- スパイダープラス株式会社
- CMO
- 三浦 慶介
「この施策を正解にする」意志を。テレビCM+アウトバウンドが生んだ圧倒的な成果とは
2021年3月、「建設DX」として初となる東証マザーズ上場を果たしたスパイダープラス株式会社。
同社が展開する、建設現場における非効率をなくす図面・現場施工管理アプリ「SPIDERPLUS」は、現在約900社、40,000人以上に利用される(※2021年3月末時点)。
この成長を牽引しているのが、テレビCMをはじめとするマーケティングへの投資だ。
2020年11月、2021年2月と二度のCM放映を実施したが、一度目の想定ROIは「当落線上」。そこで二度目のタイミングでは、CMと連動したアウトバウンド施策を営業部と連携して実行し、顧客との接点を意図的に作り出した。
結果、「誰がどう見ても成功」と言えるレベルの高い目標を掲げたにも関わらず、想定より1ヵ月以上も早く目標を達成できたという。
同社でCheif Marketing Officerを務める三浦 慶介さんは、「CMを打って、ただ待っていれば問い合わせがくることはないので、顧客との接点づくりも含めてやりきる必要がある」「未来を作っていく中では、今やっていることを正解にする、という『意志』を持つことが重要」と話す。
今回は三浦さんに、スパイダープラスにおけるテレビCMを使ったマーケティング・ミックスの検証について、また事業成長のためにマーケターが果たすべき役割について、詳しくお話を伺った。
「事業のグロース屋」として、社内連携や顧客接点の構築を推進
私は新卒でサイバーエージェントに入り、モバイルサイトの営業、制作サイド、ソーシャルゲームのプロデューサーを経験しました。その後、事業を伸ばすことに本質的に向き合いたいなと思い、リヴァンプという事業支援の会社に転職しまして。
リヴァンプでは、マーケティングとITを使って事業を成長させることに取り組みました。その中で、マーケティングとは「ただプロモーションを行う」ことではなく、もっとずっと顧客起点で、全社一丸となって取り組む必要があることを、実感を持って学ぶことができたと思っています。
その後、もう一度サイバーエージェントに戻り、モバイルゲームのマーケティングを担当しました。そして2020年の夏に、縁あってスパイダープラスにCMOとしてジョインした形になります。
役割としてはマーケティングの責任者を務めていますが、自分が「マーケティングの人」として見られることには個人的にちょっと違和感があって…。
マーケティングか否かに関わらず、事業を伸ばすことを目的に動いているので、世の中で「マーケターの業務」と言われていることだけでは、自分の仕事を説明できないんです。実際、先日からプロダクトリニューアルの責任者を兼務していることもあり、個人的には、「事業のグロース屋」みたいな感覚でいます(笑)。
特に弊社のようなBtoBかつバーティカルな領域では、プロモーション一発で何かが大きく変わる…ということはないんですよね。
これは過去に携わってきたゲームの世界でも同じですが、例えば、全く面白くないゲームのCMを打っても意味はないじゃないですか。
それがBtoBになると、営業との連携ができていなかったり、プロダクトの本質をマーケティングに反映できていなかったりとなると、様々な施策も全く意味がなくなってしまう。大事なのは一貫性だと考えています。
なので私自身としては、プロモーションの実務そのものだけではなく、社内の連携や、しっかりと顧客と接点を作っていける組織づくりに重点を置くようにしています。
事業成長の角度を「圧倒的に変える」必要があった
スパイダープラス入社後は、自分では「クイックヒット」と呼んでいるのですが、最初はすぐに目に見える形で成果を出すことを考えていました。そこでランディングページの改善や広告運用のインハウス化といったデジタルマーケティングの改善に取り組み、まずは「マーケティングで成果が出る」という社内の共通認識を作っていきました。
また並行して、社内の営業やインサイドセールスの状況をヒアリングし、マーケティングが担うべき領域について、課題把握を進めていきました。
その中で、結局、デジタルが多少伸びようが、人員が増えようが、もっと事業成長の角度が圧倒的に変わるようなことをやる必要があるなと。であれば、今期の予算で可能な限り速く検証しよう、という話をするようになったんですね。
その手法については、新聞広告であったり、営業部隊の外部委託であったり、成長に向けた投資を色々と議論していきました。
そして最終的に、テレビCMほど、うまくいったときに事業を大きく成長させるものはない、という結論になって。CMを使ったマーケティング・ミックスを作れるか?ということに、早々にチャレンジしようということになりました。
私が正式に入社したのが9月なのですが、10月頭に撮影をして、11月には放映したので、かなりスピード感を持って進めましたね。
CMのクリエイティブを「お客様インタビュー」にした理由
CMのクリエイティブに関しては、実際のお客様のインタビュー動画を使うことにしました。
※その他の動画はこちらからご覧いただけます。
当時は私もまだ入社して日が浅く、お客様に対する解像度もそこまで上がっていなかったのですが、それでもインタビューを使うことで成功するという自信がありました。
と言うのも、すでにアンケートベースで「SPIDERPLUSを使ったことで、月に20時間以上の業務改善をできた人が4割以上いる」というデータがあったんです。これってすごいことを言っているな、と思って。
他にもお客様からの要望を見ていくと、「このプロダクトがないと困るから、良くなってほしい」という背景をお持ちの方がとても多いと実感できたんです。
そもそも、自分自身が過去に手掛けてきたCMでも、ユーザーさん自身に語ってもらう形式で失敗したことはほとんどありませんでした。ただ、うまくいくにはひとつだけ条件があって、それは「本当にプロダクトが受け入れらている」ということです。
お客様が満足していなければインタビューCMなんて当然できませんから。こうした意味で、SPIDERPLUSはプロダクトに対する支持はすごくあるので、この手法でいけるのではないかと。
加えて、実は3、4年前に、弊社は一度テレビCMにチャレンジしているんですよ。当時はタレントさんを使って、映像もすごくこだわって制作したのですが、事業的には思ったような手ごたえがなかったと。
この経験があったことで、今回このクリエイティブでうまくいかなければ、CM自体が向いていないという議論ができるよね、という話ができました。
世の中、CMというとクリエイティブの派手さやきれいさにこだわる人が圧倒的に多数だと思います。その中で、今回のようなしみじみとしたものにOKを出してくれたことは、社風というか、社長の度量が大きかったなと思います。
1回目は「当落線上」 誰が見ても成功と言える目標を掲げ、再挑戦
1回目のCM自体は、社内の試写が終わった瞬間に拍手が起きるぐらい、良いものができました。今回は運用型テレビCMサービスのノバセルを活用したのですが、配信後にノバセルアナリティクスで分析をしても、いわゆる反応率は一般的なCMに対してもかなり良い方だったんです。
ですが、想定ROIで算出してみると、ギリギリ当落線上という結果だったんですね。それはなぜか、を考えたときに、クリエイティブに原因がないとすると、顧客と接点を作るところがやりきれていなかったなと。
BtoBだと、CMを打って、ただ待ってたら問い合わせがくる…みたいなことってないんですよ。例えば、自分が大学生だったときを考えると、オシャレだけしてもモテないじゃないですか? オシャレした上でサークルに飛び込んで、女の子と接点を持って話すからこそモテるんだ、みたいな(笑)
最初のCMでは、そもそも社内と十分な議論をする時間があまりなかったこともあって、この「接点を作る」部分がやりきれていなかったんですよね。そこで、その点も含めてやりきる形で、2回目のCM放映を実施することになりました。
それにあたっては、営業部と一緒にアウトバウンドのプロジェクトを立ち上げました。架電とDMを行うアウトバウンドのチームを外部委託も含めて組成したのと、営業から過去の失注先へのアプローチを強化することにしたんですね。
もともとアウトバウンド施策をやっていなかったわけではないのですが、通常時と比較して、CM放映中は「相手がこちらを知っているという前提」でアプローチできるので、心構えが全然変わります。
加えて私から、「今回のGRPとクリエイティブの反応率から考えると、肌感ではあるけれど業界の7割ぐらいの人はうちのことを知ってるはずだ」といったことを社内に発信していきました。
さらに、目標の再設定を行いました。そもそも我々のサービスは成約までのリードタイムが長く、かつ社内でもID数が徐々に拡大していくものなので、マーケティングの正確な投資効果がわかるには5年くらいかかるんです。
となると、正確なROIを出すことは難しいのですが、その中でも営業部と共通認識を持つために、ターゲット企業のカテゴリーを作り、過去の商談データを元に、何件の商談がCMを通じて生まれればペイラインなのかを算出しました。
その上で、「誰がどう見ても成功と言える」数字を、目標として設定しました。イメージでいうと、1回目のCMの5倍くらいの目標です(笑)。ROIを正確に見込むことが難しいからこそ、誰から見ても成功、というラインを置きました。
こうして、2月には二度目のCM放映を始めました。目標については4月末までにクリアしようとしていたのですが、結果的に3月中旬には達成することができたんです。この結果に、社内は相当盛り上がりましたね。
「今やっていることを正解にする」意志で突き進むしかない
この取り組みで大きかったのが、「マーケティングはマーケティング部だけのものではない」ということが社内に浸透し始めたことだと思っていて。
例えばテレビCMを行うときに、営業から過去の顧客に連絡してもらうためにコミュニケーションをとる、といった地道なところも含めてマーケティングなので。「マーケはデジタルだけやってろよ」みたいな感じになると、やっぱりうまく回らないですよね。
自分も営業をやってきたのでわかるのですが、営業って、数字以外の論理がないじゃないですか。マーケティング担当者はまずそこを理解した上で、コミュニケーションを行うことが大前提だと思います。
「案件が取れる」と思ったら、営業はすごく協力してくれるんですよ。なので自分からは、うまくいきそうな理由はとにかく共有していきました。逆に、CMに関して「ブランディング」という言葉は一度も使わなかったですね。
結局、営業が良いと思わない施策をやっているマーケティング部って、全く無意味ですから。
その上で、目的の共有をすごく重視していました。企業カテゴリーの中でどこからどれだけ取るか、という共通の目標をひたすら作ったんですよね。
私が社内でよく使うのが「意志」という言葉です。結局、先ほどのROIの話に関しても、2年後に自分たちのプロダクトの単価が2倍になっていたら、現時点の計算なんて無意味じゃないですか(笑)。
つまり、これから未来を作ろうとしていく中で、現在地で議論することには意味がない。結局、今やっていることを正解にする、という意志で突き進むしかないんですよね。
テレビCMひとつとっても、これが正解になれば、会社の成長曲線が変わる。であれば、正解にする意志を持ってやっていく。誰ひとり文句もないような高い目標も意志で越えていく、ということが大事なんだと思っています。
マーケティングとプロダクトの本質的な連動に取り組んでいく
実は2021年の5月から社内の体制が変わり、私は新設されたプロダクトマーケティングマネジメント部を率いることになりました。マーケティングからプロダクトまで、一貫性を持って見ていくということですね。
もともとプロダクトのリニューアルは昨年から進めていたのですが、3月にCMが一段落したタイミングから、私がそのプロジェクトマネジャーも兼務する形になっていて。
結局、マーケティングをしようとすると、お客様の理解はもちろん、プロダクトに対する細かい理解も必要です。そこから、プロダクト自体をどう変えていくべきかという部分まで、一気通貫してできないとダメなんですよね。
実は入社前から、BtoBはマーケティングだけで動かせる変数がとても少ないので、営業やプロダクトとの連携を重視してやっていきたいという話をしていたんです。
これまで、SPIDERPLUSはどちらかというと「これが欲しい」という個別の要望に応える形で改善を繰り返してきたんですね。でも今回は、ごっそりと作り直して、建設業の業務全体で見たときにベストな仕様を実現しようとしています。
プロダクトの改善においては、お客様の声をただ聞くだけではなく、その背景にある業務やユースケースを理解することで初めて、大きなインパクトを生み出せます。
つまり、これまでのマーケティング活動によって得たお客様の声や要望を活かしていくことができるんです。また、マーケティングに関わっている人がプロダクトを改善していくことで、マーケティングの訴求もまた変えていける…という好循環を生み出せると思っていて。
例えばこれまではふんわり「業務を効率化します」としか言えなかったのが、「こういうシーンがこんなに楽になりますよ」といった形で、より具体的に訴求ができるので、それだけで効率は相当上がるだろうなと。
この、プロダクトとマーケティングの本質的な連動というところに、これからはチャレンジしていくということですね。(了)