• ラクスル株式会社
  • 取締役 CMO / ノバセル事業本部長
  • 田部 正樹

5年で売上25倍!後発から逆転したラクスルの「マーケティングの4つの掛け算」とは

〜テレビCMでA/Bテストを実施。的確なメディアミックスにより、売上高が7億から170億へと急成長を遂げたラクスルの裏側〜

近年、認知の拡大や新規顧客の獲得のため、テレビCMの放映を実施するスタートアップ企業が増えつつある。

某大な投資コストが掛かる一方で、Webよりも効果検証のしづらいテレビという媒体において、確実に成果を上げるにはどうしたら良いのだろうか。

ネット印刷の「ラクスル」をはじめとしたBtoBシェアリングプラットフォーム事業を展開し、今年4月には運用型テレビCMの「ノバセル」をローンチした、ラクスル株式会社。

同社は「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」という企業ビジョンの元、直近5年で全社売上高25倍という急成長を遂げている。

しかし、2014年当時の「ラクスル」は、ネット印刷の後発サービスとして、トップシェア企業に大きく遅れを取る状況だったという。

その状況から逆転するため、市場シェアの奪い合いではなく「ネット印刷 = ラクスル」という想起を獲得することを目的に、2014年よりテレビCMの放映を開始。

リスティング広告で訴求ワードを絞り込む、ローカルエリアでA/Bテストを実施するなど、データに基づく効果検証を徹底。さらに、顧客の声から得たインサイトによって仮説を立てることで、確実に成果の出るテレビCM施策の磨き込みを行ったそうだ。

今回は、同社CMOとして急成長期のマーケティング戦略を担った田部 正樹さんに、ラクスルのマーケティング施策の全貌について詳しくお伺いした。

「シェアの奪い合い」では一生勝てない。TVCMで認知の逆転を目指す

私は2003年に新卒で丸井グループに入社後、2007年にウェディング事業を展開するテイクアンドギヴ・ニーズに入社し、事業戦略やマーケティング責任者などを経験しました。

その後、2014年にラクスルにCMOとして入社し、現在は新規事業「ノバセル」の責任者を兼任しています。

私が入社した当時は、社員数20名ほどで、事業はネット印刷の「ラクスル」だけでした。まだ売上は伸びていなかったものの、資金調達ができ、これから一気に事業を成長させていくようなフェーズで。その中で全体を見渡したときに、2つの課題が見えてきました。

ひとつは、印刷業界の仕組みを変えていくというコンセプトはあっても、「顧客に選ばれる理由」が明確に定義されていなかったことです。

当時は、幅広く印刷物を扱っている中でも、最も選ばれていて収益性が高いのがチラシ印刷でした。そこで、ラクスルを「中小企業の集客に活用していただくBtoBサービス」と位置づけることにしました。

もうひとつは、ネット印刷の市場規模と、サービス知名度の低さです。

当時は「ネット印刷」というワードでのWeb検索数は月間2万ほどで、市場自体があまり大きくありませんでした。市場シェアトップの企業名での検索の方が多いという状況の中、ラクスルの指名検索はほとんどされていなくて。

我々のような後発のスタートアップ企業がWebマーケティングで戦っても、勝てないということが明白でした。

そこで、効果的に認知を広める施策としてテレビCMを活用することで、「ネット印刷 = ラクスル」の世界を目指すことにしました。例えば「結婚式」より「ゼクシィ」と検索する人が多いように、サービス名が代名詞になるほどの認知を形成するということですね。

ローカルエリアでのA/Bテストで、刺さるCMの要素を見極める

ラクスルの場合、テレビCMを見た人が「今すぐチラシを刷りたい」という発想にならないのが難しいところです。潜在顧客の記憶に残して、チラシ印刷のタイミングで思い出していただく必要がありました。

その課題に対して、確証が得られないままに数億円の投資判断をすることは会社として難しい。そこでまず、どのようなクリエイティブが効果的かをローカルエリアでテストすることにしました。

というのも、関東でのテレビCM放映費は1本100万円ほど掛かりますが、ローカルエリアでは1本1、2万円から打つこともでき、一定量を打っても1,000万円ほどの予算に収めることができます。

そのクリエイティブにおいては、15秒でもっとも「ラクスル」が伝わる表現であることが重要です。それを探るため、Webのリスティング広告でクリック率の高いワードを検証しました。

たとえば「24時間注文受付可能」で打ってみたときに、一気にクリック率が上昇したんですね。そうしたWeb上の反応をみて、クリエイティブの訴求ワードにも生かすといった形です。

最終的に「1枚1.1円からのチラシ印刷」と「顧客満足度98%のネット印刷」というワードが抽出されたので、両パターンでテレビCMを制作し、A/Bテストを実施しました。

その効果検証では、テレビCM放映前後のセッション数や、放映後数カ月の「新規顧客数」を指標に置いていました。結果として、前者の方がCPA(顧客獲得単価)のパフォーマンスで、3倍以上高いことがわかりました。

また他にも、何回「ラクスル」と言うのが効果的か、どの年代・性別のタレントさんを起用するのがよいかなど、要素を入れ替えて勝ちパターンを絞り込んでいきました。

このように、PDCAを高速で回しながら、テレビCMを運用していましたね。

「顧客の声」から仮説を立て、分単位の定量データで効果検証

ローカルエリアの検証でわかった勝ちパターンをもとに、次は、中京・福岡・北海道といった中規模エリアでもA/Bテストをして、最後に関東・近畿エリアで大々的に放映しました。

▼実際に行ったテレビCM施策の全体像

フェーズをわけて段階的に実施したことで、効果の高いパターンの解像度が上がり、再現性を持って規模を拡大していくことができましたね。

また、データをもとに仮説検証を進めていく一方で、最初の仮説立てにおいては、顧客1人ひとりに向き合い、定性情報からインサイトを得ることが大切です。

実際に放映枠の検証では、ターゲットとなる人がどの番組を見ているのかを明らかにするため、自社のロイヤルカスタマーへのインタビューを実施しました。

そこで普段よく見るテレビ番組を伺ったところ、ビジネス系はもちろん、曜日別の視聴番組の傾向もわかってきて。

このような定性情報から相性の良さそうな放映枠を仮説立てし、一度流してみて、前後にどれだけセッション数が増えたかを分単位で1つひとつ見ていきました。

かなり地道ですが、こうして緻密にデータを見ていった結果、番組によっては100倍程度のセッション数の開きがあることがわかりました。

テレビCM単体に頼らず、メディアの「掛け合わせ」で効果を最大化

さらに、テレビCMを基本に、タクシーなどの交通広告・チラシ・新聞・ラジオ・DM・ポスティングといった、あらゆる媒体との掛け合わせで検証を行いました。

例えば、テレビCM単体で効果が出たら、同じCMの放映エリアで交通広告を打つ地域、チラシを打つ地域といったように細分化して、どの組み合わせが最適なのかを確認する形です。

普段、テレビやWebサイトを見ずにラジオや新聞などから情報を取得している方々もいるので、幅広く掛け合わせて検証することで効果を高めるようにしました。

私は、マーケティングは「4つの掛け算」だと思っていて。まずサービスやプロダクトがあり、そこに対して顧客に選ばれる理由を明確にし、最もそれが伝わるクリエイティブを見極めた上で最適なメディアを選択する。どこまで細部にこだわり、最適解を見つけることができるかが重要です。

マスマーケティングは効果検証がしづらいと言われていますが、毎日欠かさず全県の新規顧客数の変化を追っていれば、放映エリアと非放映エリアや、放映月とそうでない月で比較検証することができます。

こうした施策ごとの結果と要因を高い解像度で把握できれば、より的確な投資判断ができるんですよね。

ラクスルの場合は、BtoB商材で認知から購入までの期間が長めなので、約2ヶ月ほどテレビCMの効果が残存することがわかりました。また、顧客化から少なくとも2年間はリピートによる収益が見込めるため、CPAとの掛け合わせでテレビ広告の予算を立てています。

ここまで全体を掌握すると、いちマーケターではなく、経営と同じ目線に立てるようになると思っていて。いかに企業価値を上げていくかという視点で、根拠をもとに「何年で投資回収できるので、1億円使わせてほしい」といった提案ができるようになることが、マーケターとして大切なのかなと思います。

「マーケティングの民主化」で仕組みを変え、世の中を良くしたい

2014年以降、毎年テレビCMを続けてきて、これまでのマーケティング費用は約50億円に上ります。そのうちの9割近くがテレビCMで、残りは主にタクシーなどの交通広告が占めます。

一連の施策によって、2014年と比較してラクスルの認知率は約60%向上しました。多額の投資を行ったにも関わらず、CPAは半分以下になり、全社売上高では2014年からの5年間で約25倍に成長しています。

やはり「ネット印刷 = ラクスル」という第一想起を得られ、「ラクスル」のワードで指名検索するユーザーが増えたことが、事業拡大の鍵だったと思います。

昨年、インターネット広告の市場規模がテレビCM広告を上回りましたが、私は在庫が有限なテレビだからこそプレミアムな価値があり、正しく活用すれば非常に高い効果が得られると思っていて。各メディアの用量・用法を理解して、手法を限定せずにあらゆるメディアを掛け合わせていくことが大切です。

また今後は、これまでの知見を活用して、事業を通じて「マーケティングの民主化」をしていきたいですね。

多くの企業が、今もテレビCMのクリエイティブや効果の可視化に悩んでいます。その解決のため、弊社では2018年1月からテレビCMの事業を開始しました。

これはテレビCMの放映枠をオンラインで1枠から低価格で購入でき、制作・放映に加え、リアルタイム効果測定までを一気通貫で提供するサービスです。ラクスルの時と同様に、最初はひとりで年間500件、数億円の受注を得られるまでやってみて、再現性が出てからチームを作っていきました。

事業は順調に伸びており、この2020年4月に「ノバセル」という名称で正式リリースしたことによって、大きく事業成長させていくフェーズです。

今は都市部など一部の企業が行っているようなマーケティングを、地方の中小企業も含め、誰でも使いこなせるようにしていきたいと思っています。(了)

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