- 株式会社TimeTree
- COSO / 最高組織責任者
- 里見 玲爾
世界で5,000万ユーザー超えのTimeTree。新設したCOSO(最高組織責任者)の役割と取り組み
組織規模が大きく変化していくスタートアップにとって、メンバーの増加に伴う組織構造の変革は、会社の命運を左右する重要課題のひとつである。
2014年に創業し、全世界の登録ユーザー数が5,000万人を突破したカレンダーシェアアプリ「TimeTree」を展開する株式会社TimeTreeは、創業以来「自由・自律」を掲げた組織運営を行ってきた。上司がおらず、働く場所も勤務時間もメンバー個人の判断に委ねるという体制で、順調に事業を成長させることができていたという。
しかし、次第に若手メンバーが増え、組織が30人規模になったフェーズから、それぞれの自主性に任せるだけでは組織運営が成り立たなくなっていった。
そこで、2023年に初めてCxOの役職を設ける「チーフ・オフィサー制」を導入。その中で「COSO(Chief Organizational System Officer/最高組織責任者)」というポジションも新設した。
COSOは、企業文化やミッションアラインメントの仕組み、社内コミュニケーションの仕組みといった「組織のOS」ともいえる領域を担う、他社にはないユニークなポジションとのこと。現在、COSOが主導してさまざまな取り組みを実施している。
今回は、同社のCEOである深川 泰斗さんと、新たにCOSOとなった里見 玲爾さんに、自由・自律の文化を保ちながらも、ミッション達成に向けて組織を前進させる取り組みについて、詳しくお話を伺った。
一番価値を発揮できる環境は本人が選ぶ。自由で自律的な組織づくり
深川 私はヤフーやカカオジャパンを経て、2014年にJUBILEE WORKS(現TimeTree)を共同設立し、CEOを務めています。
弊社は、2015年3月にカレンダーシェアアプリ「TimeTree」をリリースしました。このサービスはご家族やパートナー、職場などのグループ間で予定調整・管理を効率化できることから、ありがたいことに多くの方々にご利用いただけるサービスに成長しています。
ほかにも、広告配信プラットフォーム「TimeTree Ads」、サブスクリプションプラン「TimeTreeプレミアム」、ソーシャルギフト事業「TimeTreeギフト」といった、さまざまなビジネスを展開しています。
▼【左】里見さん 【右】深川さん
現在の組織規模は70人ほどで、創業当時から「自由で自律した働き方」を支える制度や仕組みづくりに注力してきました。具体的には、コアタイム無しのフレックスやリモート環境をはじめ、貸与PCのスペックを個々に選択できたり、書籍の購入費を会社が全額補助したりするといった自由度の高い制度を整えています。
その背景には、「どうすれば価値を発揮しやすいかは、本人が一番よく知っているはずだ」という私自身の考えがあります。
なので、一人ひとりの強みや特性は違うものの、それぞれが最高のパフォーマンスを発揮できる働き方や手法を選んで価値を発揮する。それが合わさることで企業全体で最大限の価値を発揮するという、「オーケストラ」のような組織運営をしたいと思っているんです。
もちろん、会社として全くメンバーを管理していないわけではありません。例えば、Slack上のbotで始業・終業コメントを自動収集する形で勤怠ログをつけていますし、稼働時間が極端に長い人がいれば、衛生委員会が状況を確認してフォローもしています。
正解のない新しい領域だからこそ、「発見」を共有しやすい文化を醸成
深川 そもそもカレンダーシェアアプリ自体が新しい領域なので、どんな価値提供をすればユーザーさんに喜んでもらえるのか、どんなビジネスがフィットするのか、誰も正解を持っていません。
なので、数多くのトライをする中で、どんなチャンスの芽を発見できたのかに着目し、それを社内で共有できる風土を醸成するようにしています。
とはいえ、「良いことを思いついた」「嫌な予感がする」といった思いつきを、わざわざ周りの人に伝えることに抵抗があり、心の中にしまいこんでしまう人もいると思います。
そういった機会損失を防ぐために、いつでも経営陣と1on1を実施できるようにしたり、日常的に私から「何か気になることはある?」と声がけしたり、全員が気軽にニックネームで呼び合えるようにしたりといった工夫をしています。ちなみに私はみんなから「Fred(フレッド)」と呼ばれています(笑)。
さらに、全社の風土として、何をする時にも「Why」を明確にすることも徹底しています。なぜ自分がそれをやるのかという想いを共有しなければ、周囲のメンバーから意見を出そうにも的外れなものになりかねません。
なので、ユーザー満足度を上げるためなのか、収益性を高めるためなのかといった目的や背景も周囲にきちんと伝えることで、得られる意見の質を上げることを意識しています。
また、経営会議の議事録もSlackで全体共有するなど、できる限り情報をオープンにして透明化を図ることで、メンバーが主体的に動けるようにもなっていると思いますね。
組織拡大や環境変化に伴って、「自由・自律の文化」の壁に直面した
深川 創業以来このような自由で自律的な組織づくりを続けてきた中で、既存のやり方ではうまく進まなくなるようなフェーズも経験しました。
まず、1度目の壁にぶつかったのが、組織が30人規模になった頃でした。創業から3年ほど経って社内でさまざまな取り組みが動いていたため、全体の動きが見えづらくなっていたんです。そのため、全社やプロジェクトごとのOKRを設定して、それぞれの課題と何にフォーカスすべきかを見える化しました。
加えて、新たに入社した若手メンバーたちが、TimeTreeの自由な組織文化についてこれないという課題も生じました。
というのも、創業時からの数年はベテランメンバーしか在籍していなかったため、上司がいなくても各々の判断で動けていたんです。しかし、「オフィスには来ても来なくても良い」「働く時間もやることも自己判断で良い」という文化のため、まだ社会人経験が少ないメンバーは戸惑って動けなくなってしまいました。
そこで、オンボーディングの仕組みを整備して、希望するメンバーにはメンターがついて伴走する体制にしました。
その後、2度目の壁にぶつかったのが、コロナ禍で状況が一変したタイミングでした。それ以前もリモートワークをOKしていたものの、9割のメンバーがオフィスに出社していた状況から、その割合が逆転して物理的に顔を合わせる機会が一気に減少しました。
そうなると、メンバーが会社の全体像を把握しながら、自律的に動くことがより難しくなってしまって。以前はOKRで全体像を可視化するだけで乗り越えられましたが、この時はもう一歩踏み込んで、それぞれの責任と役割までを明確化する必要性を感じました。
リモート環境での組織体制を強化すべく、チーム・オフィサー制を導入
深川 そこで2023年頭に、組織体制の強化を目的に「チーフ・オフィサー制」を導入しました。これまでの自由で自律的な組織文化は維持しつつも、初めてCDO、CBO、CFO、CPO、CTO、COSO、CHCOといった役職を設けた形です。
それらの役職に就くメンバーは、組織図上はいわゆる「上司」ですが、特定の人が偉いわけではありません。彼らがメンバーのアイデアや才能を引き出し、それらを統合するというリーダーシップを発揮することで、組織、プロダクト、ビジネスの成長を後押しする仕組みにできればと考えました。
そして、今回新設した役職のうち、「COSO(Chief Organizational System Officer / 最高組織責任者)」を担ってくれているのが里見さんです。
里見 私はエンジニアとしてヤフーに新卒入社し、カカオジャパンなどを経て、2018年にTimeTreeにジョインしました。入社後は主にプロジェクトリードや情報セキュリティーチームリードなどを兼務しています。
そして、2023年からはチーフ・オフィサー制の導入に伴って、COSOに就任しました。COSOは企業文化やミッションアラインメントの仕組み、社内コミュニケーションの仕組みといった「組織のOS」ともいえる領域を担う、他社にはないユニークなポジションです。
深川 ここで、独自にCOSOを設けた背景を少しご説明できればと思います。まず、自由や自律を重視するとトップダウンでの指揮系統がないため、ともすれば一人ひとりのベクトルが多方面に向いてしまい、全社のミッション達成が遠のいてしまう可能性もあります。
特にリモートワークへの全面的な移行によって、オフィスという文化の土壌がなくなってしまった中でどのように組織運営していくかは、TimeTreeの今後を左右するとても深刻な問題でした。
そんな時、海外の事例で「チーフワークフローオフィサー」という職種ができたという事例を耳にしました。主に、組織内でビジネスプロセスやワークフローを改善して、組織のコラボレーションを促進するといった役割です。
これを聞いて、オンライン環境下ではワークフローが組織運営の土台になるのかと、新たな発見でしたね。
そこから、カルチャーやコミュニケーション施策なども含む「組織のOS」をまとめる役割をつくることで、自由・自律を維持しながら組織をうまく機能させられるのではないかと考えたのが、COSOを設けた理由です。
全員が迷わず進めるように、ミッションツリーとOKRで役割を明確化
里見 ここからはTimeTreeが自律の組織文化を育て、浸透させるために行っている取り組みを3つご紹介します。
1つ目の取り組みは、ミッションツリーの作成です。従来から組織図はありましたが、それぞれの組織が全体のミッションに対してどのような動きをしているのかは見えていませんでした。
その関連性をツリー状に見える化したことで、組織やメンバーごとに担っている業務が会社のミッションにどのように繋がっているのかを、明確に把握できるようになりました。
▼同社のミッションツリー(一例)
2つ目の取り組みは、OKRの見直しです。OKR自体は2018年から導入していましたが、現在はミッションツリーで中長期的な目線合わせをし、OKRで短期的な足並みを揃える形で併用しています。
とはいえ、OKRで有益な目標設定をすることは簡単ではないので、メンバーが判断に迷うことなく、パフォーマンスを発揮できる目標を設定できるように、新たにOKRガイドを作成しました。
深川 例えば、一般的にKR(Key Result)は具体的な定量結果を記述しますが、O(Objective)はどこかキャッチコピー的な表現になることが多いように思います。そのため、具体的に何を指すのかが不明瞭になることが少なくありません。
そういった背景から、OKRガイドでは「Oは簡潔に書くよりも、ナラティブでストーリー性をもたせた記述にすること」を推奨しています。
また、多くの場合はOとKRのみを設定しますが、TimeTreeではそれらを達成するための具体的なアクションとして、Activityも定めることとしています。さらには「OKRマスター」という、メンバーのOKR策定を支援する役割も設けました。
COSO/最高組織責任者として、組織のOSとなる文化を進化させる
里見 3つ目の取り組みは、組織の健康状態を常に測りながら施策を打つための「社内見える化アンケート」の実施です。これは2021年から3ヶ月に1度の頻度で継続しているものとなります。
具体的には、「会社の長期的なミッションを理解していて、他の人にも説明できる」「自分の業務が今期の重要テーマとどのように結びついているか説明できる」「遠慮なく意見を言ったり相談できる」といった質問項目に対して、5段階評価で回答してもらっています。
この結果をもとに、何かしらの理解不足があれば、会議のアジェンダやワークショップのテーマなどを調整して理解度を深めるといった、具体的な施策に落とし込んでいます。
ほかにも、月1回の頻度で社内の知見を共有する「JUBILEE Friday」を実施し、個々のアウトプットからインスピレーションを得られる機会をつくったり、社内のSlack運用ガイドラインやNotionの活用法を策定したりすることで、組織のOSとなるカルチャーを醸成しています。
深川 私が特に面白いなと思っているのは、社内情報を載せているNotionの記事に「いいね」を押せる機能や、みんなのおすすめ記事がホームに表示されるロジックを実装してくれたことですね。
こういったテクノロジーを活用して社内を盛り上げる施策は、エンジニア出身である里見ならではだなと感じています。
▼TimeTreeのNotionホーム画面には「おすすめ」「いいね」の多い記事が並ぶ
今後も文化を守りつつ、組織規模に合わせて新たな仕組みを構築したい
里見 これらの取り組みの中にはまだ始まったばかりのものもありますが、手応えも感じています。
組織のOSを仕組み化したことで、見えづらくなっていた組織の全体像を全員が掴みやすくなったと思います。また、メンバーからは「社内の議論がしやすくなった」との声ももらえるようになりました。
今後も、エンジニアというバックボーンを活かしながら、組織にとって必要なものを実装していき、さらなる仕組みづくりを進めていきたいと思っています。
深川 私がメンバーの様子を見ていても、仕事への姿勢に変化が見られます。まずミッションツリーやOKRで各々の役割が明確になったので、一人ひとりがすべきことに集中できるようになったと思います。
また、議論においてもそれぞれの役割や責任を前提に「この観点から見るとこうだ」という建設的な意見が増えており、組織として健全な摩擦が生まれているように思います。
今は70名規模の組織にフィットしたやり方を選択しているので、今後も積極的に採用する中でどんどん組織が拡大していけば、また異なる仕組みが必要になると思います。
その時も「自由・自律」の文化を大切に、個々人が強みを発揮できるような組織の在り方を見出していきたいと思います。(了)