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月次25%成長でファン増加中!Chompyの「プロダクトに感情を宿す」UI/UX設計の全容

〜フードデリバリーの後発サービスとして、利便性だけでなく関わる人々の「感情」が伝わるプロダクトを設計。利用者同士が繋がりを感じられる独自のUI/UXとは〜

機能的で便利なサービスが増えていく中で、ユーザーに愛着を感じてもらい、サービスを使い続けてもらうためには、どのような仕掛けが有効なのだろうか。

2019年6月に創業し、現在渋谷エリアにてフードデリバリーサービス「Chompy (チョンピー)」を展開する株式会社シン。

同社で代表取締役を務める大見 周平さんは、「機能的な価値だけに焦点を当ててゴールを設定するのではなく、作り手の想いやユーザーの感情が伝わり合うようなプロダクトを目指している」と語る。

利便性が優先されるフードデリバリー業界において、異色とも思われるUI/UXによってファンが増え続け、月次25%の着実な成長を遂げているそうだ。

今回は大見さんに、後発サービスとしての戦略やプロダクトに感情を宿すUI/UX設計について、詳しくお伺いした。

作り手の想いも届けたい。「合理と感情」が共存する設計を決意

私は、2012年にDeNAに新卒入社し、韓国ゲーム事業にて現地マーケティングチームの立ち上げなどを担当した後、個人間カーシェア「Anyca」の事業責任者、DeNAトラベルの代表取締役を経て、2019年6月にSYNを創業しました。

その後、2020年2月にフードデリバリーサービス「Chompy」のオープンβ版を公開。8月に正式ローンチ後、月次25%の成長を続けています。

この事業を構想したのは、「ユーザーの日常の食生活を豊かにしたい」という想いからでした。

というのも、私自身が結婚と育児を経て、日常の食生活に強く課題感を持つようになりましたし、似たような課題を持つ同世代の世帯が多いのではと感じたんです。

実際に、創業前に共働きで子育てをしている方々にインタビューした際に、食材の定期配送は使い切れずに残してしまったり、ネットショップは在宅で食材を受け取る必要があったりと、どの家庭にも総じてマッチするソリューションが意外と無いということが分かったんですね。

そこから、こういった日常の食生活の課題を解決するために、フードデリバリーの領域にチャレンジすることを決意しました。

創業時のマーケットサイズは現在の5分の1ほどでしたが、すでに競合企業が存在していました。その中で「30分で届けてほしい」といった機能的価値だけに目を向けてゴール設定をすると、サービスが似通ってしまうと感じたんです。

そこで、サービス設計において参考にしたのが、BASE、STORES、Shopifyといった「店舗を主役にして、その店舗がユーザーに愛されるようにサポートをすることで成長しているECプラットフォーム」です。それらの共通点は、売り手のサプライヤーさんが多く集まり、高い熱量でユーザーに向き合った結果、UXが良くなってプラットフォームが栄えているということ。

この「プラットフォームではなく店舗が主役」というのはすごく本質的で、飲食業界においてもその流れが必ず来るだろうと考えました。

また、リアルな世界では、飲食店の料理人が気持ちを込めて調理して、お客様からフィードバックをいただくことで日々やりがいを持つことができていて。そのエモさの部分をすごく大事にしたいと思ったんです。

そういった「作り手として報われる」という側面は、ユーザーにとって決して嫌なものではないと思いますし、むしろユーザーが作り手のこだわりを知ってわくわくできるような世界観をフードデリバリー領域でも実現したい。

そのように考えて、「合理と感情」が共存するサービス設計と、すべての利用者が各店舗との繋がりを感じられるようなUI/UXにこだわることを決めました。

実際に足を運んだ時の臨場感を、アプリ上で体験できるように工夫

Chompy全体のイメージとして目指しているのは、「屋台感」や「食フェス感」です。検索のしやすさも大切にしていますが、そこに足を踏み入れる瞬間から購入までの体験や感情を想像して、サービスの導線を設計しています。

たとえば、実際に屋台街に入る瞬間は「◯◯屋さんがあるな」とか「賑わってるな」というのが遠目でも分かりますよね。そして食べたいジャンルをなんとなく想像しながら歩いていく。

少し近づくと料理や店員、そこに集うお客さんの雰囲気が感じられて。さらに近づくと、値段や細かい商品の内容、こだわりが分かる。そういった「食選びの楽しさ」を体験できるUIにしています。

▼実際のアプリ画面(一部)

また、掲載する料理やスタッフなどの写真は、できるだけリアルかつ魅力的に伝えることにこだわって、すべて自社で撮影しています。

とはいえ、実際にお店に足を運べば五感で感じられるような、お肉を焼く音、香り、温かさ…そういった情報をアプリ上で伝えきるのは難しいです。

そこで、ソースをかけて湯気が立ち上る様子など、調理時のシズル感や臨場感を伝える15秒ほどの動画を投稿できる機能を追加しました。これらの工夫によって、オンライン上でありながらもお店のこだわりを最大限に表現できるようにしています。

▼ストーリー機能のイメージ

さらに、飲食店のスタッフが日常的にユーザーとコミュニケーションを取れるように、飲食店専用のスマホアプリを開発しました。休憩時間や仕事帰りに気軽にレビューに返信したり、動画を投稿したりできる仕組みにしています。

ユーザーの愛着や、クルーのやりがいを生む独自のUI/UXとは

そして、「感情は人との繋がりから生まれるもの」と考え、ユーザー側もプロフィール写真やニックネームを任意で設定できる機能を設けています。

例えば、店舗ごとのお得意さまのページには、購入回数に応じて「〇〇渋谷店の住人・常連・ファン」といった形でユーザーアイコンが並ぶので、飲食店では常連さんが増えていることを感じられたり、ユーザーも自分のファン度を目で見て楽しむことができる仕掛けにしています。

▼「お得意さま」画面のイメージ

他にも、気になるユーザーのページで過去に注文した商品やレビューを見ることができたりと、プラットフォーム上で「人」を感じられるUIにこだわっていますね。

「プロダクトに感情を宿す」という点においては、商品を配達してくれるクルーのUXも大切にしています。

プロフィールにはユーザーに身近に感じていただけるような意気込みを掲載したり、配達後にユーザーが回答するフィードバック画面では、「次回もこのクルーを指名したいか」という質問に答えていただいたりしています。

▼クルーへのフィードバック画面のイメージ

そこにはフリーコメントも記載できるので、個々のクルーに対して温かいメッセージをいただくことも多く、運営からは数日分のフィードバックをまとめてクルーにお返ししています。それによってやりがいが生まれて、クルーのリピート率も向上していますね。

また、Chompyにはユーザー用のSlackがあり、ユーザーから気軽に機能改善などの要望ができたり、運営側から採用イベントなどのお知らせをしたりしています。加えて、1,500名ほどが登録しているクルー用Slackがとても活発で、「ノウハウ共有」「レストランへの改善要望」などのチャンネルで情報交換をしながら、サービスをより良くするために協働してくれています。

このような仕組みによってやりがいや人との繋がりが生まれることで、サービス自体の質も向上し、愛用してくださるユーザーが増え続けているのだと思います。

「商品を売買する」という合理的なやり取りの中でも、相手の存在を感じられたり、相性が良ければコミュニケーションが取り得るという設計があるかないかで、プロダクトの方向性が大きく変わってくると感じていますね。

ファンを巻き込みながら、より愛されるサービスを作っていきたい

現在、Chompyは渋谷駅4.5km圏内で展開していて、街で愛されてきた個店や老舗の名店を中心として1,000店舗ほどに掲載いただき、ユーザー会員は5万人ほどになりました。

ユーザーからは、お店やクルーの対応に対する好意的な声や「サービス全体にぬくもりを感じる」といったコメントをいただくことが多く、作り手の「お客様に喜んでいただきたい」という想いを満たす一助も担えているのではないかと思います。

今後は徐々にエリアを広げながら展開していきますが、例えば三軒茶屋と恵比寿に住む人たちのUXは全然違うと思っていて。地域ごとのファンコミュニティを作って、デリバリー対応をしたら奇跡的な地元の名店を一緒に開拓したり、ユーザーと一緒にサービスをアップデートしたりするのも面白そうだなと思っています。

また飲食店に向けて、お店のページを閲覧した人数やそのうちの注文数、ユーザー満足度やリピート率の推移といったデータを基に、ファンと売り上げを増やしていくサポートもしていきたいですね。

私たちが目指す「ユーザーの日常の食生活を豊かにする」という意味では、まだまだ道半ばで。現在は単身世帯での利用が多いので、お子さんのいる家庭やシニア世帯など、どれだけ深くユーザーセグメントを掘り下げ、Chompy独自の価値を築いていけるかが今後の生命線になると思っています。(了)

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