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バイネームで呼び合える関係構築が鍵。ファン度の高い「ココグルメ」コミュニティ運営術とは​​

オンラインを軸に事業展開している企業が、熱量の高いコミュニティを形成し事業成長に繋げるためには、どのようなポイントを押さえると良いのだろうか。

フレッシュペットフードというカテゴリで、累計販売1億2,000万食、会員愛犬数20万頭を突破し、売上No.1の愛犬用「CoCo Gourmet(以下、ココグルメ)」、愛猫用「Miao Gourmet(以下、ミャオグルメ)」を開発・販売する株式会社バイオフィリア

2024年1月にシリーズBファーストクローズでの資金調達を実施し、累計調達額が約12億円となった同社は、今まさに世界へMade in Japanのフレッシュペットフードを広げていこうとしている、注目のD2Cベンチャー企業である。

同社で取締役COOを務める矢作 裕之さんは、創業からの数年は売上ゼロで何度も倒産の危機に瀕し、最後の挑戦として日本初のフレッシュペットフードの開発を始めたという。その後は、顧客である愛犬・愛猫の名前を覚えて「○○パパ・ママ」とバイネームで呼び合い、「オンライン販売であっても人対人の関係性を築く」ことに注力しているそうだ。

また、オフライン施策である展示会やPOPUPイベントなどの出展は年間約20回にもおよび、Web広告と同様にROIを重視。1つのマーケティング施策として採算を合わせながら出展し続け、直接的なコミュニケーションも重ねることで、Web購入の売上増に繋がっていると語る。

そこで今回は矢作さんに、同社が最も力を入れているというコミュニティ形成・運営術について、詳しくお話を伺った。

創業時は何度も倒産しかけ、最後に挑んだカテゴリで国内売上No.1へ

僕は、大学院卒業後にインフラエンジニアとして入社した日本オラクルで、大企業向けのシステム開発に従事していました。その頃に同級生の岩橋と偶然再会し、お互いに起業を考えていたことから、それぞれの興味領域である「IT×ペット」を軸に、2017年8月に共同創業したのがバイオフィリアです。

弊社は、動物の幸せと人の幸せが循環していく共生社会を目指して、獣医師監修の国産手づくりドッグフード「ココグルメ」やキャットフード「ミャオグルメ」を開発し、通信販売しているD2C企業です。

これまで多くの方々に支えていただき、年間売上は23億円、会員愛犬数は20万頭を超え、売上・会員数ともにフレッシュペットフード領域で国内No.1という成果に繋げることができています。しかし、これまでを振り返ると、決して順調に事業成長してきたわけではありませんでした。

▼取締役COO 矢作 裕之さん(手に持っているのがフレッシュペットフード「ココグルメ」)

というのも、僕たちは創業前に事業を作った経験がなく、ベンチャーやスタートアップ業界の人脈もなかったので、本当に手探り状態でのスタートだったんです。

当時は自己資金で始めて、試行錯誤しながらも売上ゼロの状態で1年半が過ぎ、資金調達もできずに銀行口座の残高が3万円になるほど追い込まれていました

そこで、「IT×ペット」のITは一旦捨てて、「これでダメだったら会社を解散しよう」と最後に挑戦したのが、低温加熱で栄養素を残したまま調理し、冷凍販売できるフレッシュペットフードでした。

このカテゴリを選んだのは、その頃の日本にはまだフレッシュペットフードがなかった一方で、アメリカでは美味しさと健康面のメリットが注目されて、2013年頃から流行っていたことが理由です。また、岩橋の愛犬が亡くなってしまって、ペットの健康に対して課題感をもったという背景もありました。

そのような経緯で商品開発を始めましたが、当時は「市場が小さい」ということで投資家の方になかなか支援していただけず、創業初期は何度も倒産しかける事態になっていましたね。

そこから地道に、商品の改良やお客様との関係構築を繰り返しながら、徐々に業績を積み上げてきた形です。

▼同社の創業からこれまでの変遷

飼い主よりも愛犬・愛猫が喜ぶことを。重視している3つのポイントとは

現在の組織はフルタイムのメンバーで40〜50人規模になっており、マーケティングとカスタマーサポートにそれぞれ15人ほど、商品開発5人、バックオフィス5人、営業5人という構成です。

今回は、僕たちが最も力を入れている「コミュニティ形成と運営法」について詳しくお話しできればと思いますが、まずはその前提として重視している3つのポイントについてお伝えします。

1つ目は、お客様に徹底的にフォーカスすることです。僕たちの一番のお客様はわんちゃん、ネコちゃんなので、飼い主さんに喜ばれる施策の優先度以上に、商品そのものの品質や美味しさを高めることに注力しています。

2つ目は、「右脳(アイデア)と左脳(ロジック)」の両軸のバランスを取ることです。

もともとペット業界は、「人間の食材の余り」を活用したペットフードが主流なことや、「可愛い」を優先した生体販売と殺処分の課題など、人間にとっての最適解を突き詰めた結果生まれたものが多くあります。しかし、「ペットは家族」と捉えるようになった現代では、事業者側ももっと動物のためになる商品開発が重要だと考えています。

なので、僕たちが事業や施策を考える上では、「動物のため」を考える右脳と、短期〜長期の持続可能性をロジックで考えることの両面を大切にしています。

そして3つ目が、不恰好でも良いからとにかく手数を増やすことです。僕たちはペットと人間の在り方が変化している中で事業を展開しているので、何をするにも正解がありません。そのため、先入観にとらわれずに色々なことにトライして、その中でできることを続けていこうという姿勢を大事にしています。

コミュニティ運営では「バイネームで呼び合える関係性」を最重視

ここからは、フレッシュドッグフード「ココグルメ」の業績にも大きく寄与している、コミュニティ形成と運営法についてお話しできればと思います。

前提として、僕たちは通信販売というスタイルを取りながらも、「わんちゃん、飼い主さんとバイネームでお付き合いできる関係性」を築くことを最も重視しています。

それはなぜかというと、一度商品の良さを体感していただいた後に、「ココちゃんパパ・ママ」のようにバイネームで呼び合う関係性になれると、そうでない場合と比べてLTVが2〜3倍以上に高まったことが率直な理由です。

とはいえ、バイネームとして呼び合うことはお互いの体験として純粋に嬉しいことなので、最初からLTVの向上を狙っているわけではありません。結果的に成果に繋げられればという考えをもって、いかに僕たちのことを知ってもらい、そのような関係性を築けるかを考えながら施策を検討しています。

まずオンライン施策に関しては、「既存のお客様(飼い主さん)とのコミュニティ形成」に焦点をあててSNS運用している点が特徴的だと思います。

なので、新規のお客様のインプレッションは全く追っていなくて、主にSNSでの投稿に対する既存のお客様からのコメントやDM、そしてインスタライブへの参加者やコメントの数を指標として見ています。

加えて、お客様が弊社や商品について投稿してくださった投稿には、必ずすべてコメントを返しています。その際も、愛犬の名前が書かれていれば「○○パパ(ママ)」と添えて会話することで、通信販売ゆえの顔が見えない存在ではなく、1人の人間として認識していただけるように工夫しています。これを3年以上続けてきた形です。

このようなコミュニケーションを生むためには、お客様から第一歩となるアクションをしていただくことが重要なので、例えば商品をお届けするBOXを「思わず写真を撮ってUPしたくなるようなデザイン」に改良し続けています。

この施策においても、定性的な可愛さだけなく、「UGC(ユーザー生成コンテンツ)が何件上がったか?」を定量的に見て、かけたコストを上回るインパクトが返ってきたかを計算した上で、正式にリニューアルするかどうかを決定しています。

▼実際にデザイン改良によってUGCが上がった「ワンワンBOX」施策​​

また、電話やテキストでのコミュニケーションに限られるカスタマーサポートにおいても、単純にお問合せ内容に答えるだけでなく、過去に伺った内容からわんちゃんを気遣ったひと言を添えるようにしています。

そのように1回ごとのタッチポイントにこだわって、後々バイネームで問い合わせの指名をいただけるようなコミュニケーションを心がけていますね。

赤字になりやすいオフライン出展も、CPAを合わせて年間約20回実施

オフラインの活動は2022年4月頃から注力するようになり、年間約20回の展示会やPOPUPイベントを実施して、1万人ほどのお客様とリアルに会える場を持つようにしています。

一般的に、オフライン施策は労力もコストもかかるので、ブランディングを目的に採算度外視で実施される企業が多いと思います。しかし、僕たちは社員全員が日替わりで現場に赴くほど運営に力を入れながら、Web広告と同様にROIを重視して、1つのマーケティング施策として採算を合わせながら実施し続けています。

ちなみに、弊社の社員もみんな動物と暮らしていて、オフィスはもちろん展示会などのイベントにも連れていくことが多いので、ここでもお客様とバイネームで呼び合うのが自然な光景になっていますね。

▼展示会やPOPUPイベントでは、交代しながら社員全員が参加するようにしている

どのようにCPAを合わせているかですが、現在の運営内容に至るまでには試行錯誤を繰り返しました。

例えば、ペットに関する展示会はいわゆるコミケのような盛り上がりがあって、魅力的な展示が多いので、試食していただいてもすぐに忘れられてしまうんですね。なので、試食後にオンラインサイトのチラシを配っても、全然売上に繋がりませんでした。

そこで、冷凍の商品を持ち帰っていただけるように保冷剤や保冷バッグを無償で提供し、自宅でもココグルメを思い出していただけるように工夫しました。

▼無料試食に加えて、当日自宅でも商品を体験できる仕組みを作ることでWeb購入に繋げた

また、直近1年では、わんちゃんが食べられるたい焼きやたこ焼き、かき氷などを配り、縁日のイメージで楽しんでいただきながら、商品を体験していただくことも始めました。

このような工夫によって、その場でも少しばかり収益を上げつつ、持ち帰った商品をわんちゃんがすごく喜んで食べてくれたということでWeb購入にも繋がるようになったため、展示会出展の採算を合わせられるようになりました。

▼わんちゃん用の「たこ焼き」を特典で配るなど、展示会で採算が取れる工夫も繰り返した

その他にも、LINE@に誘導するキャンペーンに加えて、SNSでのUGCによる二次拡散を狙って、わんちゃんが可愛く、綺麗に取れるフォトブースを用意しています。

それによって、そのUGCを見た方のインプレッションに繋げるのはもちろん、UGCを投稿してくださったお客様のブランド購入意向を高めることができ​ています。

▼フォトブースのデザインも、撮影率・投稿率を上げるための工夫を続けている

時には、わんちゃん来店OKのカフェとコラボさせていただいて、僕たちが試食を提供する形で街中での小規模イベントも実施しています。

これらのオフライン施策では「目標CPT(=Cost Per Tasting コストパーテイスティング / 試食)」を設けているので、来場者・出店料・内装費用・場所などのイベント出展にまつわるあらゆるコストを評価できるようにしています。

僕たちがこのようなオフライン施策に力を入れている理由は、「市場の限界値を突破するため」です。ここまでスマホが普及した現代でも、購買の70〜80%はオフライン店舗で行われていると言われています。

なので、今後100億円規模の売上を超えていくためには、オフライン施策の成功は避けて通れないと考えていて。Web広告以上に「CPAを合わせて新規の顧客様に購入していただくための媒体」と捉えて、積極的に運用している形です。

顧客と一緒にブランドを成長させる「ごはん開発部」と「広報大使」

最後に、お客様と一緒にブランドを育てる目的の「ごはん開発部」「広報大使」についてもご紹介します。

ひと言で「わんちゃん」と言っても、大型犬、小型犬、赤ちゃんから老犬、健康状態まで色々な子がいるので、ごはん開発部ではその名の通り、商品開発のための試食モニターをしていただいています。

具体的には、ラベルのない2つの試作品をお皿に並べて、わんちゃんがどちらを先に選んだかや、完食にかかった時間などを教えてもらうような内容を実施しています。

また、広報大使は「愛犬のベスト写真を応募していただき、ココグルメの広告に一緒に載りませんか?」という取り組みです。その写真は冊子の裏表紙やメルマガ、都内のゆりかもめやハチ公前などの広告でも掲載させていただいています。実際に広告に掲載された方は、現地に出向いて愛犬と一緒に写真を撮って、SNSに上げてくださっていますね。

この広報大使の方々は現在100人ほどいますが、ココグルメのお友達招待キャンペーンの半数ほどは広報大使からのご紹介です。

これらの様々な取り組みを通じて、D2C企業でありながら、お客様との密なコミュニケーションを実現することができています。中には、展示会に差し入れを持って応援しにきてくださる方や、社員と暮らしている「わんちゃん宛て」に年賀状をくださる方までいらっしゃるんです(笑)

このような日々の温かいやり取りから、お客様が我々と一緒にブランド作りをしてくださっていることを感じていて、心から感謝しています。

ここまで、僕たちの取り組みについてお話しさせていただきましたが、どの業界であってもコミュニティ運営で絶対に重視すべき要素は、やはり「バイネームでのコミュニケーション」ではないでしょうか。

オンライン主体の業態であっても、いかに人対人としてお付き合いできるかが、事業成長においてとても重要なポイントだと思っています。

台湾進出を皮切りに、世界へMade in Japanのフレッシュフードを届けたい

直近の取り組みとして、シリーズBファーストクローズで3.7億円の資金調達を実施して、累計調達額は約12億円になりました。この資金の活用用途の1つとして、今後は海外事業の展開を進めていく予定です。

まずはその足がかりとして、2024年2月から台湾での商品販売を開始します。その後もMade in Japanのフレッシュペットフードを世界中に届けていくことで、日本を盛り上げていく一助になれればと思っています。

また、健康に良い商品を開発すること以外にもわんちゃん、ネコちゃんの助けになれたらと、能登半島地震の被災地のペットや、災害救助犬の食事などの寄附も行っています。そういった支援活動も陰ながら続けていきたいですね。

加えて、現在は関東中心でイベントを企画することが多く、地方のお客様とお会いできていないので、全国かつ大規模にイベントを開催して、今までの感謝を伝えられる場が作れたら良いなと考えています。

お会いできた際にはぜひたくさんの方と直接コミュニケーションを取りたいですし、その実現に一緒に尽力してくれる方がいれば、ぜひ僕たちの仲間としてジョインしてもらえると嬉しいです。(了)

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