- Sansan株式会社
- Sansan事業部 カスタマーサクセス部 部長
- 小川 泰正
40人で7,000社を支援!「ボランチ」として顧客を支援するカスタマーサクセスとは
〜5つのチームで構成されるSansanのカスタマーサクセス。その責任者が語る、カスタマーサクセスを成功させる仕組みと、求められる人物像をご紹介〜
サブスクリプションモデルのサービスが普及する中、顧客へ自社のサービスを定着させ、解約を防ぐための活用フォローを行う「カスタマーサクセス」の重要性が高まっている。
法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan(サンサン)」を提供するSansan株式会社では、2012年にカスタマーサクセスチームを立ち上げ。現在は約40名で、7,000社程の顧客を支援している。
同社でカスタマーサクセス部の部長を務める小川 泰正さんは、その役割を「様々な人々に囲まれながら全体のハンドルを握る、サッカーの『ボランチ』のような位置付け」だと話す。
今回は同社におけるカスタマーサクセスの仕組みや、小川さんが考えるカスタマーサクセスに求められる5つの能力について、お話を伺った。
顧客規模とフェーズに応じ、5チームでカスタマーサクセスを組織
私は約40人で構成されている、カスタマーサクセス部の部長を務めています。
我々の役割は、新規のユーザー様にSansanを定着させ、その後は活用状況をモニタリングして、活用が進んでいないお客様に適切なフォローを行うことです。
弊社のカスタマーサクセス部では、「契約規模」と「導入フェーズ」の2軸でお客様をセグメントし、5つのチームに分かれて支援を行っています。
▼5つのチームで構成させるカスタマーサクセス部
大企業向けに対しては、まず「Enterprise CSMs(※1)」が導入支援を行います。
これは専属の担当者が説明会を開催して導入を進めていく、いわゆるコンサルティング型のハイタッチ支援を行うチームです。
※1:カスタマーサクセスマネージャーズ
そして導入後、活用いただく部門を増やすことでアップセルを狙ったり、解約兆候があればフォローを行うのが「Enterprise Sales Group」というチームです。
この2チームが担当する大手のお客様は全体の1割程で、その他はSMB(※2)領域に分類されます。
※2:Small and Medium Business(中小企業)
これらのお客様に1社1社訪問することは難しいので、「Onboarding Group」が電話とメールで遠隔支援を行っています。完全にオンラインでの支援を行う、テックタッチと言われるものですね。
その上で、より活用を進めていただくために「SMB CSMs」がセミナーを通してフォローを行います。
そして導入後、活用いただく部門を増やすことでアップセルを狙ったり、解約兆候があればフォローを行うのが「Renewal Sales Group」というチームです。
オンボーディングでは導入目的の理解と、便利さの実体験が重要
ハイタッチのオンボーディング(※3)では、まずは役員と各部門の責任者を集めて社内キックオフを実施します。
※3:新規ユーザーをサービスに定着させること
ただ、弊社の場合、100年の歴史があるような大手のお客様もいるので、役員の方が当社のサービスに対して「名刺はファイルでちゃんと管理しているし…」という懐疑的な姿勢を持たれていることもよくあります。
そのような場合は、事例も紹介しつつ、活用が定着した後の世界観を説明して、組織がどのように変わるのかというゴールイメージを伝えることを意識しています。
例えば、取引先の情報がクラウド化されることで営業の生産性が高まることや、リモートワークが推進されること、あるいはペーパレス化が進むことなどですね。
また、口頭で説明するだけではなく、その場で便利さを実体験していただくことが非常に効果的です。
そこで、お客様に「名刺がPCやスマホ上で一覧化される。そして、検索もできて電話もかけられる」という体験をしていただくようにしています。
するとそれまで懐疑的だった方も驚いて、急に社員に対して「何でお前ら使わないんだ」って言ったりするんです(笑)。このように、実際に価値を体感していただくことで、Sansanに対する意識が大きく変わります。
この瞬間にたどり着くまでに発生する名刺の読み込み作業は、弊社側で代行して、価値を感じていただくまでのハードルを下げるようにしていますね。
社内で「責任者が不在になること」を防ぐべく、推進体制を構築
役員陣にSansanをご理解いただいた後は、現場への導入を進めるべく、部門ごとに1回100人程の規模で説明会を開催していきます。
ただ、1万人規模のお客様に対して、さすがに説明会を100回に分けて実施することは出来ません。
そこで、我々が10回ほど開催させていただいた後は、お客様側で独自に説明会を開催いただけるようトレーニングをしています。
このフェーズでは、誰に何をしていただくかの役割を定めて、導入から数ヶ月後に活用進捗を役員に報告していただくようにサポートします。
導入当初に役員の方には納得していただいたものの、その後、ボールが情報システム部門、総務部門に渡って、なかなか導入が進まないという失敗ケースも多いんです。
ですので、推進体制のフレームをしっかりと作ることが非常に重要なんですね。
また、よりSansanを理解いただくためにも「Sansanクイックスタートガイド」などの1本3分程の動画を、eラーニングのコンテンツとして提供しています。
内容はSansanの機能等について説明をして、最後に3択で問題に答えるというものです。問題には動画を見てからでないと答えられないようになっており、誰がどれくらい、コンテンツを見たかをチェックできる仕組みになっています。
活用スコアに加えて、タッチスコアでも解約リスクを測る
導入が完了した後は、チャーン(解約)を防ぐこともカスタマーサクセスの大きな役割です。そのため、弊社では解約兆候を見極めるために、お客様の活用率を3つの項目でスコアリングしています。
1つ目は、契約IDに対してどれだけのIDがログインや名刺スキャンをしているかという「Coverage」です。
2つ目は、ひとり当たりの名刺の読み込み枚数である「Database」です。これが、導入後2ヶ月で400枚までいかないと、チャーンする可能性が高くなります。
3つ目が、週ごとの活用頻度を測る「Activity」です。
これらに関数をかけて出したスコアを100点満点で計測し、解約兆候が見られた場合は、その理由を確認した上で改めてオンボーディングをやり直しています。
▼活用スコアのレポーティングイメージ(ActivityとDatabase)
ただ、この方法だと、あくまでSansanの活用率しか可視化することが出来ていません。
もうひとつ重要なことがあって、それはお客様とのリレーションをどれだけ築けているかなんです。これは「タッチスコア」と言って、解約リスクを測る上では凄く重要なんですね。
具体的には、弊社から送ったメールの開封率や架電時の通話率、eラーニング動画の再生回数など、コミュニケーションに対しての反応率を測っています。
そして現在、これらを1つで管理できる「Gainsight(ゲインサイト)」という海外ツールの導入準備を進めています。
▼活用スコアとタッチスコアを計測できるツール「Gainsight」
これまでは、Sansanの活用スコアとタッチスコアを、別々のツールでチェックしており、且つ、その時点での数値しか見れていませんでした。
ただ、Gainsightでは、導入〜現在までのデータ推移を時系列で確認できるので、点で見ていたデータが線となり、ものすごくわかりやすいんですね。
また、顧客状態を表すヘルススコアがある数値を下回るとアラートが鳴る仕組みなっているので、担当者に解約兆候を教えてくれるんです。
今後は、このようなツールも活用しながら、チャーンを発生させない状態にまで進化させていきたいですね。
黒子としてハンドルを握るために必要な「5つの能力」
様々な取り組みを通して、チャーンレートを改善することに成功しました。
私は、カスタマーサクセスはサッカーの「ボランチ」のような存在だと考えています。守備的ミッドフィルダーとして、チームの黒子となり常にハンドルを握っている役割です。
例えば、お客様が抱える課題解決にむけて、ユーザーの声をエンジニアに伝えてプロダクトを改善したり、活用の拡大支援を行うことで、売上のアップに貢献することも求められます。
そして、こうした役割を担うためには、5つの能力が必要だと考えています。
1つ目は顧客志向です。カスタマーサクセスという概念の通り、お客様が実現したいことに伴走しようとする思いを持っていることが重要です。
2つ目はリーダーシップです。サービスをまだ活用できていないという状態から、お客様に動いていただけるよう働きかけられる能力ですね。
3つ目は探求心です。マーケットの変化にあわせて、プロダクトをどんどん改善していく必要があるので、常にインプットを続ける姿勢が必要です。
4つ目はバランス力です。お客様のご担当者と一緒になって社内調整を進めつつ、そちらに寄りすぎずに、自分のKPIも追っていく力です。
5つ目は、最終的には成果にコミットしてやれるかどうかという実行力です。
そして、ボランチ的な立場上、プロジェクトを推進するコンサル力、アップセルを狙うセールス力、オンライン支援を実行するマーケ力、エンジニアとプロダクトを改善するPM力など、あらゆる能力が身につきます。
その分、カスタマーサクセスを経ることによって、その後のキャリアの選択肢も増える魅力的な役割だと思います。
先日、アメリカでGainsightが開催した「Pulse 2018」というカスタマーサクセスのイベントに参加したのですが、5,000人が集まった中で、日本人は10人程しかいなかったんですね。
残念ながら、それが現在の日本におけるカスタマーサクセスの立ち位置だと思います。しかしクラウドサービスが普及する中で、その需要は確実に高まっています。
2018年は日本にとってカスタマーサクセス元年だと思っているので、これからが非常に楽しみですね。(了)