• パーソルホールディングス株式会社
  • グループIT本部ワークスタイルインフラ部 デジタルEX推進室 室長
  • 上田 大樹

約2万人規模で生成AI活用!パーソルグループの導入裏話とは【SELECK miniLIVEレポート】

約2万人規模で生成AI活用!パーソルグループの導入裏話とは【SELECK miniLIVEレポート】

「SELECK miniLIVE」は、注目企業からゲストスピーカーをお招きし、X(旧Twitter)スペース上で30分間の音声配信を行う連載企画です。

2024年4月9日に開催した本回のゲストスピーカーはパーソルホールディングス株式会社のグループIT本部ワークスタイルインフラ部にて、デジタルEX推進室の室長を務める上田 大樹さん

上田さんは、パーソルグループ内の社員が約2万人の規模で利用する社内版GPTの内製開発や、生成AIリテラシー向上のための研修・学習イベントなどの施策設計と運営を担っていらっしゃるとのこと。

そこで今回のSELECK miniLIVEでは、同社における生成AI導入の経緯や活用事例に加えて、上田さんが考える生成AIの魅力、ツール開発時の取り組みについてお聞きしました。(聞き手:株式会社ゆめみ / Webメディア「SELECK」プロデューサー 工藤 元気)

本記事は、2024年4月9日に開催したSELECK miniLIVEの生配信を書き起こしした上で、読みやすさ・わかりやすさを優先し編集したものです。当日の音声アーカイブはこちらからお聞きいただけます。

非IT人材も含め、国内グループ会社で約2万人が「社内版GPT」を活用

工藤 SELECK miniLIVE、第3回のテーマは「約2万人規模で生成AI活用!パーソルグループの導入裏話に迫る」です。今回はパーソルホールディングス株式会社デジタルEX推進室、室長の上田 大樹さんにお越しいただきました!よろしくお願いします。

上田 こんにちは。よろしくお願いします。

工藤 まずは自己紹介として、上田さんが担われている業務内容について教えていただけますか。

上田 現在は、パーソルホールディングスで2023年10月に新設した「デジタルEX推進室」のマネジメントを担っており、「社内環境のデジタル化で従業員体験を良くする」ために日々取り組んでいます。

主な業務内容としては、グループ社内向けの生成AIを活用したツールの展開や、事業のプロダクト内にAIを組み込むための基盤の構築・展開などをおこなっています。

工藤 次に、今回のテーマである「生成AI」の中でも、特にChatGPT関連のお話を伺いたいのですが、貴社では普段どのような職種の方が生成AIを使っていらっしゃいますか?

上田 使用者の割合として多くを占める職種は、最初はIT系でした。ただ最近は、顧客と対峙する営業などのフロント職種の方や、人事・法務といったバックオフィス系の方など、幅広い職種で使われている印象があります。

例えばある営業の方は、私たちが内製した生成AIツール(通称:社内版GPT)に、「自分たちのサービスに対して批判的な態度をとる人格」をプロンプトとして指示して、AIを想定顧客として営業ロープレをしているという事例を聞きました。それは面白い活用方法だなと思います。

工藤 すごく高度な使い方をされているんですね!

上田 この社内版GPTは国内のグループ会社に展開していて、利用者の母数は約2万人です。月間アクティブユーザー数が約5,000人なので、25%ほどが日常的に利用していて、非IT系の方たちにもたくさん活用してもらっている状況ですね。

工藤 それはかなり高い数値だと感じました。IT系の方だと、新しいことを試してすぐに使いこなすケースは多いと思いますが、非IT系の職種の方も多く使っているのは興味深いです。

社内版GPT開発の目的は「はたらいて、笑おう。」というビジョンの体現

工藤 そもそも、なぜ企業内で生成AIツールを開発するに至ったのでしょうか?

上田 内製開発に踏み切った理由は2つあります。1つ目は、開発によってパーソルグループが掲げる「テクノロジードリブンの人材サービス企業」を実現できると感じたこと。そして2つ目は、生成AIの可能性を私自身が確信したからです。

その背景にある私の考えをお話しすると、まず人間の仕事を大きく分けた時に、「やらなきゃいけない仕事」と「やりたい仕事」の2つがあると思っていて。その中でも「やりたい仕事」の比率を高めることが、人生やキャリアにおいて大事なテーマになると考えています。

しかし現実として、やりたい仕事だけに絞るのは難しいので、テクノロジーの力を使って「やらなきゃいけない仕事の時間を圧縮させる」しかありません。

そんな中で、ChatGPTをはじめとする生成AIの技術が出てきて、実際に触れてみると「すごく大きな可能性を秘めているな」と感じました。これを活用すれば間違いなく、やらなきゃいけない仕事を圧縮できると確信したのが、開発に取り組んだきっかけですね。

工藤 私自身、パーソルさんの「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンや、最近dodaのCMで流れている「自分で決める」というキーワードにすごく共感していて。そんな未来を実現するために、やらなければならない仕事をデジタルで圧縮していくための手段のひとつが、生成AIなんですね。

上田 私はこれまで、生成AIに限らずWeb3やメタバースなどいろいろなテクノロジーに触れてきました。ことAIに関していうと、「将棋の世界でAIが勝った」といったニュースで一大トレンドになった2017〜2018年頃から触れ始めていて。当時は前職でAIチャットボットを開発し、さまざまな業種のIT領域に携わる方に向けたセミナーなどにもチャレンジしていました。

ですが、膨大な開発工数や、意図した回答精度をなかなか出せないという課題があり、実用化までの道のりは長いと感じていました。そして、2022年11月に「ChatGPT」が突然出てきて、その回答精度の高さには驚きましたね。

また、アプリケーションの組み込みが以前と比べてあまりにも容易になったこと。そして、とにかく汎用性が高いことも印象的でした。

基盤モデルとしてすぐ使える状態のAIであるにも関わらず、テキストを使うものであればあらゆる業務に対応できるという汎用性の高さによって、ChatGPTは一瞬で1億ユーザーを突破しました。これはもう明らかに「トレンドからインフラに変わっていく」と確信するとともに、AI活用の可能性を感じましたね。

AI推進には不安感の払拭が重要。「安心・安全」をコンセプトに内製した

工藤 今回パーソルさんは生成AIツールを内製開発したとのことですが、社内で展開されているのはChatGPT形式でしょうか?

上田 そうですね。あとは開発時にパーソルグループ独自のコンセプトを2つ設けました。そのひとつが「安心・安全」です。

一般公開されているOpenAIのChatGPTを企業内で利用する場合は、どんなデータを入力したら問題になるのか、生成された回答をどのように扱えば良いのかといった、いわゆる「不安感」が付きまとうものです。

なので、まず社内の法務や情報セキュリティ部門といった専門分野の方々とチームを組んで議論しながら、生成AIの利用に関するガイドラインを作成しました。

また、内製した社内版GPTを使う際に、データ入力時の説明や注意点が必ず表示されるようになっていて、データを入力できる範囲も明確に定めています。

なお、私たちはマイクロソフトさんのTeamsを利用しているので、その個人タブの中に社内版GPTのアシスタント機能を常設して、オフィシャルなツールとして機動力高く活用できるようにしています。

Teamsに社内版GPTのアシスタント機能を常設し、社員が活用しやすくしている

工藤 パーソルさんは人材サービス企業として、情報資産を守るために高度なセキュリティ管理をしていらっしゃると思います。それゆえに、法務や情報セキュリティ部門からは、生成AIツールの導入に批判的な声が上がりやすかったのではないかなと感じました。

実際にどのように対話しながら、内製開発に向けたチームを作っていったのでしょうか?

上田 今回は、まず「目的を共有する」ところから始めました。すると、どの部門も共通して、生成AIの活用をとめたいのではなく、重要なテクノロジーの要素として安全に活用していくことを見据えたリスク対策などを講じていくべきである、と方向性が明確になっていきました。

なので、一緒に取り組んでいく「推進メンバー」のような形で組織横断のチームが作れて、強力な味方に変わったというのが、今回の取り組みにおける一番の肝だったかなと感じますね。

工藤 一見批判者になりやすいような役割の方も、一緒のチームとして強い味方にできたことが、重要なポイントだったんですね。

「学びを得られるプラットフォーム」にするため、社員の声を活かす

上田 マクロな視点でいうと、今は全人類が生成AIを学んでいるフェーズだといっても過言ではないと思っています。そのため、社内版GPTの開発・導入においては「学びを得られるプラットフォームにしよう」というコンセプトもありました。

例えばアプリケーション内に「動画プレイリスト」を用意して、社内のAI系イベントのアーカイブ動画や、AIの動作原理に関する解説動画などを配信しています。

また、AIへの入力指示文であるプロンプトをテンプレート化して保存できる機能や、社員が作ったプロンプトを社内で共有できる「プロンプトギャラリー」もあります。「いいね」スタンプで反応したり、各々がハッシュタグをつけて投稿できたりといった、「学びを共有する文化の醸成」を意識して作っていますね。

プロンプトギャラリー工藤 個々人のリテラシーの差に合わせてラーニングコンテンツを作り、社員自身が共有しやすくなる工夫を施すことで、相互での学びを発生させる仕組みなんですね。

上田 「利用者参加型で成長させる」という目標もあるので、Teamsの中に社内版GPT活用に特化したコミュニティ用のチームを立ちあげて、そこに社員が自由に参加して意見交換したり、日々トライした内容を共有したりできるようにしています。

そこで「こういう機能があったらいいな」といった声が出たら、きちんとキャッチアップできるように心がけていて。先ほどご紹介したアプリケーション内の動画プレイリストやプロンプト共有機能も、実は社員の声から生まれた機能なんです。

工藤 そうなんですね!ちなみに社内コミュニティの利用に関しては、どのくらいの規模になっているのでしょうか?

上田 コミュニティはボトムアップで進めてきたものですが、当初20人程度からスタートし、現在は国内グループ会社横断で1,270人まで増えてきました。だんだん、社内のオフィシャルなコミュニティになりつつあるかなと感じています。

プロンプトギャラリーの利用者増加に向けたイベントも実施

工藤 先ほどお話にあった「プロンプトギャラリー」について、工夫した点や苦労した点があれば教えていただけますか?

上田 機能自体はさほど複雑ではないのですぐ実装したものの、社員の心理的なハードルが高くて、投稿するステップになかなか進まなかったんですね。ギャラリーは用意されているけど、誰もプロンプトを投稿しないっていう…。

そこで、プロンプトの評価レースといった、コミュニティ全体を盛り上げるイベントをやってみました。ハッシュタグやいいねスタンプを導入して、まずは社員が気軽に参加できるような取り組みを実施した形です。

その際は、プロンプトが未完成でも、レースに参加する意思表明を示す​​ハッシュタグをつければ気軽に投稿できる雰囲気づくりをしたので、次第にプロンプト投稿数が増えてきて。今では200を超えるプロンプトがアップされているような状態ですね。

工藤 一歩目としてはSNSやCGM的な要素を加えて、あえて社内競争を演出してブレイクスルーを図ったんですね。プロンプトギャラリーには、主にどのようなものが投稿されているのでしょうか?

上田 例えば会議のアジェンダや議事録の作成、メール文章作成といった日常で使うもの。また、SWOT分析やPEST分析のようなフレームワーク形式のもの、プレゼン資料の構成を考えてくれるもの、自分の作った企画に対して批判的なコメントをくれるプロンプトなどがあります。

あとは、先日社員200名ほどが生成AIパスポート試験を受験したのですが、まだ過去問が出ていない試験なので、問題集を生成する勉強用プロンプトをアップロードしてくれた社員もいましたね。

工藤 面白いですね!生成AIをより使いこなすために生成AIを使う、そんな活用方法まで生まれているのは驚きです。

学びのプラットフォーム実現に向けて、ロードマップを進化させていく

工藤 現在は「学びのプラットフォーム」の実現に向けて、リテラシーに合わせたラーニングコンテンツを用意されているフェーズだとお伺いしました。その先を見据えて、社員のリテラシーが向上した後のロードマップのようなものはあるのでしょうか?

上田 2023年度までは、私たちが定義する「生成AIマスター」に向けた山登りのように、初級編・中級編といった個々人で進めていく学習ロードマップを描いていました。

そして、2024年度の学習ロードマップは今まさに描いているところです。生成AIマスターへと山登りしてきた方たちが、中心人物もしくはインフルエンサー的な役割で、組織における生成AIの活用方法を広げていける未来を描こうとしている状況ですね。

工藤 それは素晴らしいですね、この先の学習ロードマップも興味深いです。

日本国内には、これから生成AIを活用していきたい、もしくはより効果的に使っていきたいという企業様がたくさんいらっしゃると思います。最後に、そういった企業様に対してアドバイスなどあれば、ぜひお聞かせください。

上田 まず生成AIについては、先ほど申し上げた通り「トレンドではなくて、働く環境や仕事の内容が変わっていく現代におけるインフラとなるテクノロジーである」と考えています。

これは、ほぼ間違いないと感じていますし、まだ実際に触ったことがない方も含めて、生成AIの魅力をぜひ知ってもらえたらなと思いますね。

また、テクノロジーの流れは抗っても止められないものです。そのため、どう活用していくのか、どうリスクを抑え込むかといったところが重要になってきます。

テクノロジーの導入における設計および推進では、やはり「ガバナンスに関わるチームをいかに味方につけるか」がカギとなります。目的を共有して、一緒に推進していける関係づくりができると、とても強力な味方になるんじゃないかなと、取り組みを通して実感しています。

加えて、社内版GPTの開発や、社員の学習・アップスキリングについてはパーソルグループのオウンドメディア「TECH DOOR」でもご紹介していますので、ぜひご参考いただければと思います。

工藤 ありがとうございます。大企業はその組織規模から、新しい技術への取り組みが遅れがちというバイアスがあると思いますが、そんな中でも果敢にチャレンジしているパーソルさんの姿勢。そして実際にお話しして伝わってくる上田さんのお人柄から、まさに「はたらいて、笑おう。」というビジョンを体現されていると感じました。

本日は貴重なお話をいただき、本当にありがとうございました!

上田 ありがとうございました!(了)

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