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誰もがデータドリブンに意思決定できる組織を目指す!AbemaTVにおける「データの民主化」とは
〜「開かれた」データ解析基盤によって、誰もがデータを基に意思決定できる組織を目指す!AbemaTVにおける、KPI設計やデータ解析基盤の作り方を紹介〜
近年、データドリブンな組織を目指す会社が増えてきている。
インターネットテレビ局「AbemaTV」を運営する株式会社AbemaTVでは、誰もがデータを活用した意思決定ができる、いわば「データの民主化」に取り組んでいるという。
その取り組みは、綿密なKPI設計からレポートの自動化、メンバー全員にデータ活用を浸透させるための啓蒙活動まで、非常に体系的だ。
背景には、サイバーエージェント内の前部署から、Webアナリストとしてデータドリブンな環境づくりに取り組んでいた須磨 守一さんの存在があった。
須磨さんは前部署での反省を活かし、AbemaTV立ち上げ時から「データの民主化」を実現するため、専任で活動を行っている。
今回は、いかにしてその取り組みを進めていったのか、立ち上げ当初から現在に至るまでのお話を詳しく伺った。
施策の振り返りを、「肌感覚」に頼らないために
サイバーエージェントに入社後、UXデザイナー、ディレクターを経て、2014年からウェブアナリストに転向しました。当初は「Ameba」プラットフォームのアプリ版や、メディアサービスの分析と改善提案を行っていました。
その後、AbemaTVの本開局に先立ち、2015年9月からAbemaTVのWebアナリストを専任で担当しています。
Webアナリストを志したきっかけは、以前にディレクターを担当していたときの体験にあります。
当時は、事業指標はあるものの、各施策の評価をデータで行うための仕組みはありませんでした。その結果、あらゆる判断を経験則や肌感覚に頼ってしまいがちだと感じたんです。
そこで、誰もがデータに簡単にアクセスができ、データを元に意思決定ができる環境づくりに貢献できたら、と思うようになりました。
2014年の時点では、データ分析には自社で構築したログシステムを主に活用していました。
その仕組みは、データサイエンティストやアナリストが統計的分析を行うには適していました。ただ、ログデータを集計するためにはSQLを書く必要があるため、多くの場合、データ集計を分析の担当者に依頼しなければならず、結果的にそこがボトルネックになっていたんです。
現場の人間を含め、サービスに関わるすべての人がリアルタイムに状況を把握できる、開かれたデータ解析プラットフォームが必要だと感じていました。
AbemaTVの本開局前から、「データの民主化」の準備を進めた
そこでAbemaTVでは、「Google アナリティクス 360」を活用して、データ解析の基盤を整えています。
ただ、誰もが簡単にアクセスできるデータ解析プラットフォームを準備したからといって、データドリブンな組織ができるわけではありません。
ですので、2015年9月に専任のWebアナリストとしてAbemaTVにジョインしてから、2016年4月の本開局までの期間に、「データの民主化」のための準備を進めていきました。
例えば、データを元に自走する組織を作るために、勉強会をはじめとする社内での啓蒙活動を行っていきました。
そして「Google アナリティクス個人認定資格(GAIQ)」を、積極的に取ってもらうことにしました。今ではデータ分析に携わる多くの関係者が、この資格を保有しています。
Googleからオンラインコースが無料で提供されているので、全くわからない状態からでもスタートできます。資格取得までに、エンジニアメンバーは1〜2週間、ビジネスサイドのメンバーは2〜3週間ほどかかるイメージです。
さらに、ゴール・KPI設計、ログ設計、レポートの自動化などの仕組みを整備しておくことで、本開局と同時にサービス改善が各部署で実行できるような状態を目指しました。
事業視点だけではNG!「ユーザー視点の」KPI設定を行う
AbemaTVのゴール・KPI設計で大切にしたポイントはまず、事業視点だけではなく、ユーザー視点に基づくKPI設計を行うことです。
Webアナリストに転向した直後に初めて担当したニュースメディアでは、施策を振り返る際、PVやDAU、MAUなど、事業視点での指標を参照していました。
ですが、それだけでは実際の施策につなげられる気づきが得られない、という課題がありました。「事業視点の指標」だけを見ていたことで、「ユーザー視点」が抜け落ちていたんです。
そのため、例えば「読者の満足度を高めるため、まずは記事の読了率を上げよう」といった、ユーザーのアクションに紐づく施策が打てていませんでした。
その視点に気が付いてからは、実際に記事の読了率を高めるための改善を重ねて、結果的に事業成果につなげることができました。
こうした過去の学びから、AbemaTVでは、まずユーザーの満足に繋がるユーザーフローの作成を始めました。そして、ユーザーが満足するには「面白い番組に出会えたか」が重要だと考えたんです。
そこに行き着くためには、当然と言えば当然ですが、「AbemaTVに訪問し、番組を探し、見つけ、見始め、満足する」というアクションが存在します。
この中の、どのステップに課題があるのかを可視化するために、ステップごとに定量評価ができるよう、KPI設計をそれぞれに対して行いました。
▼各ステップでKPIを設定
※各スライドの引用元:インターネットテレビ局「AbemaTV」における Googleアナリティクス360の活用事例
例えば、「満足」にあたる「面白い番組に出会えた」の定量指標は、「5分視聴化率(同一番組を5分以上視聴した割合)」と定義しました。
ある一定時間をひとつのコンテンツに費やすということは、その対価に見合う面白い番組に出会えたというシグナルだ、という仮説に基づき、このような形に決めました。
具体的な「5分」という時間については、リリース後にデータが取れてから、決定木分析(※データマイニング手法のひとつ)などでデータの裏付けをして決定しました。
さらに目標設定においては、各部署でシナジーを生めるような形を考えました。
AbemaTVは、サイバーエージェントグループでも過去に類を見ない大規模プロジェクトで、様々な部署から、総勢約200名以上が運営に携わっています。
この部署間のバトンをうまく繋ぐことが、ユーザー体験の改善や事業成果におけるカギになります。
ですので各部署の担当者は、それぞれのステップでの評価指標に加えて、上位KPIである5分視聴化率も目標として持っています。
ありがちな「部門ごとの部分最適化」に走るのではなく、あくまでも「ユーザーの満足」という最終的な共通のゴールへ向かって、それぞれが自走できる目標設定を行うようにしました。
▼各部署でシナジーを生めるような目標設定で、共通のゴールに向けて動けるように
全員が「データに基づいた意思決定」を行うための基盤を整備
また、本開局と同時に、各部署で早急にサービス改善が実行できる状態を作るべく、ログ設計とレポートの自動化を行いました。
ログ設計は、誰が何のためにそのデータを使うのか、レポートの詳細までをイメージした上で行いました。
▼レポートの詳細をイメージした上でログ設計に取りかかることで、抜け漏れを防ぎ、優先順位を明確化
事前にレポートイメージを作っておくことで、「どのログがないと、どのレポートがだせないのか」「誰が困るのか」と言った現実的な話ができます。
結果的にログの漏れが防げたり、ログ実装の優先順位づけが明確になったり、メリットは大きかったと思います。
レポート自動化には、Googleのアドオンを使っています。アドオンレポートは、集計が自動化できる点や、誰でも簡単に扱える点など、データの民主化という観点でも優れていますね。
▼アウトプットイメージの一例
データドリブンな組織は「ボトムアップ」だけではうまくいかない
以前、開発ディレクターとしてあるプロジェクトに携わっていた際に、データ解析ツールの導入を提案したものの、実現できなかったことがありました。
いま振り返ると、施策の効果測定のためにツールを導入すべきだ、というミクロ視点でしか考えられておらず、事業課題をどう解決できるのかというマクロ視点が抜けてしまっていたんです。そのため結果的に決裁が下りず、導入に至りませんでした。
このように、現場からのボトムアップな働きかけだけではうまくいかなかった過去の失敗を生かし、今回はまず、解析ツールが意思決定のために必要不可欠なものだと、担当役員に直接提案しました。
経営層に継続的なデータ活用の必要性を理解してもらったことが、結果的に功を奏したと思っています。
トップダウンのサポートを受けられなければ、現場でのニーズがあったとしても、データドリブンな組織を醸成するのは難しいと個人的には感じていますね。
これまで様々な取り組みを行ってきましたが、データ活用を事業成果に直接結びつけられているかというと、まだまだ努力しなければいけない点が多いと日々感じています。
AbemaTVを「インターネット初のマスメディア」に押し上げられるよう、サービスと共に、自分自身もさらに成長していきたいと考えています。(了)
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