• and factory株式会社
  • 執行役員 CHRO
  • 梅谷 雄紀

転職市場でベンチャーはどう戦う?人材ビジネス起業経験者によるエージェント活用術

〜人材ビジネス起業経験者が語る、ベンチャー企業が採用で勝つ方法とは?大手企業や採用競合との差別化の方法から、エージェントとのコミュニケーションのポイントまでを公開〜

名もないベンチャー企業がビジネスを成長させていくためには、採用がひとつの壁になることも多い。

and factory株式会社は、創業3年目を迎えたベンチャー企業だが、1年半で30名以上の採用に成功している。その裏には、人材ビジネス領域で起業を経験してきた人事担当による、経験に裏打ちされた採用媒体・人材エージェントの活用術や、リファラル採用のノウハウがあった。

今回は同社で最高人事責任者を務める梅谷 雄紀さんに、大手企業や採用競合と差別化するための手法から、人材エージェントとのコミュニケーション術、面接時のノウハウまで、詳しく伺った。

人材ビジネスを起業した経験を活かし、1年半で30名以上を採用!

弊社は2014年9月に創業した会社です。ビジネスが本格化したタイミングでは数名しか社員がいませんでしたが、3期目の現在では40名規模の会社になっています。

▼オフィスで働く社員の様子

事業を拡大していくうえで最も大切なことの1つは「人」だと考えています。事業を考えるのも、生み出すのも、育てるのも、発展させるのも「人」であり、誰が行うかによって結果は大きく異なってくると思っています。そのため、「人」の採用や、能力を活かす環境創りに徹底的にこだわってきました。私は、その中で採用の責任者をしています。

以前は、インテリジェンスで転職媒体・人材紹介の法人営業を経験していました。その後、元インテリジェンス代表取締役社長のもとで不動産投資の仕事や人事に携わり、人材エージェントをメイン事業として独立した後、and factoryに入社しました。

このように、転職ツールを提供する側と利用する側、大手企業とベンチャー企業のそれぞれに携わった経験を活かして、現在はand factoryの組織創りにコミットしています。

採用ターゲットを明確にして、彼らを深く理解する

これまで様々な職種の方を採用してきましたが、中でもエンジニアの採用を強化しました。

最初は社長や事業責任者が中心となってリファラル採用をしていたのですが、エンジニアやデザイナーのような専門職とは繋がりがなく、難航していたんです。そこで、採用媒体や人材エージェントなどの力を借りて、エンジニア採用を進めていきました。

私は、人材エージェントのビジネスをしていたときからずっと、「どこにいるどんな人に、何を、どのように伝えるか」ということを考え続けてきました。

例えば、エンジニアの年収っていま高騰しているじゃないですか。新卒の方にも1,000万円出すという企業もあるくらいで。私たちのような、創業3年目のベンチャー企業には、それは真似できないですよね。そのような会社と同じターゲットは、私たちは狙いません。

では、どこをターゲットにするかというと、具体的にはSIerやSES、受託のドメインに属する、20代後半から30代の半ばの層です。

そして、その方々が日々どのような事を考え、感じながら仕事をしているのか、何に不満や不安を抱え、どうしていきたいのかを想像しながら、彼らに最適なメッセージを作っていきました。

私は、どこまでターゲットのことを深く理解できるかが、採用の成否を左右すると思っています。また、ターゲットへの理解は、入社後の定着率や風土創りにも大きな影響を与えると考えているので、彼らのことを深く知るよう常に心がけています。

間口を広げすぎるのはNG?人材エージェントの選び方

こうしてターゲットとメッセージをしっかりと固めると、エージェントの方ともお話がしやすくなるんですよ。

エージェントは、まずは大手人材エージェントから活用していきました。ネット系やWeb系の人は規模の小さいエージェントにも登録されていらっしゃいますが、SIerやSES出身の方々って、やはり有名なところに登録する傾向があるんです。

そして、やり取りするエージェントの数は、間口を広げすぎずに「誰と何をするのか」に集中して、20社ほどに限定しました。数が多ければ多いほど、無駄なやり取りが発生しますので。限られた人数で最大限の成果を生むためには、この方式が良いんです。

営業担当者との関係性が、採用の成果に繋がる!?

エージェントを決めたら、最初にしっかりとすり合わせをします。まず、会社や事業のこと、今後会社をどうしていきたいかをお伝えして、今回の採用の目的と、採用したいペルソナの共有をします。

また、求める人材が働いているであろう企業ごとに、and factoryがその企業の人にとって魅力的である理由や、and factoryで活躍できる理由などもあらかじめ用意し、エージェントにお伝えしています。

そして、限られた人材エージェントとの関わりを大切にすることで、成果を生むための更なるアクションが可能になります。

それが、「営業担当者との関係性の構築」です。

人材エージェントを利用した際、採用の成果を左右する要素は「人材エージェント企業の特徴・規模」「営業担当者との関係性」「採用したい人材がいる企業の特徴」だと考えています。


ここで、企業の特徴や規模はこちらではコントロールできないのですが、営業担当者との関係はこちらのコミュニケーション次第で良くすることができます。

関係性を良くするため、私たちの場合、まずは営業の方々にとって有益なことをしようと心がけています。営業担当者にもノルマがあったり、色々都合があるんですよね(笑)。だから、上司の協力をあおるために必要な情報をヒアリングするなど、彼らの状況を理解し、こちらが対応できることはできる限り応えるようにしています。

「そこまでするか!?」というところでもあるのですが、そこまでしないとなかなか良いエンジニアを採用することはできません。逆に言えば、そこまですれば求めている方の採用ができるんです。あとは、やるかやらないかだけですね。

コンサルタントにメリットを提示し、協力してもらうことが重要

求めるターゲットだけでなく、ご紹介いただくまでのプロセスをすり合わせることも重要です。エージェント側がスキルを元に人材をスクリーニングして、「この言語を書けるエンジニアは全員紹介します」と言ってくるケースも多いのですが、それだと本当にマッチングする人材を見つけるのはなかなか難しいです。

そこで、まずはエージェント側がどのようにスクリーニングしているかを細かく確認して、自社にフィットするようにスクリーニング方法を調整できるか確認して進めていきました。

こういったプロセスのすり合わせは、法人営業の担当者だけでなく、候補者と直接やり取りするコンサルタントともするべきです。

営業担当者とコンサルタントの連携ができていない事も多いので、コンサルタントが候補者に弊社のことを正しく伝えられるよう、Skypeで面談をしたり、現場のエンジニアと会っていただくこともあります。

ここでも営業担当者と同様、コンサルタントとの関係性構築がポイントになってきます。エージェント企業が大手であればあるほど、コンサルタントには細かくKPIが設定されているはずなので、そこに協力していくんです。例えば「面談の設定回数」くらいであれば協力できますよね。

そして、面談に進む人の数を増やすためにも、ペルソナをしっかりとすり合わせましょうと。そうしてお互いにとってメリットがある形にしていくんです。

面接でも大手と差別化を!採用プロセスは柔軟にせよ

候補者との面接の際には、他社とどう差別化するのかを考えています。

私はいろいろな会社の採用プロセスを見てきましたが、書類選考があって、そこから3回ほど面接があるという会社が一般的です。ですが私たちは人によってプロセスを柔軟に変えているので、早ければ1週間で内定を出すこともあります。

私たちのようなフェーズのベンチャー企業は、提示する給与だけでは優位に立てないこともあります。カルチャーや事業の将来性などで採用競合と差別化しながらも、採用の意思決定のスピードや採用プロセスの柔軟性で、内定承諾率が高くなるよう取り組んでいます。

また、面接の前後にも、エージェントの方とは密にやり取りをしています。

やはり、候補者の方は懸念点を直接的には言わないので、最終面接の前にはエージェントの方に「どうしたら弊社に意思決定してくれますか」とヒアリングします。その情報を元に、最終面接で懸念点を無くしてもらえるように、面接を設計しています。

面接で不採用になった場合も、何がダメだったのかはエージェントの方に率直に伝えています。人材紹介をしていたときにも感じていましたが、何が良くて何がダメなのかを率直に言ってくれる会社の方が支援しやすいんですよ。面談をしたその日か、遅くても翌日には必ずフィードバックをしています。

メンバーの能力が開花するよう、最後まで責任を持つ

こういった採用ノウハウももちろん大事なのですが、良い採用をするためにまず重要なことは、人材の重要性を経営陣がしっかり認識することだと考えています。

「リソース不足だから採用を強化する」という短絡的な考えではなく、「同じ船に乗る仲間を集める」という姿勢で人を採用すること。そして、「採用して終わり」ではなく、育成・人材配置など、入社してくれたメンバーの能力がより開花するよう最後まで責任を持つこと。

そうすることで、組織・事業をさらに拡大していき、メンバー全員が自慢したくなるような組織を作っていければと思います。(了)

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