• プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社
  • アソシエートディレクター 経営管理本部
  • 鷲田 淳一

制度は作るだけではなく「どう活かすのか」。P&Gの、能力を100%発揮できる組織作り

〜P&Gがメンバーのパフォーマンスを最大化するために取り組む、目標管理と社内制度に迫る〜

P&Gの略称で知られる、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社。

「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容と活用)」を経営戦略として掲げ、その推進に積極的に取り組んでいる同社で、「みんなが『私は最高に能力を発揮できています』と言える組織を実現したい」と語るのは、鷲田 淳一さん。

▼P&Gの経営戦略である「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性の受容と活用)」の概念図

鷲田さんは、部下が最大限のパフォーマンスを発揮できるようなマネジメントを実践しており、厚生労働省が開催した「*イクボスアワード 2016」ではグランプリを受賞した。

*イクボス:部下の育児・仕事の両立をサポートしている管理職

今回はそんな鷲田さんに、P&Gが行っている、パフォーマンスを最大化するための目標管理の手法や、社内制度への取り組みについて伺った。

「部下から仕事を巻き取る」から一転、イクボスへ

私は今年、厚生労働省の実施している「イクボスアワード 2016」で、グランプリをいただきました。この賞は、部下の育児・仕事の両立をサポートしている管理職に送られるものです。

ですが私自身、子供が生まれる前はワークライフバランスを意識していませんでした。自分が一番仕事ができると自負し、長時間働いていました。

仕事のスタイルも、部下に任せるというよりは、部下から巻き取って自分で進めてしまうことが多くて。チームとして結果を残すためには、自分がたくさん仕事をするのが一番だと思っていたんです。

その働き方やマネジメントのスタイルが、子どもが生まれたことをきっかけに、ガラッと変わりました。子育てに少しでも関わりたかったので、深夜や土日も関係なく仕事に時間を費やすというのが、時間的に難しくなったんです。

そこから、自分だけでなく、部下も含めていかに組織として成果を残していけるのかを考え始めるようになりました

特徴的な出来事として、日本でいう一般職の女性社員を、自分の直属の部下にしたことがあります。彼女たちは一見すると、マネージャーがすべて仕事を与えて、それを粛々とこなす人たちに見えていました。

ですが、直属の部下にしたあと、今のビジネスの状況、背景を説明してみたんです。すると、仕事に対しての姿勢が大きく変わるんですよね。より主体的に考え、積極的に業務の改善案を出し、効率がどんどん上がっていきました。

その経験から、部下から仕事を取り上げてしまうことは、ただの自己満足だったんだと理解しました。一人ひとりの能力を信じて上手くガイドして、その能力が発揮できる環境を整えてあげるだけで、チームとして結果を残せることがわかったんです。

目標を追う理由を徹底的に理解させる、目標管理プロセス

弊社では、部下が能力を発揮できるよう、目標管理のプロセスに力を入れています。

まず、社長や経営陣が会社の目標を定め、それが各部門の目標に分解され、最終的に部下に割り振られます。その目標は、年度が始まる前に「これが私たちのチームの目標です」としっかりと共有されます。

チーム目標の共有が終わると、一人ひとりに「あなたはこういうキャリアプランを持っているから、少し大変だけれど、このプロジェクトを任せるので成長につなげてほしい」と説明します。チーム目標を元に、個人目標を割り振るので、その目標は透明性がとても高いものになります。

なぜこの仕事にあなたを選んだかという理由も、すべて説明していきます。その過程で、部下は「自分がその目標を追う理由」を理解できるんです。

そして目標は、2週間に1度は個人面談を実施し、進捗状況を確かめていきます。詰まっている部下がいたら当然ガイドをしますし、逆にうまくいっているのなら、より上の役職の人に、その部下の成果をアピールしています。

それだけでなく、例えば「部長になりたい」といったキャリアの話も目標設定の時点でしていますので、その目標に対しての進捗はどうなのか、キャリアのガイダンスもしています。

部下のモチベーションが下がって結果を出せなければ、結局マネージャーに返ってきますので。目標設定や目標管理のプロセスを整えることは重要ですね。

パフォーマンス向上の為、制度作りも積極的に

社員のモチベーションを向上させ、優秀な人材がパフォーマンスを発揮できるようにするための制度作りにも力を入れています。

そのひとつが、「フレックス・ワーク・アワー」です。これは一般的なフレックスタイム制度をさらに進化させたもので、勤務時間を月単位で管理でき、コアタイムを満たせば、就業の開始時間と終了時間を柔軟に調整できる制度です。

育児・介護などの理由がなくても取得できます。例えば、ある日は子どもの父親参観があるから5時間だけ働き、別の日に足りなかった分の時間を追加して働けるような制度です。

ワークライフバランスが充実した従業員は、やはりパフォーマンスが高いんですよ。満足感を持って仕事に集中できるので、目に見えないプラスが何倍にもなって返ってくると思っています。

「何のために制度を使うのか」を徹底し、悪用も防止

このような制度を整備する上で重要な考えは、「何のためにその制度を使うのか」ということです。

あくまでも、生産性を向上させ、業務にプラスの影響を与えるための制度ですから、好き勝手に利用させない仕組みが必要です。

例えば、「ロケーション・フリー・デー」という、自宅などで働ける制度を利用するためには、研修を受け、オンラインのテストに合格して、上司に許可をもらうことを必須としています。

自宅で働くことで生産性が落ちてしまうのは本末転倒ですから、当然、家が働ける環境なのかということも確認します。

テストでは、ルールをしっかり理解しているのか、制度の意図を理解しているのかを問います。そこで満点でなければ、申請は通りません。

制度の利用率は追わない。「成果が上がるか」が重要

弊社は制度の数が多いというわけではないですが、一つひとつの制度の柔軟性が高く、使いやすい環境を整えています。

制度は常に進化させていますが、その際に制度の利用率が何%上がるのかということは計測していません。それよりも、使う必要のある社員が利用しやすかったのか、実際に使った社員の生産性が上がっているのかを見ることが重要です。

多くの企業は、「子どもが小さいから時短勤務の制度を整備しよう」など、同様の状況にある社員に対して、一律に制度利用をすすめようとしています。

そうではなく、「この制度はあなた達のためにある」ということを理解してもらい、本当に必要な人が使える環境を整えれば、制度もうまく活用されると思っています。

制度は上司が積極的に使って「壁」を壊す

日本社会というのは、まだまだ発展途上だと思います。みなさんが柔軟になって、様々な考えを発言し、1歩踏み出していかないといけないんです。

男性の中にも、言いたいことが言えない人はいると思っています。育児がしたいけれど、周りから「仕事を諦めた」と思われないだろうか、というように。

だから私は逆に、できるだけ制度を使っていこうと思っています。

最初は少しだけ抵抗感もありますけど、1歩踏み出せばもう勝ちです。自分の上司が制度を使っているとなれば、「使いづらい」という壁も壊れるじゃないですか。

制度を正しく普及させるためには、上の人が積極的に使い、言行一致させなければいけないと思います。そうでないと、部下も信用しませんよね。

最終的には、多様な働き方を、誰もが実現できる組織にしていきたいと思っています。男性として、女性としてという性別軸で話すことはそろそろ卒業して、個人に寄り添う必要があると思っています。

私は最高に能力を発揮できています」とみんなが言えるような組織、そしてそれを可能にする上司に近づきたいなと思っています。(了)

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