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スタートアップ採用における「悪手」とは? 創業4ヶ月・PeopleXの爆速採用戦略【SELECK miniLIVEレポート】
「社員を成功させることで、企業を成長に導く」エンプロイーサクセス領域におけるミッションを掲げ、2024年4月1日に創業した株式会社PeopleX。
同年6月には、シードラウンドで16億円超の資金調達を発表、そして8月1日には、基幹プロダクトであるエンプロイーサクセスプラットフォーム 「PeopleWork」の正式提供を開始するなど、スピード感あふれる展開でスタートアップ界隈の大きな注目を集めています。
その勢いは、事業面だけではなく組織づくりの文脈でも同様です。創業4ヶ月(本インタビューの実施時)にして、すでに社員数は30名以上。業務委託のメンバーをあわせると、50名規模の組織に成長しています。
今回は、X上でのアクティブな情報発信でも注目を集める同社代表取締役CEOの橘 大地さんに、PeopleX社の採用戦略や、スタートアップを立ち上げるにあたって「やらないと決めていたこと」まで、詳しくお話を聞きました。(聞き手:株式会社ゆめみ / Webメディア「SELECK」編集長 舟迫 鈴)
本記事は、2024年8月7日に開催した、SELECK miniLIVE シリーズ「スタートアップの採用術」の第4回の生配信を書き起こしした上で、読みやすさ・わかりやすさを優先し編集したものです。当日の音声アーカイブはこちらからお聞きいただけます。
※「SELECK miniLIVE」とは:注目企業からゲストスピーカーをお招きし、X(旧Twitter)スペース上で30分間の音声配信を行う連載企画です。
起業家として、ARR1,000億円規模の「最短」達成を目指す
舟迫 PeopleXさんは、事業面でも創業4ヶ月と思えないほど勢いがありますが、本日は組織面、採用をテーマにお話をお聞きしていきます。既に30名を超える組織に成長されているということで、本当にすごいです。
橘 ありがとうございます。今Slackのgeneral(メインチャンネル)を見たところ、業務委託の方を含めると47名のメンバーになっていました。
舟迫 すでに50名規模とは…!では最初に、簡単に自己紹介をお願いできますか。
橘 改めまして橘と申します。前職では10年間ほど、弁護士ドットコムという会社でクラウドサインという電子契約サービスの事業責任者をしていました。そして、2024年4月にPeopleXを創業しました。
PeopleXでは「地球上で働くすべての人への支援を通して、企業とそこで働く社員を成功に導くこと」という企業理念を掲げています。それに基づき、今は主に人材紹介業と、エンプロイーサクセスプラットフォームの開発・運営という2つの事業を展開しています。
▼株式会社PeopleX 代表取締役CEO 橘 大地さん
舟迫 そもそも、エンプロイーサクセス領域での創業に至った背景にはどういったことがあったんですか?
橘 理由は2つあります。1つは、やはり起業家は自分の心の中にあるもの、自分の引き出しの中にあるものでしか勝負できないと思っていて。その点で自分は、かわいそうなことにそこに「仕事」しかないんです。例えば、資産運用なんて1円たりともしたことがないので、FinTechなんてできませんし…
舟迫 なんだか意外な気がします(笑)
橘 自分は「働く」ことをとても大切にしてきて、幸運なことにこれまでずっとエンゲージメント高く働いてこられました。世界中の人にも同じように感じてもらえるよう、サポートができたらいいなと思っています。
そしてもう1つの理由は、「1兆円、10兆円規模の会社を作ってみせる」という、起業家としての野心です。
日本のHR市場には、すでにARR1,000億サイズのSaaSがあっても全くおかしくないのですが、まだ出てきていません。その背景としては、戦後ずっと新卒採用ありきで、真っ白な人材をジョブローテーションで育ててきた文化があり、様々な人を中途採用で迎え入れて価値発揮できるようにしていくニーズはなかったんですね。
しかしリクルートさんの発表だと、今年、年間採用計画の50%近くが中途採用となり、戦後初めて次年度に中途割合を増やす企業が、新卒割合を増やす企業を上回ったそうです。これでようやく日本も、中途採用が中心の国になっていくということで、エンプロイーサクセス領域でも需要が生まれたと思っています。
そこで、この領域であれば最短で日本初のARR1,000億円規模の企業を目指せるのではないか、ということで、参入した背景があります。
創業日から入社応募が!リファラルと直接応募で組織が拡大
舟迫 組織の現状をお聞きしたいのですが、部署や職種ごとの人数比率はいかがでしょうか。
橘 現在は、半分強がエンジニア、デザイナー、PMといったプロダクトに関連する職種です。残りの半分が、セールス、マーケ、コーポレートという、いわゆるビジネス職という構成になっています。
舟迫 元人事の方が多い組織なのかなと思っていたので、プロダクト側が多いのは意外でした。
橘 元人事のメンバーは今後も増える予定ですが、現状は3名です。プロダクト側でいうと、特にエンジニアについては早めに100名規模まで採用したいと思っています。
▼創業後、拡大し続ける同社オフィス(※2024年8月時点のもの)
舟迫 これを聞いた世のスタートアップが、人材を奪われるのではないかと戦々恐々としていそうです。現状の主な採用経路はどうなっていますか。
橘 リファラルが6〜7割で、直接応募が3割ほどです。創業した4月1日にいきなり10名ほど応募があったり、野心のある方の直接応募に恵まれています。
舟迫 直接応募が多いのはすごいですね。皆さん、橘さんのSNSを見て応募されたのでしょうか。
橘 100%自分のXだと思います。
舟迫 直接応募が多いスタートアップは非常に限られていると思いますが、いわゆるインバウンド採用を実現するために、これまで意識されてきたことはありますか。
橘 「必然性があること」がすごく重要だと思っています。求職者から見たときに、数ある企業の中でなぜPeopleXに入らなければいけないのか、その必然性がある会社作りをしなければいけないとよく話しています。
多くのスタートアップの採用Deckや採用サイトを拝見していると、「自分たちが伝えたいこと」を中心に伝えていると言いますか、どうも似たようなものが多い印象です。典型的なケースは、「私たちは資金調達をして、勢いがあります」というものです。
それだと、皆が言っているので差別化にならないと考えています。調達額でいうとLayerXさん、タイミーさんのような企業との勝負になってしまいます。製品と同じように、会社にも「選ばれる理由」、明確なオリジナリティが必要です。
例えば、新卒マーケットにおける報酬レンジで惹きつけるキーエンスさんや、若手に成長環境を提供するサイバーエージェントさんは、市場で強い例かなと思います。どのような差別化を行って戦うかということは、非常に意識しているポイントです。
明確な「選ばれる理由」を3つ定めたポジショニング
舟迫 採用市場における自社のポジショニングのお話かと思いますが、それでいうと、PeopleXさんのポジショニングはどういうところになりますか。
橘 具体的に3つ決めてまして、まず1つ目は「誰と働くか」。自分の直下で働きます、もしくは◯◯さんと一緒に働きますという形で、人の魅力を押し出しています。
次に、エンプロイーサクセスという事業領域です。我々はあくまでもエンプロイー側に必要とされる領域にしか参入しないという、ある意味「縛りゲーム」をしていまして。そこに魅力を感じてもらうことが2つ目です。
最後に、我々は「鼻息荒い系」と言いますか、ソフトバンクさんやリクルートさんのような、もっと言うとトヨタ自動車さんや日立製作所さんのような、日本を代表する企業を最短で目指すと公言しています。そのために、まずは、3年で売上100億を目指します。
やりがいや理念だけではなく、自分たちが産業のトップを狙って売上を作っていくつもりなので、この姿勢を魅力に感じていただいている方も多いです。
例えば楽天さんは、あれだけの会社になりながら楽天モバイルでまた勝負している。ユニクロさんも、日本で確固たる地位を持ちながらアメリカにも進出している。
PeopleXも同じように、売上100億に到達しても、その資金を活かしてまた大勝負をして、次は1,000億を最短で目指す。そういう会社を作っていきます。ある意味、一生安定はないので、めっちゃ大変そうと思われたりもしますが。
▼2024年8月1日にリリースした同社の基幹プロダクト「PeopleWork」
舟迫 橘さんからは、それを実現しそうな行動力、パワーのようなものを感じます。
橘 最近のスタートアップはちょっと、「うちの会社はラクだよ」と言い過ぎるところがあると思っていて。もちろん我々も、働き方はフルフレックスですし、ワークライフバランスにも寄り添いますし、上司が命令するような会社ではないので働きやすくて自由ですが、何しろ変化が大きいので。
どんな状況でも仕事を頑張って変化を楽しみたい方にとっては天国みたいな会社ですが、逆に変わらないことや安定を求めている人にとっては、地獄の会社だと思います。
CEOがSNSで発信するのはマスト。一方で社員は…?
舟迫 先ほど、橘さんのXのお話が少しありましたが、採用文脈での発信では受け手としてどんな方をイメージされていますか。
橘 昔の自分に届くように、ということはすごく意識しています。当時24歳で、実績も何も「持たざる者」だった自分です。ペルソナは「N=1」、ひとりに届ける方が強いので。
年齢は何歳でもいいのですが、これから社会のために何か成し遂げたいという思いを持つ人に届くように発信しています。
舟迫 経験値よりは、思いを重視されると。
橘 自分も29歳でクラウドサインの事業責任者になったのですが、事業経験は一度もなく、営業もしたことがなかったので。でも、情熱だけはありました。
PeopleXでも「持たざる者」を歓迎していますし、ルーキーはすでに多く、マイクロマネジメントをすることもなくめっちゃ任せて育てています。22歳で子会社の社長になるような人を、ぜひ作っていきたいですね。
舟迫 すばらしいですね。創業初期のスタートアップでは、特に代表の方の発信が大事だと思いますが、意識されていること、逆にしないようにしていることはありますか。
橘 当然ながら、スタートアップのCEOは絶対に発信しなきゃダメだと思います。製品作りと同じぐらい、会社組織を作っていくことが大事なので。SNSなんて無料ですし、歩きながらでもできるので。
逆にやらないと決めていることで言うと、社員が全員SNSをやって、なんとなくわちゃわちゃするようなことですね。
もちろん、SNSをうまく活用されている素晴らしいスタートアップさんもありますが、場合によってはあまり意味がないというか、皆が「リツイートボット」みたいになってしまうと効果が薄いですよね。ちゃんと自分の言葉で、心から思ったことを言わないと格好悪いし、ブランドが下がっていくと思います。
出面を敢えて減らすことは、ブランド戦略において大事だと考えています。SNS以外の露出でも、志を感じられないような出方をしていたら取り下げたり、意識して煽りすぎないようにしていますね。
舟迫 創業間もないスタートアップだと露出の機会に飛びつきがちだけれども、そこは選んでいくということですね。
橘 すごく選んでいますし、表現も考えています。例えば資金調達の時にも、「何億円調達しました!めっちゃ勢いあります!」といった発信はしませんでした。資金調達って、おめでたいわけではなくて、並々ならぬ責任を背負ったということなので。淡々といきました。
これに限らず、基本的には他社の真似をすると二番煎じになるだけなので、自分たちの信念に基づいてしっかりやっていくことが一番の近道だと思っています。
「橘さん以外無理」ではない。実績ゼロでもできることはある
舟迫 採用について、ほかにも「やらない」と決めていたことはありますか。
橘 そうですね、例えば、PeopleXは採用エージェントも使っていなければ、採用サイトもなければ、採用デッキも作ってません。どこかのタイミングでは作ると思いますが、どちらかと言うとユニークであることを大切にしているので、全然焦ってないですね。
シードやシリーズAの会社は、採用サイトを作って、コンバージョンを0.何ポイント上げるような細かい勝負をするフェーズではないと思うので。同じ考え方で、製品サイトも4月1日からほぼ動かしていません(※インタビュー実施時)。
まずは大きな勝負をして、皆から応援される事業と会社を作る。それが結局、当たり前だけど一番重要なことなので。
…ただ、こういう話をすると、「橘さん以外無理っすよ」って言われます。でも、たしかに自分と同じくらいの調達額や採用の応募数は無理かもしれませんが、20代の何も実績がない若者でも、その半分ぐらいはできると思うんですよね。
舟迫 …半分でもすごいんですけどね!
橘 最近、スタートアップ向けのピッチイベントに参加すると、同期が20代の経営者なのですが、自分がアドバイスすると割と資金調達金額が上がったりしていて、再現性もありそうです。
舟迫 どんなアドバイスをされているのか、1個だけ教えてください。
橘 そうですね、なんとなく、事業計画が野心的でない側面があります。なので、まず売上を3倍にして、バリエーションも3倍にしろと言ってます。
5年後の未来なんてこれから作っていくもんなんだから、その素晴らしい心構えを事業計画に反映して、将来の売上もバリエーションも調達額も大きくしたらいいと。
資金調達の場面においては、会社も金融商品なので。自分の会社を、投資する理由のある魅力的な銘柄にしないといけない。これは自分もとあるエンジェル投資家に教わったので、他の人にも伝えていますね。
スタートアップのCEO、もっと元気に発信していこう!
舟迫 「やらないこと」という文脈で、また採用に話が戻るのですが、事前にお話ししている中で、リファラル採用は多いけれど、そこに報酬を出していないというお話がありましたね。
橘 そうですね、出さないほうが良いですね。そうすると、最終的にリファラル数が減ると思ってまして。ビズリーチさんやナレッジワークさんのようなリファラル比率が高い会社が報酬は出していないと聞いて、感銘を受けて参考にしました。
重要なのは、自分の友達や親友を呼びたくなるような会社作りをすること。それを無理やりお金で発生させることは、一時的には良くても本質的ではないです。ですので、「リファラルしよう」と呼びかけをしたこともありません。
経営の効率としても、人を呼びたくなるような会社づくりに脳内リソースを使ったほうが良いと思っています。勝手に人が人を呼んでくる状態を作るほうが、最終的にはラクだし本質だと思います。
舟迫 人を呼びたくなる会社を作るために、心がけてらっしゃることはありますか。
橘 先ほどもお話した会社としての方針を、変わらずに貫いて事業を拡大し続けることです。自分がニセモノだったら、こんなCEOについて行きたくないと思われて終わりなので。
舟迫 私個人としては、SNSの発信を含めた橘さんの行動力、有言実行力が、信頼されるポイントなのかなと感じました。
橘 頑張ってます。
舟迫 他にもスタートアップ採用において、「これは悪手なんじゃないか」と思われることはありますか。
橘 あるあるで言うと、調達や事業がうまくいかなくなってきたときに、CEOの元気がなくなって発信が少なくなっていくことです。やっぱり、リーダーが明るくないといけないので。CEO、もっと元気に発信していこう!と思います。
舟迫 前向きなメッセージをありがとうございます。聞きたいことがありすぎて、あっという間に30分が経ってしまいました。大変名残惜しいですが、最後にリスナーさんや、採用候補者の方へのメッセージがあればぜひ頂戴できればと思います。
橘 PeopleXを作った理由は、やっぱり働くことは素晴らしいし、やりがいがあるし、1回きりの人生の中で後悔しないように働いて生きていくことがすごく重要だと思っているからです。
PeopleXが1番素晴らしい会社だとも思っていませんが、皆さんが「妥協なく働く」ことを諦めず、それぞれのやりがいを見つけていってもらえれば、自分はハッピーだなと思います。頑張っていますので、ぜひ、PeopleXを応援してください。
舟迫 最後も、余計なことを言わずシンプルな感じがすごく素敵だなと思いました。本日はありがとうございました。
橘 ありがとうございます。(了)