- 株式会社アトラエ
- 代表取締役 CEO
- 新居 佳英
退職者ゼロの秘密は「サッカー型組織」にあり!?全員が株主の、アトラエ流・組織作り
〜2年半、1人も退職者が出ていない上場企業「アトラエ」。全社員がオーナーシップを持つ同社の、フルフラットな組織作りの裏側に迫る〜
2016年春、創業12年目で東証マザーズへの上場を果たした、株式会社アトラエ。同社は、求人メディア「Green」や、ビジネスマッチングアプリ「yenta」などの事業を展開する、およそ40名のベンチャー企業だ。
驚くべきことに、アトラエでは上場準備を始めてから現在までの2年半、1人も退職者が出ていないという。
同社は、日本で初めて譲渡制限付株式(※)を全社員に付与するなど、全社員がオーナーシップを持った組織づくりに取り組んでいる。
さらに、1人ひとりが経営者視点を持って自発的に行動する「サッカー型組織」を目指すために、徹底的にフルフラットな組織づくりに取り組んでいるそうだ。
今回は、そんなアトラエを支えるカルチャーや社内制度について、代表取締役の新居 佳英さんに、詳しくお話を伺った。
※譲渡制限付株式:一定期間の譲渡が制限された株式報酬制度のこと。海外では役員報酬として、一般的に導入されている。
「野球型ではなく、サッカー型のチーム」を目指して創業
僕は新卒で、株式会社インテリジェンスに入社しました。同社では運が良かったこともあり、若いうちから子会社の社長や、事業の責任者的なポジションを任せていただきました。
一方で、当初より起業することを強く志向していたにも関わらず、責任やポストがあがっていく現実に、「このまま行くと起業するタイミングを失ってしまう」と思い、6年目のタイミングで飛び出すことを決意しました。
そして現在のアトラエの前身となる会社を立ち上げたのですが、当時は、ビジネスモデルも何もありませんでした。
やることはぶっちゃけ、何でも良かったんです。それよりも、自分が考える理想の組織をつくりたいという想いの方が強かったですね。
インテリジェンスはどちらかというと、一般的なピラミッド型の組織で、指揮命令系統が明確な組織だと感じていました。
一方で僕は、1人ひとりが経営的視点を持って、有機的かつ自主的に動き回れるチームを作りたかったんです。「野球型のチームではなく、サッカー型のチーム」とよく言っているのですが。
サッカーは、一度グラウンドに立ったら、監督の細かい指示はありません。極端に言うと、パスが来たときに「監督、シュートを打ってもいいですか?」という確認なんてしている暇はなく、むしろその時々の局面に合わせて、自分の判断でトライしていくことが重要になります。
これからの知識産業社会においては、このように各メンバーの知恵を最大化することができるチームが強いと信じていたので、自分自身の起業時にも最初からサッカー型の組織を目指しました。
社員の75%が新卒!「新卒研修はしない」その理由とは…
ただ、こうした組織を目指そうとすると、中途採用がなかなか難しくなります。野球選手として育った人をサッカーのグラウンドに立たせても、さすがに何もできないからです。
ですので、キャリアのスタート時点にいて、これからサッカー選手を目指したいと思える人を集めるため、新卒と第二新卒を中心にした採用を始めました。
今では会社の75%が新卒で、現在の取締役2名さえも、新卒1期生だったりします。
ただ社内のカルチャーとしては、新卒を優遇しているわけではありません。新卒か中途か、男性か女性か、などといった要素は一切関係なく、純粋にチームとしてのパフォーマンスを高めるために誰が何をすべきかという軸のみで、各自の役割を決めています。
ちなみに、新卒メンバーの実力を引き上げるための研修のような制度は設けていません。基本的には自発的に学ぶタイプの人だけを採用しており、各自、本を読んだり、ネットで調べたり、先輩に教えてもらったり、OJTで経験を積みながら成長していきます。
研修は、全体のベースを上げるのには良いかもしれないのですが、トップラインの人間を引き上げるのにはあまり役立たないと思っています。
僕自身も、「研修を受けるくらいならさっさと実践したい」と感じるタイプだったので、新卒も初めから現場に配属しています。
ビジョンへの共感と、チームプレイヤーであることが採用ポイント
我々はまだまだ確立したビジネスモデルや仕組みを持たない弱小ベンチャー企業ですので、採用においては、一定以上の能力を求めます。
物事の本質を見抜く力やロジカルに考える力、さらにはコミュニケーション能力や実行力といった点は必ず見ます。
それに加えて、ビジョンへの共感も絶対です。そこが一致しない場合は、どんなに優秀な人でも採用しません。
そして、もうひとつこだわっているのが、「チームプレイヤーかどうか」ということです。
優秀な人ほど、「成長したい」「キャリアを積みたい」といった、利己が強い人が多い印象です。そのような部分を持っていること自体は良いのですが、物事を判断するときには、自分ではなくチームが勝つための選択ができることを重視しています。
実際、過去には公認会計士を1人採用するのに30人と面接したこともあるくらいに、採用にはこだわっています。
また先ほどの教育の話にもつながってくるのですが、決まりきった研修制度を必要としないのも、ある意味1人ひとりがプロフェッショナルとして柔軟に考え、取り組むことができているからだと思います。
必要に応じて必要な人に相談したり、習ったりすることができますし、先輩社員も若手社員の育成は会社の成長にとって重要なことだと考えています。だからこそ、後輩の面倒をないがしろにすることなく、必要な時に必要なことを指導してくれています。
人が成果を一番出せるのは、「本当に楽しいことをしているとき」
このように、アトラエでは全員が会社のビジョンに共感し、そこに目的意識を置いています。
弊社のビジョンは、「世界中の人々を魅了する会社を創る」というものです。
その実現のためには、まずは企業として、人類にとって価値ある事業を創造し、その事業を通して、社会に広く価値を届けることが何よりも大事だと思っています。
またそれを実現する私達自身も、イキイキと働けているということも極めて重要です。人はやらされているときよりも、自発的に取り組んでいる時の方が圧倒的に力を発揮します。
なので弊社では、各自が最もストレスなく働くことができるように、基本的に性善説ベースで組織やルールを作っています。例えば万が一、仕事をサボる人が1人出てきたとしても、その人のために全員が働きにくくなるようなルールを作ることはしません。
メンバーはみんな、どうやったらやりがいを持ってイキイキと働くことができるか、ということを真剣に考えて行動しています。
そして、「何かおかしい」と思うことがあればすぐに変える努力をします。少なくとも、隣の青い芝生が羨ましいと愚痴や不満を言う人はほとんどいません。
全員が評価者であり被評価者。フルフラットな組織を支える制度
このようなカルチャーで組織をつくった結果として、実はここ2年半、退職者が1人も出ていないんです。
会社を辞める理由の多くは、人間関係だったりするんですよね。ですが、弊社の場合は組織をフルフラットにしているので、上司、部下の関係性がほとんど存在しないため、非合理的な仕事や、理不尽なプレッシャーはありません。
人事評価も、会社に貢献している順に社員を並べた上で、それがそのまま給与に反映されるようにしています。
そして、これまでは各メンバーの自己評価を参考にしつつも、プロジェクトリーダーと呼ばれる、会社の主な意思決定をしている4人のメンバーで判断していました。
ただそれだと、結局その4人のメンバーが「給与を決める権利」を持ってしまいます。これはアトラエらしくないですし、組織規模が大きくなったタイミングで崩壊するリスクがあると思っています。
ですので、現在は360度評価を活用した、全く新しい評価システムを作っています。具体的には、本人が自分の働きを理解してくれていると思うメンバーを5、6人評価者として選び、その人達からの評価に基づいて給与が決まるといったものをイメージしています。
このシステムが成り立てば、全員が評価者であり被評価者でもあるため、日頃から一緒に働くメンバーの貢献をより深く理解しようとしますし、人を評価することの難しさも体感することができます。
そうすることで、評価に対する不満も軽減できるでしょうし、そもそも不満の矛先は「人」ではなく「評価システム」にならざるをえなくなります。
それ以外にも、全社員が経営的視点を持つ組織であるべきという考え方であるにも関わらず、ほとんどの人は株式を保有していないという状況を変えるべく、昨年日本で初めての事例となる、全社員に対する譲渡制限付株式の付与を行いました。
これによって全社員が名実ともにアトラエのオーナーとなり、いち経営者として今まで以上にこの会社の価値を向上させていくことに邁進してくれるものと考えています。
理想の組織を追求し、経営計画に「エンゲージメントスコア」を
このように、自分達が理想とする組織を追求すべく、僕らは今も試行錯誤の真っ最中です。
弊社では現在、社内向けの中期経営計画の中で、従業員の「エンゲージメントスコア(※)」の向上を掲げています。
※エンゲージメントスコア:社員1人ひとりの、会社に対する「愛着心」や「思い入れ」を表すスコア。ここでは、同社が提供する組織改善プラットフォーム「wevox」を活用して独自に算出。スコアの目安は、100点満点で、他社平均は60点台。
現時点における弊社の全社エンゲージメントスコアは87で、ここから2、3年以内にそれを95にすることを目標にしています。
我々はこれからも、誇りが持てる組織をつくり、誇りが持てる事業をつくっていきます。
サッカーチームのように1人ひとりが自律的に考え、動き、全社員がイキイキと長期にわたって働ける組織を実現すべく、尽力していきたいと思っています。(了)