• 株式会社ソニックガーデン
  • 代表取締役社長CEO
  • 倉貫 義人

【後編】「アイルランドで働きたい」がきっかけ リモートワークという働き方の実現法

今回のソリューション:【リモートワーク】

〜優秀な人材を手放さないために選んだ「リモートワーク」という働き方〜

「アイルランドからリモートで仕事したいです!」「いいよ」というやり取りからリモートワークというスタイルが始まった、株式会社ソニックガーデン。

月額定額のユニークな「納品のない受託開発」で注目を集める同社では、創業期よりカナダやアイルランドでの勤務を認め、今では働く場所、勤務時間、休日等を各メンバーが自由に選択するワークスタイルが完全に定着しているという。

近年日本でも少しずつ広まりつつある、このような新しい働き方。「やってみたいけど、本当にできるの…?」と感じている人も多いのではないだろうか。

そこで今回は、同社の創業者でCEOを務める倉貫 義人さんに、現在の働き方のスタイルを組織として実現するまでの経緯と、その背景について聞いた。

※ソニックガーデンでのリモートワークの始まりをお伺いした【前編】はこちらです。

リモートワーカーとのコミュニケーションを試行錯誤!

リモートワークを行う上で大きな課題になることのひとつは、コミュニケーションですよね。兵庫のメンバーが入社した当時は、打合せの時だけオフィス側とリモート側をSkypeで繋いでいたのですが、もっとコミュニケーションを円滑にしたいと思うようになったんです。

例えば、打合せって終わった後にいい話が出たりするんですよ。「おつかれさまでしたー!(Skype終了)そういえばさー…」みたいな(笑)。

打合せの時だけ繋ぐと、そういった話がこぼれてしまうので、それを解決するためにSkypeの音声を業務時間中ずっと繋いでみたんです。これで会議後の話を取りこぼすことはなくなりましたが、リモートメンバーが3人を越えてしまうと混線が起こって上手くいかなくなりました。

そこでSkypeの常時接続はやめ、チャットを導入することにしました。Skypeにチャットルームを作って、困ったことがあった時には投稿し合うことにしました。

これでたしかにコミュニケーションは円滑になった反面、チャットルームに全員が参加しているので、しょーもないことは発信しづらくなったんですよね(笑)。これからお昼行きますとか、休憩しますとか、ちょっとした雑談とか。全員に通知されると思うと、リモートの場合は特に発言しにくいんですよね。

また、音声の場合は相手の存在がなんとなく伝わるので、声をかけていいか分かるのですが、チャットになると相手の様子が分からなくて。よくあるのが「いる?」ってチャットで聞くんですね。で、シーン…という。これが3回続くと、さすがに心折れますよね(笑)。

せっかくコミュニケーションを円滑にするために導入したチャットも、逆に「話しづらさ」を生んでしまったんですね。もっと気軽に雑談もできて、なおかつずっと繋がっている感じを出したくて、Remottyというツールを自分達で開発しました。

オフィスにある「個人のデスク」のような場所をオンライン上に

Remottyの主な機能は2つです。1つ目は、自分のことを投稿する機能。チャットにあるチャンネルは普通「みんなの場所」なので、自分のことを気軽に書きづらいんです。ただ、Twitterやブログのような「自分の場所」であれば発信しやすいですよね。そこで、各メンバーが自分のことを投稿する、チャットボックスという場所を用意しました。「お昼に行きます」といったことを、どんどん気軽に書き込める場所ですね。

▼気軽に自分のことを書き込める「Remotty」

Googleカレンダーとも連携していて、カレンダーに入っている予定がチャットボックスに自動で入ってくるので「倉貫さん、今なにしてるんだろう?」と思ったら僕のチャットボックスを見れば良いんです。GitHubとも連携しているので、GitHubのIssueが開いた、閉じた、2時間前にこの人がリリースした、といったことも分かります。

イメージはオフィスにある、個人のデスクです。カレンダーが置いてあったり、家族の写真が貼ってあったり。それと同じようにチャットボックスの壁紙は自分の好きなものにカスタマイズできます。弊社のメンバーもお子さんの写真だったり、ヴィッセル神戸だったり、ゴルゴ13だったりします(笑)。

2つ目の機能は、仕事中に他のメンバーといつも繋がっている機能です。実際のオフィスのような「一緒にいる」雰囲気を出すためには、働いている人が見えることが重要です。一般的なチャットツールで自分が仕事をしていることを人に伝えるためには、「今仕事しています」ということを発信しないとダメですが、それをいちいち言う人はいないですよね。

そこで、WEBカメラで1分ごとにメンバーの顔を撮影し、それが更新され続ける機能を作りました。全員の顔がリアルタイムに更新され続けるので、「今この人がここにいるかいないか」ということがすぐに分かります。

▼リモートで働くメンバー同士の顔が見える

オフィスの人もリモート側の働き方に寄せる!

以前は「オフィスにいる人はオフィスにいる人同士で話をして、リモートの人はツールを使ってリモート同士で話をしてしまう」という問題がありましたが、オフィスで働く人も全員がRemottyを使い、リモート側の働き方に寄せることで解決しました。

朝オフィスに来てRemottyを立ち上げる。リモートの人は家で仕事を始める時に立ち上げる。すると顔が映る。これが出勤です。仕事が終わったら「お疲れ様でした」と一緒にそれまで映っていた顔も消える。

誰かのチャットボックスに人が集まっていることもアイコンで分かります。社内で盛り上がってる場所が分かるので、皆そこに寄っていくんです。みんなで集まって話ができる、これって実際のオフィスっぽいですよね。

休日も勤務時間も自由 ただし新卒は弟子

このようにリモートワーク前提で働いているので、弊社は年俸制を採用していて、勤怠管理も進捗管理もないスタイルです。他のメンバーに迷惑をかけなければ、いつ働いてもいいし、いつ休んでもいいんです。


ただ、新卒に限っては違う考え方をしています。勤怠管理や進捗管理なしで上手くいくためにはセルフマネジメントができることが前提なので、新卒には難しいんですね。そこで、新卒は「弟子」と呼び、一人前になるまではリモートワーク禁止にしています。人間って成長するとどこかで、時間よりも成果が大きくなる時があります。そうなると、時間で仕事を規定するのがバカらしくなってくるんです。その状態になるまでは、時間で成果を出すしかないのでオフィスに来てもらってます。

リモートワークで越えたい「3つの壁」

リモートワークを行っていく上で、僕たちが越えたい壁は3つあります。1つ目は「場所の壁」、2つ目は「時間の壁」。ここまでは越えることができたかなと思っています。まだ越えることができていない3つ目の壁は「人数の壁」です。

10人、20人の規模であれば今のままのスタイルでいけると思います。今後チャレンジしていくのは、30人、50人、100人と組織が拡大した時に、同じやり方が通用するのかどうかということです。

また、僕たちのスタイルの前提にあるのは「組織を階層化しない」というポリシーです。ヒエラルキーに基づいた組織経営の時代は、20世紀で終わっていると考えています。芸術家、アーティスト、ミュージシャンのようなクリエイティブな職種の人が、ヒエラルキーの中で良い作品を生み出すのは難しいですよね。

スタートアップやWEBサービスの開発も同じだと思います。新しいことをどんどん生み出して難題を解決していこうとしている以上、階層化された組織では可能性が発揮されません。

かといって、1人の天才に頼るのも難しい。では、これからの時代に必要なのは何かというと、天才に頼らずチームで新しいものを生み出すことなんじゃないかと。そこで僕たちは、「ホラクラシー(Holacracy)」という考え方の実現を目指しています。

ヒエラルキーの反対の意味で、フラットな組織で成果を出していこうというものです。リモートかつフラットな組織で人数の壁をどこまで越えていけるのか、これが次に僕たちが挑んでいこうとしていることです。(了)

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