• 株式会社エウレカ
  • マネージャー pairs事業部 シニア・エンジニア
  • 泉森 達也

エンジニアの価値はマーケットが決める!全社員がサービスの成長に向き合うための組織作りとは

今回のソリューション:【Re:dash/リダッシュ】

〜Webサービスのアクセス解析をOSS「Re:dash」を用いて共有することで、2人日かかっていた数値分析業務が1時間になり、分析の指標も2倍以上になった事例〜

開発部と事業部の分断によって、エンジニアがサービスの成長に直接貢献できない、あるいはエンジニアがビジネスに対して興味関心を持てない。という状況は、Web業界においても時折見られる光景である。

その中で、累計360万人の会員を持つ、Facebookを使った恋愛・婚活マッチングサービス「pairs(ペアーズ)」を運営する株式会社エウレカは、エンジニアを含む全社員がサービスの成長に貢献する意識を持ち、職種に関わらずチーム全体で高い目標を達成する組織作りを行っている。

同社でpairsの開発チームを統括している泉森 達也さんは、全社員がサービスの成長に貢献できる環境を作るために、すべての事業上の数字を可視化する仕組みをOSSの「Re:dash(リダッシュ)」で構築している。

▼ビッグデータをビジュアルにできる無料ツール「Re:dash」

エンジニアの価値は、会社ではなくマーケットが決める。エンジニアはマーケットの中でサービスを成長させることに技術を使わないといけない」と語る泉森さんに、数字意識を広める工夫やRe:dashの使い方を伺った。

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エンジニア全員がサービスの成長に貢献できる開発チーム

楽天、DeNA、Viibarというスタートアップを経て、エウレカに入り、エンジニアチームを統括しています。もともと「ビジネスを作れるエンジニア」になりたくて、開発力だけでなく、事業力も強い会社を探していました。

高い技術力を持つことが何よりも重要という考え方もあると思いますが、最終的にビジネスの構築や成長に繋がらなければ、どれだけ高い技術力があっても、マーケット的には無価値だと考えています。

弊社はもともと事業力、特にマーケティング能力が高く、サービスを生み出して成長させる力がありました。

実際に、僕が入った時点でpairsはサービス的に大きく成功しており、更なる成長を急速に続けていました。一方で、事業の成長に伴う組織化が間に合っておらず、大きな「成長痛」を感じている時期でもありました。

僕が入ってからは、開発チームにスクラムなどのアジャイル手法を導入することでチームビルディングを行い、組織力と開発力を高めてサービスの成長を支えられるようにしました。

エンジニアは、ビジネスを作ることにコミットするべき

僕が「ビジネスを作れるエンジニア」になりたいと思ったきっかけは、昔自分で作ったサービスが全然売れなかった経験をしたことです。当たり前ですが、どんなにエンジニアリングをがんばっても、企画が良くないと売れないんですよね。

また、以前ある会社で新規サービスを開発していたときに、一緒に働いていたエンジニアに「この企画に価値があるとは思えない。売れないと思う。どう思う?」と聞いたことがありました。

そうすると「確かに、どう考えても売れない。でも、期限までにサービスを完成させることが自分の仕事だから、仕方ないと思う」という答えが返ってきました。

価値が無いとわかっている事業にエンジニアがコミットするのは非常に不健全だと思いますし、それでお給料を貰うのは違和感がありました。

エンジニアとして高い技術力があったとしても、マーケットに価値を認められて、ビジネスを成立させられることに技術を使えないと、給料の源泉に貢献することができません。

エンジニアがお金を生む活動にコミットできないと、結局エンジニアの評価は頭打ちになると思いました。だから、エンジニアとしてビジネスを作ることにコミットすることは非常に重要だと考えています。

エンジニア含めた全員が自然に「サービスの成長」を意識する組織づくり

エウレカでは、エンジニアも含めて、サービスの成長への貢献が求められます。エンジニアを含む様々な職種の人が一つのチームに所属して、全員で事業目標の達成にコミットしています。

例えば、ある会社では事業部と開発部が明確に分かれていて、それぞれでコミットする指標が異なる場合があります。

そうすると、事業側は「事業上の数字の達成のために、できるだけ多くの機能を短期間でリリースして欲しい」一方で、開発側は「リソース状況やサービス品質の兼ね合いを考えながら開発スケジュールを制御したい」というように利害が一致せず、組織のセクショナリズムが原因でギクシャクした状態になることがあります。

ですが、現状のエウレカでは、すべての職種が同じ目的に向かっているので、セクショナリズムが全くありません。

全てのメンバーがサービスの成長を実感できるように、あるいは逆に「このままだと危ない!」という状況を理解できるように、全員が事業上の数字を意識できる工夫をしています。例えば、月に1度の全社会で、事業の方向性を数字を含めて詳細に伝えます。

マーケット動向などのマクロな数字はどうなっているか、現在の事業の問題点は何か、その背景にあるニーズや課題は何か、目標達成のためにどの指標をどれだけ伸ばすか、伸ばすために何をしなければならないか、といったことをすごく丁寧に説明します。

こうすると、エウレカで一緒に働く人は、マーケット動向も含めた事業全体の状況を理解できますよね。皆の目線を合わせるためには、「何を目指すべきか、その背景はなにか」といったことを、判断にいたったプロセスも含めて漏れ無く説明することが重要だと思います。

また、事業上の重要な数字を一定期間毎に全員に自動通知することで、常にサービスの状況を理解できるようにしています。このような働きかけで、自然と事業上の数字がメンバーの頭に残るようになって、マーケッターや事業責任者だけではなく、エンジニアやデザイナーも「数字の変化」に気がつくようになります。

その結果、「今日はいつもより調子がいいな、なんでだろ?」みたいな疑問を持ってもらったり、「今日は昨日よりも調子が悪いけど、不具合があるのかな、調べてみよう」というような自主的な行動を促すことができます。

分析用管理画面の運用は意外と大変、運用コストがかさむ…

このように全員が数字意識を持って、事業上のKPIを追いかけているのですが、以前は全ての数字を見るのに自前の管理画面を運用していました。ただ、管理画面で新しい指標を見ようとすると、その度に管理画面の開発工数がかかっていて、運用コストがかさんでいました。

新しい指標を可視化するために、仕様整理・開発・テスト・デプロイして、やっと数字が見えるようになるという状態にするまで、2人日以上の工数が必要でした。

無料ツール「Re:dash」の導入で、数値を可視化する工数を削減!

そこで、無料のダッシュボード作成ツール「Re:dash(リダッシュ)」を導入することにしました。Re:dashを使うと、BigQueryなどの様々なデータソースから取得したデータを、簡単に表やグラフにすることができます。

SQLを書くだけで新しい指標に関するグラフが作れるので、自前の管理画面で2人日以上かかっていたことが、1時間でできるようになりました。

また、圧倒的な低コストで数字を取れるようになった結果、今までの2倍以上の種類の指標をダッシュボードに集約できました。今では、Re:dash内のダッシュボードは30種類以上、分析クエリは350種類以上作られています。

▼Re:dashのダッシュボード

Re:dashは全ての社員が使えるので、SQLさえ書ければ誰でも好きな数字をグラフにすることができます。以前は、ディレクターがエンジニアに稼働状況を都度確認して依頼していましたが、そういった調整コストもなくなりました。

Re:dashの更新情報をSlackに流すことで、確認しやすく

Re:dashは、チャットツールSlackと連携させています。Re:dashそのものには「定期的に数値をレポーティング」するような定期実行処理は書けないので、裏側にバッチサーバーを稼働させて、Re:dashの更新情報をAPI経由で取得し、それをSlackに流しています。色々な情報をリアルタイムに通知しているので、みんな興味を持って見てくれています。

▼Slackに数値の情報が流れる

他にも便利なのが、URLのクエリパラメータを使ってSQLを動的に変更できるところです。例えば、様々な期間での集計情報を出したいクエリがあった時に、集計開始日時と終了日時を動的に指定することで、SQLを組み替えることなく数字を取得できます。

全員がより数値に関心を持てるように、更にダッシュボードを充実させる

Re:dashを導入して見えてきた課題はいくつかあります。例えば、様々な数字をグラフで表示できますが、画一的な表現になってしまい、毎日見るべき重要な数字と、時折見れば良い数字が同じレベルで表示されることなどです。

また、数字が更新された場合に自動的にリロードしてくれるわけではないので、リアルタイム感がありません。

積極的に数字を見たい人や使い方に慣れている人は問題ないですが、新しく入社された人に対して、「数字に興味を持ってもらえるツール」としては今ひとつです。ひとことで言うと、ワクワク感が足りません。これは大事な課題です。

そこで今後は、「事業上重要な指標を確認できる」「リアルタイムで数字が切り替わる」「ワクワク感がある」ようなダッシュボードをRe:dashとは別に用意して、皆がいつでも見られるようにオフィス内に大きなディスプレイを掲げて表示しようかなと思っています。

ビジネスインパクトを考えて全員が動く、最強の組織を作る

今後目指していきたいのは、エンジニアが自らビジネスに貢献できる施策を積極的に提案できるような組織です。

究極的には、例えば「A/Bテストとして5%のユーザーにだけ新機能を出してみる」みたいな施策を、エンジニアが自分の裁量で実施してみて、結果を作って提案に持っていけるような、大きな権限と実力を持ったチャレンジングなチーム目指したいと思っています。

その上で、pairsというサービスを、もっと世の中にとって当たり前のものにしていきたいですね。恋愛をしたいなって思った時、合コンや街コンに行くのと同じくらい、当たり前な選択肢のひとつになれたらと思います。(了)

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