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  • 斎藤純平

活躍する新卒を「会わずに」採用できる?ピープルアナリティクスを徹底した組織作りとは

〜「地方学生の採用強化」「新卒の戦力化率の向上」を実現。ピープルアナリティクスが組織作りに与えるインパクトとは〜

従業員に関するデータを分析し、採用や人材育成に活用する「ピープルアナリティクス」が注目を集めている。

この言葉が、まだ現在よりも普及していなかった2014年頃から、自社社員の人材データに基づいた採用活動を始めたのが、株式会社セプテーニ・ホールディングスだ。

同社では、社内の人材データと定量的なスコアとして表されるパフォーマンスの関係性を研究することで、応募者の入社後のパフォーマンスを予測する独自の予測モデルを開発。

新卒採用では、パーソナリティ診断やグループワークでの360度評価などで取得する定量的なデータから選考を進め、面接は基本的に1回という選考フローで、学生の採用を行っている。

今回は同社にてデータを活用した新卒採用を行っている斎藤 純平さんに、ピープルアナリティクスを活用した採用活動と、この先挑戦する新たな取り組みについてお伺いした。

入社後の活躍は、主観ではなく客観的な情報と相関する

弊社では、代表が人事担当役員に「マネーボール」という本を紹介し、その考えを人材育成に応用できないかと持ち掛けたことがきっかけで、人材に関する研究をスタートしました。

最初は、様々な人材データをエクセルなどで整えるところから始め、大きなデータベースが構築された後に統計技術や機械学習を取り入れていきました。

その後、2016年には人材データを専門に研究を行う人的資産研究所を設立しました。

その過程で、新卒採用においては、学生の「個性」「取り巻く環境」「行動」を中心とした情報から、入社後のパフォーマンスを予測できるようになりました。

※2017年6月度研究レポート
『人事データマネジメントおよび統計技術を活用した『科学採用』の検証結果新卒編(入社後評価との関連性)』

具体的には、パーソナリティ診断やエントリー時のアンケート、過去の行動履歴など約100の項目から、過去の社員のパフォーマンスを参照して、応募者の活躍度の予測をしています。

逆に、予測には定量的な情報が必要であり、志望動機や自己PRは必要ないものだと考えています。そして、学生の方々の過度な就活対策や負担を軽減できればと思い、これを採用コンセプトとしても伝えています。

新卒採用では、4タイプに分類した「個性」を定量的に把握

現在の選考フローでは、基本的に面接は役員面接の1回のみで、その他の選考は定量的なデータを取得する目的で行っています。

ステップとしては、通常の選考フローでは、エントリー後にWEB上でパーソナリティ診断を受検してもらい、その後グループワークを2回行っています。

ここでは、人事の目による行動確認と、学生同士の他者評価(360度評価)から行動情報を取得しています。

現在のグループワークの内容は、「自社の業績ポイントを一番高くする」というビジネスシミュレーションゲームや、自分のキャリア観に関するディスカッションなどです。

そしてグループワークを通じた印象から、同じグループメンバーのパーソナリティを表す項目について、学生同士で0〜5点の6段階から360度評価をしてもらいます。

また、パーソナリティを大きく4タイプに分類して、選考過程で本人のタイプやその傾向についてフィードバックし、自身のパーソナリティについて理解してもらえるようにしています。

▼パーソナリティを4タイプに分類

ここでは「どのタイプだと良い」という判断ではなく、360度評価の結果からパーソナリティがどのように発揮されていたかを定量的に把握し、その他の情報と合わせて選考通過の判断をしています。

そして、グループワーク選考を通過した学生には、役員面接に進んでもらいます。

役員面接では、学生時代などの過去における環境や行動について話を聞きながら、パーソナリティの情報をもとに行動確認を中心に行っています。

▼定量データから学生を分析(▶︎画像を拡大して見る

このように、定量的なデータから選考基準を設けて、一般的な選考に見られる「複数の主観的な判断の連続」を防ぎながら、学生への負担が大きい面接回数を最小限にとどめた採用活動を実現しています。

オンライン・リクルーティングを実施。地方からの採用が約4倍に

また、このデータによる選考ノウハウを活かして、都心部での選考に参加しづらい地方学生を対象に、18卒からオンライン・リクルーティングという選考を開始しています。

流れとしては一次選考として、パーソナリティ診断を受検してもらい、かつマイページ内で、取り巻く環境やその時の行動に関するアンケートに回答してもらいます。

そして、通過者には身近な知人5人から360度評価を集めてもらいます。それをWeb上で提出いただいた上で、役員とのオンライン役員面接を受けてもらい、完全にオンライン上のやりとりのみで合否を判断します。

この「オンライン・リクルーティング」は採用広報の効果もあります。実績としては、17卒は6名だった地方学生の採用数を、18卒は23名に増やすことができました。

※詳細はこちら

また、通常選考、オンライン・リクルーティングに関わらず、内々定後の学生に対しては、本人の個性から予測した入社後のキャリアについて、約110ページの資料とあわせてフィードバックしています。

▼内々定者に提供されるキャリアフィードバックシート

こうして、採用担当の主観や感覚ではなく、入社後のパフォーマンスを定量的に予測して、「なぜあなたを採用するのか」を明確にした上でオファーを出すことができています。

19卒より個性に合わせたオンラインでの就活サポートを実施

オンライン・リクルーティングの取り組みから、地方学生とオンライン上で情報提供をし、コミュニケーションを完結させることに手ごたえを感じました。

さらに、当社の研究結果から、インターンシップを経験しているかどうかが、入社後のパフォーマンス・成長に一定の影響を与えるということが確認できています。

そのため、インターンシップは学生が入社後のキャリアを描く上でとても有用な機会だと考えられます。

そこで、より多くの学生にその機会を提供しようと、19年卒からはオンライン上でインターンシップが完結する「オンライン・インターンシップ」を開始しました。

この「オンライン・インターンシップ」では当社の志望者に限らず、産業やキャリアの変化に関する動画セミナーや、客観的で効率的な自己分析をサポートするコンテンツを提供しています。

今後、オンラインでのOB訪問のサポートや、VRでの職場体験コンテンツを拡充していく予定です。

また、パーソナリティ診断の結果から、タイプごとに、自己PR文の作成やグループディスカッションでのアドバイス情報など、就職活動をサポートする情報を提供しています。

例えば、「攻めデジタル」タイプは、合理的に物事を判断し、物事を進行させることが得意である一方、自分なりのやり方に固執してしまい、周りが見えなくなる傾向にあります。

そのため、グループワークなどでは「問題の状況を整理しながら、判断するように心がけましょう」といったアドバイスをしています。

また希望者には、知人から集めた360度評価を提出してもらった上で、キャリアに関するフィードバックを、弊社の選考とは関係なしにWeb面談で実施しています。

このように選考目的だけでなく、学生にデータをオープンに提供することで役立ててもらい、結果的に弊社に興味を持っていただくきっかけにしてもらえればと考えています。

入社ではなく活躍をKPIに。データから配属判断や育成を行う

また、当社の採用は入社ではなく、入社後の活躍をKPIに行っているため、配属判断にもデータを活用しています。

具体的には「チームメンバー」「上司」「トレーナー」との相性スコアを算出し、配属先との総合的な相性をスコア化しています。

研究の結果、当社ではチームメンバーとの相性の良さがもっとも重要であるとわかってきています。

※2017年度9月度研究レポート
『定量的な相性スコアに基づく「相性配属」の検証結果(共同研究)』

また、新入社員の早期戦力化を目的に、人事データの解析に基づいた新入社員の環境適応プログラムを実施しています。

2016年に実施した検証では、このプログラムを実施した26名の社員と、未実施の38名の社員の戦力化率(※)が、入社して半年時点では同じでした。

ただ、1年後の時点では実施者が85%、未実施者が74%と、実施者の戦力化率が11ポイント上回りました。

※360度評価のスコアが3.0以上の場合、戦力化したと定義
※2017 年10月度研究レポート
『新入社員の適応度合を測定、補正する「適応サーベイ」の検証結果』

▼環境適応プログラムでの分析レポート

また、環境適応プログラムだけではなく、その後もパーソナリティに合わせ、最適なタイミングで最適なトレーニングを提供する「個別教育プログラム」の開発も進めています。

学生に向けて、いかにわかりやすく伝えるか? が今後の課題

これらの取り組みによって、採用では面接工数の削減と幅広い地域の学生へのアプローチが可能となりました。また、入社後も活躍しやすい環境を提供することができる仕組みも整ってきました。

一方で、採用活動において学生向けに説明することを考えると、少し難解な部分もあります。そのため、よりシンプルにわかりやすく伝えられるよう、ブラッシュアップしていきたいと考えています。

今後もできる限り多くの学生に弊社を知っていただき、入社後に活躍してもらうために、ピープルアナリティクスに関する取り組みを進めていきたいですね。(了)

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