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累計126.6億円調達のテラドローン。1ヶ月で460媒体の露出を獲得した海外広報戦略の具体

ドローンや「空飛ぶクルマ」を指すエアモビリティの市場における世界的なリーディングカンパニーを目指し、2022年に海外向けの広報PRをゼロから実施したテラドローン株式会社​​

2016年の創業後から国内外で事業を展開する同社は、2020年にドローン市場の世界ランキングで1位に。2022年3月にはシリーズBで80億円、2023年1月には18.5億円(累計126.6億円)の資金調達を実現している急成長スタートアップ企業だ。

同社は、海外メディア向けの広報PR活動において、立ち上げから1ヶ月ほどの期間で本国のForbes、Tech Crunchといった著名メディア10媒体を含む、計460媒体以上での露出を獲得

本活動を主導した人事兼広報マネージャーの宮本 絢さんは、創業から続く「ドローンを活用した測量事業の会社」という企業イメージからのパーセプションチェンジ(認識変容)に取り組み、「空から世界を進化させ、次の産業革命を起こす会社」へと進化させることに貢献したという。

今回は宮本さんに、テラドローン社の海外広報PR戦略の具体について、詳しくお話を伺った。

「空の移動」のグローバルベンチャーを目指し、広報を海外へ拡大

私は大学卒業後にリクルートに入社し、複数企業で採用支援を経験した後、2021年3月にテラドローンに入社しました。現在は人事兼広報のマネージャーを担っています。

▼人事兼広報マネージャー 宮本 絢さん

弊社の事業領域はドローンや空飛ぶクルマによる「測量・点検・運航管理」の三つです。ソフトウェアとハードウェアの両方を扱っていることと、社内にドローンのパイロットも在籍して国内外で事業を展開していることが特徴で、私たちのような企業は国内では非常に珍しいかなと思います。

その活用事例を簡単にご紹介すると、例えば建設業界向けの測量事業では、従来人の手によって2、3ヶ月かかっていた測量作業を、ドローン活用によって半日以下にまで短縮しています。

また、点検事業では、ガスタンク内や電力の高い鉄塔の上といった危険な場所での作業をドローンが代替することで、時間と価格を従来の10分の1ほどに抑えています。

そして「空の道」と呼ばれる運航管理事業は、将来的に空飛ぶクルマが飛び交う時代が来ることを見据えて、安全かつ効率的に運航をコントロールするためのシステムを自社開発しています。

創業時はその中でも測量が主事業だったので、弊社は「ドローンを活用した測量会社」といった企業イメージがありました。

しかし、ゆくゆくは「”ドローンや空飛ぶクルマの運航管理プラットフォーマー”として、グローバルスタンダードになっていく」ということを目指していたため、近年はその企業イメージを変革する必要性を感じていました。

その頃、私が広報未経験者としてジョインして、2022年3月には初めての「シリーズBにおける資金調達広報」と「海外メディア向け広報PRの立ち上げ」を担当しました。

ドローン測量会社から「運航管理トップランカー」へ認識変容を促す

まず着手したのは、「運航管理プラットフォーム事業のトップランカー」としての企業イメージへと顧客の認識を変化させるパーセプションチェンジと、海外でも認知を広げるための活動です。

そのゴールに向けた三つのステップとして、注目・関心・行動に分けて下図のように大枠のストーリーを設計しました。2022年3月にシリーズBラウンドで80億円の資金調達を実現したことを起点に、興味関心を持っていただき行動喚起する流れです。

また、当時の国内事業では20〜30名の採用活動が進んでいたので、そういった事業成長に向けた広報という観点も加味した設計になっています。

海外メディア向けの広報PRはそれまでに着手できていなかった領域なので、メディアリレーションからしっかりと構築していき、海外市場における認知拡大や基盤づくりをしていくことがシリーズBラウンドでのゴールでした。

パーセプションチェンジにおける三つのステップの中では、やはり入口となる露出(注目)の最大化が重要なので、そこに最も工数をかけています。

具体的にはメディア活用、SNSなどの直接的な施策、投資家の方との広報PRの三つにわけて、それぞれ戦術を練っていきました。

▼パーセプションチェンジにおけるゴールと主なアクションの全体像(以下、同社提供)

それぞれの施策にともなって、広報チーム内で担うタスクを130個ほどに分解し、WBSにてプロジェクトの進捗管理を行っていました。このタスクを正社員とインターン生で構成される広報チーム4名で実行していった形です。

▼130個のタスクをまとめたWBS(作業分解構造図​​)

綿密な下調べの上で、SNSのDMから海外メディアにアプローチ​​

ここからは海外メディア向けの広報PRにフォーカスしてお話しできればと思います。一般的に、海外向けのPRは代行サービスを利用する企業が多いかと思いますが、今回弊社は戦略設計から実行までをすべて自社で行っています。

具体的には、まずは海外における基盤づくりからスタートということで、露出の量と質を担保しながら、メディアリレーションの構築に力を入れていきました

海外メディアへのアプローチの方法はSNS・メール・紹介という三つがありましたが、実際に海外メディアでの掲載に繋がったのはほとんどがSNS経由でした。

記者の方へ初めてご連絡する際には、その記者さんが書かれた記事をきちんと読み込み、他のスタートアップ企業がどのような記事を出されているのかを事前にチェックしていました。

例えば「資金調達」というテーマでは、我々とは異なる業界の国内企業も露出されていましたし、海外における競合企業の記事も参考にして、セグメンテーションを行いました。

その上で、弊社と親和性が高そうなメディア、記者さんをリサーチして、地道に連絡先を探して直接アプローチしていった形です。

また、記者さんにDMをする際はLinkedInとTwitterのアカウントを使い分け、どちらの方が返信が来やすそうかもテストしながら進めていきました。

メッセージの内容としては、記者さんが書かれた記事で弊社のリリースと共通項が多い記事を挙げた上で、これまでの記事の内容から特に関心を持っていただけそうなキーワードと共に端的に提供できるネタにふれ、一度オンラインミーティングをしませんか?といった内容をお送りしていました。

非常にシンプルですが、文面は下記のようなイメージです。

国内メディアへのアプローチでは、自社の情報や企画ネタの内容は細かく記載することが多いのですが、海外メディアに関してはDMの段階で、簡潔に要点を伝えることがポイントだと思います。

​​活動1ヶ月で、Forbesなど著名メディアを含む460媒体での露出を獲得

メディアからDMの返信をいただいた後は、質問リストに丁寧に答えたり、事業のピッチデックと併せてこちらが伝えたいストーリーラインの要約を送ったりと、広報側でやり取りを重ねました。取材自体は役員が対応したので、その前後のケアを広報チームが担うイメージですね。

送付したピッチデックの内容としては、主に「なぜ我々が運航管理や空飛ぶクルマの事業をしているのか」と「運航管理領域はプレーヤーが少なくて、今非常に熱い市場ですよ」といったことを盛り込んでいます。

▼今後の事業展開についてのスライド(一部)

▼UTM(無人航空機運航管理システム)について説明するスライド

実際にSNS中心のアプローチを続けたところ、3〜4割のメディアから返信をいただけて、そこからはほぼ100%メディア掲載に繋げることができるとわかりました。

国内メディアと比べて違いがあるとすると、取材後はそのまま公開という流れで、基本的に原稿確認がありませんでした。そのため、齟齬がないように質問リストなどで細かくドキュメントを残すことは重要だと思います。

とはいえ、国内メディアと海外メディアとでは、担当者の方とリレーションを築いていく基本の動きは同じです。相手の興味や関心に合わせた切り口を用意して、端的に伝えていくというところは変わらないなと感じました。

施策全体の効果計測としては、海外メディア向けの広報PRによる露出数をKPIとして、実際に取材いただいた記事がどのような内容に仕上がっているかという質の部分も見ていました。

結果として、2022年3月23日〜4月18日の約1ヶ月間で、Wireサービスも併用してのべ460媒体以上に掲載いただくことができました。その中で、直接コンタクトを取って掲載いただいたのは、Forbes(本国版)Tech Crunch(本国版)、CNBC(TV)といった本当に限られた著名メディア10媒体で、しっかりと質の部分も担保しました。

メディアリレーションの面でも、Forbesさんからは「貴社は面白い素晴らしいストーリーを持っていますね」と評価していただけたり、第一弾の記事公開後にコンタクトを取らせていただいた他メディアの皆さんにも、非常に温かくお話を聞いていただけたりと手応えを感じ始めています。

新たに18.5億円の資金調達を達成!海外投資家と連携し全世界へ同時配信​​

直近1月25日のニュースとして、アジア初となる、世界時価総額ランキング2位のサウジアラムコのVCから18.5億円の新たな資金調達を実施したことを、全世界に一斉に発表しました。

この資金調達広報の裏側にふれると、海外投資家と連携して広報PRを行うことでさらなる波及効果に繋げていきたいと考え、今回はサウジアラムコのVCと連携しながらコンテンツを作っていきました。

双方の経営にとって今後戦略的に注力したいパーセプションチェンジから逆算して、海外メディアにも一気にニュースを流すことを考えると、どういう手順で何をすると効果が最大化できそうかや、国内とグローバル向けに分けて同時並行でどのようなスケジュールを踏むべきかを整理しています。

▼海外投資家との打ち合わせ用に作成した広報PR戦略資料から抜粋

こちらのシートは、リリースの1、2ヶ月前から投資家の方と連携し、どのようなアクションをいつ行うかをまとめているものです。

▼国内・グローバルに分けた広報PRのスケジュール(イメージ)

国内における広報活動と同様に、海外広報用のWBSも作成し、タスク管理をしています。

▼投資家と共に海外メディア向け戦略を設計し、タスクをまとめたWBS

経営戦略とPR戦略を連動し、グローバルでのプレゼンスを向上したい

これまで海外メディアや海外企業のPRを見る中で、それらのブランディング、コミュニケーションから学ぶことが非常に多く、世界を舞台に事業拡大するベンチャーとして、私たちに出来ることも多くあるのではないかと考えています。

今後はより一層、弊社が掲げる「新産業領域におけるグローバルベンチャー輩出」に向け、未来のクライアントや投資家の方々、地域社会の方々との相互理解、信頼性向上にも取り組んでいきたいと思っています。

具体的には、前回の資金調達時はコーポレートPRとして、海外での広報PRに関する基盤をどんどん作ってきました。まだまだこれからというフェーズですが、多くのメディアの方々に過去の露出をご覧いただいて、よりスムーズにコミュニケーションできるようになってきた実感があります。

次のステップとして、私たちの強みである運航管理や点検事業において、より深く、綿密に、海外のターゲットとコミュニケーションを取っていきたいと考えています。現在は、徐々にプロダクトPRの強化を始めており、より世界各地における事業シナジー創出に貢献できるような施策を画策しています。

また、PRの副次的な効果として、国内では特に採用面で非常に良い影響が出ています。(同時並行で行った国内での広報PR強化の取り組みに関しては、こちらのnoteをご参考ください)

結果として、ホームページやSNS経由の自然応募が前年約1割程度から直近3割程度へと上昇し、採用コストをほぼ半減することができました。パーセプションチェンジで打ち出す情報を変えて露出を増やしたことが、この成果に直結していると感じます。

私はPRに加えてHRの役割も担っているので、会社全体の利益や株価に基づいて経営的な目線を持ち、企業のより良い成長のために一気通貫したHRとPR施策を打てるようにしていきたいですね。(了)

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