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大企業病の処方箋?「ハッカソン」を活用した、イノベーションを生む組織改革とは
〜大企業向け「ハッカソン」の仕掛け人である角 勝さんが、企業におけるハッカソンの可能性や、企画ノウハウを大公開〜
24時間〜1週間ほどの短い期間で、集中して新しいアプリや製品のプロトタイプを開発するイベント「ハッカソン」。「ハック」と「マラソン」を組み合わせた造語で、実際に動くものを作ることで、アイデア出しで終わらない「次の一手」につなげていきやすいことが特徴だ。
従来はスタートアップ企業のエンジニアやデザイナーを中心に行われることが多かったハッカソンも、現在はより幅広い人に認知・活用される手法になりつつある。
▼角さんが実際に手がけた、ハッカソンの様子(撮影場所:富士通PLY)
企業のオープンイノベーションを支援する、Filament Incの代表を務める角 勝(すみ まさる)さん。前職である大阪市の職員時代から、企業の規模を問わないオープンイノベーションの支援を続けてきた。
その中で、とくに大企業の組織改革の手法として注目したのが、ハッカソンだったという。実はハッカソンは、主催者側である企業の「意識改革」のきっかけになる可能性を秘めているそうだ。
今回は、これまでパナソニックや毎日放送(MBS)といった数多くの企業のハッカソンを支援してきた角さんに、その可能性や、企画設計のポイントを詳しく伺った。
話し合いだけで終わらない。「次の一手」を生むのがハッカソン
私は、2016年にフィラメントを創業しました。人と人、企業と企業をつなぐ、オープンイノベーションを支援しています。
実は創業前は、大阪市の職員として、企業のイノベーション創出を支援するプロジェクト「大阪イノベーションハブ」に携わっていました。
そのプロジェクトの立ち上げ当初、コンセプトを考えるために色々と調査をしていまして。そこで、「フューチャーセッション」に出会いました。これは、あるテーマに関して、関係する多様な立場の人が集まって、課題と解決策をざっくばらんに話し合う会議のようなものです。
しかし、フューチャーセッションについて理解を深めていくにつれ、話し合うだけで終わってしまい、「次の一歩がない」ことに課題を感じまして…。そんなとき、民間で開催されている「ハッカソン」に参加する機会があったんです。
そこでは、参加者たちがたった1週間でクオリティの高いアプリを作り出していて、そのスピード感や熱量に衝撃を受けました。そこで私も、大阪イノベーションハブで、すぐにハッカソンを取り入れたんです。
大企業こそ、イノベーションを起こすのが難しい現実
大阪イノベーションハブは、いまでは年間200回近いイベントが開催されるようなプロジェクトに成長しました。
行政が携わったものとしては、広く一般に認知させることができたと思います。それはそれですごく良かったのですが、やはりできなかったこともあって。特に思っていたのが、行政は「大企業と一緒に何かを作っていく」、ということが苦手なんですね。
税金の使い方として、弱い立場にある中小企業は支援しやすい。ただ、そのように企業を行政側でカテゴライズせずに、もっとフランクにつきあえないか、ということを思っていて。
それに大企業の経営陣の中にも、「もっと社外と連携して、新しいものを作っていかなくてはいけない」という危機感を持っている方もいらっしゃいます。けれどそのための舞台がなかなかありませんし、何よりその役割を担う人がいない。
「大企業病」とも言われるような、意思決定のリスクを取らず、新しいことへの挑戦を避けるという状態から抜け出すのが難しいんですね。そういった部分で社会に貢献できることがあるのではないかと思い、20年務めた大阪市を退職し、起業した、という経緯です。
主催者と参加者、各々にとってのハッカソンのメリットとは
フィラメントでは、企業のオープンイノベーションをサポートしていますが、そのひとつにハッカソンの開催支援があります。
ハッカソンと聞くと、エンジニアやデザイナーのためのイベントだと感じてしまうかもしれません。ですが、日本でのハッカソンの多くはコンテスト形式なので、プレゼンや設計が得意な人も必要です。ですから、特別なスキルを持っていない人でも積極的に参加できます。
参加者は、限られた時間とリソースでチームの力を出し切って、ものを完成させなければなりません。その過程で、「自分の能力をすべて出し切る」という、特別な経験ができるんです。
コミュニケーションやプレゼン力も鍛えられますし、そして何より、自分の持っていない考えや視点を持つ人との出会いが、非常に大きいですね。実際にハッカソンで出会ったチームで起業した例もありますし、「次につながる出会い」が生まれる可能性があります。
主催者が企業の場合、その目的にはいくつかのパターンがあります。新しいシステムやサービスを社外に認知してもらうための「プロモーション」、エンジニアなどの参加者の採用を目的とした「リクルーティング」、新しい切り口で製品開発を行うための「R&D」。
そして、私がハッカソンの効果としてもうひとつ考えているのが、主催側の企業の「人材育成」や「意識改革」です。
社内外の交流がカギ。ハッカソンから新しいテレビ番組が誕生!
実際のハッカソンを例にすると、毎日放送(MBS)という関西のテレビ局で、2年連続開催している「Hack On Air 〜MBSハッカソン〜」というものがあります。
テレビ番組に革命を起こす、新しいアイデアを求めて開催されているハッカソンです。昨年は、「MBSのテレビ・ラジオ番組、イベントをさらに良くするための斬新なITサービスの開発」をテーマに開催され、書類選考を通過した115名・24チームが参加しました。
▼Hack On Air 〜MBSハッカソン〜の写真
このハッカソンのポイントは、各チームに実際のMBSの番組クリエイターが1人ずつ入って、一緒にディスカッションをしながらサービスを作っていくことです。一般の参加者はもちろんこれまでテレビ番組を作ったことはないので、実際の制作者に学びながら、アイデアをより実現性の高いものにしていくんですね。
そしてMBSの社員も、社外の人が参加することで緊張感を持つことができ、「本気でやらないと」とエンジンがかかってくるんですよ。テレビ局って、ITとかテクノロジーに疎い人も少なくないんです。けれどそんな人も、ハッカソンで最先端のテクノロジーを持つ人たちの働き方を見ると、「おおっ」となって。
実際に、ハッカソンでの出会いに感化された社員の方が、「まだ誰も作ったことのないような、テクノロジー系の番組を作りたい!」と思い立ったそうです。
そして、自分たちの業務時間外で企画を立てて、「徳井バズる」という、VRや3Dプリンターなどを、エンタメ風に紹介する新番組を作っちゃったんですよ(笑)。この真の成果は、番組ができたことだけでなく、ハッカソンによって「意識改革」が起きて、新しいことを始める人が生まれたことなんだと思っています。
ハッカソン成功の秘訣は、目的に合わせた設計と告知
ハッカソンを成功させる上での一番のポイントは、目的に合わせた設計をすることです。
MBSのハッカソンで、なぜ社員をチームに入れたのかというと、主催の目的が「共創できるコミュニティの土台を作りたい」ということだったからです。
社員と参加者が同じチームとして取り組むと、参加者側は普段は見られない世界を覗いてワクワクできて、社員側にも意識改革が起こる。双方にとって幸せな結果になることで、ある種の「コミュニティの土台」ができるのかなと。
こういった主催者の狙いや目的は、告知の際に参加者にしっかりと伝えることが重要です。期待値の乖離やミスマッチが生まれてしまうと、絶対に幸せな結果にはならないので。
私はいつも個人のFacebookアカウントでハッカソンの告知をしているのですが、しっかり目的を伝えて、どんな人に参加してほしいのかがわかるようにしています。
ハッカソンの高揚感で、これからも「大企業病」を崩していく
起業して1年が経ち、多くの企業さんを支援させていただいて、やはり「組織の課題」は大きいなと感じることも多いです。でもそうした部分を、これからもハッカソン独特の高揚感で崩していけたらなと思っています。
最近では、企業に限らず地方自治体からも、ハッカソンを実施したいというお話をいただくこともあります。ハッカソンに限らず、新しいことに取り組もうとする人は増えているのかなと感じますね。
何と言うか、「氷を溶かす」みたいな感じのことができたらいいなって。新しいことに挑戦すれば人は変わっていくし、意識を変えることで、できることも増えていく。そういった認識をどんどん広げていきたいと思っています。(了)