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3社の生成AI活用・導入ストーリー!非エンジニアの活用事例や、組織浸透のヒントをお届け
「生成AIを全社的に導入し、業務の効率化を図りたい」多くの企業が抱くこの願望。
しかし、その実現は容易ではありません。部門ごとの異なるニーズ、セキュリティの懸念、従業員の抵抗感など、幾多の壁が立ちはだかります。
そんな中、生成AI活用によってわずか半年で20,000時間の業務時間を創出した企業や、2万人規模で社内版GPTを展開する企業、また社内の7割以上が生成AIを使いこなす企業など、成功事例も続々と登場しています。
X(旧Twitter)スペース上で30分間の音声配信を行う連載企画「SELECK miniLIVE」では、上記のような先進的な取り組みを推進する注目企業にインタビューを行いました。本記事では、過去3回分の配信をダイジェストでお届けします。
生成AI導入における推進のコツや仕組みづくりのノウハウ、直面した課題とその解決策などをポイントに分けてまるっと解説していますので、導入計画の立案や、既存の取り組みの改善にお役立ていただけますと幸いです。
<目次>
- わずか半年で20,000時間の業務時間を創出―LIFULL
- 約2万人が「社内版GPT」を利用―パーソルホールディングス
- 7割以上の従業員が日々生成AIにアクセス―エクサウィザーズ
わずか半年で20,000時間の業務時間を創出―LIFULL
2023年8月、株式会社LIFULLは全社規模での生成AI活用を目指す野心的なプロジェクトを開始。「全従業員が、生成AIを使って業務効率化を自らできるようになっている状態」を目標に掲げました。
プロジェクト実施の結果、95%以上の従業員が生成AIを1回以上使用し、70%が継続的に活用するという高い浸透率を達成。
また、「コア業務」(自分や組織の成果につながる業務)の割合が6%増加し、目標達成できている組織が15%増加するなど、生成AIの導入によって「本来注力すべき仕事に時間を使う」状態が実現できたといいます
以下、LIFULLの生成AI導入における3つのポイントを解説します。
1.明確な目標設定と全社的な推進体制の構築
まずは、プロジェクトの目標として「全ての従業員が生成AIを活用して業務効率化を自ら行える状態」を掲げ、具体的な数値目標としては、従業員の7割のAI活用と20,000時間の業務時間創出を設定。
推進体制としては、インタビュイーの廣瀬さんが所属する「日次採算性向上推進グループ」のメンバーや、人事、エンジニアなど異なる専門性を持つ6名でプロジェクトチームを構成したといいます。さらに各部門にAI担当者を配置し、現場レベルでの推進力も確保しています。
▼同社プレスリリースより、生成AI社内浸透のための体制
2.「まずは1回使ってみてもらう」きっかけ作りと環境整備
生成AIの導入において、使いやすさと情報セキュリティの両立は重要な課題です。LIFULLは社内用チャットボット「keelai(キールエーアイ)」をSlack上に実装し、日常的に使用するツール内で生成AIを活用できる環境を整えました。
これにより、使用への心理的ハードルを下げると同時に、社内の機密情報を安全に扱える仕組みを構築しています。
▼実際に「keelai」を活用している様子
また、「まずは1回使ってみてもらう」ことを重視し、社内向けの活用セミナーを実施しているとのこと。
そして、1回は使ったものの継続的な活用に至っていない「離脱組」へのサポートとして、部門別担当者によるレクチャーなどきめ細かなフォロー体制も整備し、定着率の向上を図っています。
3.表彰式で「アイデアもの」を共有し、文化を醸成
生成AI活用を組織文化として定着させるための工夫として、「Generative AI Award(通称「GAIA」)」という表彰制度を設け、毎月ユニークな活用事例を表彰しています。
特に、「すごい、こんなことできるんだ!」と感じられる「アイデアもの」は、フックとして表彰で取り上げるようにしているそうです。
例えば、社内告知を生成AIで作成した漫画に変換し、そのアクセス数が3.5倍に増加した事例など、具体的で波及効果の高い活用例を共有することで、従業員の創意工夫を促進しています。
▼インタビュー記事はこちらからご覧いただけます
生成AI活用で20,000時間を創出!LIFULL全社プロジェクトの全貌【SELECK miniLIVEレポート】 – SELECK
約2万人が「社内版GPT」を利用―パーソルホールディングス
パーソルホールディング株式会社は、「社内版GPT」と呼ばれる独自の生成AIツールを内製開発し、国内グループ会社約2万人に展開しています。
インタビュー当時の月間アクティブユーザー数は約5,000人で、全体の25%が日常的に利用しているといいます。その利用者は、IT系の職種だけでなく、営業や人事・法務などバックオフィス系の職種にも広がっているそうです。
この取り組みは、パーソルグループが掲げる「テクノロジードリブンの人材サービス企業」の実現を目指した取り組みの一環です。生成AIの活用により、「『やらなきゃいけない仕事』より『やりたい仕事』の時間比率を高める」ことで、キャリアにおける自己実現や充実度の向上を目指しています。
以下、パーソルホールディングスの生成AI導入における3つのポイントを解説します。
1.「安心・安全」をコンセプトにした内製開発
まず、企業内での生成AI利用に伴う不安感を払拭するため、「安心・安全」をコンセプトに内製開発を行いました。このコンセプトのもと、具体的には以下の取り組みを実施しています。
- 法務や情報セキュリティ部門と連携し、生成AIの利用に関するガイドラインを作成
- 社内版GPTにデータ入力時の説明や注意点を表示し、入力可能なデータの範囲を明確化
- Microsoft Teamsの個人タブに社内版GPTのアシスタント機能を常設し、オフィシャルツールとして機動力高く活用できる環境を整備
これらの施策により、セキュリティや法的リスクを最小限に抑えつつ、従業員が安心して生成AIを活用できる環境を実現しています。
2. 「学びを得られるプラットフォーム」としての機能拡充
同社は、社内版GPTを「生成AIに関する学びを得られるプラットフォーム」として位置付け、以下のような機能を実装することで従業員の学習と知識共有を促進しています。
- 社内AIイベントのアーカイブやAI解説動画を配信する「動画プレイリスト」
- プロンプトをテンプレート化して保存できる機能
- 従業員が作成したプロンプトを社内で共有する「プロンプトギャラリー」
- 学びを共有する文化を醸成する「いいね」スタンプやハッシュタグ機能
また、「利用者参加型で成長させる」ために、Teamsに社内版GPT活用に特化したコミュニティ用のチームを立ち上げ、自由に意見交換ができる場を提供しています。インタビュー実施当時で、このコミュニティは国内グループ会社横断で1,270人規模にまで拡大しているそうです。
プロンプトギャラリーについては、導入当初は従業員の心理的ハードルが高く、投稿が進まなかったため、評価レースの開催やハッシュタグ・いいねスタンプの導入など、気軽に参加できる仕組みを整えたといいます。その結果、現在では200を超えるプロンプトが共有されるまでに活性化したそうです。
3. 利用者参加型の進化と学習ロードマップの策定
さらに、従業員のリテラシー向上に合わせた学習ロードマップを策定しています。2023年度までは個人の「生成AIマスター」を目指す段階的な学習計画を設定していました。
2024年度以降は、生成AIマスターへと山登りしてきた方々が、中心人物もしくはインフルエンサー的な役割を担い、組織規模での生成AI活用を広げていけるような新たなロードマップを策定中だそうです。この計画により、個人の学習から組織全体の活用へと発展させることを目指しています。
▼インタビュー記事はこちらからご覧いただけます
約2万人規模で生成AI活用!パーソルグループの導入裏話とは【SELECK miniLIVEレポート】 – SELECK
7割以上の従業員が日々生成AIにアクセス―エクサウィザーズ
株式会社エクサウィザーズは、2023年10月に設立されたグループ会社 Exa Enterprise AIが提供する「exaBase 生成AI」を全社員に開放し、積極的な活用を推進しています。
これは、組織の内部データを活用できるAIサービスで、GPT、Claude、Geminiなど複数のAIモデルを業務に合わせて活用できます。
▼「exaBase 生成AI」の実際の画面(同社提供)
結果として、7割以上の従業員が日々生成AIにアクセスする状況を実現。さらに、社内の困りごとを解決した経験を新しい生成AI関連サービス開発にも活かすといった取り組みも行われています。
以下、エクサウィザーズの生成AI導入における3つのポイントを解説します。
1.内製化による生成AI活用の推進
同社では、人事部門とコーポレートエンジニアのような職種が協働する「業務変革室」を設立し、約10名のチームで効率化を推進しています。この内製チームにより、個人レベルの軽微な活用から組織レベルでのシステム開発まで幅広く対応しているとのこと。
具体的な取り組みとして、従業員満足度調査(eNPS)の結果をLooker Studio(ダッシュボードツール)で分析・集計し、経営層やリーダー層に共有するレポートの作成を自動化しています。これにより、タイムリーな情報共有が可能になりました。
▼実際のレポート(ダッシュボード)の一部
2.社内の困りごとを生成AIで解決した上で、新サービスとしても展開
同社では、生成AIのプラットフォームをサービスとしても提供していることもあり、社内の活用事例がそのまま新規サービスの開発に繋がることもあるといいます。
その具体例として、AI×IRの新規サービス「exaBase IRアシスタント」は、コーポレートのIR担当が「株主総会や投資家向けミーティングの準備を効率化したい」という課題を社内エンジニアに相談したことがきっかけで誕生したサービスとのこと。
この取り組みはIRの領域に留まらず、今度は人事・経理・広報など各部門の課題解決を目的に、社内で「ドッグフーディング」(自社製品を自ら試用すること)をライトに行い、実際に役に立つものはサービス化を検討していくそうです。
3. 組織全体への浸透を促進する3つの施策
同社では、全従業員が生成AIに精通しているわけではなく、個々人で温度差があるという現状を踏まえ、組織全体への浸透を図るため、大きく3つの点を意識したといいます。
1点目は、単に「使え」と言うだけではなく、トップやリーダーが率先して使用しその姿を組織全体に見せること。
2つ目は、事例をできるだけライトに共有すること。同社では、「LT会」を開催しており、特に使用に抵抗感があった中間層の成功体験を共有することで、「意外と簡単」という印象を伝え、より多くの従業員の参加を促進しています。
最後の3つ目は、文化の醸成です。日々のコミュニケーションの中で生成AIの使い方やプロンプトを積極的に共有していくことで、「この会社ではこれは普通なんだな」という雰囲気づくりを推進しています。
▼インタビュー記事はこちらからご覧いただけます
エクサウィザーズに学ぶ、生成AIを「使いこなす組織」の作り方【SELECK miniLIVEレポート】 – SELECK
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回は、3社における生成AI活用・組織導入の取り組みや、そのポイントをダイジェストでお伝えしてきました。ぜひ、自社のお取り組みの参考になりましたら幸いです。(了)