- mixtape合同会社
- 共同創業者/事業統括責任者
- 堀辺 憲
資金調達も報酬もナシ!リリース後1年でバイアウトを果たした「スタジオ起業」の裏側
〜「合同会社」で、低コストかつスピーディーなサービス開発を実現!メンバーそれぞれが「本業」を持ちながら、バイアウトを達成できた理由とは〜
リリース後、1年で2,700ユーザーを獲得した、問い合わせフォーム作成サービス「formrun(フォームラン)」。
同事業を運営するmixtape合同会社は、サービス開始から約1年後の2017年12月に、株式会社ベーシックに同社の権利を売却。完全子会社となった。
実はmixtapeのメンバーは、それぞれが他に本業を持ちながら、資金調達もせず、報酬も取らずにサービスの成長にコミットしてきた。
同社でビジネスサイドを務めた堀辺 憲さんは、このスタイルの起業を「スタジオ起業」と呼ぶ。
今回は堀辺さんに、このスタジオ起業のポイントや、バイアウトの経緯について、詳しく伺った。
ものづくりに集中するため、報酬なし・コミット自由の起業を決断
2016年の1月に会社を設立して、「formrun」というプロダクトを作り始めました。
そして、2017年12月に会社を売却したので、設立から2年弱、プロダクトをリリースしてから約1年という、短期間でのEXITとなりました。
もともと起業するにあたっては、会社というより「スタジオを構える」と捉えて、なるべく身軽にものづくりができる環境を作ろうとしていました。
と言うのも、「会社を経営する」という話になると、どうしても重たくなります。報酬や評価のことも考えなければならず、ものづくりに集中できなくなっていくと思うんですよね。
僕たちはエンジニア、デザイナー、ビジネスサイドの3名で構成されているのですが、それぞれ29歳、38歳、45歳と、ある程度スキルや経験を持ったメンバーが集まっていました。
そこで、マネタイズできるまで「一切報酬を取らない」と決め、それぞれが他に本業を持って収入を得ながら、空き時間でプロダクト開発をしてきました。
こうしたことで、バーンレート(※月あたりの支出)を抑えることができたため、資金調達の必要性はそこまで高くありませんでした。
ただ、報酬を取らないとしていたため、事業へのコミット度合いは各メンバーの裁量権にゆだねていました。
深くコミットして早くプロダクトを成長させることができれば、自分たちへのリターンも早く返ってきます。逆にさぼってしまえば、プロダクトの成長が遅くなり、競合が出てきてチャンスがなくなります。
このような状況下で、メンバーのコミットを引き出すために重視していたのは、できるだけ早くプロダクトを世の中に出すことでした。
実際のユーザーから反応がもらえれば、サービスの開発者としてはモチベーションが上がっていくからですね。
低コストでスピーディーに作れる「合同会社」を選択
会社の形態は、株式会社ではなく合同会社という形を取りました。その理由は、合同会社の方が低コストで、スピーディーな運営が行えるからです。
株式会社の設立には20万円以上はかかりますが、合同会社は最低6万円から設立できます。
また、株式会社には会社法で株主総会の開催が義務付けられており、多くの場合、取締役会を設置することも必要とされています。
一方で合同会社は、株式総会、役員会の設置義務はありません。そのため、迅速に意思決定ができると考えたんですね。
周りからは「合同会社って何?」と心配されたこともあり、不安はありました。ただ、素早くプロダクトをリリースすることを最重視していたので、この選択は正解だったと思います。
なお、後に合同会社から株式会社に変更できるということはわかっていたので、事業がスケールすれば株式会社に移行しようという計画でした。
全員で課題とアイデアを考えることで、コミットを生み出せる
実際のプロダクトづくりのスタートとしては、まず全員でフラットにアイデアを持ち寄りながら、共通の課題解決策を探しました。
その時には、読書履歴の管理ができるBookログサービスや、新しい検索エンジンなど、様々なアイデアが出ましたね。
そして議論の中で、「世界には10億を超えるWebサイトがあるけど、どのサイトにも問い合わせフォームが存在しているよね」という話になりました。
私が「問い合わせフォームを作るのって大変なんですか?」と聞いたところ、エンジニアから「何言ってるんですか、大変ですよ」と言われて。それで、開発者が問い合わせフォームに課題を抱えていることに気付いたんです。
一方で、実際にフォームから届いた問い合わせに対応するビジネスサイドからしても、メールボックスに届いても気が付かなかったり、対応が抜け漏れたり、といった課題が存在することに気が付きました。
じゃあ、まずはこの問い合わせフォームに対してイノベーティブなアプローチをして、とにかくプロダクトを世に出してみようということになり、formrunが生まれました。
このように、誰か1人の知見に頼らず、全員で「取り組む課題」と「アイデア」を出すスタイルは、スタジオ起業に向いていると思います。
全員でゼロから考えたからこそ、深いコミットを生み出せた部分もありますね。
2ヶ月でMVPをリリース後、ユーザーヒアリングに基づき機能開発
こうして2016年12月に取り組む課題が決まり、そこから2ヶ月ほどで、最小限の機能を備えたプロダクト(MVP)をリリースしました。
当時は「自分たちのWebページに数行のスクリプトコードを入れるだけで問い合わせフォームが作れます」という、開発者向けのツールという位置付けでした。
最初は開発者の方々に「面白い」という評価をしていただき、開発者コミュニティに口コミで広がっていきました。
しかし、早い段階でユーザーの伸びが止まって、踊り場が来てしまったんです。
問い合わせフォームを作るのは開発者ですが、実際に使うのはビジネスサイドのマーケティング担当や営業担当です。
つまり、実際にフォームを欲しがっている人が抱える課題を特定し、その解決策とならなければ、formrunはスケールしないと気が付きました。
そこから5〜60人のビジネスサイドの対象ユーザーにヒアリングをし、課題を特定していきました。
世の中には、問い合わせフォームは2種類あります。ひとつはウェブサイトに設置している固定的なフォーム、もうひとつが、キャンペーンページにあるようなテンポラリーなフォームです。
ヒアリングの結果、「フォーム」と言われると多くの人は固定的なフォームをイメージしてしまい、興味を持つ確率がかなり低いことがわかりました。
一方で「URL付きのテンポラリーなフォームを、自分ですぐに作れたらどう思うか?」という話をすると興味を持ってもらえました。
こうしたヒアリングを通じて、マーケターや営業に、キャンペーンを打つ際のフォームにformrunを使ってもらえる、ということを確信できたんですね。
そこで、ビジネスサイドの人でも専門知識を必要とせずに、フォームが簡単に作成できる「クリエイター」という機能を開発し、それによってユーザーを2,700まで伸ばすことができました。
▼「クリエイター」機能のイメージ
起業にあたっては、「終了条件」を決めることが重要
スタジオ起業のメリットは、スキルや経験があるメンバー同士で、リスクを下げてインスタントにスタートできることだと思います。
ですがその一方で「いつまでにどういう状態にするか」という事業の撤退条件を決めないと、疲弊していくんですね。
初めの頃は「起業したぞ、おーっ!」で頑張れますが、半年から1年経つとメンバー各々に訪れる環境も変化し、スタート時の心境も当然ながら変わります。
そこで僕たちは「2017年中に売上がこのラインに行かなければ進退を考えよう」という話をしたのですが、それが良かったと思います。
この経験から、起業する際はいつまでに何をやるべきか、という点とあわせて、クロージングパターンも考えておくべきだと感じていますね。
2年なら2年、3年なら3年と時間に期限を設け、そこまでに何をするかという目標をチームとして設定することで、1人ひとりが強くコミットできるようになるのではと思います。
最終的にバイアウトを決断したのは、プロダクトを成長させるためでした。もともと資金調達をしていなかったので、エンジニアが1人しかいなかったんです。そのメンバーに何かあった時にプロダクトが止まってしまう状態だと、ユーザーに迷惑がかかりますよね。
ただ、formrunでやりたいと考えていたことは、まだ20%も実現できていません。これからは新しいフィールドで、お客様の課題を解決していきたいと思います。(了)
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