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- 株式会社ユナイテッドアローズ
- OMO本部 本部長
- 岩井 一紘
OMOを加速させるユナイテッドアローズ、公式アプリ完全リニューアルの裏側
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日本を代表するセレクトショップ「UNITED ARROWS」で知られ、ファッションを中心に高感度・高付加価値なライフスタイルの提供を目指す株式会社ユナイテッドアローズ。
同社は2023年5月に「長期ビジョン2032・中期経営計画2023-2025 」を発表。長期ビジョンとして「美しい会社 ユナイテッドアローズ」を掲げるとともに、デジタル文脈ではその主要戦略のひとつに「OMOの推進」を掲げた(※)。
※Online Merges with Offline。実店舗とデジタルを融合させることでの顧客体験向上を目指す取り組み
そしてその戦略の要として、2023年12月より公式アプリのデザイン刷新とOMO実現のための機能追加を行うリニューアルプロジェクトを開始。2024年6月、10月、2025年1月と三段階でのリリースを行った。
本リニューアルによって、以前の「ショッピングアプリらしい」デザインは、ブランドとしての体験を追求した全く新しいものに。結果として、既存顧客の商品閲覧数が上昇するといった成果が早くも出ているという。また直近のリリースでは、店舗でのアプリ活用を促進する新機能も公開された。
今回は、同社OMO本部 本部長の岩井 一紘さんと、デジタルマーケティング部 エグゼクティブマネジャーの佐々木 慎朗さんに、今回のプロジェクトの背景にある戦略や具体的な取り組みについてお話を聞いた。
マーケティングで作られた言葉より、お客様との向き合いを大切に
岩井 私が所属するOMO本部は、いわゆるデジタルマーケティングはもちろん、EC事業の管轄や各事業部のPRの横断的な管理、OMO推進の一環である店舗オペレーションの改革など、多岐にわたる業務を担っています。
我々は2032年に向けた長期ビジョンとして「美しい会社 ユナイテッドアローズ」という言葉を掲げています。「美しい会社」と言っても解釈が難しいと思うのですが、それは一人ひとり個人で考えて良いということなんです。
岩井 もちろん、ファッションを通してお客様のライフスタイルを豊かにするという基本的な概念はあります。ですが、お客様一人ひとりの個性が全く異なるなかで、「美しいとはこうあるべき」と言うのはおかしい。
個々のスタッフがお客様をよく知り、どうすれば豊かなライフスタイルの実現をお手伝いできるのかを考えることが、本質的なあり方ではないかということです。
これに関連して面白いエピソードがあります。当社の創業者である重松は「服を売らなくていい」と言っていたそうなんですね。その意図は、お客様が本質的に求めているものはすぐにはわからない、まずはお客様を知ることが大事だということです。こうした理念を、創業時から持っていました。
私たちはファッションを通じて、お客様一人ひとりと長く関係性を持っていきたい。いわゆるLTV(ライフタイムバリュー)の考え方を持っていますが、実は35年前に作られた当社の基本販売政策という接客マニュアルに、既にその概念が明確に書かれていました。
このように、我々は「マーケティングで作られた言葉」よりも、「自分たちがお客様とどう向き合うかを考える」ことを理念として大切にしている会社です。
その上で、店舗での接客はもちろん、アプリやECサイトというデジタルのタッチポイントを使ってどうお客様と接していくかを考えているということですね。
OMOを推進していく上で、公式アプリに求められる役割や期待は
岩井 今回のアプリリニューアルで最初に解決したかった大きな課題は、アプリのスピード(動作速度)です。特に商品一覧や詳細ページの表示が重く、そこからの離脱も多いという課題がありました。
アプリ上で、お客様にとってシームレスでストレスのない体験を提供することは、OMO推進の大前提です。従って今回のプロジェクトではまず、社内の言葉を借りると「ぬるさく(※ぬるぬる、さくさくと動くことの表現)」でアプリがスムーズに動く状態を作ることが求められました。
佐々木 私は今回のアプリリニューアルプロジェクトやアプリの品質管理などを担当していますが、スピードについては社内でも「改善したい」という声がもともと強くありました。
スピードが速くなれば、商品閲覧数も上がり、買上率の向上も期待できます。我々が自信をもって商品を見ていただくためにも、必要な改善だったと思います。
岩井 そして二点目の挑戦が、「UI/UXの刷新」です。以前のアプリは、ショッピングアプリとしてお買い物のしやすさが優先された作りになっていたのですが、今回はブランドの世界観を意識したデザインを目指しました。
我々が掲げる「美しい」というキーワードを反映した、ブランドの表現がアプリ上でどこまで実現できるのか。社内のチーフクリエイティブオフィサーと共に、試行錯誤しながら進めていきました。
最後に三点目が、OMOの実現に向け、一人ひとりのお客様に向き合うための店舗データの活用です。
背景として、当社の売上の7〜8割は実店舗にあります。店舗での体験は特別なものですし、そこに強みがある。しかしその一方で、お客様の行動データという意味では、実店舗のデータが圧倒的に不足しています。
そこで、今回はその行動データをアプリにどう活かし、どのような感動提供ができるのか、という点も大きなチャレンジとなりました。「店舗でも使えるアプリ」として、まだ他社が形にできていないことを実現したいとも考えていました。
敢えて削ぎ落とすことで、シンプルで迷わない、美しい体験を実現
佐々木 今回のリニューアルプロジェクトにおいては、まず2024年6月に画面の見た目は変えずに、商品一覧ページなどのネイティブ化を行い、主に表示速度の改善を行いました。
続いて2024年10月のリリースでは、UI/UXの刷新やお気に入り機能の拡張、マイページのリニューアルなどのアップデートを行いました。そして2025年1月末に、OMO推進を後押しする店舗でのアプリ活用を促進する「店内モード」という新機能をリリースしました。
▼店頭でのお買い物をより便利にする「店内モード」機能
佐々木 UI/UXの刷新という点で今回特筆すべきは、まずユーザーを、目当ての商品がある「能動的なユーザー」と、ウィンドウショッピング的にとりあえずアプリを開く「受動的なユーザー」に分け、それぞれに最適な導線を用意していったことです。
リニューアル前のアプリは、さまざまなお客様に対応するため、たくさんの情報をフラットに見せていました。それ故に、ひとつの画面に複数の導線があったり、様々なアイコンが並んでいたりと、どこに行けばいいのか迷ってしまう。その課題を解決したいと考えていました。
同様の理由から、メニューを「ホーム」「検索」「マイページ」の3つに絞り込むという思い切った決断も行いました。シンプルな構造にすることで、長期的なUXを考えたときにユーザーが迷わずに目的の場所にたどり着けることを目指しました。
また今回、チーフクリエイティブオフィサーに常にプロジェクトに参加してもらうことで、当社の思いを100%反映できる体制を作りました。結果的に、我々にとっての「美しさ」が如実に反映され、デザインの強みになったと感じています。
それが一番表れているのが、ホーム画面です。実店舗のようにまず商品をパッと見て「素敵だな」と思ってもらい、そこから金額やブランドといった詳細な情報を見るという流れをつくりました。
▼まず商品のビジュアルを大きく見せ、店舗のような体験を実現
商品閲覧数の上昇などの手応えも。今後は店舗での活用が課題に
岩井 今回のように抜本的なリニューアルでは通常、一時的に売上が落ちるものですが、今回は10月のリリース後にも売上を維持できました。これは本当に大きな成果でした。
実はプロジェクトに集中するために新規ユーザーの獲得施策を抑えていた一方で、アクティブユーザー数が増加しています。これは、既存のお客様がより多くの商品をご覧いただき、実際に購入いただいたということであり、一定の評価をいただいていると捉えています。
佐々木 ECとアプリの売上比率もモニタリングしていますが、10月のリニューアル後からはアプリの比率が少しずつ高くなってきています。
岩井 一方で、アプリの見た目ががらりと変わったことで、いろいろなご意見もいただきますが、抜本的な変更である以上はある程度想定していたことです。重要なのは、一つひとつのご意見にしっかりと向き合い、対応していくこと。これは当社の理念にも通じる姿勢だと考えています。
今後は、OMO推進の文脈で、店舗スタッフがよりアプリを活用した接客ができることが大事になります。その結果、お客様にアプリを使っていただく機会が増え、より商品を知っていただくことにつながる。この体験価値をどう上げていくかということですね。
佐々木 今後は、店舗でお客様一人ひとりの行動を見るように、アプリも数値分析をしっかりと行っていきます。数字だけを追うわけではありませんが、店舗ごとのダウンロード数などを見た上で、良い取り組みがあれば他の店舗にも情報をシェアしていくなど、わかりやすく伝えていきたいですね。
ただ、「デジタルマーケティングの担当者がなんか目標置いてったな」といった距離感ではありたくないので、しっかりとコミュニケーションをとってOMO推進につなげていければと思います。
岩井 実は、私が入社して最初の取り組みがこのプロジェクトだったんです。加えて、これまでアプリ開発の経験はありましたが、ここまで大胆なリニューアルは初めてでした。
今回は長期間のプロジェクト、かつ三度に分けてのリリースということで、裏側のシステム開発を含めて難易度が高く、最初は不安もありました。ですが、当社の強みでもあるそれぞれの領域におけるスペシャリストたちのおかげで、自分たちが作りたいと思ったものを作ることができた。とてもクリエイティブで楽しい体験になりましたね。
OMOという言葉は最近よく聞かれますが、実際に成功している企業はまだいるようでいないと思っています。その意味では、枠を壊して新しい価値を創造する楽しさもあるプロジェクトです。
今後も、デジタルだから・リアルだからという区別をせず、お客様一人ひとりを知るという基本に立ち返りながら、お客様の体験価値を高めることに注力していきます。(了)
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