• 株式会社エス・エム・エス
  • 介護事業本部長
  • 福田 升二

退社時間を早めても、直近5年で売上は2倍以上に!生産性を高める、現場主導な組織作り

〜退勤時間を早めながらも、急成長を成し遂げた株式会社エス・エム・エス。それを実現した、「現場主導の」組織作りとは〜

「生産性」という言葉をよく耳にするようになって久しい日本。その中で、まさに生産的な組織作りを実現させている企業がある。「高齢社会に適した情報インフラの構築」をビジョンに掲げ、介護・医療などの領域で事業を展開する、株式会社エス・エム・エスだ。

同社は、数年前から「全社員が定められた時間までに退勤する」という制度を導入。現在では、19時半の完全退勤を実現させながらも、売上を直近5年で2倍以上に伸ばすという実績もあげている。

その背景には、組織全体で徹底的に戦略と目標をすり合わせた上で、その目標を実行するための裁量の多くを現場に与えるというマネジメント方針があった。

今回は同社の介護事業本部にて本部長を務める福田 升二さんに、組織作りの考え方についてお話を伺った。

変化の激しい市場では、長時間の労働を前提にしない組織作りを

弊社では最終退社の時間を、創業2年目の2004年から設定しています。その後、その時間を30分ずつ切り上げていき、2015年4月には19時半に設定しました。そしてPCの持ち帰りや、退社後のスマートフォンを使ってのメール対応なども禁止しています。


そもそも、この取り組みを始めた理由としては、大きく3点が挙げられます。

まずは、変化の激しい市場においては、新しい情報を常にインプットすることが求められることです。

会社で長く働くのではなく、早めに退勤して、各従業員に退勤後の時間をインプットにあててもらう必要性がありました。

次に、長時間の労働を継続できる人間は、ごく一部だということです。

たしかにスタートアップのような環境であれば、熱量の高い創業者たちが、昼夜を問わず業務にコミットすることができるかもしれません。けれど、このような長時間の労働を前提とした組織作りには限界があります。


我々のような成長市場に身をおく企業では、組織が100人、200人と急成長することを考える必要があります。そうすると、ワークライフバランスを大切にしたい従業員も、当然出てきます。

最後に、プレイヤーの多い市場で、時には模倣されることを考えた際に、競合と差別化を図るためには、スピードが重要であるからです。

類似したビジネスモデルを持つ競合も存在する中で勝っていくためには、業務オペレーションのスピードを上げることが重要です。

実際に弊社では、長時間働いて成果を出したとしても、それは評価しません。決められた時間の中でアウトプットを出せないのであれば、マネジメントの責任になります。

生産性を高めるカギは、現場に裁量をもたせる組織作り

こういった背景を踏まえると、短い時間で多くのアウトプットを生み出せる組織、つまり生産性の高い組織作りをする必要があります。

それを実現するために、介護事業本部では「現場に多くの裁量をもたせる組織作り」を強く意識しています。


各チームで目標を追っていく際に、現場から上がってきた行動計画について、マネジメント側が必要以上に介入することはありません。

例えば、ツールを導入するという場合も、当然、必要最低限のセキュリティチェックと稟議は行いますし、使用にあたっての注意点は伝えています。

ただ、あくまで現場主導で提案があがってくるよう、マネジメント側での統制が行き過ぎないように、常に現場の要望とのバランスを意識しています。

「組織と個人の目標をリンクさせる」コミュニケーションが重要

現場から出た意見や方針を、組織が必要以上に管理してしまうと、その確認プロセスによって、オペレーションのスピードはどうしても下がってしまいますよね。

ですので介護事業本部では、最低限のチェックは意識しつつも、基本的には現場に裁量を持たせることで、意思決定にかかるスピードを早めています。

そしてその実現のために、「組織目標と、現場で個人が追う目標を徹底的にリンクさせる」コミュニケーションをとる工夫をしています。

例えば、普段から互いに名前を呼びあう際は、役職ではなく「さん」づけを使ったり、役職・契約形態を問わず、全社員が丁寧語を使用しています。

「何を目指すのか?」を議論する際に、所属する階層や役職にとらわれてしまうと、円滑なコミュニケーションが難しくなるからです。

そういった風土をつくった上で、期初に経営層・マネジメント層・現場のメンバーが徹底的に意思疎通を図り、組織の戦略と個人の目標の擦り合わせをおこなっています。

このような工夫をすることで、組織全体が同じ方向を向くことのできる状態をつくっています。

「ボトムアップで考える」という習慣が、組織のカルチャーに

組織の方向性について共通認識を持つことができれば、不要な管理プロセスなしに、現場を信じてスピーディにオペレーションを実行していくことが可能です。

また、こうして現場に権限を移譲していくことで、「普段から自分たちで考える」という習慣を定着させています。

結果として介護事業本部では、生産性という文脈でいうと、「どうすれば短い時間で多くのアウトプットを生み出すことができるのか?」を、トップダウンではなくボトムアップで考えることのできるカルチャーを作ることができているのだと思います。

まずは一度、「今のやり方」を疑ってみること

長時間働くことで、事業が成長するというのは、ある意味当然のことだと言えます。ただ、現状の売上が長時間の労働を前提として成り立っているものなのであれば、生産年齢人口が減っていく日本において、いずれ限界が来ることは明白です。

ですから、まずは一度、今のオペレーションや制度を疑ってみることから始めるべきだと思います。

働く時間を短くすると、本当に売上は落ちるのか? そうであれば、そうならないために変えられることはないのか? など、一度、考えてみることが大切ですね。

実際、弊社においては勤務時間を短くしていっても、成長を続けることに成功しています。

新しいことに取り組む際には、どうしてもリスクを懸念しがちです。けれど、基本的には人を信じ、裁量を当人に持たせることで、生産的な組織を作ることが可能なのではないでしょうか。

高齢化が進む中、介護領域における生産性を高めることは、これからの日本にとって非常に重要なテーマです。そういった社会課題の解決に少しでも貢献できるよう、まずは我々自らが、より生産性の高い組織になっていきたいですね。(了)

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