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評価に「曖昧さ」は不要。5つの軸で11段階のグレードを定める、ココナラの等級制度

〜議論が空中戦になりがちな、人事評価や給与判断。等級制度から曖昧さを排除することで、その意思決定をスムーズにしている事例〜

人事評価を行う際、「評価者によって評価基準がズレてしまう」「給与とパフォーマンスにギャップを感じるものの、適正な給与がわからない」といった課題感はないだろうか?

スキルのフリーマーケット「coconala(ココナラ)」を運営する、社員数47名のベンチャー企業、株式会社ココナラ。

同社では、基準が曖昧なまま誰かの意見だけで評価が決まることを防ぐために、「コミット範囲」「業務レベル」といった、5つの軸から11段階に分類された等級制度を運用している。

また、「次はここを目指して欲しい」という、成長の期待値を伝える目的も持たせており、逆にパフォーマンスが一時的に下がっている社員への支援も行っている。

評価・育成が体系的に行われる仕組みを作った結果、議論が空中戦になることが減り、マネジメントの意思決定が非常にスムーズになったという。

今回は同社代表の南 章行さんと、人事を担当している泉谷 翔さんに、その等級制度の仕組みについてお話を伺った。

評価基準の明確化と、成長の期待値を示すために等級を導入

 弊社では、人事制度の運用を始めた際に暫定的に設けていた3段階の等級制度を、2017年12月から11段階にグレードアップして、本格的に運用を始めました。

創業7年目、社員47名というベンチャーのこのフェーズでここまで作るのは、ちょっと早めかなって思うんですけど、人事制度って時間がかかるものなので、割とカチッとしたものを作りました。

この目的のひとつは、マネージャーのタイプによって異なりがちな、評価基準を統一することです。

マネージャーによっては、部下に厳しいことを言っているけど、その代わりに高い評価をして上に引っ張ろうとする人もいます。

逆に普段は優しくてもきちんとした評価をしない人がいる、といったように、評価って基準が属人的になりがちですよね。

また、給与の決定ロジックをはっきりさせることも大きな目的でした。ベンチャーだとよくあると思うのですが、弊社は全員が中途採用なので、前職の給与を踏襲しがちなんですよね。

すると、どうしても採用したい場合には高く払わざるを得ないこともあって、実際に担っている責任や実力レベルと給与がきれいに合わないこともあります。

ただ、「この人はちょっと高すぎるんじゃないかな?」という話になっても、基準がないと「いくらが適正なのって言われてもな〜」と議論が空中戦になって、結論は出ないわけです。

逆に、全社の給与水準がたまたま低い時期に入社した、力のある人の昇給を考える場合も同じことが起こります。

また、メンバーとしても、四半期ごとにマネージャーからフィードバックは受けるものの、それがどう昇進・昇給に繋がるのか、そもそも、どのような成長が求められているのかが曖昧な状態でした。

そこで等級表を作って、グレードごとの定義を文章で明示することで「次の等級はこれができるようになることだから、ここを目指して欲しいんだよね」という会話をしていきたいと考えたんです。

「日々◯◯さんってこういう動きをしているよね。コミット範囲の視点で見ると、ここを改善してもらうと次のグレードを任せられるんだけど、どうかな?」とか「次のグレードだとこれ位の知識が必要だから、勉強しよう」といったイメージですね。

裁量・コミット範囲などの5項目から、11段階でグレードを分類

泉谷 私は人事として、等級制度の設計に携わりました。経営陣も含めて、各自で勉強したり、他社の事例を見ながら、ココナラとしてどんな内容を落とし込むべきなのかを、時間をかけてすり合わせていきました。

最初はG1〜G7という7段階で考えていたのですが、「ギリギリ届いている人」と「次に行けそうな人」って同じグレードでも結構差があるよね、という話になったんですね。

そこで、G2〜G5は「この人には次に上がって欲しいよね」というメッセージも込めて、「G2+」のように+がつくものを作って、11段階で運用しています。

グレードを決める軸としては「裁量」「コミット範囲」「育成責任」「業務レベル」「ノウハウレベル」の5つがあります。

まず「裁量」は業務や職務における自由度を設定するものです。

例えば「大きめの方針を自分で定めることができる」「ある程度打ち手が定まっている中で、やり方については自分で決めることができる」などです。

次に「コミット範囲」は、自分の仕事だけをやっていればいいのか、それとも、全社の目標達成のために他部署と調整して動くことも求めるのか、という責任範囲を明文化するものです。


そして「育成責任」は、ある一定のグレードから発生する部下の育成責任ですね。

また、個人のスキル的な項目を「知識があることと、周囲を巻きこんで業務を遂行していく実務力があることって、ちょっと違うよね」という背景から、「業務レベル」と「ノウハウレベル」に分けて定義しています。

これらの観点から、「指示を受けながら仕事ができる」「独り立ちしている」「自分の仕事だけじゃなくて、周囲を巻き込んで仕事ができる」「部署全体を引っ張るマネージャークラス」「取締役クラス」という風にグレードを分類しています。

▼グレードイメージ(画像は編集部で作成)


そして、11段階の中で、取締役クラスを除く9段階は、給与とグレードを連動させています。

ギャップがある社員には、減給よりもグレードを上げる努力を促す

 また、等級の見直しは、経営陣・マネージャー・人事が参加する年2回の人材開発委員会で行っています。

今のグレードが適正か? という議論の中では、当然、厳しいコミュニケーションもあって、「業務としてはしっかりやってくれているし人柄も良いけど、前職の給与が高い分、ウチの水準ではギャップがあるよね」という話にもなります。

ただ、給与を下げることはなるべくしたくないので、「あなたのグレードはここだけれど、モデル給与と比べて今は高額なので、もっと成長してね」という感じで「グレードに追い付いて欲しい」という風に話し、必要があれば全力でサポートをしています。

このように、グレードにおける期待役割と実態とでギャップがある事実は曖昧にせず、制度が形骸化しないよう、カッチリと運用していますね。

社員のパフォーマンスに応じて支援プログラムを実施

泉谷 また、人材開発委員会では「次のグレードにあげていきたい人」「何らかの改善支援が必要そうな人」をそれぞれピックアップして、どうしていくかも話し合っています。

そして、特に外部要因等でパフォーマンスが落ちぎみな人には、支援プログラムを実施しています。

内容は一人ひとりにあわせたものとなりますが、例えば1on1の頻度を上げてコミュニケーションを増やしたり、改善のための目標とそれを達成する期間を設定して実行をサポートしたりします。

 やっぱり、常にパフォーマンスが良い人なんていなくて、本人に悪意や過失がなくても、その時の業務内容や、社員同士の相性、あるいは家庭の事情などで、パフォーマンスが落ちることもあります。

なので、「あなたは今パフォーマンスが落ちているよね。どこら辺に原因があると思う? 僕らはここら辺にあると思う。お互い何を変えていこうか」という話をちゃんとしています。


よくあるのが、役職が上がったり、役割が広がった時につまずくパターンで、そういう時は求める裁量やコミット範囲を変えて対処しています。

例えば、業務範囲が増えてうまくいかなくなった時は、その中でもある程度領域を絞って、ここでまずは1回成果を出してみようという風に変えるイメージです。

今、めちゃくちゃ活躍している人でも過去には落ちていた時期もあって、「仕事ができる人」「できない人」っていうシンプルなものではないと思うんですよね。

どんな人でも波があるので、難しい時期に、どうフォローしたらやり易くなるかを考えて、活躍できるように支援したいっていうのはすごく思っていますね。

評価だけでなく、目標設定やオファー給与の意思決定もスムーズに

 11段階で等級を運用し始めてから、まだ約半年ほどですが、マネジメント側としては、人事評価と給与の意思決定がとても楽になりました。

印象ベースの主観評価ではなくて、同じ基準を持って話ができるので、「この人は給与を上げましょう。何故なら、グレードが上がったから」「そうだね」で話が終わるんですよ。

また、等級を作ったことで、採用時の給与水準も「この候補者の期待値って、うちのグレードだとここだよね。だとしたら給与はこれだよね」と判断しやすくなりました。


あるいは、目標を決める時も「あなたのグレードの期待・役割はこれだから、このレベル感で設定しようか」という会話が生まれ、難易度のすり合わせもしやすくなりました。

※同社の目標設定の取り組みについては、こちらの記事をご覧ください。

優秀な人が失敗するのは、目標が曖昧だから。敢えてトップダウンでOKRを運用する理由

ちなみに、弊社では個人目標や日々のチャットコミュニケーションなど、情報は全てオープンにしていますが、社員の等級の全社公開はしていません。

給与にダイレクトに紐づく情報で、余計な軋轢を生じさせてしまうなど、公開するメリットより、デメリットの方が大きいと考えているためです。

※同社の情報オープン化の取り組みについては、こちらの記事をご覧ください。

「オープンを当たり前に」。ココナラの、データドリブンな取り組みの変遷を公開

曖昧にすればするほど、評価が誰かの意見で決まってしまう

泉谷 次の段階としては、現在全社で運用している等級とエンジニア・デザイナーの等級を分けようと考えています。

やはり専門職だと、部下を持たずにスペシャリストとしてひたすら成果を出したいという志向の人もいます。

なので、コミット範囲や育成責任などの全社的な項目よりも、業務レベルやノウハウレベルといった個人スキルに寄せたものを用意しています。

高いスキルがある人はそれを評価すべきだし、マネジメントができないから給与が上がらないみたいなことはなくそうという考えです。

 このような仕組みを作るのは簡単ではなくて、しょっちゅう人事ミーティングをやって、めちゃくちゃ時間をかけています。


ただ、なぜここまで細かく決めるのかというと、曖昧にすればするほど、人事評価って誰かの意見で決まってしまうじゃないですか。

声が大きい人に気に入られた人が出世するみたいな会社って、あまり健全じゃないと思うので、きっちりと仕組みで評価されるようにすべきだと思うんですよね。

ただ、マネジメント側の意思決定が楽になった一方で、まだ、メンバー個々人がどう受け止めているのかはわからないという課題感はあります。

面談の時のマネージャーの伝え方によって、評価される側の受け止め方って変わりますよね。

この点については、マネージャー全員が同じ水準でできているわけではないため、ミドルマネジメントのレベルをいかに上げていくかが、今後のテーマなのかなと思います。(了)

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