- 株式会社MCネクスト
- 代表取締役 中小企業診断士
- 早川 圭一
すべての企業に必須?「会社のあるべき姿」を実現するSFA・CRM導入のポイントとは
〜SFA・CRMの導入に特化したコンサルタントが、導入のポイントを公開!〜
企業の成長にとって、日々の活動のPDCAは欠かせない。そして、その実践を支えるためには、社員の適切なマネジメントが必要だ。とりわけ、売上を左右する営業活動のマネジメントは企業にとって最重要である。
しかし、営業活動を適切にマネジメントできている企業は少ないのが現状だ。営業パーソンなら、「営業が属人化してスキルのばらつきが大きい」「顧客の重要な情報が社内に存在しない」といったことが思い当たるのではないだろうか。
そのような問題を解決するために、SFA(※1)やCRM(※2)を導入し、改善を図っている企業は少なくない。
※1. Sales Force Automation:営業支援システム
※2. Customer Relationship Management:顧客関係管理
だが、SFA・CRMの導入に特化したコンサルティングを行う株式会社MCネクストの早川 圭一さんによると、それらのツールは「短期間で売上を上げるためのもの」に留まらないという。
今回は、「SFA・CRM 情報を武器化するマネジメント7つの力」も出版している早川さんに、導入の注意点から、現場に浸透させるためのポイント、導入による効果まで詳しくお伺いした。
▼SFA・CRMの導入や運用のポイントについて解説されている著作
顧客にとって最適なSFA・CRMを導入するため、ベンダーから独立
学生の頃にベンチャー企業の立ち上げに携わり、卒業後は機械系メーカーに就職、2005年には京セラコミュニケーションシステムに転職しました。
そこでは、京セラの経営ノウハウである「アメーバ経営」の導入コンサルティングに携わり、会社全体のPDCAサイクルを回す仕組みづくりや、マネジメント教育を行ってきました。
そして、コンサルタントとして多くの企業のマネジメントの実情を知っていく中で、営業のPDCAをうまく回せている企業が非常に少ないことに気付いたんです。いまだに、アナログで属人的な営業マネジメントを行っている企業が多数存在していました。
私はそのとき、営業マネジメントの現場でPDCAサイクルを適切に回せるようになることが、これからの日本経済の成長には必要だと痛感しました。
そこで、複数のSFA・CRMツールベンダーに籍を置き、提案営業や導入コンサルティング、活用プロジェクト支援など様々な経験を積んでいくことにしたんです。
この経験の中で、ツールベンダーという立場ではなく、SFA・CRMの活用を客観的な立場から支援するビジネスが必要なのではないかと考えました。
そして、2013年に株式会社MCネクストを立ち上げました。現在は、ツールベンダーとは金銭関係のない独立したコンサルタントとして、SFA・CRMの導入支援や教育研修を行っています。
SFA・CRMは売上アップのためのツールではない!?
SFA・CRMツールは、短期間で売上を上げるためのツールと捉えるのは不適切です。
そうではなく、「会社としてのあるべき姿」を実現していくための土台の仕組みであると考えるべきです。会社にとって必要な習慣・価値観・判断基準を創り上げる上で、土台となる仕組みがSFA・CRMツールと言えます。
多くの企業では、
- 営業スキルのばらつきが大きい
- マネジメントを任せられる人材が育たない
- 顧客や案件に関する情報がバラバラに管理されている
など、営業にまつわる課題をいくつも抱えています。
これらの課題を解決するために、企業は新しい営業の形を模索しがちです。ですが、社内に染み付いた「これまでのやり方」を変えるのは簡単なことではありません。
よくある失敗としては、外部の社員研修などを利用して、まずは従業員の意識改革をしようというアプローチです。しかし、人間の意識がある日突然変わるということはほとんどありません。
そのようなアプローチを取るのではなく、まずは社内の仕組みを変えて、それに伴って従業員の行動が変わるようにする必要があります。そしてその行動を継続させることで、意識も変わっていくのです。
仕組みを変えて、行動を変えて、意識を変える。その最初の「仕組みを変える」部分で必要となるのが、SFA・CRMです。
そのため、SFA・CRMの導入を検討する際の費用は、単なるITツール導入の「コスト」と捉えるのではなく、長期的なリターンを得るための「投資」と捉えることが適切と言えます。
すべてを見える化はNG?現場に浸透させるためには、指標をしぼる
SFA・CRMツールを選ぶ上で最も重要な観点は、「柔軟性」です。なぜなら、企業が100社あれば、100通りのビジネスと企業文化、営業マネジメントのあるべき姿があり、それらに応じて土台となる仕組みも当然異なってくるためです。
あらかじめ見える化できる指標が決められていて、「この通りにやればうまくいきます」とうたっているツールでは、本来自分たちがマネジメントで必要となる使い方ができなかったり、必要としていない指標が見える化されてしまうという恐れがあります。
見える化すべき指標は「その指標が営業パーソンに適切な判断基準を与えられるのか」を元に考える必要があります。
例えば車に付いている指標は、スピードメーター、エンジンの回転数、ガソリンの残量の3つだけです。車の運転にはこれだけあれば十分なんですよ。
それだけで、「スピードを出し過ぎてはいけない」「エンジンの回転数は回し過ぎてはいけない」「ガソリンがなくなったら動かなくなる」と、運転に必要な判断を下すことができるからです。
でも、飛行機のコックピットにはずっと多くの指標計が付いており、ほとんどの人は何も操作ができません。もし車に、飛行機並の指標計が付いていたら、運転できる人は極端に少なくなり、社会に普及しなかったでしょう。
営業活動でも同じことが言えます。多くの人が適切な判断をするためには、その指標の意味が理解できること、そして指標の数が多すぎないことが重要です。
その指標を元に、「判断を下し、行動の改善につなげられるか」という観点で、SFA・CRMに入力する指標をしぼりこみ、過不足なく設定する必要があります。
ツールの導入時に気をつけるべきことは「納得感」
そして、実際にツールを導入する際には、「どうシステムを作るのか」よりも、「どう現場の人を巻き込むのか」が重要です。
行動を変える起点であるSFA・CRMツールも、継続して活用してもらわなければ、効果を生みません。そして現場で働く営業パーソンに、継続的に情報を入力してもらうためには、納得感の醸成が必要不可欠です。
うまく活用できていない企業でよくある問題が、現場の担当者がなぜその項目を入力するのか、将来的にどう使えるのかという点を理解していないことです。
意義を理解できないまま、IDとパスワードだけ付与されて「明日から入力してね」というのでは、やらされ感が真っ先に生まれてしまいます。面倒なことが1個増えただけ、と思うわけです。それでは良い結果につながるはずがありません。
そうならないためにも、経営層とマネージャーは、現場の社員にSFA・CRMの導入意図とメリットをしっかりと伝えることが大切です。
「資料不要」「会議不要」「人材育成」など、様々なメリットが
SFA・CRMの導入に成功したら、様々なメリットがあります。
まず、会議資料の作成が必要ありません。事前に情報を把握した上で会議に臨むことができます。
いつも報告資料を作らされていた営業パーソンがいたとしたら、これだけで負担をぐっと減らせます。
また、営業指標を常に共有しているため、全員で集まる必要もありません。何か特別に共有事項があるときは、1対1で現場の社員がマネージャーに報告すれば済みます。
実際、以前勤めていたセールスフォースドットコムでは、そのような形で情報共有が行われていました。そして、営業パーソンは顧客訪問のような、より本質的な業務に集中できる体制でした。
次に、SFA・CRMの活用は、マネージャーの人材育成にもつながります。
若手の頃から営業指標を確認し、判断して、行動の改善につなげるという一連の型に慣れることで、マネジメントに必要な要素を身につけられるからです。
また、その会社における重要指標を使って何かを考えることは、会社のマネジメント力を根底から養うことにも貢献します。その意味では、SFA・CRMは人材育成ツールと言っても過言ではありません。
最後に、適切な活用ができれば、新しく行う戦略や方針の実行プロセスをしっかりと管理して、結果につなげることができます。戦略の実行力を持つ会社にするためのツールでもあるのです。
「SFA・CRMは導入すべきか?」という議論はナンセンス
もちろんSFA・CRMは導入するだけでなく、どう使うのかを十分に検討する必要があります。
しかし、「SFA・CRMを導入すべきか?」という議論はナンセンスで、私はどの会社も導入するべきだと考えています。
いる、いらないを考えるのではなく、「自分たちの現状はあるべき姿か?」という問いから始めてみるのが適切だと思います。営業成果を最大化し、その実現のためのマネジメントサイクルを整備することを考えると、最終的にはどの会社にもツールが必要になるはずです。
弊社のクライアントは上場企業が中心ですが、今後はもっと多くの企業様に支援ができればと思っています。弊社の活動を通じて、一社でも多くの企業にSFA・CRMの導入に成功してもらえれば嬉しく思います。(了)