- 株式会社ヤクルト球団
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- 岩群 里沙
ヤクルトはいかにファンの声を拾い上げるのか?NPSを活かしたファンクラブ運営術
〜ヤクルトスワローズのファンクラブ運営の裏側を公開!NPSを活用した、ファンの声を拾い上げる手法とは?〜
自社のサービスを改善するためにアンケートを実施しても、次のアクションにつながらない…。そのような悩みを抱えるカスタマーサポート担当者や経営者の間で話題になっているのが、NPS調査(※)だ。
※ネット・プロモーター・スコア:顧客が自社ブランドにどれだけ愛着をもっているのかを調査する手法
プロ野球球団「東京ヤクルトスワローズ」を運営する株式会社ヤクルト球団もまた、ファン全体に満足してもらう施策を探るため、NPS調査を導入した。
その結果、ファンクラブ会員数は2.5倍(※)に成長し、より愛着の強い「プラチナ会員」の数も急増したという。
※2年ごとの調査結果(2012〜2014年、2014〜2016年)を基に算出
それを実現したのが、ヤクルト球団ファンクラブ「Swallows CREW」の担当をしている岩群 里沙さん。NPSなら重要な課題がひと目でわかるという岩群さんに、ファンの声を活かしたサービス改善の取り組みについてお話を伺った。
※所属部署は2016年12月時点のものです。
アンケートを実施するも、ファンの意見を活かしきれない…
私は2013年に入社しました。最初はチケット販売を行う部署に配属されたのですが、私がファンと触れ合う様子が楽しそうだと上司の目に留まり、2014年のシーズン途中からは「Swallows CREW」というヤクルト球団ファンクラブの運営を担当しています。
業務内容としては、入会記念品やポイントで交換できるグッズの決定、イベント企画などです。例えば、選手とファンがCREWユニホームを着用して共に戦う「Swallows CREW DAY」というイベントの、具体的なファン参加型の企画や、来場プレゼントなどを検討します。
▼Swallows CREW DAY 2016の様子
このように、ファンが球団に愛着を持ってもらうために様々な企画を実施しています。ですが、私が担当になった当時は、ファンの声をしっかりと活かせているとはいえない状況でした。
アンケートを実施しても、「会員種別を選んだ理由は何ですか?」「今回のイベントは何点でしたか?」といった漠然とした質問だけで終わってしまい、全体の傾向を分析できていなかったんです。1つひとつの意見を見て、目に留まったコメントに対して、どうやって改善していこうか話し合っているだけでした。
▼当時のアンケート結果
その結果、数千件いただいていた回答も一部しか目を通せず、ファン全体に対する最適な打ち手を考えられていなかったんです。
「おすすすめしますか?」というNPSの設問はファン作りに最適
そんなときに、「NPS調査」という調査手法を株式会社Emotion Techさんに紹介してもらいました。
NPS調査では、回答者はまず「○○をお友達にどれくらいすすめたいですか」という質問に対して、0から10までの点数を付けます。その後、点数をつけた具体的な理由を任意で記入します。
「親しい友人や家族におすすめしたいですか?」「おすすめするとしたらどういうところですか?」という、ファンに具体的に答えてもらえそうな問いかけが、私たちに合っていると思ったんです。
実際にEmotion Techさんが提供しているNPS調査のサンプルを確認したところ、非常にわかりやすかったですね。
▼NPS調査のレポートのサンプル
レポートにはアンケート結果が数値とグラフで表示され、その結果に対するコメントや、実施するべきアクションまでまとめられていました。
これならファンの声を拾い上げられると思い、2015年6月からEmotion Techさんが提供しているNPS調査サービスを導入しました。
NPSで顧客の声を反映させた結果、会員数はなんと2.5倍に!
2014年度から2016年度にかけて、会員数は2.5倍に急伸しました。それに比例して、チケットの売り上げと本拠地である神宮球場の来場者数も増加しました。
実際には、2015年度のリーグ優勝の効果もあるかもしれませんが、NPSでファンの声を拾って、しっかりとアクションに移せたのがポイントだったのではないかと思っています。
アンケートは、Swallows CREWの会員様向けメールマガジンと、神宮球場で入会の際に配布されるアンケート用QRコードからお願いしています。
実施するタイミングとしては、特典商品が手元に届いたタイミングや、シーズン中のイベント後、来年度のファンクラブを検討するタイミングなど、大きなイベントの節目ですね。2016年度は4回実施しました。
特に回答者に特典を用意している訳ではないのですが、約10万件のメールマガジンから、平均3,000人〜4,000人に回答を頂いています。
▼実際に使用したアンケートフォーム
アンケート結果が集まり、分析レポートとして出てくるまでには1ヶ月ほどかかりますが、現在の回答数はリアルタイムでお伺いできます。回答数が足りない場合は、メールを再送して回答率を高めるように工夫をしています。
レポートから浮き彫りになった課題は「地域性」
実際のレポートには、アンケートに記入された「おすすめする・しない理由」を分析して、傾向を表すキーワードが表示されます。2016年度の第1回目のアンケートでは、「地域性」が重要なキーワードとして出てきました。
▼影響度上位のキーワードとして「地域性」が浮かび上がる
そして、キーワードに関連している意見を細かく見ていくと、地方在住のファンから「神宮球場で使えるファンクラブの招待券を使う機会がない」「神宮球場開催のイベントに参加できない」という声が多いことがわかりました。
でも実は「地域性」という問題については、以前からも重要だと認識はしていたんです。
それでも手を打てていなかったところに、レポートで「ここが重要だ」とズバリと指摘されたことで、「これは大事だね」で片付けちゃダメだと意識が変わりました。
レポートが出たときには、2016年のイベント施策について最終確定するタイミングでした。ですが、「ここまで意見が出ているのならどうにかしなきゃ!」という思いで、地方の主催試合でファンクラブ向けの企画を実施したんです。
試合に来てくださったファンクラブの方には、先着で地方限定ピンバッジをプレゼントしました。また、ファンクラブでは前売りチケット購入や、グッズ購入などでポイントが貯まるのですが、ポイントを商品と交換するシステムも一部ですが改善しました。
これまではポイントと商品を交換するため、神宮球場の窓口に行く必要がありました。これを、特定の商品は地方に発送できるようにしたんです。
もちろん、これだけで十分だとは思っていません。でも、まずは一部でもいいからファンの声に応えたいと思い、急遽取り入れました。
記念品へのニーズに応えた結果、プラチナ会員が急増!
NPS調査をきっかけにして、ファンクラブへの入会記念品の制度も大きく変更しました。
Swallows CREWにはプラチナ会員、ゴールド会員、レギュラー会員など、会費や特典の異なる6つのプランがあります。これまでは、この会員種別に応じて特典が決まっていました。
▼Swallows CREWの会員種別特典
しかしNPS調査のレポートには、ファンクラブで重要視する項目に「記念品選択制」というキーワードが上がっていました。つまり、どの記念品を貰えるのかをファンは重視していたんです。
記念品を選択制にすることは、システムや在庫管理の関係上、とても難しいとされていました。でも、多くのファンから出ているこの意見を最優先にしようと考え、2017年度から記念品を選択できるようなんとか間に合わせました。
具体的には、プラチナ会員はカテゴリAから1つ、カテゴリBから1つ、ゴールド会員はカテゴリBから2つ、記念品を選択できる仕組みにしました。
すると、プラチナ会員に登録する人が、前年に比べて飛躍的に伸びたんです。さらに驚いたことに、プラチナ会員に1人で4口入会される方もいらっしゃいました。
NPSで声を拾いながらも、目の前のファンを大切に
NPSのスコアは、おかげ様でこの1年で少しずつ向上し、それに伴って会員数やチケットの売り上げも伸びてきています。お客様の声に応えていけば、結果はついてくるんだと実感しています。
ただ、実際にはデータだけではわからないこともたくさんあります。だからこそ今後も、シーズン中は現場に行って、ブースでファンの方と接するようにしていきたいです。
これからも気は抜けないので、ファンの意見に耳を傾けながら、一緒にヤクルト球団を盛り上げていきたいと思います(了)。