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【国内外・事例5選】いまさら聞けない「デザイン思考」徹底解説!注目度上昇の理由とは
近年、多くのビジネスの現場で導入が進んでいる「デザイン思考(Design Thinking)」。
「デザイン思考」とは、デザイナーがデザインを行う際のプロセスを用いて、ユーザーの課題を定義し、解決策を見出す思考法のことを指します。
かつては新しいプロダクトが生み出されれば、多くの人が自然とそれを欲する時代がありました。しかし、モノや情報があふれ顧客のニーズが多様化している現代においては、イノベーティブなプロダクトやサービスを生み出す難易度はとても高いといえます。
そこで注目されているのがデザイン思考です。一部の企業では長らく活用されてきた思考法ではありますが、Googleトレンドで「デザイン思考」の検索数の推移を見てみると、2022年に入ってその数が急速に増えている傾向が見て取れます。
おそらく、今後デザイン思考を取り入れる企業もますます増えていくのではないかと思われます。
▼Googleトレンドでの5ヵ年のトレンド推移
そこで今回は、「いまさら聞けないデザイン思考」をテーマに、これから実務での活用を検討されている方に向けて、デザイン思考にまつわる基礎知識から厳選5社の活用事例までをご紹介します。ぜひご参考ください。
▼本記事のポイントはこちら
<目次>
- デザイン思考とは?
- デザイン思考の起源
- 今、ビジネスの現場でデザイン思考が注目される背景
- デザイン思考の概念とプロセスについて
- デザイン思考に役立つフレームワーク
- 企業がデザイン思考を活用するメリット
- デザイン思考を取り入れる際に注意すべきポイント
- デザイン思考と「人間中心設計(HCD)」
- 【事例5選】デザイン思考や人間中心設計を活用した企業の実践例
デザイン思考とは?
デザイン思考は、前例のないテーマに対してユーザー目線で課題を明瞭化し、ユーザーの共感を得られるプロダクトの設計や問題解決に活用されている思考法です。
具体的には、人々のニーズを課題に落とし込み、そこから生まれたアイデアをもとにプロトタイプを作成。顧客やユーザーにテストを行いながらブラッシュアップしていくことで、課題解決を目指します。(出典:Weblio辞書)
このデザイン思考には、大きく3つの特徴があります。
- 常にユーザー視点に立ち、ユーザーの「共感」や「満足」を最重視する
- 思考プロセスにおいては順序を問わず、何度も複数のプロセスを反復しながらアイデアを磨き上げていく
- バイアスや前例、固定観念に捉われず、自由な発想をする
デザイン思考は、元々は建築や服飾などのクリエイティブの分野で活用されていましたが、既成概念に囚われずに未知の課題に取り組む際に役立つということで、ビジネスにも転用され、現在は経営やマーケティングなど幅広い分野で活用されています。
デザイン思考の起源
デザイン思考の歴史は古く、認知科学者でノーベル賞受賞者のハーバート A. サイモン氏が、 1969 年の著書「The Sciences of the Artificial」にて、デザインのことを「思考の方法」だと言及したのがはじまりだと言われています。(出典:Interaction Design Foundation)
1987年には米国の建築家ピーター・ロウ氏が「デザイン思考」という言葉を考案し、その後も建築やエンジニアリングなどの様々な分野の専門家が、時代の変化と共にその思考法やプロセスを進化させてきました。
そして、1991年に米国のデザインコンサルタント企業IDEOを創立したデビッド・M・ケリー氏が、ビジネス領域への応用を開始。Appleの初代マウスなど様々な画期的なプロダクトを世に生み出すに至りました。
また、IDEOの創設者のひとりによって、2005年にスタンフォード大学にて「d.school(正式名称:The Hasso Plattner Institute of Design)」が創設され、学生にもデザイン思考が教えられるようになりました。
このように、デザイン思考は長年に渡り様々な領域で広がりを見せており、GAFAをはじめとして多くの著名企業や教育機関でも、デザイン思考を活用したアプローチが進められています。
今、ビジネスの現場でデザイン思考が注目される背景
従来の企業活動は、課題の仮説を立ててプロダクトを開発し、その効果を検証する「仮説検証型」が主流でした。そのプロセスは現代ほど複雑なものではなく、課題に対する解決策を経験則に基づいてうまく導き出し、実行できる人々が重宝されてきました。
しかし、VUCAと呼ばれる変化の激しい現代においては、多くの課題はAIなどのシステムによって正確に素早く対応されるようになり、人々はより創造的なアイデアを求められるようになっています。
一方で、ユーザーは商品やサービスそのものの質だけではなく、購入体験の良さやその後のサポートなど、すべてにおいて高い水準を求めるようになり、顕在化したニーズを満たした類似プロダクトも世の中に多く溢れるようになりました。
そんな時代において、多くのユーザーが熱狂するようなイノベーティブなプロダクトを生み出すことは容易ではありません。ユーザー自身も気付いていないような潜在的なニーズ・課題を自ら見つけ出し、それを解決する力がより一層求められているといえます。
また、実はDXの文脈でも「人」を起点に設計する力が求められ、デザイン思考を活用できる人材が重要視されています。
経済産業省が発表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(P.47)」では、今後ベンダー企業に求められる人材として、「ユーザ起点でデザイン思考を活用し、UXを設計し、要求としてまとめあげる人材」が挙げられています。同省の「デザイン経営」宣言でも、デザイン思考の重要性に触れられていますね。
同様に、2021年にIPAが公表した「DX白書2021 / 第2部:DX戦略の策定と推進」では、「DXの推進においては、企業が市場に対して提案する価値を見出すためのデザイン思考などの方法論と、その価値提案を現実のシステムへ実装する技術者の役割が重要である」と述べられています。
こういった時代の変化に伴い、現在は領域は問わず、既成概念を超えたイノベーションを生み出すべく、デザイン思考に着目する企業が増えているのです。
デザイン思考の概念とプロセスについて
前提として、デザイン思考は「思考法」であり、特定の手法や一方通行のプロセスを指すものではないということをお伝えしたいと思います。
前述のスタンフォード大学のd.schoolでは、下図にあるようにデザイン思考を5つの「モード」と表現しています。
ここでは、プロダクト開発やアイデア創出の際には、この5つのモードを常に意識して、自由に行き来しながら、より人間の深い欲求(インサイト)へとアプローチしようと伝えています。デザイン思考はその「向き合う姿勢やマインド」全体を指すのだと理解していただければと思います。
その上で、5つのプロセス(モード)について、一つひとつ解説していきましょう。
1、Empathize(共感)
徹底したユーザー視点が鍵となるデザイン思考。ここでは、インタビューやアンケートなどのユーザー調査を通じて、プロダクトやサービスの課題をユーザー視点で考えていきます。
その際には、自らの視点での仮説は横に置いて、ユーザーの言葉の背景にある思いに共感しながら、徹底的に深掘りして深層心理を理解していくことが重要です。
2、Define(問題定義)
Empathizeの共感フェーズで収集した情報を元に、ターゲットとなるペルソナの行動パターンや嗜好をふまえて分析・統合し、ユーザーのニーズや、チームとして解決すべき問題を定義します。この過程を深めていく中で、ユーザー自身も気付いていないニーズを導き出していきましょう。
3、Ideate(創造)
EmpathizeとDefineを経ることでユーザーのニーズが明瞭化され、アイデアを創造する準備が整いました。このIdeateのフェーズでは、複数人で意見を出し合うブレストや様々なフレームワークを用いて、試作のためのアイデアを練っていきます。
ここでは、既成概念を取り払って、アイデアの質よりも量を重視することがポイントとなります。
4、Prototype(試作・プロトタイプ)
アイデアがある程度固まったら、極力時間やコストをかけずに簡単な試作品(プロトタイプ)を作ります。完成度は問わず、3Dプリンターで形だけ作ったり、Webでイメージ画面だけを作ったりするような形です。
ここでの目的は、試作過程で新たな課題や視点に気づき、それぞれの問題に対する最善の解決策を特定することにあります。プロトタイプを元に、ユーザーから意見をもらうとより具体的な意見をもらうこともできるでしょう。
5、Test(テスト)
ここではユーザーからのフィードバックを元に、アイデアをブラッシュアップしたり試作品を改良したりしながら、テストを繰り返していきます。この過程で、新たな問題が再定義され、前の段階に戻ってさらに反復や改良を行うことも多くあります。
そして、これらの5つのプロセスを順番に行う必要はなく、下図のように一連の開発プロジェクトの中で何度も反復・実行しながら、ユーザーを深く理解し、理想的なソリューションを見つけ出すために包括的に活用していく意識が大切です。
※出典:Interaction Design Foundation (IxDF)
また、このデザイン思考のプロセスを別の形で表現したものとして、2004年にイギリスの公的機関であるデザイン・カウンシルが提唱した「ダブルダイヤモンド」があります。
出典:デザイン・カウンシル「The Double Diamond」
中央に二つのダイヤモンドが並んでいますが、左は正しい問題を見つけるダイヤモンドとして、発散の「発見(Discover)」から収束の「定義(Define)」の順で行うことを示しています。ここは、d.schoolが提唱するプロセスの「共感(Empathize)」から「定義(Define)」と同様のイメージですね。
また、右の正しい解決策を見つけるダイヤモンドでは、発散の「展開(Develop)」から収束の「提供(Deliver)」の順で行うことを示しており、d.schoolが提唱するプロセスで言えば「創造(Ideate)」と「プロトタイプ(Prototype)〜テスト(Test)」に当てはまります。
どちらも同様の思考法のプロセスを示す図なので、デザイン思考の概念全体をイメージで捉えるために参考にしていただければと思います。
デザイン思考に役立つフレームワーク
デザイン思考は思考法であり手法ではありませんが、ユーザー(ペルソナ)の心理に共感し、思考する際に役立つフレームワークは各種あります。
ここではその一例を簡単にご紹介しますので、気になるものがあれば詳しく調べてみていただけたらと思います。
共感マップ(エンパシーマップ)
プロダクトやサービスに対して、ユーザーが「見ているもの」「聞いていること」「考えたり感じていること」「言動・行動」「痛みやストレス」「望んでいるもの」という6つの視点で思考や行動を整理することで、本当のニーズを探り共感しやすくなるフレームワークです。
出典:apprendre à utiliser les cartes d’empathie permet de construire de meilleures solutions
ジャーニーマップ
ユーザーがプロダクトやサービスに関わる一連のプロセスを時系列で横軸に置き、それぞれのプロセスでどのような行動や思考、感情が生まれていたかを縦軸に置いて整理することで、全体像を把握したり、これまで把握できていなかった課題やニーズを発見することができます。
ジョブマップ
ユーザーが本当に欲しいと思っているものが何かを見つけるための考え方として、「ジョブ理論」があります。この理論を用いて、ユーザーが置かれている環境や、求める機能、困っていることなどを整理し、すでに満たされているものと、これから充実させるべきものを可視化することができます。
フォトジャーナル
IDEO社が対面でのインタビュー以上に有効だと語るのが、フォトジャーナルです。ユーザーには事前に準備期間を設けて、開発中のプロダクトのテーマに沿って、日常の中にあるプロダクトに関連する写真を撮影してもらいます。
例えば、金融サービスを設計している場合は、財務上の決定に影響を与えるすべての人の写真や、財務を処理するすべてのシーンの写真を撮るように依頼するイメージです。それによって、ペルソナ個人だけではなく周囲の関わる人々や、プロダクトをどのように使用するかがリアルに分かるようになります。
また、ヒアリングの際には、それらの写真の内容についてユーザーがどのような感情を持っているかや、撮影する際に除外したものがあればその理由を尋ねながら、課題やニーズを深掘りしていく形です。
その他、ユーザーに共感するフェーズを経た上で事業化を検討する際には、「MVPキャンパス」「事業環境マップ」「ビジネスモデルキャンパス」などのフレームワークも活用できます。
企業がデザイン思考を活用するメリット
あらためて企業がデザイン思考を取り入れるメリットをまとめると、主に以下のようなものがあります。
- ユーザーの潜在的で本質的な課題にアプローチできる
- アイデアの提案を習慣化できる
- イノベーション(ユーザーに支持されるプロダクト)の創出に繋がる
- 多様な意見を受け入れるスタンスが広がり、チーム力が強化される
デザイン思考では徹底したユーザー視点で物事を捉えるため、従来の企業や市場目線からの思考では見えてこなかった本質的な課題を見つけることができます。
また、これまでになかったアイデアを生み出すためにも「質より量」が求められるため、失敗や常識を気にせずに、とりあえずアイデアを提案してみるというスタンスが身につきやすくなります。
そして、デザイン思考にはすべてのプロセスにおいて多くのメンバーが関わり、上下関係なく自由に発言することが推奨されています。アイデアをブレストする中では多様な意見が飛び交うことにもなるので、一人ひとりの意見に向き合って、それを統合するステップの中で、チーム力を高めることにも繋がるでしょう。
デザイン思考を取り入れる際に注意すべきポイント
デザイン思考を取り入れる際には、まず下記のポイントを念頭に置きましょう。
- すぐに結果が出るとは限らない
- デザイン思考の定義やプロセスを正しく理解する必要がある
- ゼロからイチを生み出す目的には適していない
これまでお伝えした通り、デザイン思考は新しいプロダクトを生み出す上でのマインドセットであり、何度もプロセスを反復してブラッシュアップしていくことが重要です。イノベーティブなアイデアが生まれる土壌を作っていくようなイメージで、長期的な目線で取り組んでいきましょう。
また、デザイン思考のプロセスは従来の企業主体のプロダクト開発とは異なり、常にユーザー視点で捉える必要があるため、チームにはその特性やプロセスをきちんと理解し、周りを巻き込んでいける人材が必要となります。
メンバーがデザイン思考を正しく理解し、活用するスキルがあるかどうかを把握するには、23万人・200社以上が受講しているVISITS Technologies社の「デザイン思考テスト」などで測定することも可能です。
そして、デザイン思考ではユーザーの潜在ニーズを軸に紐解いていくため、全く新しいものをゼロから開発する時よりも、既存のプロダクトを刷新する時に適しています。
ゼロからイチを生み出す目的であれば、課題解決を目指す「デザイン思考」よりも、自己表現をゴールとする「アート思考」などが適しているといえます。
デザイン思考と「人間中心設計(HCD)」
デザイン思考とよく似た思考法として、「人間中心設計(HCD=Human Centered Design)」があります。
このふたつの思考法は、どちらもユーザーを起点にして問題を解決していく点からプロセスが似通っていますが、たどり着くゴールが異なるので、ここでは人間中心設計についても簡単に触れていきましょう。
「人間中心設計」は、プロダクトやサービスを開発する際に、それを利用する人間(ユーザー)の使いやすさを中心において設計する思考法です。
1999年に国際標準化機構によって定義(※)されたもので、日本ではNPO法人のHCD-net(人間中心設計推進機構)が広く普及活動を行っています。
※1999年に国際規格ISO13407として制定。現在はISO9241-210にアップデートされている
「人間の使い勝手を考えてモノづくりをする」と言うと、現代では当たり前のように感じますが、1900年代までは多くのプロダクトが技術ありきで作られ、人間が技術に合わせる必要がありました。しかしヒューマンエラーを完全に防ぐことは難しいため、徐々に人間に技術を合わせていく考え方が広まり、人間中心設計が生まれることとなりました。
前述のNPO法人HCD-netでは、人間中心設計に関する資格認定制度も開始。「人間中心設計専門家(認定HCD専門家)」「人間中心設計スペシャリスト(認定HCDスペシャリスト)」という、一定期間の実務経験を要するふたつの資格を設けています。
また、同法人では例年AWARDも開催しており、各社の取り組みを広く共有することで、誰もが人間中心設計のナレッジを自社で再現できるような状態を目指している点も特徴といえます。
人間中心設計(HCD)のプロセスについて
人間中心設計の基本の進め方は下図の通り、プロダクトの構想を練る段階から、対象となるユーザーの課題やニーズを定性や定量で把握し、それを元に解決策を設計して、ユーザーの満足度の度合いを評価するという流れです。そして、ユーザーのニーズが満たされるまでこのプロセスを繰り返していきます。
この全体の流れは前述のデザイン思考と似ていますね。基本的にはどちらも近しい考え方をしますが、主に違いがあるのは、最初のフェーズでのユーザーへのアプローチの仕方かと思います。
人間中心設計は、ユーザーの顕在ニーズに対して忠実に、使いやすいプロダクト作りを目指すイメージで、デザイン思考はユーザー理解を深めて「共感」した上で、潜在的なニーズを大きく超えたイノベーティブなアイデアを生み出すことを目指すイメージです。
【事例5選】デザイン思考や人間中心設計を活用した企業の実践例
まず、デザイン思考の活用事例をご紹介しましょう。
「怖い病院検査」を、子供たちがわくわくする「冒険の場」へ / GEヘルスケア
デザイン思考を活用した一例としては、米国・GEヘルスケア社の取り組みが有名です。
同社は、子供たちにとって「怖い場所」だった医療機器や病院の壁に宇宙船や海賊船などの装飾を施し、楽しい「冒険」の場に変えました。そして、台本も用意し、子供たちが冒険の主役になりきって前向きに検査に取り組めるようにサポートしたそうです。
これは子供たちへのヒアリングを元に、「元気になったらスポーツや色々なところにお出かけしたい」という想いを汲み取り、生まれたアイデアだといいます。(Photo by Courtesy of GE Healthcare)
主語をブランドから「顧客」に。新たな視点でリニューアル実施 / ロート製薬
創業122年を迎えたロート製薬株式会社は、2020年末に新たに「D2Cプロジェクト」を始動しました。2021年7月には消費者と「直接つながる」場所として、自社オンラインショップのサイトリニューアルを実施。
そのプロセスにおいては、主語を「ブランド」から「お客様(ユーザー)」に転換するためにデザイン思考を取り入れ、エスノグラフィックリサーチなどを用いて消費者の潜在的なニーズを可視化したそうです。
そうしたニーズに対して提供できる価値を定義した上で、サイトの一部とコンテンツ、さらに商品をお届けする箱や袋のデザインのリニューアルを実施しました。
リニューアルプロジェクトでは、お客様の課題を軸にした「デザイン思考」を新たに取り入れました。そして「お客様の課題」を徹底して知るために、30代から70代まで、幅広い年代の16名の方々にインタビューをさせていただきました。
インタビューにご協力いただいた方は、大きく2グループです。まずは、ロートと既存の接点を持っていただいているお客様、そして、まだ接点のない「未来のお客様」です。
もともとロートは商品開発にあたって1人のお客様の価値観を徹底的に掘り下げる「N1分析」を行っていて、定性調査やニーズの深堀りには強みを持ってきました。
ただ今回は、商品を軸にする形ではなく「そもそも、どんな健康の悩みがあるのか」「生活の中でどんな困り事があって、本当はどうしたいのか」といった、いわゆるエスノグラフィックリサーチを行うことで、より潜在的なニーズを掘り起こしにいきました。
これまでのブランド主体のインタビューでは、「ロート製薬という会社に対する印象」をお客様にお聞きしたことがなかったんですね。けれど今回お聞きしてみると、もちろん強弱はありますが、全員共通で「目薬」のことをおっしゃっていて。
この「お客様からは目薬の会社のイメージが強く、目の健康を守ってくれることを期待されているのでは」と強く感じました。今回のリニューアルではそういったお声を反映して、目への優しさにはとてもこだわったデザインを作れたのではないかなと思います。
そして最終的には、「目のお悩み解決&自分に合った商品と出会える場所」というコンセプトの元で、サイトの一部とコンテンツ、お届け箱・袋のデザインのアップデートを行いました。
出典:ロート製薬が挑む「老舗メーカーのD2C」とは。自社ECサイトリニューアルプロセスの全貌
全社員でデザイン思考を実践し、オリジナルのノウハウも構築 / 富士通グループ
富士通グループでは、会社全体でDXに取り組む中で、デザイン思考は全従業員に必要なスキルであると位置づけて、2016年から全社浸透を図ってきました。
まずお客様の声を直接聞く役割を持つビジネスプロデューサーの8,000人にデザイン思考教育を実施し、その後、SEや事業部門、スタッフ部門へと対象を拡大して、グローバル全従業員13万人に向けても実施しているといいます。
出典:デザイン経営に向けた富士通の取り組み
2021年には、富士通オリジナルのデザイン思考テキストブックをPDFとして公開するなど、大変力を入れている領域となっています。そのため、デザイン思考の活用事例も多くある同社ですが、その一例をご紹介します。
全国の小・中学校を約30ヵ所を訪問し、現場観察で得た気づきをもとにデザインに取り組んだスクールタブレット端末「ARROWS Tab Q5シリーズ」。
この現場観察では、教室だけではなく校庭、体育館、プールサイドといったさまざまな環境で使われることや、教職員をはじめとして小学校低学年から中学・高校の生徒まで利用者が幅広く、繊細なIT機器として扱われるのではなく落下させてしてしまうシーンも多いことなどを発見。
そういった現実を目の当たりにして、ユーザー起点でニーズや課題を捉え、仮説立案と検証を繰り返す中で、最上段のコンセプトを「授業を止めない」に決めたといいます。その結果、「小学生用の狭い机にもきちんと収まる省スペースと、滑りにくく落としにくいことを実現した新たなデザインコンセプトSchool Design 360°」が採用されました。
出典:現場観察で得た「気づき」からデザインしたスクールタブレット
その他にも、AppleやGoogle、IBM、P&G、パナソニック、ソニー、任天堂…など数多くの企業で、デザイン思考を活用した事例が公開されていますので、気になる方は調べてみていただければと思います。
続いて、デザイン思考と近しい「人間中心設計」の活用事例をご紹介します。
一つ目は、人間中心設計を軸とした共創型プロジェクトとして「顧客体験設計・サービスデザイン」支援などを提供するゆめみ社による開発支援事例。二つ目は、組織づくりに人間中心設計を活用している事例です。
常に目の前の組合員と向き合いコミュニティを醸成 / 生活協同組合コープこうべ
一人ひとりが出資金を出し合って組合員となり、人と人のつながりを大切にしながら協同でくらしを支える組織「生活協同組合(生協)」。
神戸市で172万人を超える組合員が所属する生活協同組合コープこうべでは、「コープこうべアプリ」の開発において、人間中心設計を根底に設計することで、新しい時代の地域コミュニティ醸成に繋がっているといいます。
コープこうべアプリのコミュニケーションデザインは、ユーザーである組合員を常に中心に考える「人間中心設計」の考え方に基づいて、機能づくりを行っています。
実際には、「声を聞く」というよりも本当に組合員さんの隣にいて、「一緒に開発している」ような感覚です。
視覚障害の方に使いやすい音声読み上げサイトをつくるときは視覚障害者のグループと一緒に開発をさせてもらいましたし、Webサイトの「デザインが良くない!」というお申し出をいただいた方の家にお伺いしてお話を聞いたこともあります。
また、小学生までのお子さんがいる方に加入いただいている「コーピーくらぶ」にはメンバーが約2万人います。
その中でアンケートを取ったりお話をお伺いしていくと、やはり子育てに関する悩みや心細さを感じられていて、なんとかできないものかなあと。そこでつくったのが、「きいて」というつぶやきコーナーです。
こちらでは投稿したメッセージが24時間で消える仕組みになっているので、ちょっと肩の力を抜いて、軽い気持ちでつぶやくことができます。Instagramのストーリーズと似ていますが、こちらではテキストによる対話がメインです。
「今何してる?」といった気軽な投げかけや子育ての質問、時にはグチが盛り上がることもありますが、すべて24時間で洗い流されて明日にはすっきりと晴れ渡るようなUI/UXを目指しました。
これはアプリ全体に言えることなのですが、「人気(ひとけ)」が感じられることをとても大切にしています。
例えば「きいて」では今何人が参加しているのかわかるようにしていたり、「たすけタッチ」では「合計何回たすけたよ!」という表示をして、みんなどこかで一緒にいる気配をつくって安心感を持ってもらえたらと思っています。
このように組合員さんと向き合ってアプリを改善し続けてきた結果、今では「コープこうべアプリ」そのものが安心できる地域のコミュニティになりつつあります。
出典:助け合いのマッチングはほぼ100%!「生協」の価値を現代に、コープこうべアプリが目指す世界
組織づくりや制度設計において「人間中心設計」の視点を活用 / Gaudiy
Web3.0時代のファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」を提供する、株式会社Gaudiy。
2022年6月には25億円の資金調達を実施するなど、今大注目のWeb3.0企業である同社は、組織運営においてWeb2.0とWeb3.0、それぞれの弱みを補う概念である「Web2.5」を採用。
一部に中央集権性を残した自律分散型の組織を目指し、人間中心設計などの考え方も用いて、特徴的な各種制度の設計を行っています。
Gaudiyは、ブロックチェーンを使ってファンコミュニティを作っていこうとしている会社なので、組織も、ある種ブロックチェーン的な自律分散型であることが、事業の促進につながると考えています。そもそも僕は、自律分散的な組織であること自体が素敵だなと思っているんですよね。
そして、その世界観を実現しながら、より生産性高くプロダクトを開発するために、DAOという思想をベースにした組織づくりをしています。加えて、従業員の体験づくりにおいては、HCD(人間中心設計)やソフトウェア開発のような手法を用いて組織の制度設計を行っています。
DAOのように一人ひとりがフェアに納得感を持って、自分たちがやりがいを持って働けるUXをどう実現するか、ということを常に考えていますね。
出典:「Web2.5」が最適解。自律分散と中央集権のバランスを追求するGaudiy社の組織づくり
今回は、昨今多くの企業に広まってきている「デザイン思考」をテーマに、その定義から各社の事例までご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
こちらの記事が、「デザイン思考」の基本理解を深め、導入を検討する上で少しでもお役に立てますと幸いです。(了)
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「エンジニア・デザイナー・PMの連携を強める方法」
Webメディア「SELECK」が実施するオンラインイベント「SELECK LIVE!」より、【エンジニア・デザイナー・PMの連携を強めるには?】をテーマにしたイベントレポートをお届けします。
異職種メンバーの連携を強めるために、UPSIDER、10X、ゆめみの3社がどのような取り組みをしているのか、リアルな経験談をお聞きしています。
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