- 株式会社アラタナ
- 経理財務部
- 土屋 桂子
バックオフィスも「早くてうまい」で攻める!月次業務を倍速にした、業務の改善法とは
〜まるでファストフード!?ITツールを使ってどんな業務も「誰でも」「簡単に」へ!攻めのバックオフィス改革ノウハウを大公開〜
組織は意図せずとも、効率化のために、つい縦割りになりがちだ。しかし、「特定の人にしかできない仕事」が増えることは、組織にとって不健全に働くことも多い。
とりわけ経理や財務、労務といったバックオフィス業務では、専門的な知識が求められるため、仕事の属人化が起こりやすいと考えている人も多いのではないだろうか。
株式会社アラタナは、ECサイトの構築や運営をサポートする、宮崎発のITベンチャー企業だ。
同社では、ITツールを活用し、経理の業務をファストフードのように「オープンに」「誰でも」「簡単に」できるような変革を行った。結果的に経営陣への月次報告も、以前の2倍以上のスピードでできるようになったという。
今回は、同社の経理財務グループでの業務改善に取り組んだ土屋 桂子さんに、その当時の背景から、ツールを導入し、業務改善するまでのプロセスについて詳しく話を伺った。
経理の業務が短期間に集中してしまい、月次の決算報告は大慌て!
私は、主人が宮崎出身で、故郷に戻るタイミングで一緒にアラタナへ入社しました。私がジョインした当時の経理財務グループは4人で、メンバーは総務や財務の業務を兼任している状況でした。
私が入った当初の経理部は、月次決算は行っていたのですが、それほどスピードは求められていませんでした。翌月10営業日から13営業日くらいまでに締め処理を終わらせていればよかったんです。
しかし2015年の3月に、弊社がスタートトゥデイグループ(東証一部上場 ZOZOTOWN運営)へ参画することが決まり、状況は一変しました。決算報告を弊社の経営者に加え、親会社である同社に向けて、5営業日以内に上げる必要が生じたんです。
これまで社員への経費精算の提出期限は月末の1回にしていたため、私たち経理部は月初に、大量の入力作業に時間を取られていました。そのため、スピーディーな決算報告ができていなかったんです。
その状況のまま早く報告を上げようとすると、入力量は変わらないため、どうしてもメンバーの負担が増えてしまいます。結果として残業時間が増えたり、締め切りを過ぎてしまうこともありました。
一番の目的に立ち返り「スピード」を優先するプロジェクトを発足
そこで私たちは、決算報告のスピードを上げつつ、メンバーの業務が増えすぎないようにするため、まずは経理財務グループの「目的(ミッション)」を考え直しました。その結果生まれたコンセプトが「iAT」でした。アラタナの情報を整理することで、アラタナメンバーがアクセスでき、使えるようにすることこそ、私たちが果たすべき使命だったんです。
そして、情報をパスする経営陣が求めていることは何か考えた時、それが「スピード」だったことに気づきました。もちろん決算報告には正確さも必要ですが、細かい粒度での資料は必要なかったんです。
まず会社にとって重要なことは、少しでも早く、経営状況を数字で把握できることです。そうであれば、私たち経理財務グループは、判断に必要な数値をすべて把握し、いつでも報告できる状態を作るべきだと考えたんです。
▼リーンキャンバスのように整理した、経理財務グループの業務
そこで私たちは、仕事をより効率的に行えるよう、テンプレートを使った業務の標準化を目指しました。
このときに参考にしたのは、武田 雄治さんが書かれた「『経理の仕組み』で実現する決算早期化の実務マニュアル」という本です。
この本では「決算の早期化のためには、属人化をなくした業務の標準化が必要」と書かれており、弊社に大変合っていると感じました。実際行なった取り組みの多くは、ここからヒントを得ましたね。
最終的に、1年半かけて、以前は13営業日かかっていた経理の月次業務を、5営業日まで短縮することができました。さらに、現在は速報として、翌月3営業日目には、仮数値を経営陣・各部署の部長にメールすることができるようになったんです。
バラバラだったファイルを、Googleスプレッドシートで一元管理
また、私たちは経理財務グループ内の情報の整理も行いました。
まずは決算の報告に使用する各勘定科目のワークシートや証憑(しょうひょう)を、「Google スプレッドシート」を使ってひとつの基本となるファイルに集約しました。
もともと、それぞれのメンバーが作成した勘定科目のファイルは、整理の仕方が統一化されていなかったんです。
例えば「売掛金」「親会社売掛金」が別のファイルに分かれていたり、保存場所も、共有フォルダだったり、ときには各自のPC端末だったり…。さらに、その書き方が個人でも大きく異なっていたので、社内でも情報共有がうまく出来ていませんでした。
そこで、Googleドライブのスプレッドシート上で各勘定科目ごとのシートを用意して、情報を保存する場所をひとつにしたんです。
ファイル名を統一したり、記入するときに内容の抜け漏れがないよう、それぞれのワークシートに目次やチェックリスト・手順のテンプレートを作成して、属人化した状況を改善していきました。
そうすることで、必要な数字を調べて入力するだけで、一見すると経験が必要そうな経理の仕事を、誰でもできるようになったんです。書き方が統一されたことで、前月からの数字の変化もわかりやすくなりました。
毎月のタスクはチームみんなで管理して、フォローしあえる職場をつくる
次に、チームのメンバーごとの仕事も、その進捗状況を可視化することで、互いにフォローしやすくなるようにしました。
具体的には、「Backlog(バックログ)」を、メンバーみんなでプロジェクト管理するために使うことにしたんです。
※「Backlog」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
▶︎プロジェクトの成功に役立つ「プロジェクト管理ツール」3選
これまでもエクセルでスケジュール管理は行っていたんですが、ひとつのタスクがどこまで進んでいるかわからず、口頭で確認する必要がありました。今ではBacklogを利用して、月次決算単位でそれぞれの業務を整理し、まるでプロジェクトチームのように日々の進捗の管理をしています。
バックオフィスは、ルーティンワークも多いです。そこで毎月の業務内容を、Backlog上でテンプレート化しています。そうすることで、毎月業務を洗い出さなくても済みますよね。
さらに、Backlogの良いところは、プロジェクトごとにコメントが残せることです。
もし急にお休みしたメンバーがいても、コメントの履歴を見て、周りのメンバーがカバーできます。他にも、業務の中での気づきや監査法人からの指導も、コメントを残してメンバーに共有することで、業務を改善しています。
特に私たちの組織は女性が多いので、メンバーが入れ替わったり、お休みする可能性もあります。そういったときに業務が属人化していると、仕事が止まってしまいますよね。そういったことを防ぐ狙いもありました。
結果として、業務の進捗状況がお互いにわかるようになり、仕事内容がオープンになりました。いま、誰がどこで詰まっているのかもわかるので、メンバーのフォローや、相談もしやすくなったと思います。
Slackを使って社内のコミュニケーションをオープンに
また、より業務を効率化するために、コミュニケーションツールの見直しも行いました。
今は社内のコミュニケーションツールには「Slack(スラック)」を使用しています。Slackはビジネス向けのチャットツールで、PC、スマートフォン、タブレットと、端末を選ばずにメッセージのやりとりが可能です。
※「Slack」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
▶︎ビジネス向けチャット「Slack(スラック)」とは?特徴と始め方を日本語で解説!
私たちは、経費申請時に社員とコミュニケーションすることが多いです。そして、弊社はエンジニアメンバーが多く、彼らはすでにコミュニケーションツールとしてSlackを使用していました。
そうであれば私たちも、それに合わせたコミュニケーションの方法を選んでいくべきだと考え、Slackの導入を決めたんです。
Slackでは1対1のメッセージ交換もできますが、複数人でのやり取りも可能です。そこで、担当でない経理メンバーもそのやり取りに参加することで、ナレッジを共有しています。また、上長や経理部長にも参加してもらえば、わざわざ別に報告をしなくても、スムーズに情報共有することができますよね。
実際の業務フローで言うと、社員が稟議システムで経費申請を行い、それを私たち経理財務グループがSlackでフォローしつつ、稟議を進めていきます。そこから決算までに必要なイレギュラータスクといったものは、Backlogで管理しています。
こうして色々なツールを試すことができた理由には、弊社にエンジニアが多くいたこともあると思います。ツールの導入にあたっては、エンジニアメンバーに、おすすめのツールや登録方法、使い方を教えてもらいながらマスターしていきました。
全社を巻き込み、2倍以上の効率化を実現
この決算早期化の取り組みは、約1年半ほどのプロジェクトでしたが、今では全社へ向けて私たちiATの取り組みや目的のプレゼンテーションもしています。そうすることで、経費を早めに申請してもらったり、おすすめのツールを教えてもらったりと、全社から協力を得ることができています。
「決算業務をなぜやるのか」という視点から改めて確認することで、全社的にも経理に対する価値観を変えることができましたね。私たち経理財務グループが、目的意識をもったチームとして仕事に取り組むことで、攻めのバックオフィスを体現できたのではないかと思います。
バックオフィス業務では、経験や専門知識が必要だと思われがちです。ですが、一見難しいと思われる仕事も、工夫次第では誰でもできるようになると考えています。
日々の仕事の中でできる業務が増えたことが、メンバーの自信につながり、自発的な組織に変わっていったようにも感じています。今後はスピードだけでなく、経営の意思決定にさらに役立つよう、情報の質にもこだわっていきたいですね。(了)