• 株式会社あるやうむ
  • 代表取締役CEO
  • 畠中 博晶

デジタル上のつながりが紡ぐ未来。「地域おこし協力隊DAO」が描く、持続可能な地域づくり

地方の少子高齢化や、都市部への一極集中といった問題に向き合うため、日本政府が掲げた「地方創生」の取り組みが始まってから久しい。

全国各地の自治体が官民連携によるプロジェクトを立ち上げる中、その成功の鍵を握るのは「共創」という考え方だ。

自治体職員だけでなく、まちで暮らす居住者、訪れる観光客、そして多様な形で関わる関係人口(※1)など、様々なステークホルダーと共に、地域が一体となったプロジェクトの推進が求められている。

この流れの中で、総務省が推進する「地域おこし協力隊(※2)」制度にDAO(分散型自律組織)を組み合わせ、デジタル空間上での新たな関係人口の創出と地域課題の解決に挑戦する企業が存在する。

それが、ブロックチェーン技術を活用した「ふるさと納税NFT」など複数のソリューションを提供する、札幌発のWeb3スタートアップ 株式会社あるやうむだ。

※1 「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指す。

※2 地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。(※ それぞれ、総務省 公式サイトより引用)

同社が展開する「地域おこし協力隊DAO」は、地理的な制約を超えて、多様なスキルやノウハウを持つ人々がつながるデジタルコミュニティを形成する取り組みだ。具体的には、「地域に新しい力を求める自治体」と「地方で自分の力を活かしたい人材」をマッチングすることで、自治体によるDAOの設立を支援する。

2024年10月時点で、北海道余市町をはじめ5つの地方自治体で取り組みをスタートさせており、来年度は20〜30ほどの自治体での展開を見込んでいる。地域の課題が年々複雑化し、従来の行政主導型では解決が難しくなる中で、大きな期待が寄せられているプロジェクトのひとつであろう。

今回は、同社の代表取締役CEO 畠中 博晶さんと、地域おこし協力隊DAOの事業責任者を務める たーなーさんに、地域おこし協力隊にWeb3技術を掛け合わせることのメリットから、属人化しない地域コミュニティのつくり方まで、詳しく話を伺った。

デジタル上で繋がり、協力し合う「地域おこし協力隊DAO」

畠中 株式会社あるやうむ代表の畠中です。東京で生まれ育ちましたが、次第に都会での生活に疑問を感じるようになったタイプで、大学時代は滋賀で過ごし、その後、大学院進学を機に札幌へ移住しました。

当時、まちづくりとブロックチェーン技術に関心を持っていた私は、この2つを組み合わせた新しいビジネスの可能性を探っていました。そこで2020年に立ち上げたのがあるやうむです。

私たちは「ふるさとをクリエイターと豊かにする」という企業理念のもと、全国の自治体に向けてサービスを提供しています。具体的には、「ふるさと納税」や「観光」の分野でNFTなどのブロックチェーン技術を活用し、新たな財源の創出や地域PRの支援を行なっています。

たーなー 私は現在、あるやうむの広報業務と「地域おこし協力隊DAO」事業の統括を担当しています。Web3は匿名文化があり、「たーなー」という名前で活動しています。

これまでは美容師など、対面での仕事に携わってきましたが、コロナ禍をきっかけにデジタルスキルを身につけてノマドライフを送りたいと思うようになり、Web3に出会いました。

そこで、複数のNFTプロジェクトでコミュニティマネージャーを務めながら、音声配信メディアの「Stand.fm」で個人的にNFTに関する情報を発信していたところ畠中さんと出会い、2023年4月にジョインしました。

私たちが手がける「地域おこし協力隊DAO」は、「地域に新しい力を求める自治体」と「地方で自分の力を活かしたい人材」をマッチングし、DAOによる新たな関係人口創出と、イノベーティブな地域課題の解決を目指す取り組みです。地域内外の人々が地域の課題解決に主体的に関われる仕組みを構築することで、持続的な地域発展を実現します。

たーなー 弊社としては、地域おこし協力隊の制度範囲内で「適任者の募集・選定」「隊員の着任中サポート」「デジタル技術の提供」を一気通貫で提供している形です。隊員の選定にあたっては、既存のDAOでの活動実績、NFTやWeb3.0に関する高い知見、そして地域活性への強い意欲を重視しています。

この取り組みは2023年10月から始動し、第1弾は2024年4月に北海道余市町でスタートしました。その後、7月には富山県舟橋村、8月には和歌山県白浜町、10月からは鳥取県鳥取市と北海道増毛町でも事業を開始しています。さらに、2025年度には20〜30以上の自治体様での展開を見込んでいます。

「孤独」から「共創」へ。デジタルコミュニティが作る協力関係

畠中 地域おこし協力隊制度の最大のメリットは、国の制度を活用することで地域の財政負担を軽くしながら、農家や漁業従事者の方々をサポートできる点にあると考えています。

しかし、従来の制度では隊員が単純労働力として扱われがちで、隊員を1人受け入れてもプラス1の効果しか生まれません。そのため、地域の「担い手不足」における根本的な解決には至っていないのが現状です。

特に、私たちが関わっている人口が数千人規模の自治体では、役場の職員も少なく、業務も多岐にわたるため、地域課題を深く検討する余裕がないことが課題です。また採用のノウハウが不足し、要件定義が不十分なまま募集を行い、ミスマッチが生じる場合も少なくありません。

そこで私たちが提案しているのが、「地域おこし協力隊DAO」という新しい地域活性の形です。

大きな特徴は、1人の移住者を起点に、デジタル上で数百人規模の関係人口を創出できる点にあります。多様なスキルやアイデアを持つ外部人材が集まることで、より効果的な施策の立案・実行が期待できます。

また私たちが仲介役として、隊員には希望する地域や得意分野を、自治体にはエリア特性や地域課題を丁寧にヒアリングした上で、最適なマッチングを行える体制を整えています。

たーなー 一方で、自治体側だけでなく隊員側にもメリットがあります。地域おこし協力隊のよくある問題として挙げられるのが、隊員が1人で移住するケースが多く、どうしても孤独を感じやすいという点です。

そこで私たちは、週1回のオンラインミーティングを設け、常にテキストコミュニケーションが取れる状態を作ることで、隊員同士が近況や悩みを共有し合える場を提供しています。成功事例や失敗事例などのナレッジも共有されるため、それが心理的安全性につながり、モチベーションの維持にもなっていると感じています。

さらに、弊社では「シン地方DAO」という、地域活性化やWeb3に関心を持つ方々が集まる500名ほどのオンラインコミュニティも運営していて、そこでもアイデアを壁打ちできます。たとえ専門的な知見がなく困ったとしても、有識者にすぐ相談できる環境が整っているんですね。

和歌山県白浜町でコワーキングスペースやゲストハウスの設立を検討した際には、このコミュニティを通じて実際に施設運営の経験がある方々とつながり、一緒に施策を検討してもらうといった動きがありました。

プロジェクトの鍵を握るのは、生きた情報をもつ「ローカルヒーロー」

畠中 地域おこし協力隊DAOの成功には、地域のキーパーソンとの関係構築がとても重要です。

導入にあたり最初の課題となるのが、自治体の理解を得ることです。まずは、「地域活性化×DAO」に関心がありそうな職員の方とお話しする必要がありますが、まったく面識のない私たちが直接アプローチするよりも、既存の信頼関係からつながる方が効果的です。

そのため私たちは、北海道銀行や北海道信用金庫など、出資を受けている地域金融機関を通じて自治体に話を持ちかけることで、より前向きに検討いただけるケースが多くなっています。

この段階から丁寧にコミュニケーションをとることで、自治体職員の方々に事業を「自分ごと」として捉えていただけるようになり、なかには個人の人脈を隊員につないでくださるケースもありますね。

たーなー さらに、自治体職員の方に限らず、代々後継ぎをしてきた若旦那や若手経営者など、私たちが「ローカルヒーロー」と呼ぶ方々と実際に会ってお話しすることで、信頼関係を構築することも欠かせないと思っていて。

DAOのデジタルな利点を活かしつつも、ローカルヒーローだけが持つ現地の生きた情報やネットワークを活用して、私たち運営と自治体、隊員が三位一体でDAOを立ち上げていくことが非常に重要です。

そういった背景もあり、立ち上げは時間をかけて丁寧に進めていますね。隊員が2〜3ヶ月かけて地域の風土や魅力を理解し、現地の方々との関係を築いた後に、DAOをオープンする形が理想的だと考えています。現在オープンしているのは北海道余市町と富山県舟橋村の2箇所で、それぞれ100名ほどが参加してる状況です。

コミュニティの中心はNFTやDAOに明るい方々ですが、自治体職員の方々や町長さんが参加するDAOもあり、また交流を通じて仲良くなった地域の方々も徐々に加わってきています。

各地域でユニークな活動が広がっており、例えば舟橋村のDAOでは地域の特徴を活かしたAI漫画が生まれたり、余市ではデジタルツールの使い方を伝えるオンラインワークショップの開催や、毎月初めの日曜日の朝にビーチクリーンが行われています。現地に参加できないメンバーが同時刻に自身の家の近くで清掃活動を行うなど、まさにDAO的な広がりが生まれていたのは感慨深かったです。

▼「machiDAO情報局」のXアカウントより

たーなー 私たちの考えとしては、最初から1万人を集めて現地に訪れる人が100人出てくるよりも、100人集めて100人が熱量高く関わってくれる方が良いと思っているんです。そのためには、DAOをオープンする前に「コミュニティの目的」と「参加者の関わり方」を明確にしておくことがポイントです。

例えば、ゲストハウスを作る場合に、利用していない古民家をもっている人や現地で働ける人を探しているといった具体的な情報を発信しておくことで、誰かが名乗りをあげてくれるかもしれないし、地元の方をつなげてくれるかもしれないですよね。そういった形で、「弱い紐帯」といいますか、様々な方が関われる余白を用意しておくことも大切です。

このように、DAOの構築は段階的に進めていく必要がありますし、地域活性においては「誰とどの順番で繋がるか」が鍵だともいわれていますが、基本的には誰でもウェルカムな状態にしながら丁寧にコミュニケーションをとることを心がけていますね。

たーなー 北海道余市町の事例でいうと、環型社会の実現を目指す施設「余市エコビレッジ」の発起人である坂本純科さんは「ローカルヒーロー」といえる存在で、坂本さんを通じて地域のワイン農家さんなど、様々な方とのつながりが生まれています。

最近では、作家・文化人の坂口恭平さんを招いたイベント「坂口恭平日記 余市」を開催し、2日間で100人以上の来場がありました。これを機に、リピーターの増加や口コミでの広がりも期待できますし、来年は農業体験やワイン作りなど、地域を楽しめるコンテンツが増えていく予定です。

▼余市町移住DAOマネージャーhiroさんによる「余市エコビレッジ」での取り組みの様子

地域課題の根本的解決よりも、コミュニティを基点とした「課題の緩和」

畠中 地域おこし協力隊DAOの運営において、私たちは明確なKPIを設定していません。理由として、地域によって抱える課題やPRしたい対象が千差万別であるためです。また、本格的な課題解決を目指すには、億単位の費用を捻出し、長い時間をかけないと実現できない地域もあります。

そこで私たちは、「地域課題を解決するためのアイデアを集める」ことと「関係人口を創出する」ことに焦点を当てていて、自治体が抱える課題を少しでも緩和していくことが、地域おこし協力隊DAOの果たす大きな役割だと捉えています。

要するに、本来ならインフラを作るべきところでも、人々の助け合いによって部分的に課題解決を進められるのが強みです。そもそも地域活性に興味のある人がコミュニティに多く集まっていることで、何か募集かけるときもレバレッジが利きやすいんですよね。

たーなー このような背景があるので、各自治体で隊員が立ち上げるDAOはもちろん、「シン地方DAO」でも継続的なファンづくりが必要です。そこで重要なのが、日々の情報発信を通じた隊員の認知度向上です。

しかし、隊員や自治体がSNS運用に関する知見がなかったりリソースが不足しているなどして、積極的にファンづくりを行っていないケースが多いのが現状です。

そこで、弊社が運用しているSNSアカウントやプレスリリースなど、既存のアセットをフルに活用しながら隊員の情報発信をサポートしています。なかでも力を入れているのはVoicyでの発信で、「少し未来の地方創生」をお届けする番組「NFTからはじまる地方創生ラジオ」で、毎週火曜日と木曜日の16時からは隊員に話してもらう枠を設けていますね。

またコミュニティ運営においては、 横の繋がりをしっかりと強固にしていくことで「〇〇さんと話したい」という動機や、遊びに来たくなるきっかけを生み出せるように意識していますね。

その仕掛けの一環として、毎週日曜日の夜には運営メンバーではなくコミュニティメンバーが主体となってAMAを実施したり、メンバー同士の得意分野を活かしたナレッジシェアの場を設けたりしています。例えば、参考になりそうな記事などを積極的にシェアしてくれるメンバーに「シン地方DAO週間まとめ」を依頼するといった形で、「役割」を生むような感覚です。

畠中 地域おこし協力隊の志望者には、将来的に独立したいと考えているものの、営業に苦手意識がある方も多いのではないかと思っていて。そうした中、このような形でデジタル上にファンを作っていける環境は、スキルがある人にとっては魅力的ではないかと思うんです。

実際の働き方としては、週に30〜40時間のコミットはあるものの、リモートワークや副業が可能な裁量労働制にしていて、かなり柔軟な仕組みにしています。募集の際に、3年間は安定した仕事を持ちながら他の仕事もできるという、魅力的な求人として訴求できるようにも心がけています。

「地域のインフラ」化を目指し、持続可能なDAOのあり方を模索

たーなー 地域おこし協力隊には「最長3年」という任期制度があるため、プロジェクトの継続性は大きな課題です。その解決のためには色々な観点があると思っていて、例えば「コミュニティ」と「個人」を主語にした場合でもそれぞれで考え方が変わります。

まず、コミュニティの視点では、3年、6年、9年と活動を継続させられると思っています。隊員の任期3年目に私たちもサポートしながら後継者を探す形を想定しているため、「次なるヒーロー」といいますか、そうした人材の育成も今後やっていきたいと思っています。

一方、個人の視点では、多くの隊員が「地域に残って何かしら活動していきたい」というイメージを持っています。退任後に副業を本職にしたり、地域の方と一緒に会社を立ち上げたり、地元企業に就職するのも良いでしょう。あるいは、培ったキャリアを活かして別の地域で活動するなど、様々な選択肢があって良いと思います。

また、地域おこし協力隊DAOはオンラインコミュニティを基盤としているため、たとえ地域を離れたとしても関係性を保ちやすい環境であることも利点だと思いますね。

今後の展望として、私としては、この地域おこし協力隊DAOの活動を最低でも30年は続けたいと考えています。3年ごとに移住者が変わり、文化やコミュニティが継承されていく世界を見守っていきたいですね。少しでも興味をもっていただけた方は、お気軽にご連絡いただけると嬉しいです。

畠中 来年は約20〜30の自治体に地域おこし協力隊DAOが導入される見込みなので、再来年は50の自治体への導入を目標にしています。最終的には、1都道府県に最低1つは私たちのソリューションを導入し、地域のインフラとなることを目指していきたいです。

「次なるヒーロー」の育成という観点では、地域の教育機関と連携して若い子供たちと繋がっても面白いと思いますね。富山県舟橋村は子どもの数が多いので、 若者が上京せずともテック系の仕事ができるといった環境を作りたいという青写真も描いているところです。

昨今、スタートアップの多くが東京に集中し、人もお金も都市部に流れてしまっている中で、「住みたいまちに住みながらも、基本的人権と経済成長が両立できる」ということを、引き続き、私たちの会社が成長することで世の中に示していけたらと思っています。(了)

取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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