• 株式会社良品計画
  • くらしの良品研究所 課長
  • 永澤 芽ぶき

顧客の声を集めて商品化!年間4,600件もの声を集めた、無印良品の「IDEA PARK」運営術

〜無印良品が、顧客の声を聞くために運営するオンラインコミュニティ「IDEA PARK」。顧客のリクエストを、実際に商品開発までつなげている、その取り組みを公開〜

「無印良品」ブランドを展開する、株式会社良品計画。同社では、顧客からのリクエストを募集し、既存商品の改良や、新商品開発につなげるオンラインコミュニティ「IDEA PARK」を運営している。

2015年には、年間でおよそ4,600件ものリクエストを集め、実際に約100の商品にその要望が反映されたという。

お客さまの声を聞くことで、「意外なニーズに気付くことができる」と、IDEA PARKの運営に携わる永澤 芽ぶきさんは語る。

今回は、永澤さんにIDEA PARKの運営方法から、実際に商品化につなげるための取り組みまで、詳しくお話を伺った。

「くらしの良品研究所」課長として、顧客の要望に応える

1995年に入社し、店舗で経験を積んだ後は、本部で店舗運営のマニュアル作成や商品開発などを担当し、2013年9月からは「くらしの良品研究所」の課長を務めています。

くらしの良品研究所では、お客さまの声を既存商品の改良や新商品の開発に役立てるため、2009年から「IDEA PARK」という、商品への要望を投稿するオンラインコミュニティを運営しています。以前にも、商品開発のためのサイトはいくつかあったのですが、バラバラに運用されていたため、IDEA PARKに一元化しました。

IDEA PARKでは、お客さまが商品に対するリクエストを手軽に投稿できます。そして、投稿された内容に、「良いね」をしたり、コメントをつけることもできます。

▼実際にお客様からいただいた「A5サイズ 上質紙マンスリーノート」に関するリクエストとその返答

投稿の内容としては、「こんな商品が欲しい」といった商品自体の要望から、「この商品のこの部分を改良してほしい」といった改良の要望まで、様々です。その投稿の中から、私たちが内容を1つひとつ精査して、実際に商品化することもあります。

2016年の3月にサイトをリニューアルしてからは、週に250件前後のリクエストをいただくようになりました。昨年は、年間で4,600件もの商品のリクエストをいただき、その要望から、約100の商品に実際に反映されました。

週250件もの要望を集めるポイントは「手軽さ」

IDEA PARKのユーザーの比率は圧倒的に女性の方が多く、年代は30代から40代の方がメインです。主婦の方やお仕事をされている方など、職種も多様です。

ユーザーの方を実際にお呼びしてお話を伺った際に、いつ投稿しているのかを聞いてみたのですが、「通勤途中に使っています」「お風呂に入っているときに、スマホから投稿しています」というように、何かをしながら投稿してくださる方が多いようです。

オンラインで提案できるという手軽さが好評なようですね。

もちろん、店舗でダイレクトに意見を伝えることもできるのですが、「店舗スタッフの方に声をかけるのは気が引ける」「IDEA PARKにリクエストすると開発の担当者に伝わっているような気がする」という方もいらっしゃいました。

投稿数だけでなく、お客様同士のコミュニケーションも重視

サイトで追っているKPI(評価指数)は、ユニークユーザー数、投稿数、リピート率などですね。ただ、それだけでなく、「お客さま同士のコミュニケーション」も見ています。お客さまが抱える課題に対して、他の方が答えることで解決されたりすることもあるんですよ。

例えば、「こういうものが欲しい」というリクエストに対して、「ここで売っていますよ」と購入を助けるコメントや、「いや、無印はこういうのは売らないと思いますよ」といった形で、ブランドについての理解を助けるコメントをしてくださる方もいます。

また、「こういう風になったらいいと思う」という投稿に対して、「私はこう工夫して使っています」といったように、商品の使い方の工夫についてコメントをしてくださる方もいます。

このように、お客さま同士のコミュニケーションによって、ブランド理解が深まったり、お客さまの課題解決につながったコメントの数もKPIとして見ています。

リクエストの中には、思いもしない意外なニーズも?

お客さまからの声は、私たちがいままで知らなかったような気づきを与えてくれます。

実際に商品化した事例で、反響が大きかった例のひとつは、シリコン製の製氷皿です。すでに廃盤になってしまった商品でしたが、どうしても再販してほしいというリクエストがあり、「良いね」も結構ついていたんです。

リクエストについていたコメントを読むと、実は氷を作っているのではなく、「アクセサリーの樹脂を固めるための型として使っている」ということがわかりました。それがクチコミでも広まっていて、その用途で使いたいというニーズがあったんですね。

そして、樹脂を固めると元のシリコンケースは劣化していくため、定期的に買い替えが必要だったということもわかりました。

実際に、要望に沿って再販したところ、安定的に売り上げが上がる商品になったんです。(※シリコーン製の製氷皿は現在追加生産中で、2017年に再販予定。)

他にも、白色の家電製品に黒色のコードが使われていたことについて、「全部白の方が感じが良いのに、コードだけ黒というのはどうしてですか?」というコメントをいただいたときは、実際にコードの色を変更しました。

このようなニーズや、商品を取り巻く事情に気付くことができたのは、お客さまとオンラインでコミュニケーションができるIDEA PARKを運営していたおかげだと思います。

商品開発まで進めるポイントは、担当部署も交えた検討プロセス

商品化までのプロセスとしては、まず投稿していただいた内容を私たちの部署が確認し、週に1度ユーザーの方に何らかの返答を行います。

その上で、さらに検討を進めて欲しいリクエストは開発担当者につなげて回答をもらい、週に1度、開発部門の部門長と確認、検討をしています。

▼商品開発までの検討プロセス


よく他の企業のご担当者様から、「どうやって商品化まで行っているのか?」とご質問をいただきます。

詳しく聞いてみると、リクエストを受けるマーケティング部門と、実際に商品をつくる開発部門のコミュニケーションで苦労されていることが多いように思います。お客さまから意見をいただいても、別の部署の担当者につなげるときに、壁があると言うんです。

私たちは週に1度、部門長とディスカッションを行う仕組みを作ることで、その問題を解決しています。開発担当部門と円滑にコミュニケーションが取れる体制を作ることで、お客さまの声を商品開発に生かせるようにしています。

投稿いただいたお客さまとのやりとりも共有して、「担当者はこういう風に答えているけれど、これはお客様のご意見を取り入れた方がいいね」という風に議論をしていきます。

とはいえ、開発部門の意見もできるだけ尊重しながら、調整をすることが重要です。粘り強い調整が必要なので、少しずぶといと思うくらいのスタンスで、コミュニケーションをすることも必要ですね。

2016年11月より、無印良品からテーマを投げかけてお客様に開発に参加してもらうようなプロジェクトも立ち上がりました。今後も更に、お客さまからのリクエストを受けるだけでなく、このようなプロジェクトも増やしていく予定です。

IDEA PARK内での様々なコミュニケーションを通して、より一層お客様の声を商品開発に生かしていきたいと思っています。(了)

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