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今、どのリレーションを強化すべきか? 経営課題を解決し、事業に資するPRの役割

〜初期のスタートアップは「生きるか、死ぬか」。経営課題の解決のため、事業フェーズに応じて役割を変え続ける、PR(Public Relations)の在り方とは〜

すべてのステークホルダーとの関係性を構築し、事業成長を加速させる「PR」。しかし、多くの企業では、PRの役割がパブリシティの獲得だけになってはいないだろうか。

2017年11月に創業し、製造業の受発注プラットフォーム「CADDi」を開発・運営する、キャディ株式会社。

レガシー産業で事業を展開する同社では、PRの重要性を早期から認識し、2018年11月に1人目のPR専任を採用。

その活動は、認知獲得のためのコーポレートPRや、採用強化のための採用PR、リファラル採用の推進、さらにパートナー企業のロイヤリティ向上のためのコミュニティ運営まで、多岐に亘っている。

同社のPRを担う浅野 麻妃さんは、「事業フェーズによって移りゆく経営課題を解決するために、リレーションを強化すべき相手を見極め、PRの役割を変えていくことが大事」だと語る。

今回は浅野さんに、事業に資するPRの在り方と具体的な動きについて、詳しくお伺いした。

スタートアップ広報が担うべき役割は「経営課題の解決」にある

私は、塾講師からベンチャー企業に転職して、法人営業や人事、社長秘書などを経験した後、PR部門の立ち上げを行いました。2018年11月にキャディに入社し、PR領域を担当しています。

入社した当時は、創業から1年が経ち、社員数は15名ほど。コーポレートサイトもなくて、会社名を検索したらゴルフのキャディに関する記事ばかり出てくるくらい、何も情報がなかったですね(笑)。

ただ、製造業という伝統的な産業をドメインとして、私たちが事業を前に進めていくためには、既存プレーヤーの方々にいかに認知してもらい、信頼を獲得していけるかがとても重要で。それをスピード感をもって実現することを考えた時に、PRの力が必要でした。

PRの役割は、よくパブリシティの獲得だと思われがちですが、本来はPublic Relations、つまりすべてのステークホルダーとの関係性作りなんですね。

事業を伸ばすために、いま一番リレーションを強化すべき相手は、メディアなのか、候補者なのか、顧客なのか。

特に、初期フェーズのスタートアップは「生きるか、死ぬか」じゃないですか(笑)。その時々の経営課題を解決するために、PRの役割を変えていくことが求められると思っています。

弊社ではOKR(※)を導入しているので、全社の戦略に紐づく形で、四半期ごとに個人目標も見直しています。全社の目標に対して、限られたリソースをどこに一番投下すべきかを考えてきました。

※同社のOKRの運用については、こちらの記事をご覧ください。

この2年でコーポレートPR、採用PR、コミュニティ運営などに取り組んできた結果、顧客単価が昨対比で10倍以上になり、売上も右肩上がりで伸びています。

「白黒はっきりするKPI」を設定し、認知と信頼の獲得を目指す

最初は、とにかく顧客やパートナー企業からの信頼を得る必要があったので、認知を高めていく活動に振り切りました。

まずは、世間からどう思われたいかを言語化するため、経営陣と丸2日かけて議論しました。

最終的に「Not キラキラ」「テックカンパニー」「エキスパートな集団」といった7つのカテゴリと、それぞれに紐づく複数のキーメッセージにまとまり、社員がメディアから取材を受ける際には、これらを意識的に発信してもらうように事前にすり合わせていましたね。

また、認知獲得におけるKPIには「露出数」を置いていました。加えて、優先的に狙いたい媒体を決めて「露出数のうち何割を、ターゲット媒体から獲得する」というKPIをもうひとつ置くことで、露出の質も担保するようにしました。

PRは成果が出るまでに時間がかかりますし、正確に測ることはできないと思っています。でもだからこそ、「白黒はっきりつくKPI」を設けることが大事だと思っていて。そうすることで、一定期間やりきったことでどんな変化が生まれたのかを検証することができます。

さらに、キャディよりも少し先のフェーズをいくスタートアップをベンチマークして、いつ、どのような露出をしているかを調査し、自社の参考にしました。

ただ、PRのロードマップは決めすぎない方がいいとも思っています。そもそも事業の変化が激しいので、リリースの時期が変更になることも多いですし、ある媒体の次にどこに取り上げられるかは予測できません。

結局、継続的に何かしらの種をまいておいて、どこかのタイミングで芽を出すことの繰り返しでしかなくて。逆に言えば、目立つ露出のネタがない時にも、いかに継続して小さな発信を積み上げていけるかが大事だと思っています。

最初は何もなかったところから、社員や他社広報の方にメディアの知り合いをつないでもらったりと本当に地道な活動をひとつずつ重ねた結果、最初にプレスリリースを出した2018年12月から1年間で、合計204本の露出を獲得することができました。

事業拡大に伴い「採用」が課題に。全社でリファラル採用を推進

こうして認知獲得ができてきた一方、次に挙がってきた経営課題が「採用」でした。

というのも、2019年の5月から板金加工だけでなく機械加工にも対応できるようになったことで、一気に事業を拡大するフェーズになったんですね。

そこでアウトバウンドでのパブリシティ獲得は一旦優先度を下げて、2019年10月から採用広報とリファラル採用の推進を担うことになりました。

まず採用広報では「自主応募数」をKPIとして活動を開始し、2020年1月から3ヶ月間は、毎営業日なにかしらの広報ブログを出し続けました。

ここで意識していたのは、個人が主語となる発信を増やすということです。メンバーに声がけして、入社エントリや業務に関連したnoteを書いてもらったり、Twitterのアカウント作成を推奨したりして協力してもらいました。

また、リファラル採用を活性化するために、チーム対抗のポイント制を導入しました。例えば、「リファラル目的の食事に行った」「noteを執筆した」「採用イベントに知人を連れてきた」といったアクションに対してポイントを付与することで、ゲーム感覚で楽しく参加できるように工夫しました。

さらに、途中からリファラルの目的を「会社のファンコミュニティの輪を広げること」というメッセージに変更したことで、採用に対する心理的ハードルが下がり、協力してくれる人がかなり増えましたね。

そうした活動をやりきった結果、以前は全社で20名くらいだったリファラルの人数が半年で600名まで増え、リファラル経由で10名以上の採用が決まるという成果を出すことができました。

パートナーのロイヤリティ向上のため、コミュニティに役割を拡張

さらに、発注のボリュームが大きくなってきたことで、品質を担保しながら納品までしっかり行えるように、パートナーである加工会社さんとの信頼構築がより一層必要になってきました。

そこで2020年4月からは、パートナー企業のロイヤリティ向上という課題に対してコミュニティを立ち上げ、定期的にオンラインイベントを開催しています。現在は、100名を超える規模になっています。

最初は、親交のある加工会社の経営者の方々を5名ほどお呼びして、オンラインで飲み会を開くことから始めて(笑)。そしてコミュニティの目的やKPI、コンテンツの内容、どういう振る舞いを推奨するか、といったことを整備していきました。

KPIとしては、ロイヤリティの向上が測れるように、コミュニティに参加している人数ではなく、イベントに参加している「アクティブユーザー数」を置きました。ただ、リピートが増えすぎても内輪感が出てしまうので、新規の割合もモニタリング指標に設定しています。

コミュニティ運営において気をつけているのは、運営が前に出過ぎないことですね。実際に、参加者の中からコミュニティリーダーを何名か選出して、運営とともに月次でミーティングをしています。

そこでは、イベントの事後アンケートの回答を元にしながら、次のイベントのテーマやコンテンツの内容などを話し合っています。

まだまだ道半ばの取り組みではありますが、最近ではイベントに来てくれた方が自発的に知り合いの企業を紹介してくれたりと、事業の成果にもつながっています。

またコミュニティを始めたことで、現場の事例を吸収しやすくなるというメリットも感じていて。実際に、サービスサイトに掲載している事例も、コミュニティの参加企業の方にインタビューしていたりするんですよね。

広報が事業の現場を知ることで、リアルタイムで声を拾い、発信につなげることができる。どちらも担っているからこそ、成果を最大化しやすくなったと感じています。

世の中の視点を取り入れた発信を。「全員PRパーソン化」を目指す

キャディは創業から3年で、事業も組織も大きく変わってきました。社員数も100名を超えるほどに拡大しています。

昨年末からは、板金加工・機械加工に加えて製缶も対応できるようになったことで装置一式での受注が増え、部品の製造だけでなく完成品の組み立てまでを請け負えるようになりました。

規模の大きい顧客にも価値を提供できるように、今後もコミュニティで関係性を構築して、事業に貢献していきたいと考えています。

また、これまで1人目の広報として少しずつPRの土台を築いてきましたが、今後はPRのチームを作っていきたいですね。

コーポレートPRも採用PRもマーケティングも、今までは取捨選択してフォーカスすべき部分に取り組んできましたが、すべての活動を結び合わせることで、1つひとつの施策の成果を最大化していきたいと思っています。

そして究極的には、全員がPR的な立ち振る舞いができるようにしたいと思っていて。

何かを発信するときに、自社だけでなく、世の中の視点も取り入れた上でアウトプットできるようになるってすごく重要なことだと思うんです。逆になにかのアウトプットに後付けの形で広報文脈を作って体裁を整えてしまうと、メッセージ性も小さくなってしまいます。

なので、全員がPRパーソンになるような組織を目指して、今後もPRに取り組んでいきたいと思います。(了)

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