべって終わっちゃったな」みたいなときがありましたね(笑)。相手のために貢献したいが故に、ティーチング寄りになってしまったりして。

このティーチングとコーチングの使い分けは難しいですが、ひとつの方法としてある部長が話していたのは、マインドとスキルの2軸における成熟度合いで判断するやり方です。

もしスキル的に「できる・できない」の話であれば「ティーチング」をする。一方、それがマインドの話であれば「コーチング」的に関わって、考えを深めてもらうことが大切だと思います。

いまを「チャンス」と捉えることで、見える世界を広げていく

僕はコーチングにおいて、「コーチ自身が自分を見つめること」が最も大事なことかなと思っていて。なぜなら、聞き手の在り方が、コーチングの場や問いにかなり影響するんですよね。

そこはコーチ自身が常に自分に向き合って、自分のコンフォートゾーンから一歩踏み出してエッジ(=心理的な障壁)を越えられるかどうか。

その先にある未知の領域に進み続けるという試練を選択することが、コーチや、おそらくマネージャーやリーダーの方々には求められると思っています。

また、究極の理想でいうと、コーチングがなくなればいいとも思っていて。コーチングという言葉が行き交うことなく、誰もが自分の引き出しの一部として持っていて、相手が必要としたときにさっと引き出せる状態が当たり前になっていると、すごく良いですよね。

システムコーチング®(※2)では、最高の夢の状態である「ハイドリーム」と、最悪の夢の状態である「ロードリーム」という言葉があるのですが、今、社会の多くの人は「ロードリーム」に陥っている方が多い気がしています。(※3)

すごく苦しい、悪い状態だと思ってしまうと本当に苦しくなってしまうのですが、それを他者からフィードバックすることで「私はいま、この辺りの状態にいるんだ」とまず認知できる。

さらに「ここって何があるかな」とハイドリームの方向に問いかけたりすると、見える世界が広がっていったりするんですね。

弊社でも、いま社内で「ピンチはチャンス」という言葉がよく使われていたりするのですが、「この状況をチャンスだと捉えたら何が生まれるだろう」というハイドリームの方向に、自分から問いを持つ。

すると視点が変わり、感情にもよい変化が起きるんじゃないかと思いますね。(了)

※1:「ダンスインディスモーメント(今この瞬間から創る)」はコーアクティブ・コーチング®が大事にしている礎のひとつ。
※2:システムコーチング® は、CRR Global Japan合同会社の登録商標です。
※3:「ハイドリーム」「ロードリーム」出典…CRR Global Japan OSC®プログラム

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