- NEO NFT PROJECT
- ファウンダー
- 中山 翔太
NFTを掛け合わせ、モータースポーツに新たな熱狂を生み出すNEOの挑戦
Web3とエンタメは親和性が高く、ゲームやアイドル、音楽ライブといった領域で数多くの事例が生まれている。
そうした中、「モータースポーツ」の領域でNFTの活用可能性を見出し、新たなエンターテイメントの創出を目指すWeb3プロジェクトがある。それが、「NEO NFT PROJECT (以下、NEO)」だ。
同プロジェクトは、「新時代のモータースポーツエンターテイメントを創り出す」ことをミッションに掲げ、2022年からスタート。
NFTを所有することで、シーズンごとに開催されるレースイベント「NEO SERIES」に参加できる。レースはオンラインとオフラインそれぞれで開催されており、参加せずともチームメンバーとして選手を応援したり、「応援SBT」を用いてスポーツベッティングを擬似体験できるなどして、業界内外の人々を惹きつけている。
まさに「Web3版のeスポーツイベント」といえる本大会のスポンサーには、SUZUKIやTOYOTA、Panasonicといった大手企業が参加しており、NEOに対する注目度の高さが伺える。
しかし、同プロジェクトのファウンダー 中山 翔太さん(@skillout202)によると、ここまでの成長に至るまでには過去の起業経験と当時の挫折経験が大きく影響しているという。
そこで今回は、モータースポーツとWeb3の融合に至った経緯や、NEOが目指す新時代のモータースポーツについて中山さんに詳しく話を伺った。
起業当初の野望に再挑戦するため「NEO NFT PROJECT」を始動
私は元々、国内最高峰の自動車レース「SUPER GT」に参加するLEXUS TEAM SARDに所属し、レーシングチームのスポンサー営業やプロモーション業務、ファンクラブの運営などに従事してきました。
その当時、自動車業界は電話やファックスが当たり前で、車のパーツもECサイトではなかなか買えないという状況だったこともあり、「自動車業界はIT化が遅れている」という課題感を抱いていたんです。
こうした課題を解決し、自動車業界のDXを推進したいという思いで2016年に立ち上げたのが、MiddleField株式会社です。その頃は、自動車業界の出身者がスタートアップを立ち上げるのは珍しく、ピッチ大会でも評価をいただき、エクイティとデットを合わせて10億円ほど資金を調達できました。
そしてシリーズBラウンドまで進んで、ようやく「これから」という時に、ちょうどコロナ禍の影響を受けてしまって…。加えて、これは私自身の経営力不足だったと反省しているのですが、ヒト、モノ、カネに関わる問題も同時に抱えてしまったんです。
最終的には会社を倒産させ、民事再生手続きを行うことになったのですが、僕としては「もう一度チャレンジしたい」というのが、正直な思いでした。
というのも、起業した当初から「新しいモータースポーツを創りたい」という気持ちが強くありました。
その背景として、既存のモータースポーツは若者世代がなかなか楽しめない環境だと感じています。レースを観に行こうと思っても移動手段が大変ですし、周囲に車好きの友達が少なかったりする。つまり、エンタメ性は非常に高いのにそれが活かされていないというのが、日本のモータースポーツにおける現状だと捉えています。
そうした中で、Web3の技術を用いてスポーツベッティングの疑似体験を作ることで、モータースポーツのエンタメ性をもっと世の中に広げられるのではないかと思い、2022年にNEOを立ち上げました。
まずはリアルイベントで認知を獲得し、地道な営業からスタート
立ち上げ後のファーストステップは、レーシング大会に出場いただけるドライバー集めと集客でした。そこでまず、業界での認知拡大を目的に2022年12月にポルシェスタジオ銀座を貸し切ってお披露目イベントを開催しました。
ちょうどタイミング的にも、ポルシェがNFTを出すというニュースが注目されていたこともあり、Web3業界のインフルエンサーの方々に多くご参加いただいた印象があります。
参加者にはNFTのAL(アローリスト)を配布し、さらにシミュレーターの体験機会を設けることで、NEOの取り組みをより深く知ってもらう機会を作れるよう工夫しました。
そしてイベント後日、AL保有者に対してレーシングイベント「NEO SERIES」への参加権とレーシングシミュレーター乗り放題のユーティリティが付いた「NEO LICENSE NFT」を販売する旨を、直接DMでお送りしたんです。
かなり地道な営業手法ではありましたが、そこから興味を持っていただいた方にNFTを購入いただき、2023年3月に第1回目となるNEO SERIESを無事開催することができました。
これまでNEOを運営する中で実感しているのは、業界内外の多くの方に知っていただくには、「Web3の技術や思想を活かして、いかに付加価値を創出できるか」に尽きるということです。
ビジネスモデル自体、あるいはコンテンツそのものにどうWeb3要素を紐づけるかによって訴求できる層が変わってくるため、そのバランスを意識して運営している形です。
現在、NEOでは2つのNFTを販売しており、3つ目の販売準備をしています。1つ目はレース出場に必要な「NEO LICENSE NFT」、2つ目は各チームに所属できる「NEO TEAM NFT」、そして3つ目はマシンの所有権となる「NEO MACHINE NFT」です。ユーティリティは更新中ですが、それぞれ主に以下のような特徴があります。
スポンサー獲得では、NEOに共感する「仲間集め」を意識
とはいえ、プロジェクトの継続的な運営にはNFTの売上だけでは十分でないと思っていたので、スポンサー企業の開拓も並行して行いました。
その際に心がけたのが、「モータースポーツ×NFTの取り組みを応援してくれる仲間を集める」という感覚です。将来的な自動車業界へのWeb3技術の浸透を見据え、「PoCという枠組みでご一緒したい」というスタンスを大切にしていました。
つまり、私たちの経験やノウハウを活かしながら、スポンサー企業の方々と共創していきたいというメッセージを丁寧に伝えていった形です。
最初のスポンサー企業となったのは、元々繋がりがあった車のパーツメーカー「DAMD」で、彼らはWeb3領域に関心があったことから、スムーズに話が進みましたね。
その後、お披露目会にSUZUKIのDX担当の方が参加してくださったことをきっかけにSUZUKIのスポンサーも決まり、業界内での話題作りも加速していきました。
ただし、単なるスポンサーシップではお互いのメリットが限定的になると考え、協業の一環としてNFTプロジェクトを提案させていただきました。その結果として実現したのが、SUZUKIの人気車種「ジムニー」のNFTです。
NEO TOKYO PUNKSなどの日本発のNFTプロジェクトとコラボし、彼らにカラーリングしてもらったマシンを用いてプロジェクト対抗型の「ジムニーレース」も開催しました。
そして、各NFTプロジェクトのホルダーさんにジムニーのNFTをプレゼントすることで、「NEOが何か面白いことをやっている」と気づいてもらい、NEOのエコシステムに関わっていただける方を増やせたらという狙いもありました。
現在、スポンサーをいただいている企業さんは合計で12社になります。Web3に興味がある企業さんがメインで、今後はもう少し増やしていきたいと思っていますね。
コミュニティ運営よりも、あえて大会運営に注力する理由
NEOではDiscordを使ったオンラインコミュニティを設けていますが、私たち運営はあえてコミュニティ運営に注力していません。その背景として、チーム単位での自発的な活動を促したいという考えがあるからです。
そのため、私たちは「NEO SERIES」の大会運営に重きを置いていて、それをベースにいかに熱量を高められるかを模索しているところです。
例えば、3ヶ月に一度開催するイベントの集客施策として、開催1ヶ月前から毎日AMAを実施し、山を作れるよう意識しています。その集大成として、リアルイベントで交流を深めることでさらなる熱量の向上を図っています。
また、既存のモータースポーツではレースクイーンが会場を盛り上げていると思いますが、今後はそのようなエンタメ要素もあったら面白いと考えています。
一方で、コミュニティ運営については「TEAM NFT」保有者にある程度委ねつつ、一緒に運営していきたいと思っている反面、いくつかの課題も見えてきました。
例えば、TEAM NFTのホルダーに対して、大会ごとに申請をしてもらうと、自分が所属するチームが優勝したら賞金がもらえるユーティリティを設けているにも関わらず、利用は全体の30%ほどに留まっています。
プロジェクト開始から3年ほど経過しているので、おそらくNFTを持ったままで、あまりコミュニティ内の活動に積極的ではない方が一定数いるのではないかと思っていて。
このような状況では、TEAM NFTにガバナンストークンとしての機能を付与したとしても、参加率が低くなってしまい、各チームから意見を十分に吸い上げられないまま大会のレギュレーションを決めるということも起きうると思っています。けれども、大会の健全性を保つためには、やはり各チームの方々が運営を監視するような体制も必要です。
こうした現状を踏まえて、コミュニティ内の活動を活性化させるために、SNS運用やイベントを手伝ってくれた人などの貢献者には「NEOコイン」というトークンを発行しています。ただ、これも上場していないので金銭的価値がなく、コミュニティ内で利用できるような設計が必要な段階です。
よって、このような多岐にわたる課題を解決するために、一緒に施策を考えてくれる「右腕のような存在」がほしいと思っているのが現状ですね(笑)。
ホルダー主体でのコミュニティ運営がうまく回れば、現在はNEOのDiscordサーバーの中に各チームのチャンネルがある形ですが、それを各チームごとにサーバーを分けて、完全に運営を任せるといった構想もあります。この実現を目指して、着実に今はコミュニティを徐々に拡大していきたいと思っています。
変化を見せながらも、各ステークホルダーの「期待値調整」が重要
ここまでNEOの運営についてお伝えしてきましたが、数年前にスタートアップを経営していた頃の反省から活かしている点が多くあると感じています。
Web3ビジネスの特徴は、中央集権ではなくステークホルダーが増えていくのが既存の業界と異なる点です。そのため、さまざまなステークホルダーの期待値を調整していくことが重要だと考えています。
スタートアップを経営していた頃も出資先の株主がいたわけですが、僕の経験不足もあって、事業がうまくいっているように振る舞ってしまう部分もあり、徐々に溝が深くなってしまって…。本音の話し合いができないような関係性になってしまっていたんです。
そこで、NEOでは期待値をコントロールをする意味でも、四半期ごとに決算報告会をDiscord上で開催しています。報告会はNFTのホルダーであれば誰でも参加できる形で、期ごとの粗利の着地見込みについて発表しているんです。
また、ちょうどNEOを始めた時はクリプトの冬が到来した時だったのもあり、最初から「NFTの売り上げだけでは運営できない」とホルダーや関係者にはっきりとお伝えして、その上でプロジェクトを継続させるために僕自身がスポンサー営業を頑張ると公言していました。
もちろん、スポンサーを取ってくるにはコミュニティの活性化やイベントの集客も重要になってくるので、その点はホルダーの皆さんにも協力してほしいと報告会で伝えていた形です。
0→1で事業を立ち上げていく際、ある程度中央集権的に進めていかないといけない部分もあると思うのですが、一気に方向性を変えたりするとやはりハレーションが起こるわけで。
とはいえ、ステークホルダーの方々に楽しんでいただけるよう、常に変化を繰り返しながら成長していくんだという空気感を醸成しつつも、期待値調整を行いながら徐々に変化を起こすという点が重要だと思っていますね。
目指すのはWeb3を活用した「スポーツベッティング」のユーザー体験
これまでの取り組みを通じて、Web3ネイティブ層からの認知は獲得できました。これからは、モータースポーツファンを中心とした一般ユーザーをうまく巻き込んでいきたいと考えています。
そこで今年実施したのがルールの変更です。元々はLICENSE NFTを持っている人のみが大会に参加できる形でしたが、オンライン大会に関しては誰でも参加できるようにしました。その代わり、LICENSE NFT保有者には予選免除という特典を新たに設けています。
実際に、このルール変更によってオンライン大会では、Web3に詳しくなくても、熱量の高い生粋のクルマ好きユーザーの参加が増えており、純粋に「eモータースポーツのゲーム大会に出場したい」という人たちが多く集まってきています。
2025年からは「LICENSE NFTを持ってないとオンライン大会に出場できない」というルールに戻し、オンライン大会の参加者を徐々にWeb3の世界へオンボーディングしていこうと思っていますね。
今後の展望としては、eスポーツ大会の枠組みの中にブロックチェーンゲーム(BCG)のエコノミクスを取り入れていきたいと考えています。
すごくシンプルにお伝えすると、レースマシン自体をNFT化することで、Web3を活用した「スポーツベッティング」のようなユーザー体験の創出を目指しています。
BCGの強みは、「市場からお金を集められる」点にあります。より高額な賞金を提供できる大会の開催が実現すれば、プロのeスポーツ選手やレーシングドライバーの方々の参加も見込めるようになり、コンテンツ自体も面白くなっていくと思っていて。
そうすれば、新たなユーザーや協賛企業の参画も促進され、エコシステム内での資金循環を活性化させながら、持続的な事業成長のサイクルを確立できると考えています。
引き続き、2030年までのプロリーグ化を目指して、着実に基盤づくりを進めていきたいですね。(了)
取材・ライター:古田島 大介
編集:吉井 萌里(SELECK編集部)