- 株式会社Gunosy
- メディア事業本部 グノシー事業部 部長
- 大曽根 圭輔
デザインを通じた「好きドリブン」の開発とは? Gunosy流・新規プロダクトの作り方
〜社内外に「好き」の熱意を伝播する。「グノシー」から生まれたスポーツ専門アプリ「グノシースポーツ」の、サービス構想からリリースまでの裏側を紹介〜
プロダクトの魅力を伝える上で、「デザイン」の力は欠かせない。
2,700万ダウンロード(2019年1月現在)を超える情報キュレーションサービス「グノシー」を軸に、複数の情報アプリを展開する株式会社Gunosy。
同社は、グノシーから切り出したバーティカル領域の新規プロダクトとして、スポーツ専門アプリ「グノシースポーツ(以下、グノスポ)」のAndroid版を2018年10月にリリースした。(※iOS版は2018年12月にリリース)
▼スポーツ専門アプリ「グノシースポーツ」
その開発期間は、グノシー事業部の開発メンバーが兼務する体制であったにも関わらず、構想からリリースに至るまで、わずか4ヶ月であったという。
この短期開発を実現した裏側には、「必要最小限の機能に絞る」というMVP(※)の開発思想と、「好きドリブン」によるメンバーの高いパフォーマンスがあった。
※MVP(Minimun Viable Product):実用最小限の機能をもつプロダクト
具体的には、最終的なアプリのイメージを持ってもらえるよう、プロトタイプではなくデザインの「完成形」を少しずつ切り出して共有。並行して、他事業部のメンバーにも愛着をもってもらうため、ロゴやキャッチコピーを通じて「好き」を広めていったという。
今回は、グノシー事業部の責任者を務める大曽根 圭輔さんと、デザイナーの森さんに、グノスポの開発・デザインの裏側を詳しくお伺いした。
「グノシー」プロダクト群でMAUを最大化!そのアプリ戦略とは
大曽根 僕は、2015年にエンジニアとして入社し、「ニュースパス」の開発やデータ分析の業務をメインで担当していました。現在は、グノシー事業部に移り、事業責任者を務めています。
グノシーは、2019年1月に2,700万ダウンロードを突破しました。そして、さらなる成長に向けて、体験の異なるサービスを対象にバーティカル領域でのアプリ切り出しを行う、という事業戦略を取っています。
これには、グノシーのプロダクト群として、MAU(月間アクティブユーザー数)の最大化を目指すという狙いがあります。
そこで「最初に切り出せるコンテンツって何だろう」と考えた時に、候補にあがったのが「スポーツ」でした。
というのも、MAUを増やすためには、もっと能動的にアプリを起動してもらう必要があると考えていて。その点、スポーツは様々なジャンルで毎日のように試合があるので、アプリを思い出す「きっかけ」も多いだろうと考えました。
そうした背景の元、グノシーからスポーツコンテンツを切り出した新規プロダクトがグノスポです。
2018年6月にエンジニア4名で開発をスタートし、同年10月にAndroid版を、12月にiOS版のアプリをリリースしました。
限られたリソースの中で、いかに「必要最小限の機能」に絞るか
大曽根 グノスポの開発は、グノシー事業部の開発メンバーが兼務で担当しています。チームは、エンジニア3名、デザイナー1名、アルゴリズムを組むプログラマ1名で構成されています。
そのため、限られた開発リソースの中で、いかに必要最小限の工数で実用最小限のプロダクトを作ることができるか、がリリースまでのひとつのポイントでした。
「スポーツアプリを作る」という構想が立ち上がってから、まずはじめに全員で機能のアイデア出しをして、意見を交わしながらリーンキャンバスを作成しました。
それを元に、メインの開発メンバーで2泊3日のオフサイト合宿を行いました。
ここでは、海外のスポーツアプリを参考にしながら、必要な機能やUI、その並べ方などを話し合い、形に落としていきました。
▼実際の合宿で描かれたアウトライン
僕は、あれもこれも機能がほしくなってしまうタイプなのですが(笑)、ここでは「機能を盛り込みすぎない」ように気をつけていましたね。
議論の中では、ライブ動画やチームの掲示板といった案もあがっていましたが、シンプルな機能に絞るために、この時は採用しませんでした。
この合宿で一気に議論を進めることができ、この時点でグノスポのアウトラインが固まりました。
「好きドリブン」が、開発のモチベーションを高める
森 僕は、グノシー事業部で、グノシーとグノスポのデザイン全般を担当しています。
以前は、出版物や音楽CD、Webサイトのデザイン制作などに携わっていましたが、2013年にGunosyに入社しました。それから、グノシーやニュースパスのデザインを担当していました。
僕は今回のプロダクトを作る上では、扱う領域の特性を考え、また開発メンバーにスポーツファンが多いこともあって、「好き」という気持ちを非常に重要視していました。
ただ「機能を実装している」のと、「好きなプロダクトを作っている」のとでは、開発のモチベーションが全然違ってくると思うんです。
そこで、デザイン共有においては、ワイヤーフレームやプロトタイピングなどを作ってから共有するのではなく、完成したところからその断片を共有する形で進めていきました。
そうすることで、開発メンバーも最終的なアプリをイメージしやすくなりますし、「早く自分で使ってみたい」とモチベーション高く実装を進めていってくれたと思います。
さらに、いくつかの画面ができた段階で、ロゴの制作やコピーのビジュアル化にも着手しました。
▼左:ロゴ、右:キャッチコピー
もともと、「もっとスポーツが好きになるアプリ」というコンセプト自体はあったのですが、そこから言葉を洗練させ、最終的に「もっとスポーツ好きになる」というキャッチコピーが出来上がりました。
デザインを通じて、社内から社外へと「好き」を伝播させる
森 実を言うと、これらのクリエイティブは、まず社内のメンバーに気に入ってもらいたくて作ったものなんです。
ロゴはグッズにした時に欲しいと思ってもらえるものを意識し、PCに貼れるステッカーにして社内に配りました。
というのも、新しいプロジェクトを始めるにあたっては、社内のメンバーに応援してもらうことが大切だと思っていて。
実際のプロダクトを見る前に、「こういうプロダクトを作っています」と説明するだけでは響かないことが多いんですよね。そのため、ロゴやキャッチコピーといったわかりやすい形に落とし込むことで、気にかけてもらいたいと考えていました。
前職の出版業界にいた時、たとえば新刊の発売が決まると、社内向けのポスターなどを通じて「こんないい本が出ますよ」と担当者が気持ちを込めてPRしている姿をよく見かけていました。
そうすると、編集者から書店営業へ、書店営業から書店員へ、そして書店員からお客様へと「好き」が伝播していく様子を感じることが度々あったんです。
その経験から、まずは社内のファンづくりから始めようと。僕たちが、すごくポジティブなモチベーションの元で開発していることを伝え、「面白そうなサービスが始まるんだな」と興味をもってほしいと考えていました。
またUIデザインの面でも、ユーザーの「好き」に集中できる、ファン目線のUI設計を意識しました。
具体的には、他のニュースアプリで一般的な、カテゴリタブを横に並べて多くの情報を網羅するUIではなく、好きな選手やチームの情報が集約されるような「タブなし」のUIを採用しています。
▼タブありの「グノシー」(左)に対し、「グノスポ」(右)ではタブなしの4画面で情報集約
さらに、グノスポは同種のアプリの中では後発であり、機能面だけでは見劣りしてしまう懸念がありました。そのため、機能の箇条書きではなく、「メッセージ」という形で想いを伝えることにしました。
▼ユーザーに向けた「メッセージ」
実装予定の機能や、「こんな風にユーザーと関わっていきたい」「私たちも、あなたたちと同じ熱量をもったファンのひとりですよ」とメッセージにすることで、少しでも気にかけてもらえたらと。
このように、「好き」という熱意を社内外に伝播していくことも、より良いプロダクトにしていくためのひとつの方法ではないかと思っています。
複数プロダクトのアセットを活かし、さらなる挑戦を続けていく
大曽根 また今回、技術面での挑戦も積極的に行っています。例えば、今回はインフラ部分にAWSのCloudFormationを導入し、新しいアーキテクチャを構築しました。
Cloud Formationを導入することで、インフラ構築のコード化をより効率良く行うことができるようになりましたね。
こうした新しい技術への挑戦は、現場主導で行っています。
弊社では「何を目指すか」という大きな意思決定は経営陣が行いますが、「どう実現するか」というHOWの部分は、現場の意思決定が尊重されています。
また、この新しいアーキテクチャは、今後の新規プロダクトにも活用できると考えていて。複数プロダクトのアセットを活かして、共通のデータ基盤から分析したり、新しい技術やデザインの知見も横展開していけたらと思っています。
2020年のオリンピックを見据えて、ユーザーに十分な情報を届けられるようなアプリに今後も育てていきたいですね。(了)