• 株式会社ドリコム
  • Project Invention部長
  • 松江 好洋

新規事業は「健全な独断」から生まれる?失敗から学ぶ、ドリコム流の新規事業開発とは

ドリコムが自社の「失敗」から学んだ、新規事業の開発プロセスとは

ゲーム事業や広告、メディアなど、様々な事業を展開する株式会社ドリコム。 同社は2016年4月に、社長である内藤 裕紀さんが自らプロデューサーとなり、新規事業プロジェクト「DRECOM INVENTION PROJECT(通称:DRIP)」を立ち上げた

DRIPは、ドリコムが常に「発明を産み続ける」ためのプロジェクトで、新規事業を成功させることだけを考え、「プロデューサーを中心に」「少数精鋭」というコンセプトを掲げている。

DRIPを束ねる松江 好洋さんは、「過去に新規事業で失敗した教訓を、DRIPに活かした」と語る。今回は松江さんと、同社の新規事業「Clip」のプランナーを務める新井 崇史さんに、同チームの組織作りや、開発の裏側をお伺いした。

新規事業で「やってはいけないこと」をすべてやった過去

松江 戦略コンサルティングファーム、スポーツビジネスのベンチャーを経て、5年前にドリコムに入社しました。入社後は、新規事業にもトライし、数多くの失敗を経験しました。

例えば、ドロップコミックという漫画アプリのプロジェクトでは、新規事業で「やってはいけないこと」を全部やってしまったな、というくらいに失敗して(笑)

あくまで失敗のひとつではありますが、まず、プロダクトに色々な人の意見を取り入れすぎてしまって

責任者として「こうあるべき」というビジョンが弱く、チームメンバーの意見を取り入れすぎた結果、エッジが立たないプロダクトになってしまったんですね。

また、スピードを早めようと、チームを膨張させてしまったことも失敗のひとつですね。

人数を増やし、スケールするかわからない段階から広告宣伝も入れて…。人が増えるとコミュニケーションが取りづらくなりますし、投資規模も大きくなるので、方向転換やチャレンジが難しくなります。とにかく、膨張させたことが失敗でした。

「新規事業を作る=ベンチャー企業を作る」という思想

松江 そのような失敗を繰り返さないよう、今年4月にDRIP(DRECOM INVENTION PROJECT)という新規事業プロジェクトを立ち上げました。DRIPでは、「新規事業を作る=ベンチャー企業を作る」と捉えて、事業を作っています。

ベンチャーを作るとしたら、創業者がまず大きなビジョンを作りますよね。その上で、創業者の考えを理解できる数少ない仲間を見つけて、サービスを大きくしていく中で、少しずつ仲間を増やしていく。

DRIPでは、これらを体現するために、「プロデューサーを中心に」「少数精鋭」という2つのコンセプトを作りました。

「プロデューサーを中心に」ベンチャーの創業者のつもりで挑む

松江 ベンチャーであれば、まず創業者がビジョンを描きます。DRIPでは、その役割を担うのはプロデューサーです。プロデューサーがある種の、「独断」でビジョンを考えるところから事業がスタートします

ドロップコミックの経験から、新規事業には「健全な独断」が必要だと痛感しました。

そして、プロデューサーがビジョンを描く時は、三振しても良いのでホームランを狙うようにしています

DRIPが始まる前に、社長の内藤にいくつか事業案を出しに行ったんですよね。それを見た内藤に、「発想が小さい」と言われたんです(笑)。

ヒットだけを狙っていては、むしろヒットすら打てない。ましてやホームランは絶対打てない、ということなんですね。三振をしてもいいから、ホームランを狙いに行くことが重要なんです。

例えば、DRIPから産み出された「Clip(クリップ)」という物々交換のアプリは、貨幣経済や信用経済と言われている現代に、物々交換を持ち込もうとしています。

信用経済を代表するクレジットカードは、「この人はお金が支払える」という信用を前提に成り立っています。ただ「人の信用って本当にお金だっけ?」と考えてみると、実際の人間関係においてはそうでもない。お金を持っているから友達を信用するわけではないですよね。

そこで、もう一度、物々交換の経済を復活させることで、忘れ去られた価値を再び生み出せるのではないか、というビジョンを、プロデューサーである内藤が描いています。このように、「実現したい世界」から考え、ホームランを狙っていくようにしています

▼プロデューサーである内藤社長を交えた会議

なお、プロデューサーはビジョンを描けるだけでなく、実現までの戦略も構想できないといけません。また、自分のビジョンを強烈に信じて、マーケティングを行い、ユーザーをビジョンまで導いていかないといけません。つまり何でも出来ないと駄目なんですよね(笑)。

「少数精鋭」と敢えて決める、その理由とは?

新井 私は現在、「Clip」のプランナーをしています。

「プロデューサーを中心に」に続くコンセプトは、「少数精鋭」です。通常のベンチャー企業であれば、プロダクト開発の初期から、一気に人を増やすことはしません。それと同様に、DRIPでも少人数で事業づくりをしています。

場合によっても変わるのですが、基本はプロデューサー、ディレクター、プランナー、エンジニア、デザイナーで、皆新規サービスを兼任しています

プランナーの役割は、ビジョンを具体的なプロダクトに落とすことです。リリース前は、ビジョンを実現するための「ミニマムなプロダクト」を定義して、要件やワイヤーフレームを作ります。リリース後は、ユーザーがビジョンに到達するために、詰まっているポイントを解消するプランを作ります。

例えば、ユーザーがアップロードするアイテムに「いいね!」は沢山つくのですが、なかなか物々交換の回数が増えないことがありました。そこで、「いいね!」した人とされた人をマッチングする機能を考え、リリースしました。

プランナーが要件定義をしてワイヤーまで落としたら、デザイナーがデザインを作り、実装前にプロトタイピングツール「Prott(プロット)」で簡単に実装イメージを確認します。使い勝手や実装イメージが問題がなければ、その後エンジニアが実装します。

なおDRIPでは、「最少人数で進めたい」という意識を、チームメンバー全員が持っています。エンジニアもデザイナーも、人が増えることによって起こるコミュニケーションコストを理解しているので、「人を増やして下さい」という意見はほとんど出ません。サービスが拡大して、どうにも耐えられなくなったら増やす、という感じですね(笑)。

チームのメンバーが少ないと、会議などのコミュニケーションもスムーズです。また、コミュニケーションの機会としてランチも重視しています。どうしても日々、目の前の機能の話ばかりになってしまうので、自由にコミュニケーションを取る機会が意外と重要なんです。

ミニマムで検証し、チーム内の「ビジョンへの自信の差」も埋める

松江 そして実際の開発では、「ミニマムで検証」という考え方を重視しています。

Clipの開発においてまずは「プロデューサーが実現したいビジョンが楽しいのか」という検証を、ミニマムな単位で行いました

どんなにプロデューサーが実現したい世界に対して自信を持っていても、チームメンバー全員が同じ気持ちになるまでは時間がかかります。正直「アイデアは面白いけど、ほんとにその世界が来るのかな」と思ったりもします。

そこで、いきなりアプリの開発をするのではなく、Facebook MessengerやLINEのグループを使って、実際に社内で物々交換を行ってみました。いきなりアプリを作らなくても、実際の物々交換でも「楽しいかどうか」の検証は可能だと考えたんです

▼Facebookで物々交換をする様子

楽しさが体感できたので、次はプロデューサーの内藤も一緒に、フリーマーケットに行って、子供服と子供用サンダルを交換してみました。こういったリアルで擬似的な検証をすることで、チームメンバーが、プロデューサーの実現したいビジョンの実現を信じられるようにもなるんですね。「ビジョン実現への自信の差」が埋まっていくと思います。

この検証で楽しさや価値を理解できたので、簡単なテスト版アプリを1ヶ月で作り、2週間にわたり社内でテストをしました。

▼アプリ画面の比較

ここで作ったアプリは、検証用の簡単なもので、デザインはできあいのパーツを使いました。対応端末もiPhoneだけで、機能も「アイテムの写真を撮ってアップをする。見た人が欲しいかの意思表示ができて、OKならマッチングする」というミニマムなものに抑えました。

これが、社内でかなり盛り上がり、実際に開発することを決め、β版をリリースしました。

「仮説に仮説を重ねない」ことで、今後も進化し続けていく

新井 Clipをリリースしてからは「仮説に仮説を重ねない」ということを学びました。例えば、「スマホで物々交換をする」という、まだ世の中にない行為を実現しようとしている最中に、さらに高度な仮説を実現しようとして失敗しました。

交換が成立しても実際にものは移動させず、Clip上にデータとして保持しておき、その商品をさらに誰かと交換できる「わらしべ」という機能をつけたんですが、全然機能しなかったですね(笑)。この経験で、まずは1つの大きな仮説にフォーカスする重要性を学びました

実際に事業を作っていく中で、このように試行錯誤しながらユーザーにどうやったら価値を届けられるか模索しています。今後も実験を繰り返して、DRIPチームを進化させていきたいですね。(了)

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