- 株式会社ソウゾウ
- Software Engineer
- 野上 和加奈
D&I活動とエンジニア業務をどう両立させる? メルカリグループ・ソウゾウで働く人の声
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とは、ジェンダーや国籍、年齢など多様なバックグラウンドやアイデンティティを持つ人材を受け入れ、違いを認めた上でひとつの組織として個人を尊重する考え方を指す。
その取り組みを推進するテックカンパニーの代表とも言えるのが株式会社メルカリだが、その現場では、具体的にどのような変化が起こっているのだろうか?
同社では、2018年3月より社員有志による活動としてD&Iへの取り組みをスタート。2019年2月にはそれが正式な組織となり、さらに2021年1月には代表取締役CEO 山田 進太郎氏をチェアパーソンとする社内委員会「D&I Council」を設立した。
現在はD&I Councilを中心に、各部門や有志コミュニティと連携する形で、組織全体としてD&Iを推進している。
今回はグループ会社である株式会社ソウゾウのソフトウエアエンジニア(機械学習エンジニア)であり、かつD&Iコミュニティのひとつである「Women@Mercari」に入社時から参加する野上 和加奈さんと、野上さんのマネージャーである成田 元輝さんにインタビューを実施。
D&I推進に直接関わる人、それをサポートをする人。それぞれのリアルな「現場で感じるD&I」について、詳しくお話を聞いた。
※メルカリのD&I活動については、同社のオウンドメディア上のD&I関連コンテンツもぜひご覧ください。
▼本取材はオンラインにて実施いたしました。【左】野上さん【右】成田さん
メルカリというマーケットプレイスをBtoCに拡大するソウゾウ社
成田 僕は今ソウゾウで、ソフトウェアエンジニア兼エンジニアリングマネジャーとして活動しています。メルカリには2016年9月に入社し、「初代」ソウゾウ(※)で新規事業の立ち上げや開発に関わった後、メルカリの日本事業を挟み、いまに至ります。
※メルカリの新規事業を担当するために2015年に設立され、2019年に解散。
D&Iの活動自体にはダイレクトに関わってはいないのですが、野上さん以前にもチームメンバーでD&Iに関わりたいというメンバーが多かったので、このテーマについて話す機会は比較的多いのかなと思います。
野上 私はソウゾウの機械学習エンジニアとして、機械学習のシステムや基盤の開発を担当しています。2019年4月にメルカリの日本事業に新卒で入ったのですが、D&Iには学生時代から興味があって。
特に、ソフトウェアエンジニアを目指す女子学生の育成に関わっていきたいと思っていたんです。内定後からアピールをしていたこともあり、入社してすぐに女性のエンパワーメントに取り組むコミュニティである「Women@Mercari」に誘っていただき、ずっと活動をしています。
成田 私たちが所属しているソウゾウについて先に紹介しておくと、2021年7月にプレオープンを行った「メルカリShops」というEコマースプラットフォームの運営をしています。これまでのメルカリはCtoC型マーケットプレイスの運営をしてきましたが、それをBtoC型にも拡張していくのがいまのソウゾウが手がける「メルカリShops」です。
2021年の年明けに社内からメンバーを募る形でスタートしており、これまで培ったアセットを最大限に活用して垂直立ち上げを行っています。
自分も含めて、以前のソウゾウにも所属していて、他事業で経験を踏んだ上でまた新規事業に飛び込んできたメンバーも割と多いです。まだ組織が立ち上がって半年ちょっとなので、組織づくり、特にエンジニア採用にはとても力を入れています。
「次の世代が同じ思いをしないようにしたい」D&I活動のきっかけ
野上 メルカリグループにおけるD&I施策の中心にはD&I Councilという組織があり、そこに経営陣や各サービスの担当者・組織が紐付いています。
また、有志の社員が集まって形成している従業員リソースグループ(D&Iコミュニティ)があり、互いに協力しながら推進していく体制になってます。
▼メルカリにおけるD&I活動の全体図(同社提供の資料)
野上 私はWomen@Mercariのメンバーとして、その時々の課題やイベント等に応じて稼働をしています。最近はとくに登壇なども増えているので、1週間のうち1日くらいをD&Iの活動に充てています。
もともと私は大学が電気電子工学科で、100人ほど学生がいる中でも女性はたった数人だったんです。講義や研究室の中で女性がひとりということも多く、誰も悪気があるわけではないのですが、嫌な思いをすることもあったんですね。
そうして色々と思いを抱えている中で、とある企業が主催するソフトウェアエンジニア向けの教育プログラムに参加したときに、チームマネージャーから「もっとコミュニケーションに積極的になったほうがいいよ」「もっとコンピュータサイエンスができる人はたくさんいるのに、あなたを雇う意味は何かを考えると、もっと成長できると思う」とアドバイスをいただいたんですね。
それについて深く考えたときに、やはり男性ばかりの環境に長くいたことで気軽に話せなくなったり、目立ちたくないと思って消極的になってしまったなと強く感じて。
そういう体験を重ねていくうちに「次の世代が同じ思いをしないように、私が変えていきたい」と思うようになったんです。さらに、D&Iの活動をしていけばそれ自体が、自分自身がソフトウエアエンジニアとして働く価値にもつながると考えました。
そしてメルカリに内定をいただいたあとに、面談でD&Iにも興味があるという話をさせてもらって。入社前からD&Iに関連する企画も提案させてもらい、それが昨年(2020年)からスタートしたソフトウェアエンジニア育成プログラム「Build@Mercari」にも繋がりました。
▼女性やLGBTQを中心とした、IT分野におけるマイノリティを対象とする「Build@Mercari」を開催
「メルカリも変わってきた」多様性が組織をバージョンアップさせる
野上 一般的に、「新卒入社は、まずは自分の仕事にコミットすべき」という考え方もありますが、私の場合はD&Iの活動が自分の価値のひとつにもなっていると感じています。
エンジニアリングもD&Iの活動も、どちらも頑張ることで、自分なりの独自性を出すことにもつながるのではないかと。
ただ入社してすぐの頃は、有志で始まった活動が正式に会社のプロジェクトになったくらいのタイミングだったこともあり、いまほどメルカリのD&Iも盛り上がっていませんでした。ですが、いまはかなり変わってきましたね。
成田 野上さんが入社する直前の2018年に、インドから多くのエンジニアを採用したんです。それによって社内コミュニケーションが日本語と英語の併用になったり、現場レベルで「異なるカルチャーを理解しよう」という機運が高まっていったという背景があります。
実際に、僕が入社した2016年当時といまのメルカリは、本当に雰囲気が違いますね。多様なバックグラウンドを持つ人たちと働くことで、僕自身も、組織全体もどんどんバージョンアップされたような感覚があります。
野上 マネージャーとして成田さん、すごく良いなって思ってるんです(笑)。D&Iの活動に関して「応援してるよ、頑張って」と言うだけではなくて、1on1でD&Iに関する相談に乗ってくれたり、積極的にディスカッションもしてくださって。
成田 D&Iに限らず、主業務以外の活動をすることをマネージャーがどう捉えるかですよね。僕も、過去に技術カンファレンスのボランティア活動をしていたことがありますが、そういった活動への時間の使い方は、難しいところもあると思います。
ただ、本人がモチベーションを持って取り組んでいることは、成長にもつながりますし、キャリアにも必ずいい影響を与えると思っているので、積極的に支援するようにしています。
野上さんとの1on1も、むしろ業務の話のほうが少ないような気もしますね(笑)。
野上 成田さんは以前のチームでもD&Iに関わっているメンバーがいたということで、興味を持てるようになった部分もあるのかなと。純粋にそういう機会がこれまでなかったので、うまく関われないという人も多いと思います。
成田 僕自身も、色々と勉強させてもらいたいと思っているんですよね。D&I活動って、個人的にはマラソンみたいなものかなと。
すぐに成果は出なくても、継続して活動していくことで僕のように興味を持つ人が増えたり、裾野を広げていくことができるのかなと思っています。D&Iを推進する側と応援する側というよりも、一緒に学んでいくような関係性でありたいんですよね。
母数が少ない「女性エンジニア」の採用についてはどう考える?
成田 採用という点で話すと、特にエンジニアという職種に関しては、女性の応募自体がどうしても少ないんです。それはやはり、構造的な問題なのかなと思っていて。
候補者の方がメルカリで活躍できるかどうかを考えるときに、当たり前ですが性別って気にしないですよね。ただ、結果として女性の方が少なくなってしまう背景には、やはり母数の少なさがあります。
野上さんには、この課題に対してプレゼンスを発揮する活動を期待しているところもありますね。
野上 女性を増やしたいからと言って優先的に採用すると、逆に「あの会社は女性だと入りやすい」といった、誤った印象を与えかねません。あくまでもハードルは下げずに、女性を増やしていく必要があります。
成田さんも言っていたように、やっぱり構造的に女性が経験を積むためのチャンスが少ないと思っていて。大学時代の自分を振り返ってみても、ハッカソンに一緒に出る人が見つけにくかったり…。そうしているうちに、どんどんチャンスを逃してしまうこともあると思います。
なのでやはり大学生、もしくは高校生、中学生といった層にどんどん働きかけていきたいですね。今年の8月には、広島県の教育委員会と協力し、女子高校生を中心にIT分野でのキャリアについての啓蒙活動を行うイベントを開催しました。
まだまだ「理系=男性」というイメージが強いですが、その認識から解放されることで、多様な選択肢を考えてもらうきっかけになるはず。理系・文系という進路を決める前の学生の方に関わっていくことは、すごく大事なんですよね。
成田 先日、野上さんとの1on1でも話したのですが、空気感と言いますか、最初から進路の選択肢が制限されちゃっているのではないかな、と僕も思っていて。こうした活動が増えることで、学生の方たちの選択肢が広がるといいですよね。
野上 無意識のバイアスが根強くあるのかなと。男の子用のおもちゃにはコンピュータやテクノロジーっぽいものが描かれいて、女の子の方には花やチョウが描かれていて…。生まれた環境や与えられるものによって、バイアスはつくられていくものなのかなと思います。
「誰でも、簡単に使える」サービスを。ミッション実現のためのD&I
成田 メルカリグループとしては、D&I自体を賛美するということではなくて、あくまでもミッション実現のため、バリューを発揮するためのひとつの土台という感覚を持っています。
「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを実現すること、「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」という3つのバリューを体現することを考えたときに、構造的・機会的な不平等があることで、それが難しくなると思うんですね。
働く仲間がバリューを発揮できない状態で、
ソウゾウの組織に関しても、多様な人がどんどんワークできる体制にしていきたいですね。
野上 ソウゾウには新しいものを作ることが好きな人が集まっているので、D&Iのような新しい価値観を受け入れることもできる人が多いと思っています。まだしっかり取り組めている状態ではありませんが、私は全然心配していないんですよね。
ただ、D&Iに関する最低限の知識は必要なので、そこは私が理解を促すための活動をしていきたいです。メンバー同士が共通の理解を持つために、全社的に取り組んでいる最中ですが、ソウゾウにもしっかりと浸透させていきたいと思っています。
成田 ソウゾウのプロダクトである「メルカリShops」でいうと、本当にスマホひとつで簡単に出店できることが強みなんですね。
ユーザーヒアリングを行っていくと、やはりECは立ち上げるのが難しいという声も多いので、「本当に誰でもECを立ち上げられる」UXの提供を実現させようとしています。
「誰もが、簡単に使えるサービスをつくる」という意味で、アクセシビリティも含めてD&Iの視点が大事になってくると思っています。
野上 D&Iというと「女性」や「LGBTQ」といった大きな括りでどうしても見られがちですが、実はすごく身近なものなんです。
例えば私の母も、メルカリの使い方を教えたらハマっちゃって。でもECは使いこなせていなくて、新品のものを買いたいときは「これ買いたいんだけど?」とわざわざ電話がかかってきます(笑)。そうしたハードルを超えることも、D&Iなんじゃないかなと。
私としてもまずは「メルカリShops」で、自分の母のような人でも使えるようなUI/UXを実現させたいと思っています。(了)