• 関西電力株式会社
  • 経営企画室 イノベーション推進グループ リーダー
  • 田村 慎吾

電力会社が変わる!関西電力が開催した270万本の電柱を使ったアイデアソンとは

〜堅いイメージの電力会社がオープンイノベーションの実現に向け、社外から97人、社内から20人を集め、アイデアソンを実行した事例〜

大企業を中心にオープンイノベーションという言葉をよく聞くようになった。社内だけでなく、社外から広く技術、アイデアなどを募り、自社のリソースを組み合わせて新しいビジネスを生み出す手法だ。

関西電力株式会社は、電力自由化をきっかけに、オープンイノベーションによる新たなアイデア創出の取り組みを始めた。その1つが、社外から97人、社内から20人を集め、総勢117人の参加者で実施したアイデアソン(※)「Dentune!!」だ。

※アイデア(Idea)とマラソン(Marathon)を合わせた造語。テーマに対して新たなアイデアを短期間でまとめ上げるイベント。

▼関西電力主催の大規模アイデアソン「Dentune!!」


関西電力が所有する270万本の電柱を使ったアイデアを競うイベントで、主婦を中心としたチームが優勝し、その他にもいくつものアイデアが実現に向かって動いている。

今回は、同社の経営企画室イノベーション推進グループに所属する田村 慎吾さんに、オープンイノベーションに取り組み始めた背景や、成功するアイデアソンの秘訣について詳しく伺った。

関西電力に「イノベーション推進グループ」が発足!

私は、経営企画室のイノベーション推進グループに所属しています。

2016年4月からは電力が全面自由化され、2017年4月にはガスが全面自由化されます。

そうなると様々なサービスが出てくるので、今までのように「電気を売っておけば良い」というわけにはいかなくなります。変化して新しいことを生み出す必要がある。そのため、中期経営計画に「イノベーション」という文言が盛り込まれ、イノベーション推進グループが生まれました。

社内の「守りの考え」からはイノベーションは生まれない!

イノベーション推進グループでは、新しいものを生み出すために4つの価値観を定めており、その中の1つに「オープンイノベーション」があります。

今まで関西電力は電気の供給を行っていて、新しいものを生み出すことが得意ではありませんでした。例えば、社内で新しいビジネスのアイデアを考える機会を設けても、自分たちの会社の事情を知っているだけに「技術的に難しい」といった守りの考えが出てきてしまう。

こういった堅い考え方は良い面もありますが、新しいことを生み出していくためには弊害になることもあります。

そこで、社内だけでなく、広く社会からアイデアを募るオープンイノベーションを推し進めていこうということになりました。その一環として、アイデアソンを開催したんです。

アイデアソンのテーマは電柱!?考えやすさと意外性で反響を呼ぶ

アイデアソンの企画は、オープンイノベーションを支援する株式会社フィラメントさんや、株式会社日本総合研究所さんにご協力いただきながら作っていきました。

アイデアソンでは、参加者の方にいきなり「アイデアを考えて下さい」と言ってもアイデアは出てきません。ですから、テーマをしっかりと設定することが重要です。

そしてそのテーマは「多くの人が考えやすい身近なこと」であることがポイントです。そうすることで、ビジネスパーソンだけでなく、学生や主婦など様々な人に参加してもらうことができ、自分たちだけでは思いつかない斬新なアイデアが出る可能性が高くなります。

また、「新たなビジネスを生み出す上で、自社の一番の武器は何であるか」という観点で考えることも、事業化も見据えたアイデアソンにおいて非常に重要です。

結果的に、私達は「電柱」をテーマに選びました。

▼関西電力が保有する、人々の生活を支える電柱の数々

このテーマ選定は関西電力にとって大きなチャレンジでした。弊社は270万本もの電柱を保有していますが、その活用法はこれまで公共・公益の用途に限っており、ある種の「聖域」だったんです。

しかし、電柱は日本全国どこにでもあり、多くの人々の暮らしに密着しているため、非常に考えやすいテーマです。さらに、世の中へのインパクトや広がりが非常に大きいため、本気でイノベーションを目指していくためにも最適でした。

堅いイメージの電力会社が電柱を使って新しいことを始めるというのは、かなり意外性があったようで、応募者からの反響もテーマに対するものが多かったです。

アイデアソンの集客にはネーミング、ロゴ、審査員が重要

テーマやスケジュールが決まった後は、集客をしていかなければなりません。

参加者に魅力的に思ってもらうために、ネーミングやロゴなどを本格的に考えていきました。アイデアソンのネーミングはフィラメントの代表である角さんの提案で「Dentune!!」とし、アートディレクターの志水 良さんにロゴを作ってもらいました。Dentune!!は、電柱をチューンアップして違う価値を生み出すという意味です。

▼「電柱をチューンアップして違う価値を生み出す」という意味が込められた「Dentune!!」のロゴ

また、「集客をするためには本気度を見せることも重要で、審査員が誰であるかがポイントになる」というアドバイスを角さんにいただきました。そこで、副社長2人、常務1人、電柱を所管する部署の副事業本部長1人を審査員として巻き込みました。

その結果、1ヶ月間で178人の集客に成功したんです。

集客は足で稼いた部分もあります。ホームページ、SNS、チラシでの告知は行いつつ、ベンチャー企業が集まるイベントで告知したり、大学に告知に行ったりと、地道な活動をしていました。

▼Dentune!!のホームページ

「事業化を目指す」という本気度を示し、参加者の熱量を上げる!

アイデアソン当日は非常に盛り上がりました。応募してくださった178人から97人を抽選し、まず予選を行います。予選では26チームを作りプレゼンテーションを行ってもらい、その結果をもとに本選メンバーを決めていきました。

アイデアソンを盛り上げるコツは、まず自分たちの本気度を伝えることだと思います。

審査員に役員を設定するなど、関西電力が本気で事業化しにいく熱量を伝えました。

また、ファシリテーションも重要です。アイデアソンのファシリテーションは、フィラメントのハッカソン芸人ハブチンと角さんに行っていただきました。演出にもこだわり、MBS毎日放送さんにお手伝いしてもらうことで、豪華な映像を作りました。

こうした取り組みが相まって、参加者の熱量があがり、事業化につながりそうなアイデアが7つも生まれたんです。

▼Dentune!!参加メンバーが盛り上がっている様子

優勝したのは主婦!新たな視点のアイデアが集まる

予選の審査基準は、利便性、斬新性、実現性としました。自分たちでは生まれないアイデアが欲しかったので、特に利便性と斬新性を重視しましたね。とはいえ、絶対に実現不可能なSFのようなアイデアが出てきても困るので、実現性も基準に入れています。

そして予選のあとは、2週間の期間を空けて本戦を行いました。本戦までの間には、各チームにビジネス性についても強化してもらいました。

その結果優勝したのは、なんと主婦を中心としたチームだったんです。アイデアは、電柱に折り畳みの椅子や日傘を据えつけるというもの。とても自分たちでは思いつかないシンプルなアイデアでした。

▼主婦を中心としたチーム「おかん」が優勝


シンプルだからスタートしやすいですし、色々なプランと組み合わせがしやすい。電柱に電源やWi-Fiを設置して有料化するといった展開も考えられますね。椅子を設置するというのは、色々なアイデアの核になり得るということで、優勝となりました。

参加した社員から、意識改革の波が!

アイデアソンが終わった後は、社内からの反響もすごかったです。様々な部門から「すごいよかったやん」と言われました。役員もすごい気にかけてくれていて「あれってどうなった?」と何回も聞いてきてくれたんです。

実は今回のアイデアソンの参加者は、社外からだけではありません。約20,000人の関西電力社員からも20人を選定し、アイデアソンに参加してもらったんです

その目的は、「新しいことを考えることに対する苦手意識を払拭する」という意識改革です。20人全員が違うチームにばらけて、社外の人と意見をぶつけ合いました。

▼チームメンバーでディスカッションしている様子


その結果、参加したメンバーは、社外の人のスピード感を学んだり、新しいことを生み出す楽しさを実感してくれたんです。

はじめは乗り気でなかった社員も、参加後には、事業化に向けたミーティングに参加したいと自ら手を挙げる人も出てきました。こういったアイデアソンは、人材育成にも効果があると実感しております。

会社の持つリソースを活かし、さらなるイノベーションを目指す

現在、Dentune!!で生まれたアイデアの実現方法を検討していますが、何とか形にして世の中に出していきたいと思います。これで何も起こらなければ、ただのイベント屋になってしまうので。目標は事業化ですが、いきなり事業化は難しいので、まずは小さく実行して検証していきたいと思っています。

また、今回出たアイデアを実行しつつ、オープンイノベーション第2弾として他の取り組みも検討しています。弊社はスマートメーターや鉄塔など、色々なリソースを持っているので、それらも活かしていきたいですね。

電柱でこれだけアイデアが出たので、いくらでもアイデアが出てくると信じています。今後も、関西電力の資産を生かしてどんどんアイデアを生み出し、それを実現していきたいと思います。(了)

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