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累計66億調達の「cluster」。国内最大級メタバースプラットフォームを支える開発組織の裏側​​​​

累計66億調達の「cluster」。国内最大級メタバースプラットフォームを支える開発組織の裏側​​​​

近年のリモートワーク体制から、オフィス出社体制に回帰する企業が増えつつある一方で、メタバース空間で業務を行うといった先進的な働き方を実現している企業もある。

イベント累計動員数2,000万人を超える、国内最大級のメタバースプラットフォーム「cluster」を運営するクラスター株式会社​​。同社は、2023年5月にシリーズDファーストクローズ・セカンドクローズの合計で52億円(累計66億円)もの大型資金調達を達成し、今後はさらにグローバル展開も強化していくという急成長スタートアップ企業である。

▼メタバースプラットフォーム「cluster」の画面(イメージ)

従来から「cluster」上で自分のアバターを用いて、ハンドルネームで業務を行うメンバーが多いという同社では、採用候補者もアバターで選考を終えて、入社後に初めて対面することもあるなど、柔軟かつ独自の組織文化を持っている。

また、フルリモート体制の中でも部署間での交流を促進するために、オフライン×リモートのハイブリッド環境で様々な組織づくりの施策を行っているという。

今回は、同社で執行役員 CTOを担う田中 宏樹さんと、エンジニアリングマネージャー(以下、EM)を担う倉井 龍太郎さんに、クラスター社におけるバーチャルな働き方や、組織づくりの具体までを詳しくお伺いした。​​

組織づくりは3つのバリューと11箇条の「Cluster Culture」を重視

田中 私は大学に籍を置いたまま、2015年にCEO加藤とともにクラスターを創業し、これまでずっとCTOを担ってきました。現在は、CTO兼プラットフォーム事業本部の部長として、エンジニア組織のマネジメントやソフトウェア開発全般を管掌しています。

倉井 私は、ソフトウェアエンジニアとして株式会社はてなに新卒入社し、その後はJSTの研究員や金融系スタートアップのCTO職を経て、2021年1月にクラスターに入社しました。現在はEMとして、全社共通の基盤を扱うインフラチームと、ユーザーの行動分析をおこなうアナリティクスチームのマネジメントを担っています。

▼【左】倉井さん 【右】田中さん

田中 私たちが開発・運営しているメタバースプラットフォーム「cluster」の強みは、最大10万人が同時接続できることと、ユーザー生成コンテンツ(UGC:User Generated Content)にあります。

特にUGCは、プログラミングの知識がなくても、スマホ1台で誰でも自分のバーチャル空間を作り出し、他ユーザーと遊ぶことができる「ワールドクラフト」のリリースによって、大きく注目されています。

現在、会社全体の組織規模は正社員・契約社員・アルバイトを含めて220人ほどで、そのうち100人弱がソフトウェア開発部に所属しています。

その内訳としては、エンジニアが約60人、デザイナーが10人強、プロダクトマネージャーが約20人、加えてQAやテスターといったメンバーで構成されています。

▼同社の組織全体図(2023年5月時点)

クラスター社組織図また、開発部内には「3D仮想空間のプログラム担当」「クリエイターエコノミー担当」といった7つの機能別チームがあり、基本は各チームに1人ずつEMが所属しています。そして、新機能を作る際には、エンジニアに加えて、デザインチームに所属するデザイナーが都度アサインされるような形です。

約1年半前までは、各役員がマネージャーを兼務して、それぞれの管掌範囲のメンバーをマネジメントしていました。そこから、2022年1月に初めて倉井ともう1人をEMとして明確に立てて、その後もEMを6人まで増やしていき、現在のマネジメント体制を作っていきました。

そして、私たちが全社の組織づくりで大切にしていることは、「加速」「チャレンジ」「リスペクト」という3つのバリューと、それをより具体化した11箇条の「Cluster Culture」です。

これらは会社全体に深く浸透していて、例えば採用においても候補者がバリューに即した行動をしてくれそうか、Cluster Cultureにどのぐらい共感しているかを重視して選考しています。

また、等級グレード制度にもこれらの要素が反映されていて、開発組織においては半期サイクルで目標を立てて、それを1ヶ月ごとのマイルストーンに落とし込み、EMがメンバーと都度チューニングをしながら伴走する形で運用しています。

フルリモートへの移行で「失われるかもしれないもの」に対策を講じる

倉井 私たちはメタバースプラットフォームを作っているということもあり、社内には特徴的な組織文化がたくさんあります。

例えば、メンバーはみんな本名ではなくハンドルネームでコミュニケーションを取っていたり、ビデオ会議では顔を出さずにアバターで参加したりしている人たちが大勢います。また、特にエンジニアは勤務時間の自由度が高く、ほぼフルフレックスなので、子育てなどと両立しながらフレキシブルに働いているメンバーも非常に多いですね。

メンバーが住んでいるエリアも様々で、私自身は大阪に住んでいますし、大分や北海道などに住んでいるメンバーもいて、居住エリアによって任される職責や業務に差異は無いので、そういった点でもすごく楽しく働けています。

田中 そのような特性もあり、私たちは従来からリモートワークを取り入れた組織運営をしてきましたが、コロナ禍によってさらに全面的なフルリモート体制へと移行しました。

それによって開発スピードが遅くなるなど、何かしらの悪影響が出たわけでありませんでしたが、「ずっとフルリモートを続けることで、知らず知らずのうちに失われるものもあるんじゃないか」という漠然とした不安は持っていたんです。

具体的には、オフィス勤務時には同じ空間にいることで生まれていた「他部署との偶発的なコミュニケーション」が減ってしまったり、ビジネスサイドと開発サイドの見えない壁ができてしまって、連携度合いが薄まってしまったりするのではないか、といった懸念がありました。

そこで、部署間での交流を促進するための施策として始めたのが、月1回(事業部によってはそれ以上)のオフィス出社と、シャッフルブレイクです。

倉井 まず、「月1出社」は同じ空間で一緒に働くことが主な目的ですが、部署間での交流をより推奨する福利厚生として「出社日懇親会サポート制度」もあるので、自然と月1出社の時に懇親会もセットで行うようになっています。

また、シャッフルブレイクは、botが全メンバーを対象に3、4人のグループをランダムに作って、グループごとにオンラインで30分ほど休憩しながら雑談する仕組みです。

しばらくはその形で運用していましたが、基本的にほぼ関わりが無いメンバー同士でグループが組まれるので、毎回自己紹介をして終わりという感じになってしまって。そのため、現在は新入社員を対象に、CEOの加藤や所属チーム外の人と話す場として形を変えて継続しています。

田中 加えて、弊社だからこその取り組みとして、メタバース空間の「cluster」上でミーティング(デイリースタンドアップ​​)を実施しているチームもあります。そこで各自のコンディションやタスクの進捗を共有した後に、そのままドッグフーディング的にユーザーさんが作ったゲームで遊んだり、スコアを競ったりしているメンバーもいますね(笑)。

2022年2月に「ワールドクラフト」機能をリリースした際には、各チームが自分達の部室のような空間を作って、そこに集まるシーンもよく見られました。

▼「cluster」上での社内ミーティングの様子(イメージ)

面接もアバターでOK。最終の「採用懇親会」でフィット感を見極める

田中 先ほどお伝えしたように、私たちは普段から自分の分身としてアバターを利用しているので、オンライン面接に関わる面接官に関しても、アバターと生身のどちらで出ても良いことにしています。

倉井 もちろんそれは候補者さんも同じで、選考の最初から最後までアバターで臨まれる方もいらっしゃいますが、それでOKなんです。

田中 最近はもう、採用が決まるまで誰も顔を見ていないんじゃないかという状況も増えています(笑)。なので、出社日に初めて対面すると、アバターと目の前の方がリンクせずに困ることもあって。そのためか、自分のアバターやアイコンをモチーフにしたカードやバッジを身につけているメンバーも多いですね。

そして、採用活動において最終選考とほぼ同時に行っているのが「採用懇親会」です。

弊社は非常に慎重に採用活動を進めていて、元々は正式な入社前に「体験入社」をしてもらっていました。具体的には、クラスターのSlackワークスペースに入ってもらって、実際に一緒に仕事を進める中で、お互いのコミュニケーションのスタイルが合うかなどを相互チェックする場としていました。

ただ、この運用は色々な点でコストがかかるので、2021年頃から採用ペースをグッと上げることになった時に、このプロセスを一旦廃止しました。

▼2021年から一気に組織拡大へと舵を切った

クラスター組織成長その代わりとして、双方のフィット感を確かめる目的で導入されたのが採用懇親会です。

この時には、cluster上でコミュニケーションを取るようにしています。もちろん、ZoomやGoogle Meetといったビデオ会議ツールで、顔を見ながら懇親することもできますが、私たちの場合は日頃からcluster上でアバターの姿で働くメンバーが多いので、同じ環境の方が得られる情報が多いんですよね。

採用懇親会に参加する顔ぶれは、職種を超えて一緒に仕事をするであろうポジションのメンバーで組んでいます。例えばエンジニア選考であればPMやデザイナーが参加することが多く、PMやデザイナー選考にはエンジニアが参加するようなイメージです。それは候補者の属性やポジションと、それまでにどのような選考フローを通ってきたかを加味して、毎回カスタマイズしています。

こういった採用活動に関しては、常に加藤から「採用は私たちが『加速』するために1番大事なものだ」と話しているので、全社が一丸となって総力戦で臨むという文化が根付いていますね。

全員がメタバース空間に集まる「ウィンセッション」で一体感を強める

田中 その他にも、現在週1回実施している全社会は、オフィスでの現地参加組と、その様子をZoom上で視聴して参加する遠隔組がいて、リアル×リモートのハイブリットで実施しています。

その上で、唯一全員が同じ空間に集まるのが「ウィンセッション」です。一般的には、組織のOKRに基づく成果をお祝いする場だと思いますが、弊社では毎週金曜日に全メンバーがcluster上に集まって、チーム単位で何らかの「成し遂げたこと」をシェアする会となっています。

そこでは、「加速、チャレンジ、リスペクト」の3つのバリューに紐づけて、「今月はこんな加速に繋がる成果が出ました」とか、「他チームの○○さんの行動に対するリスペクトを伝えたい」といった形で、チームの成果やメンバーへの感謝を伝えています。

▼「cluster」上での大人数が参加するプレゼンテーションMTGの様子(イメージ)

そして、直近の新しい取り組みとして「チームビルディングワークショップ」も実施しました。これは、EM陣を現在の6人体制に増やしていく中で開発チームも再編したので、それぞれのチームのコンセプトや行動指針を決めようという取り組みです。

当日は外部のファシリテーターの方に設計と進行をしていただいたこともあり、かなりうまくチームビルディングできたように思います。

これまでの組織づくりを振り返ると、特に大きな問題もなく順調に組織を拡大することができています。ただ、先ほどお伝えしたバリューに「加速」とあるように、「今よりももっと良い状態にしていかなければ」といった思いは、マネジメント層に限らず全員が念頭に置いて業務をしています。

倉井 そのような背景から、メンバーも現場起点の提案をすごくたくさん出してくれますし、会社としてもまずは「やってみればいいじゃん」というスタンスで受け入れるので、ボトムアップで改善していける組織風土が出来上がっているように思いますね。

また、例えば「開発組織の○○を改善したい」という具体的な意見が出た時には、その人を中心にして、同じテーマに興味を持っている人たちが一緒になって「委員会」を作り、業務として改善活動を行える仕組みがあることも、この風土を支えていると思います。

全エンジニアが持つ能力を100%発揮できる組織にしていきたい

倉井 私は、エンジニアはコードを書くことだけじゃなくて、他にもたくさんの能力を持っていると思っています。今後はEMとして、みんなの持てる力を100%会社やプロダクトに対して発揮できるようにしていきたいです。

また、開発に直接関わることでなくても、組織を良くしたいというエンジニアがいれば、誰でもそれを主導できるようにしていきたいですし、エンジニアが行うことの枠を狭めたくないなと思っています。

田中 私は、社会人としてのファーストキャリアがクラスターの立ち上げなので、今までずっと手探りでやってきました。なので、これまでは他の大手企業などの在籍経験を持つメンバーが入ってきてくれて、その知見に助けられながらうまく組織づくりをできていたのだと思っています。

その一方で、今後は自分自身でも、他の企業でうまくいっていることをクラスターに持ち込むという動きをやっていかなければと考えています。

現在も、弊社ではエンジニアをはじめとして人材を積極的に募集しています。その先で、エンジニア組織を100人、200人規模へと拡大していっても、うまく組織づくりをしていけるような人材になるべく、私自身も学びながらチャレンジしていきたいです。(了)

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