- 株式会社ココナラ
- CEO
- 南 章行
優秀な人が失敗するのは、目標が曖昧だから。敢えてトップダウンでOKRを運用する理由
〜全社目標を達成するための戦略を分解し、トップダウンで個人目標を設定。その達成度を目標の設定時から言語化しておくことで、評価の納得感を醸成している事例〜
目標(Objective)に対して、その主な結果(Key Result)を定量的に評価する目標管理メソッド「Objective & Key Result」略して「OKR」。
その概念自体はある程度認知されているものの、まだまだ運用面で試行錯誤している組織も多いのではないだろうか?
スキルのフリーマーケット「coconala」を運営する株式会社ココナラでは、昨年9月にOKRを導入。経営陣が、四半期ごとに全社戦略から分解したメンバーの個人目標を設定し、その達成度合いまでを5段階で言語化している。
その結果、個人目標が達成されれば、自然と全社目標も達成されるという状態を作り、かつ、人事評価の納得感を醸成することに成功しているという。
今回は、同社代表を務める南 章行さんに、OKRの具体的な運用についてお話を伺った。
※Googleも採用する「OKR」の解説は、こちらの記事をご覧ください。
全社と個人目標を連動させ、評価の納得感を生むべくOKRを導入
弊社では将来的な組織の拡大を見越して、今のうちに目標管理や評価制度を仕組み化しておきたいという背景から、OKRを導入しています。
以前は、メンバーが「この四半期はこれをやります」と提出したものを、マネージャーとすり合わせる形で目標設定を行い、その結果を期末に振り返っていました。
ただ、目標に対する結果と人事制度が連動している訳でもなく、「フィードバックを得る意味では良いけれど、何のためにやっているのか?」という声もあり、不完全な状態だったんです。
そのため、今の規模感のうちに、全社と個人の目標を連動させ、その結果を定量的に評価するために、OKRを導入することにしました。
運用としては、年度の期初に経営陣で、全社戦略における重点目標(Objective)を、「購入転換率アップ」「◯◯カテゴリーの流通高アップ」といった粒度で決定します。
そして、毎四半期ごとに、それをチームごとの目標に落としていきます。例えばプロダクトチームだと、「流通高◯◯円を達成する」、カスタマーサポートチームだと「キャンセル率を◯%改善する」というイメージですね。
5段階の数値で、Key Resultの「達成度」を目標設定の時点で言語化
チームの目標を決めたら、次にマネージャーがチームメンバーの目標を、1人あたり2〜4つ程度決めます。
そして、その目標を達成するためのKR(Key Result)を設定するのですが、その際、その達成度を測るために、KRをさらに分解して、1点〜5点で明確に定量・言語化します。
▼実際に設定される、個人のOKRイメージ(広報・PRの場合)※画像は編集部が作成
各KRに対して「ここまでいったら何点」という基準を、目標設定の際にはっきり決めているんですね。
この評点の付け方としては、「真面目にやれば普通にできるレベル」が2点、「必死にやって、達成確率が五分五分」が3点、「必死にやって、達成確率が1〜2割ほど」が4点です。
このような設定をしているため、実際の評価時には、なかなか3点まで届きません。すべてのKRを平均すると、2点台になりますね。
また5点は、「想定することができない位の大成功」です。
「これができたら凄いよね。やろうと思うだけでできるわけではないけど、設定しておく?」というレベルで設定したら、本当にやってしまったという場合です。
目標によってはKRをまったく想定できないこともあるので、具体的に決めずに「特筆すべき成果があった場合に検討」という記載に留まることもあります。
「想定できない程の成功」ですので、1年間やって、5点が出たのは1〜2回です。またその逆で、想定できないほど大きな失敗の場合が1点になります。
個人のOKRも、全て経営陣のトップダウンで設定
一般的にOKRはボトムアップで設定されるものかと思うのですが、弊社では全て経営陣によるトップダウンで決定しています。
まずマネージャー以上の経営陣が集まって全社OKRを決定し、その後マネージャーから提案されたチームメンバーの個人目標を、経営陣が全員でチェックして、最終決定します。
そして、期初にマネージャーからメンバーに、1on1で「今期のOKRはこれだよ」と目標を伝えています。
全社目標を達成するために必要な戦略は、部門ごと、人ごとに分解できるはずですよね。それをOKRで設定して、メンバー全員が達成したら、全社目標も自然と達成されるという筋道を立てることは、経営陣の責任だと思うんです。
メンバーからすると、めちゃくちゃ仕事を頑張っても全社目標と関係がなく、貢献できているのか、評価されるのかが分からないと辛いじゃないですか。
また、目標に加えてその達成プロセスも決めて、「こういう動き方をしてね」と伝えることもあります。
記載内容は色々で、施策が具体的に決まっているときはその指定、検証方法について注釈をつけたい場合はその内容など、補足的な情報を書くことが多いです。
2点には頑張れば達成可能な「プロセス目標」を設定
ただ、リリースの納期を目標に掲げていたけれど、他部門の影響で遅れてしまい、1点になってしまう…ということが起きたこともありました。
このように本人には責任がないのに評点が低くなることを防ぐために、結果ではなく、頑張れば達成できる「プロセス目標」を2点に設定する場合もあります。
例えば、広報だとメディア露出の数なんて水物なので、件数や広告価値で結果を測ると、しんどいじゃないですか。なので、「毎月必ず、テレビ局に提案を持ち込めば2点」というような目標に変えました。
そして、3点以上は、「その結果、何件の露出に成功して、どれくらいのユーザーを獲得できたか?」という成果指標で測ります。
また、経営管理など、成果を測りづらいルーティン業務が多いメンバーの場合も、「◯◯が適切な意思決定機関のもと承認され、それに基づき遅滞なく◯◯が実施されている」というような、頑張れば達成可能なプロセスを中心に目標を設定します。
新しいチャレンジであるため、どれ位の結果となるか、想定しづらい目標についても同様です。
ただ、2点や3点は設定できても、4点と5点の定義は難しいこともあります。「スケジュールを前倒して完了している」を、少し無理やり4点にしてみたり、まだ試行錯誤している部分もありますね。
そして、これらの目標の中に、日常業務は含めないようにしています。
僕らは「ベースミッション」という言い方をしているのですが、経理担当にとっての月次決算のような、絶対にやる業務をわざわざ目標に入れる必要はないと考えているからです。
それはスキルやスタンスという項目として、総合的に年に1回評価したら良くて。あくまでOKRは全社目標から分解した、四半期ごとの個々人の重点目標であるべきだと思っています。
このように「何をどこまでやったら、どれくらい評価される」というラインをきわめて明確に言語化することが、人事評価における社員の納得感を作ることに繋がっているかと思います。
トップダウンで決める目標設定と異なり、評価は調整も考慮される
そして期末に、本人の自己申告の点数とマネージャーが評価する点数とのすり合わせを行い、お互いの期待や評価を確認したうえで、点数を確定します。
ただ、点数をつけていくと、毎回、グループごとに特徴が出るんです。
「今期は全般的に開発は高かったね」となると、「ちょっとそれは目標設定が甘いんじゃない?」というやりとりがあって、次期の目標設定で調整がなされます。
また、メンバーごとの評価も調整を行います。
一旦、全員の点数をつける段階ではデジタルにつけますが、その後ザーッと並べてみて、「本当に◯さんよりも◯さんが下なの?不可抗力の事情があったよね?」という話をして最終的な評価を調整します。
このように、トップダウンで行う目標設定とは異なり、評価の際には多少の調整をしています。そして、期末に全員と1on1を行い、評価と四半期ボーナスのフィードバックをします。
OKRを全て開示することで、業務内の判断も明快に
また、これらのOKRは、例外なく全社で開示しています。なぜなら、誰がどのような目標を持っているかが見えた方が、仕事がしやすいからです。
例えば、誰かが新しいことを始める時に、開発陣のリソースを借りる必要があったとします。
その際に「決して思いつきで頼んでいる訳ではなく、これは私のOKRだから、協力してもらわないと困る」と言うことができるんです。
個々人のOKRは、経営陣の意志です。それに基づいた依頼であれば、得られる協力が違うじゃないですか。個人の一存で「やりたくない」とは言えないんです。
また、弊社はタテに事業、ヨコに開発やカスタマーサポートといった機能という形で、組織がマトリクス型になっています。つまり、1人のメンバーが2つのチームに所属しており、上司も2人いる状態になるため、リソース配分や評価が少し複雑になります。
この観点においても、OKRを活用することで、目標の100%のうち、こちらのチームが70%、こちらは30%という形で、棲み分けを明確にすることができます。
一方で、無駄な疑心暗鬼を生むだけなので、結果と評価までは公開していないです。
目標を公開しているので、わかる人にはわかりますが、結果的に評価が高かった、低かったとか、ボーナスをいくらもらったとか、それは公開する必要のない情報だと考えています。
目指すのは自走!目標さえ握れば、たどり着き方は何でも良い
最初にガチッと目標を握りさえすれば、極端な話、そこへのたどり着き方は何でも良いんです。優秀な人が失敗するのは、目標が曖昧だったり、必要な情報が開示されていない場合です。
目標(Objective)とその結果(Key Result)が明確で、それを実行する上で必要な情報に皆がアクセスできれば、僕が細かく言うことは何もないです。登る山を決めたら、登り方は任せるという話なんです。
※同社の情報オープン化の取り組みについては、こちらの記事をご覧ください。
「オープンを当たり前に」。ココナラの、データドリブンな取り組みの変遷を公開
人が増えていく中で、トップが見える範囲で指示を出して動く組織には限界がくると思っています。ですので、誰かの指示で動くのではなく、目標さえ握れば、自走できる組織を作りたいと考えています。
そうすれば、僕自身も日々の意思決定に時間を費やす必要は少なくなり、代わりにメンバーと話したり、対外的な活動に時間を使うことができます。
そうなるためにも、今後もOKRの運用をより洗練させていくことができればと思います。(了)
▼社員の皆さん
「目標達成するチームを作りたい」と思うあなたへ
当媒体SELECKでは、これまで500社以上の課題解決の事例を発信してきました。
その取材を通して、目標を達成し続けるチームは「振り返りからの改善が習慣化している」という傾向を発見しました。
そこで「振り返りからの改善」をbotがサポートする「Wistant(ウィスタント)」というツールを開発しました。
「目標達成するチーム」を作りたいとお考えの経営者・マネージャーの方は、ぜひ、チェックしてみてください。