• 株式会社ドラフト
  • 代表・インテリアデザイナー・クリエイティブディレクター
  • 山下 泰樹

【後編】働き方を「本気で」変える!セブ島と日本、デザイン制作の分業の仕組みとは

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今回のソリューション:【SketchUp/スケッチアップ】

「ワークライフバランス」「働き方の改革」といったことが叫ばれるようになって久しい。しかし企業が本気で「働き方」を変えようと思った場合、それは綺麗事だけでは実現できない。どんなに制度を作ったとしても、目の前にタスクが山積みになっているような状況では結局ワークせず、取り組み自体が中途半端に終わってしまうことも少なくないだろう。

そんな中、働き方の改革に本気で取り組んでいる企業がある。オフィスや店舗などのデザイン事業を展開する、株式会社ドラフトだ。

徹夜も当たり前の企業も多い建築・内装業界の中で、同社では残業時間などをしっかりとコントロールする仕組みを取り入れている。

それが実現できる最大の理由は、業務の中で最も時間がかかる3Dモデリングをフィリピン・セブ島の拠点に一任していることだ。

セブとの分業体制によって、日本で働くメンバーの業務負担を減らすことができただけでなく、技術面の向上、社員の英語力向上や福利厚生といった観点からも「良いことづくし」だったという。

前後編の後編では、日本とセブ島での具体的な分業の仕組み、そしてセブのデザイナーの提案で導入を決めた3Dモデリングツール「SketchUp(スケッチアップ)」について同社代表の山下 泰樹さんと、セブで働くデザイナーのNeiven Dianon (ニックネーム:Ben) さんにお伺いした。

※セブ島への拠点設立の経緯をお伺いした前編はこちらです。

フィリピンと日本 センスや感覚の違いはどう解決?

セブに3Dモデリング業務を委譲するにあたり、やはり文化が違うので、センスや感覚の面でのズレはあります。例えば僕たちが「ちょっとここに色を足したい」と言うと、彼らはビタミンカラーというか、パプリカみたいな色を選ぶんですよ(笑)。

こちらにあるような微妙な色の違いは伝わりにくいので、最初はそれをひとつずつ修正して日本のクオリティに上げる、ということをかなりしました。そういったことはどうしても、文化が違うので避けられないんですよね。

また、季節感も違うので、マテリアルに関してもなかなか感覚が合わないんです。例えば僕たちの考えでは白レンガ風のタイルは素敵な表現になり得るのですが、彼らからしてみたら牢屋みたいだとか、トイレみたいだとか(笑)。

そういった感覚も全然違いますね。そこでマテリアルに関しては全部こちらで決めて、彼らにはモデリングに特化してもらう、という形でバランスをとっています。

セブのメンバーの推薦で導入を決めた「SketchUp」

セブにモデリングを依頼するときには、まずはこちらで平面図を描いてから、スケッチを起こします。そのスケッチに壁の色やラグの柄といった細かいマテリアルの情報をすべて書き込んだ上で、セブに送ります。

そうすると僕たちが選んだ形とマテリアルで、僕たちが設計したものがそのまま立ち上がるので、そこに家具を配置していきます。基本的にはこちらで考えているものを、できるだけリアルな形で起こしてもらうようにしています。

モデリングのソフトにはSketchUpを使っているのですが、以前に日本で3D制作をしていた時には別のソフトを使っていました。でもセブを立ち上げた時にそのソフトを彼らに教えたところ、全員が「SketchUpの方がやりやすいよ!」と言ったんです。

こちらではSketchUpを使える人がいなかったので不安もありましたが、思い切って変えてみたらパフォーマンスが格段に上がりましたね。

▼セブのメンバーの推薦で使い始めた3Dモデリングソフト「SketchUp」

SketchUpは、非常にシンプルで速いんです。3Dはかなり重いデータなので、普通はあんなにさくさく動かないんですよね。弊社の場合はデザインが商売なのですが、それを支えるITなどの技術的な仕組みもとても大事です。

手描きで書いていては労力がかかりますし、技術でできることはどんどん効率化していきたいと思っています。

セブ島メンバーの3Dモデリングの技術は第一級!

セブのデザイナーたちの技術レベルは本当に高いです。大学でデザインや技術を学んで、地元の企業でキャリアを積んでから転職して来たケースが多いですね。

本当にすごいなと感心させられることも多くて、もうSketchUpのマニアと呼べる人もいます。

Benというデザイナーなのですが、誰も見ないようなところまで描くんです。ガラスへの映り込みや、ソファの曲線、クッションのしわまで。すごく大変な作業なのですが、全部ちゃんと作るんですね。そうするとやっぱり、出来上がりのリアルさが全然違います。

▼実際にBenさんがSketchUpで作成したショッピングモールの3Dパース

日本の企業で働くことに不安はなかった

(※編集部注:今回、同社でもコミュニケーションの手段として使っている電話会議システムを利用し、セブ島のBenさんにリモートでインタビューさせていただきました。)

▼実際のリモートインタビューの様子

Ben 私は元々セブ島の生まれで、大学もセブで建築工学を学びました。卒業後は、地元のデザインと建築を手がける企業にデザイナーとして就職しました。その後、建築士の資格を取るために一度仕事を離れまして。

資格を習得してからはしばらくフリーデザイナーとして活動していたのですが、その時に日本のインテリア会社の求人を見つけてすぐに応募したんです。それがドラフトとの出会いでした。

日本の会社で働くことに対して、不安はありませんでした。そもそも私は日本のアニメを見て育ったので日本のことは好きでしたし(笑)。日本という異国でどのようにインテリアデザインをつくっているのか、それを知ることができるというだけでとてもワクワクしましたね。

▼セブ島のオフィスの様子(中央がBenさん)

「ユーザーフレンドリー」な3DモデリングツールSketchUp

Ben 3Dモデリングを最初に学んだのは大学生の時です。当時はSketchUpではなく、AutoCADというツールを使っていました。その頃はまだ、AutoCADだとリアルな3Dパースをつくることはちょっと難しかったですね。

SketchUpを初めて使ったのは1社目の会社で働いていた2011年頃のことです。最初は使い方もよくわからなかったので、インターネット上でチュートリアルを見てみました。でもそれだけでもう、非常に使いやすいツールだということがわかりましたね。

一言で言うと、SketchUpはユーザーフレンドリーなんです。デザイナー以外でも、誰でも使うことができると思います。

非常に短時間で3Dモデルを立ち上げることができるので、特にデザインプロセスの最初の段階で効果的に使うことができます。ダイレクトに線を引いてそれを引っ張って立体を作るだけなんです。

リアルなモデル制作のために重要なのはプラグイン

Ben SketchUpを使う時に、重要になってくるのはプラグインの活用です。SketchUp自体は非常にシンプルなツールなのですが、プラグインを使うことで作業効率を上げたり、よりリアルな3Dデザインを起こすことが可能になります。

私が使っているもので言うと、RoundCornerという立体のエッジをカーブさせるものや、レンダリングのためのV-Ray for SketchUpなどがあります。特にV-Rayは、リアルなレンダリングには本当に欠かせないプラグインです。

▼プラグインの活用で、リアルなレンダリングを実現

3Dモデリングにおいて個人的に重要だと考えているポイントは3点あります。

まずは、ライティングです。例えば、太陽の光をリアルに表現するには本当に技術が必要です。もちろん人口の光とも性質が違いますし、どこに窓があって、そこからどの角度で光が入ってきて、それがどう反射するのか。

そういったことを正しく理解していなければ、リアルなモデリングにならないんです。手作業もかなり多くなってくる部分ですね。

▼Benさんが制作した3Dモデリング リアリティのためには光の表現が重要

次にマテリアルです。いかにリアルにマテリアルを表現するかということが重要なんです。

マテリアルのサンプル画像は日本から送られてくるのですが、例えば床のタイルを描く場合に、目地をつけるのか、繋ぎ目のないシームレスな状態にするのかなど、細かい部分がどれだけ再現できているかでリアルさが全く変わってきます。

そして最後に、マッピングです。マッピングというのはファブリックなどのテクスチャーを家具などに貼り付けていく作業なのですが、その際にいかにカーブなどを正確にアジャストして、本物のように見せるかということには非常に気を遣っています。

前職の時は現場に出ることもあったのですが、もっと技術に特化したい気持ちもありましたし、今は毎日が本当に楽しいです。

全てのお客さんに満足していただけるクオリティをアウトプットすることは当然だと思っているので、今後も技術を磨き続けていきたいです。

働き方の改革は組織の成長にも繋がる!

セブとの分業の仕組みができて、日本の社員の負担が軽減できたこと以外にも良かったことがたくさんありました。例えばそのひとつが、英語力です。

もともと弊社の社員は、ほとんど誰も英語は話せなかったんです。それが今は、研修制度も特に設けてはいないのに結構な数の社員が話せるようになって。みんな独学で学んで、更に日常業務の中で使うことで自然と話せるようになりました。

仕事をしながら英語を勉強しようとすると大変ですよね。家に帰ってから2時間勉強しなくても、1日の仕事の中で2時間英語で話さなくてはならない環境があれば、勝手に覚えていくものなんです。

まだまだ片言レベルの社員も多いですが。セブに駐在する社員も初めは日本語しか話せない状態で行くのですが、3ヶ月後にはぺらぺらになって帰ってきます。 日常の中で英語研修を取り入れる仕組みができましたね。

セブに拠点を持ったことは、働き方改革という側面から見た時に本当に良かったと思っています。働き方を良くすることで優秀な人もどんどん集まってくるようになりますし、会社としての成長にも繋がる。

いいループがどんどん続いていくといいですね。内装業界はまだまだ保守的な文化も多いですが、今後も新しい風を吹かせていくことができるといいな、と思っています。(了)

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