• 株式会社ヤッホーブルーイング
  • よなよなエール FUN✕FAN団
  • 稲垣 聡

「よなよなエール」だけで終わらない、ヒット商品を生み続ける商品開発プロセスとは?

〜「よなよなエール」「水曜日のネコ」などの個性的な製品を生み出し続けるヤッホーブルーイング。そのブランド戦略と、クチコミを活用したマーケティング戦略に迫る〜

クラフトビール業界で注目を集める、株式会社ヤッホーブルーイング。「よなよなエール」を始め、「水曜日のネコ」「インドの青鬼」など、キャラクターが描かれた独特なパッケージと、一度目にしたら忘れない個性的なネーミングの製品を展開している。

▼一度目にしたら忘れない、ヤッホーブルーイングのクラフトビール

広告費に投資する費用が無かった同社は、製品を徹底的に差別化することで熱狂的なファンを作り出した。そしてクチコミはじわじわと広がり、2017年現在では11年連続で増収増益のトップメーカーとして、クラフトビール業界を牽引している。

その成長の裏には、ブランドを徹底的に突き詰める製品開発プロセスと、クチコミを生み出す仕掛けがあった。

今回は、最新の定番製品「僕ビール、君ビール。」を中心とした製品開発、マーケティングプロセスについて、稲垣 聡さんに詳しく伺った。

万人受けは狙わない!100人中1人に愛される製品を目指して

弊社は「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションに掲げるクラフトビールメーカーです。「よなよなエール」や「水曜日のネコ」など、限定製品を合わせると10種類ほどの製品を扱っています。そして、そのどれもが一見するとビールには見えない、ちょっと変わったものになっています。

弊社は広告にお金をかけられない小さなメーカーですので、大手のメーカーさんのように幅広いお客様に支持される製品を作っても埋もれてしまいます。だからこそ「個性的」であることにこだわってきました。

▼全国からよなよなエール好きが集うファンイベント「宴」での様子

自分たちが本当に美味しいと思える、差別化された製品で「100人に1人でいいから熱狂的なファンになってもらう」ことを目指しています。私はそれらの製品のブランド開発に携わっています。

2011年に入社して、最初に携わったのは「水曜日のネコ」でした。週の真ん中でちょっと一息つきたい水曜日に、ネコのように自由気ままになろうよ、というのがコンセプトのビールです。

▼女性向けに開発されたジェンスタイルホワイトビール「水曜日のネコ」

最近では、2014年末に限定販売した「僕ビール、君ビール。」にも携わりました。

▼ビール離れが進む若者に向けた「僕ビール、君ビール。」


この製品は、ビール離れが進む若者に向けたもので、ネーミングからキャラクター、その液種までを個性的に仕上げました。2015年末から定番製品になり、累計110万本以上も売れる大ヒット製品となりました。

ラダリングで解き明かした、「ビール離れ」の本当の理由とは?

「僕ビール、君ビール。」は、ローソンさんの「ビール離れが進んでいる若い層が買ってくれるクラフトビールをつくれないか」という依頼から誕生しました。

私はこの依頼を聞いた時、「彼らは本当にビールが嫌いなわけではなく、積極的に飲まない別の理由があるのではないか」と感じたんです。

▼「僕ビール、君ビール。」のブランド開発に携わった稲垣 聡さん

そこで、まずは複数人にインタビューを行い、彼らをビールから遠ざけているインサイトを探っていきました。

ビール離れしている人が対象ということで、インタビューの対象はクラフトビールに詳しくない人、そして新製品があったらつい買ってしまうバラエティシーキング(※)型の若者に絞りました。

※製品を選ぶ際に、特定のブランドだけではなく、さまざまなブランドを購入しようとする行動特性のこと

バラエティシーキング型の消費者は好奇心が高く、新しい経験をしたいという気持ちがある人が多いので、おそらくクラフトビールも試し買いしやすいのです。

インタビューは、対象者と1対1の面談形式で行いました。このときに気をつけたのが、質問の仕方です。「なぜビールを飲まないのか?」と聞いても、表層的な答えしか得られません。

そうではなく、対象者がビールにかぎらず飲酒をする時、どうやってそのお酒を選ぶのかを聞いていったんです。

そして好んで飲むお酒について、ラダリング(※)でそのお酒を選んだ理由を深掘りしていき、「では、ビールについては?」と話をスライドさせることで、ビールを選ばない潜在的な理由を探っていきました。

※ 「なぜこの製品が好きなのか」という質問を繰り返すことにより、製品の持つどの属性が購買者に評価されたのかを把握するための手法

すると、「ビールは嫌いじゃないけど、おじさんの飲み物というイメージがある」というインサイトが明らかになりました。

▼インタビューで出てきたコメントの一例

このインサイトを受け、「アラサー男子のプチ個性的な自分らしさにフィットするビール」という製品コンセプトを作りました。「おじさんの飲み物ではなく、自分たちの飲み物だ!」と思ってもらおうと考えたんです。

ベネフィットも従来のビールと差別化し、「自分らしさ」や「自分のセンスの良さ」を感じられるような、自己確信のものに設定しました。

▼「僕ビール、君ビール。」の製品コンセプト

キャラクターは「ブランドパーソナリティの伝達者」

コンセプトが決まったら、次にキャラクターを作りました。キャラクターには、ブランドパーソナリティを効果的に伝えられるというメリットがあるんです。

ブランドパーソナリティとは、ブランドが持つ人間のような特徴のことです。人はブランドを「自立している」「洗練されている」「気まま」など、まるで人間のように捉えていて、そういった性格をうまく伝えるのがキャラクターなんです。

今回の場合は「自分を持っているけどフレンドリーで、新しい価値観を教えてくれる友だち」というブランドパーソナリティを設定しました。

▼「僕ビール、君ビール。」のブランドパーソナリティ

そのパーソナリティに該当したのが「カエル」だったんです。昔から「ど根性ガエル」などが友だち的なキャラクターとして親しまれていたので。

そして友だちであるカエルが「僕らのビールはこれだよ」と教えてくれるシーンを表現しようと、ネーミングは「僕ビール、君ビール。」に決定しました。

ファンコミュニティでモーメントをつくり、クチコミを生み出す

次に考えるのは、コアターゲットである「ビール離れをした若者」にどうリーチするかです。直接リーチできるルートは無いので、クチコミで広げていこうと考えました。

▼SNSでのプロモーション戦略

口コミで話題になるには、モーメント(きっかけ)を作ることがとても大事になってきます。

例えばクリスマスやバレンタインなどの記念日は、共通の話題ができてクチコミも広がります。でも、このモーメントを世の中全体に作り出すことは難しいですし、マーケティング費用もかかります。

しかし、特定の集団に対してのモーメントなら作り出せるんです。


例えばアーティストのファンであれば、「いよいよツアーが始まる頃だ!」という共通の話題が自然と生まれますよね。ファンコミュニティに情報を与え、コミュニケーションを取り続けることで、モーメントは生まれます。

それを狙って、まずはクラフトビールファンの中で盛り上げることで、その友人であるコアターゲットにクチコミで広げてもらうという戦略を取りました。9月に製品を発表し、発売までは2ヶ月くらいあったのですが、その間に様々な種まきを実施していました。

ビアフェスで試飲を行ったり、よなよなエールのコミュニティに対して定期的に情報を流すなど、粘り強くコミュニケーションしていったんです。

▼「僕ビール、君ビール。」 充填の工程をFacebook上で公開し、900いいね以上を獲得


その結果、「これが発売されたらいっぱい買うよ!」という気分が醸成され、クラフトビールファン11万人とよなよなエールファン1万人の盛り上がりを作ることができました。

ファンの盛り上がりをターゲットに届ける「カエル捕獲大作戦」!

次に、これらのファンの盛り上がりを、コアターゲットの「ビール離れした若者」に見える化させるための施策を打ちました。それが「全国カエル捕獲大作戦」という、Twitter上でのプロモーション企画です。

▼全国のローソンでカエルを探す「全国カエル捕獲大作戦」

ビールファンのタイムライン上で盛り上がることで、その友人であるコアターゲットに気付いてもらおうという考えでした。

企画の内容は、弊社のスタッフ2人が発売当日から23区のローソン店舗をまわり、「僕ビール、君ビール。」を見つけたらTwitterで報告し、その数を競い合うというシンプルなものです。

▼東京23区中のローソンで、「僕ビール、君ビール。」を見つけた数を競い合う


その際、他のフォロワーにも「製品を見つけたら教えてください」と呼びかけていました。

そうしたら、全国のお客さんが次々と捕獲報告を上げてくださり、中にはコンビニでケース買いした写真を上げてくれる方もいらっしゃったんです(笑)。

▼全国のファンが次々とTwitter上に捕獲報告をアップ


結果的に、当初は3ヶ月間の限定販売を予定していた在庫がたった1ヶ月で完売しました。

さらにはその月のローソンさんのビール売り上げランキングも、大手ビールメーカーさんの定番製品もある中で、2位に踊り出ることができたんです。今では定番製品になり、累計110万本以上を売り上げる大ヒット製品になっています。

ファンの力で、ブランドを共に育てていく

新製品を開発する際には、まず、その商製品が素晴らしくなければいけませんが、それだけでは話題にはならず、ターゲットの元にはなかなか届きません。「僕ビール、君ビール。」の場合はファンの力で話題を生むことができました。

ファンは製品開発に限らず、自社のブランドにとっても非常に重要な役割を担っています。弊社では、「宴」というイベントや醸造所見学などで直接コミュニケーションを取っていますが、その根幹には「ファンと一緒にブランドを育てていきたい」という思いがあるんです。

▼ファンを巻き込んだCMイベント「ネオ三本締め」の様子

もちろん、大前提として「よなよなエールはこうあるべき」という軸はあります。ただ、それだけではなくて、「私にとってよなよなエールってこういうイメージだよね」というお客様からの見え方もアップデートしていきながら、ファンと近い距離でブランドを育てていきたいと思っています。

そうして、今後もファンに喜んでもらえる個性豊かなビールを造っていき、ビールファンの人生にささやかな幸せを届けていきたいですね。(了)

;