- 株式会社ビズリーチ
- キャリアカンパニー クリエイティブ部 部長 クリエイティブディレクター
- 三井 拓郎
インハウスマーケティングでPDCAを素早く回すために、デザイナーが成すべき役割とは?
今回のソリューション:【インハウスマーケティング】
〜マーケティングプロセスの内製化により、PDCAを高速化した事例〜
自社内でマーケティングチームを組織化し、コミュニケーションコストを下げることで高速でPDCAを回す「インハウスマーケティング」。それにいち早く取り組んできたのが、株式会社ビズリーチだ。
同社では、マーケター・デザイナー・エンジニアなど多様な職種が連携したマーケティングの内製化に成功している。しかし同社でも、以前はマーケティングに携わった経験のあるデザイナーがほとんどいなかったこともあり、「マーケターの要望に応えることで精一杯だった」という。
2014年11月に入社し、マーケターと対等なコミュニケーションが取れるように尽力しているのが、クリエイティブ部の部長を務める三井 拓郎さんだ。今回は、インハウスマーケティングにおけるクリエイティブ部のあり方、そして目指すべきビジョンについてお話を伺った。
未来を創れるところへ行きたい
もともとは広告系のデザイナーとして、テレビCMや新聞や雑誌、交通広告などのクリエイティブを作る仕事を10年近く続けていました。その後ロゼッタストーンに入社したのですが、広告業界から事業会社に転職したことで視野が大きく広がりました。
広告業界では、顧客のニーズに応えることが大前提で、なかなか顧客の先にいるユーザーの声を聞くことができませんでした。一方で、事業会社はシンプルに「ユーザーのために作る」ことが求められます。
マーケターや、営業、CSなどの他部署とも一緒に仕事をする機会が増える中で、自分に足りないスキルもわかりました。ユーザーとの距離が近く、ダイレクトに反響がすぐにわかり改善できる。その本質的とも言える環境は、自分に向いていたと思います。
その後ビズリーチに転職したのですが、そのときに考えていたのは「自分たちで未来を創っていける会社に行きたい」ということです。会社が数年後にどうなっているのか、個人としてどうなっているのか想像できないほどチャレンジできる環境に魅力を感じました。現在は、クリエイティブ部の部長という立場で社内のクリエイティブ力の強化に努めています。
ミッションは、プロダクトのユーザー体験を最大化し、強いブランドをつくる
クリエイティブ部の大きなミッションは、プロダクトのユーザー体験の最大化です。その積み重ねが強いブランドをつくると考えています。有名な企業であれば、何かしらの代名詞がついていたり、独自の色が出来ていると思います。
しかし、当社は事業拡大のフェーズにあり、まだまだ知名度は高くないと考えています。「ビズリーチ」と聞いてもユーザーにとって感情や色が思い浮かばないのではないでしょうか。
そこでクリエイティブ部が最初に唱えたのは「360度デザイン品質向上」です。Appleを例に挙げると分かりやすいのですが、プロダクトから商品のパッケージ、広告、店舗、ウェブサイトまで、すべてのビジュアルコミュニケーションの質が高く、統一されています。
当社の場合、これまではプロダクトの開発スピードを大切にしてきました。これからは、ユーザーの期待値を超えられるようなデザインで、ブランディングまでを見据えたユーザー体験を提供していきたいと考えています。
コミュニケーションを対等にしてこそ、デザイナーの真価を発揮できる
私が入社した時は、デザイナーが数名だったということもあり、マーケターなどの要望に応えることで精一杯でした。WEBデザイン業界全体にも言えることかもしれませんが、デザイナーは依頼されたワイヤーどおりに作ったり、受け身になりがちです。
しかし、デザイナー視点での意見やアイデアを加えディスカッションをすることで、更に良いアウトプットが生まれると思っています。そういった意味で、私たちデザイナーは対等なコミュニケーションを大切にする必要があります。
「そのデータを元に考えるのなら、このデザインのほうが良いです」という提案や、デザイナー視点での疑問をきちんと伝えていく必要があると思います。今ではマーケターや企画、デザイナーが、相互にコミュニケーションを取れるチームになってきていると思います。
インハウスマーケティングにおけるデザインの役割
当社では、創業当初からデザイン、エンジニアまで全て内製でマーケティングをする「インハウスマーケティング」を実施しています。社内に知見も溜まり、PDCAも高速で回せるので競合他社が行っていないような施策にも手を伸ばせるのがメリットだと思っています。
その中でデザイナーのミッションは、マーケターと同じ目線でユーザー体験を向上させたり集客数を上げることです。
当社の運営する20代向けのレコメンド型転職サイト「キャリアトレック」では、事業拡大に向けてより多様なポイントで数値改善が必要になっていました。転職サービスなので、マーケティングファネルとしては「会員の獲得 -> 求人への応募 -> 面談設定 -> 内定」があります。
KPIは「獲得会員数」「獲得CPA」「応募率」「応募数」「応募CPA」など複数の指標を見ています。この各ファネルの課題に対して、デザイナーがマーケターやエンジニアと一緒にペルソナの仮説を立て、ユーザーインタビューによる検証、カスタマージャーニーの可視化と分析を行なっていきます。
仮説検証や分析結果に基づいてペルソナを皆で再定義し、広告クリエイティブや会員登録のランディングページを改善します。20代の方が転職サイトへ登録する動機は様々ですが、ターゲットのインサイトに寄り添ったクリエイティブをつくることで、狙いたい層へより効率的にアプローチすることができ、結果にもつながっています。
PDCAを回すコツはオフラインのコミュニケーションにある
デザイナーは1ヶ月に5、6本のペースでランディングページや広告を作成しているのですが、PDCAを回すコツはコミュニケーションにあると思っています。デザイナーに限らないかもしれませんが、自分が納得できないまま作ってしまうと、スピードと品質が低下する原因になります。
腹落ちしないポイントがあったら、そこをきちんと話し合える場所を設けたり、コミュニケーション方法の工夫が必要です。
そこでちょっとした依頼であっても、5分でもいいので必ずデザイナーと依頼者が直接会って話す時間を設けてほしい、と頼んでいます。チャットや文章だけではどうしても伝わらないこともあると思います。
文章だけでは冷たいニュアンスに見えてしまったり、感情の部分を伝えることが難しいからです。当社はIT企業ですが、Face to Faceのコミュニケーションを大切にしていることも特徴の一つです。
デザイナーとの信頼感が最良の結果につながる
このようにして、マーケターとデザイナーが信頼関係を構築したうえで、マーケティングファネルの深いところまでクリエイティブを作れることがインハウスマーケティングの強みだと思います。
グロースハックを外注したこともあったのですが、細かい数字が共有できなかったり、一度に多くの数字を追えずあまり良い結果には繋がりませんでした。外注で出来ることは、一度取り組んでしまえば社内でもできるんですよね。その方がコミュニケーションコストも下がりますし、ノウハウや知見も蓄積されます。
今後、ビズリーチはさらにブランド認知が重要になってくると思います。クリエイティブ部としてプロダクトの価値を最大化させ、強いブランドを作っていきたいですね。
ユーザーの期待値を超えるようなクリエイティブを作り続けることこそが、目に見える数字の面でも、見えにくいブランディングの観点からも、強いブランドにするための方法だと強く思っています。(了)